シンジケート・フロイライン ~命の恩人が極悪シンジケートの首魁でした~   作:のすとら

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Prologue: 始まりと終わりの因果 ――A Glass of Water――

 

 ベチャベチャと鬱陶しいだけの汗が止まって。燃えるような暑さが凍えるような寒さに変わって。

 その時、自分は安堵した。これでもう少し進める。まだ逃げられる。そう思って。

 でも。そんなのは最初だけ。

 それが体の発する最後の悲鳴だったのだと、そう察するまでに時間は必要なかった。

 

 ――自分は死ぬのだろうと、幼いながらに確信があった。

 

 前も後ろも右も左も。見渡す限り全部が砂。

 違うものがあるとすれば、頭上でギラギラと輝く太陽くらい。

 雲も、風も、水も。救いとなりえるモノは何1つ無い、正真正銘の地獄。

 永遠に、果てしなく、どこまでも広がる砂の世界。

 

 ――それでも熱砂の中を進み続けたのは何故だったのだろう。

 

 思えば、あらゆる選択を間違えていた。

 砂漠の真ん中でアイツらから逃げだしたことが1つ目の間違い。

 水じゃなくて食料ばかり掻っ攫って来たのが2つ目の間違い。

 夜を待たずに真昼間に進んだのが3つ目の間違い。

 

 ――いや、もしかしたら。もっとずっとずっと前から。

 

 そもそも、あの瞬間以外にアイツらに隙は無かった。

 そもそも、奪った食料が無ければ飢えで死んでいた。

 そもそも、夜なんて待ってたら捕まって連れ戻されていた。

 

 ――なんだ。初めから詰んでいたんじゃないか。

 

 生まれた瞬間から、自分に選べる道なんて無かった。

 必死に切り拓いた逃走の選択肢だったけれど。

 結局は、たった1つ与えられていた道を転げ落ちているだけ。道でも何でもなかった。

 

 ――もう動けないや。体が重くて言う事を聞いてくれないんだもの。

 

 不思議な話だけれど。

 恨みが無かった。怒りが無かった。悲しみが無かった。

 売った両親。買い取ったアイツら。周囲の全てに抱いてたはずのグチャグチャとした感情が、どこにも見当たらなかった。まるで蒸発して消えてしまったかのように、小さな欠片も見つけられなくて。

 ただ、あったのは1つ。根源的な渇望だけ。

 

 ――……あぁ。喉が渇いたなぁ。

 

「そこの少年。飲むか?」

 

 この時さし出された一杯の水の味を、自分は生涯忘れないだろう。

 

 ――だから。

 

 

●●●

 

 

 世界最大最悪の犯罪シンジケート『PELUDA』。その掃討作戦が遂に決行された。

 有史以来、人類がこれ程までに一致団結したことは無かったに違いない。

 国、人種、歴史、あらゆる断絶と垣根を超えて。この日、世界は1つとなった。

 人の心にある善意という光。明るい未来を願う希望の灯火。それら全てを束ねてヒーローが集う。

 

「グッドマン。貴方とは戦いたくない」

「そうか。じゃあ、今すぐ全てのヒーローと共に撤退してくれ。そうすれば戦わなくて済む」

 

 そんな状況で。自分が剣を向けるのは“魔法少女”で。

 

「どうして貴方はそこまで!」

 

 彼女らに罪は無く、その在り方は正義そのもの。

 共に力を合わせたこともある。善悪抜きに、個人的にも好ましいと感じる。

 それでも、自分は――

 

「――我が名はグレイスグットマン。因果応報の銘のもと、あの日の大恩に報いよう」

 

 

 


 

 

▼▲Villain File 0001▼▲

 グレイスグットマン ――Grace Goutte Man―― 
 性別:男性 / 年齢:?? / 国籍:?? / 本名:????

 

 世界最大最悪の犯罪シンジケート『PELUDA』構成員。

 黒髪に黒目。全体的に“水”を彷彿とさせる青い戦闘服を身に纏う。

 首魁直属特殊部隊『FLOOD』所属。組織幹部たちと同等の力を有すると噂される青年。

 その経歴は謎に包まれており、年齢も国籍も一切の情報が不明。

 自ら悪逆非道を行うことは無く、時には【グッドマン】を名乗って人命救助さえ行う。

 行動原理が全くの謎であり、関わったヒーロー/ヒロインたちの情緒をかき乱すことに定評がある。

 

 

 

 

 

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