ヘイローが『反転』できるようになったので、謎のヒロインごっこを楽しみます。 作:YEBIS_nora
『コールサイン00』美甘ネルと、正体不明の少女『シキ』。
2人の繰り広げる一進一退の攻防...その様相はまさしく『縦横無尽』。
銃弾で穴だらけになった部屋から外へ飛び出し、建造物の隙間を駆け抜けながら撃ち合い、蹴り合い、殴り合い。そしてまた、別の建物へ同時に飛び込む。
当人達以外には、目で追えてもその内容まで処理しきれない程の高速戦闘が、広大な『廃墟』を舞台に繰り広げられていた。
「ハハッ!分かっちゃいたが、テメェ相当酔狂なタイプのインファイターじゃねぇか!!あたし相手にここまで距離詰めてくるヤツもそうはいねーぞ!!」
『...得意なわけじゃない......ただ、採用する機会が多かったってだけ』
「それ『得意』なのとどう違うんだよ...っと!!」
顔に迫る仄暗い虹色の弾丸を、ネルは
...しかし僅かに掠めていたようで、切れた頬から赤い血が流れ落ちた。
「...
『...............』
「...せめて『さあね』くらい言えっての!スベった気分になるわっ...!」
銃底を振り下ろしたところを腕でガードされるが、ネルはもう片方のサブマシンガンも叩きつけて力技でシキを吹き飛ばす。
重い衝撃が腕を痺れさせ、シキの左手からハンドガンが滑り落ちる。
『...っ』
「拾わせるかよ...!」
飛び出そうとするシキを
これで戦闘中は、あの銃が再びシキの手に戻ることは無いだろう。
「まずは一丁...ってどこ行きやがる!!拳銃片方失ったくらいで逃げ腰になってんじゃねーぞ、オイっ!」
『...ヤンキーさん、しぶとい。ヤンキーさん、荒々しい』
「誰が『ヤンキーさん』だぶっ飛ばすぞテメェ!!」
建物の角を曲がったシキの後を追うネルだったが...角から半身を出したところで、
背後で炸裂した爆発音にも、今の『ミレニアム最強』は動じない。
『......!』
「爆発範囲と破片効果を一定方向だけに絞った、近接特化の指向性小型爆弾か...ホントおもしれーな、オマエ...ッ!」
...その後もシキを追い立てる先で襲い来る、多種多様なサブウェポン。
投げナイフにスタンガン、特殊警棒にクナイまで。
ハンドガンを片方失ったことで膨れ上がったシキのトラップ、奇襲パターンの数々...ネルはその
さっきの弾丸を避けた時といい、ネルの感覚は過去類を見ないレベルで研ぎ澄まされていた。
『っ...!』
「......よォ、鬼ごっこはもう
依然走り回りながらの攻防を繰り広げる2人が飛び込んだのは、四角い柱が等間隔に並ぶ広々とした空間。
ステンレス製のカウンターやキッチンスペースが併設されている点から、この建物の社員食堂跡か何かなのだろう。
...だが今のネルにとって、場所の差異は然程重要な情報ではない。
「テメェの狙いは、逃げ回ってあたしを消耗させること...気付いてんだろ?このデタラメに調子が良いあたしの状態が何時までも続かねーってことも、
『......』
「...お得意の機動力で逃げ回ってみろ。残り少ないだろう
...ある意味で視野狭窄に陥っていたネルは、この戦闘を『そういう勝負』なのだと信じて疑っていなかった。
ネルの集中状態が途切れるまで粘り切ったら向こうの勝ちで、向こうが攻撃リソースを全て使い切った時に自分が健在ならこちらの勝ち...決着条件は、そのどちらかしかないのだと。
『____
...だが、対峙するガスマスクの少女は。
ミレニアム最強たる美甘ネルが、たった一度の
____そんな決着では、貴女に勝ったと言えないからと。
『何を勘違いしたのか知らないけれど...私の攻撃はブラフも含めて、
...彼女の在り方、その深い部分を逆撫でしてしまったのか。
並の生徒なら立つことすらままならないようなドス黒いプレッシャーを放ちながらも、少女の言葉は止まらない。
ネルの『
『誰にも負けない』のではなく、『誰が相手でも勝ち続ける』こと...それくらい出来なければ、自身の
...故に少女は、依然変わりなく。
勝率が低い選択であろうと、体力的にも戦略的にも合理的でない選択であろうとも。
変わらない...確固たる意志を込めた指鉄砲を、ネルに向けて言い放つ。
『____貴女の時間が切れる前に、最強の貴女を打ち倒す』
「...ハハッ」
...この高揚を、どう表現すればいいのだろう。
血が滾り過ぎて鼻血が出てきそうな程の昂りを、どう解放してやればいいのだろう。
ネルは無邪気な子供のような笑顔を浮かべて、こちらに指鉄砲を向ける色彩豊かな少女を見る。
...美甘ネルは、
同世代に負けたことはなく、『調子に乗るな』と上の世代に囲まれた時はボコボコにされることもあったが...タイマンだったらまず負けることはないくらいに、その実力は突出していた。
...故に、これはネルにとって未知の経験。
無謀な強がりでも、彼我の実力差も分からないヤツの戯言でもなく...対峙する強敵に『全身全霊』を心から望まれたのは、生まれて初めてだったのだ。
「...さっきの提案、撤回するぜ。いい歳こいて、主観と先入観だけでモノ語っちまったわ」
『...そう』
「それと1つ...オマエに悪いニュースを知らせてやるよ」
『......何?』
「...
『...なら、この場で決着をつけるだけ』
それだけだった。
それ以上、言葉は必要なかった。
ネルとシキは、お互い堂々と銃の弾倉を交換し、装填し、呼吸をするように自然な動作で構え直し。
____ブワッッッッッッッッッッッ!!!!!と互いの『神秘』と『恐怖』がぶつかり合った瞬間に、地面を強く蹴り出した。
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夕焼けのオレンジが姿を隠し、夜の藍色が一面を覆い始めた時分であった。
「____っ!いた、リーダー!」
通信も途絶え、広大な『廃墟』のどこにいるのかも分からなかったリーダーを、アスナ達3人はようやく見つけることが出来た。
「...!?」
「これは...!?」
...踏み入った社員食堂らしき部屋は、思わず目を見開く程の惨状だった。
壁も、柱も、床も天井も...何もかもが撃ち抜かれ、砕かれ、抉られて。
嵐が吹き荒れたかのように凄惨な空間の真ん中で...美甘ネルは、大の字に寝転びながらボーッと天井を眺めていた。
「部長っ!ご無事ですか!?」
「...?おう、オマエら...身体の震えとかはもう平気か?」
「ええ、平気ですっ!ですがそんなことより、今は早く部長の手当を...っ!アスナ先輩、部長の上体を支えてもらえますかっ?」
「おっけー。リーダー、ちょっと背中に腕入れさせてね」
「...全身が裂傷だらけだ。鳩尾に大きな
アスナにあすなろ抱きをされるように身体を支えられたネルは、『...どっから話すか...』と言って再び天井を見やる。
...暫くして語られたのは、『コールサイン00』を知っている者ほど信じられないような一騎打ちの顛末。
____自身の間合いでは無敵を誇る美甘ネルが、
初撃の衝突も、それ以降の攻防も...両者の力は拮抗していた。
研ぎ澄まされた五感から送られてくる膨大な情報を高速で処理し、思考し、通常より格段に速い命令信号が身体を動かし続ける。
...ソレはまるで、互いに1秒先の未来が見えているような感覚で。
少しずつ体力と精神力を削り合いながら続く戦闘は...如何に相手の意表を突き、タイミングを外し、思考を0.1秒フリーズさせるかで決まる領域へとシフトしていった。
「...あたしが狙っていたのは、
「武器を自ら手放すという『予想外』で視線を誘導し、普段武器として用いない鎖で不意をつく...土壇場でそれをやられたら、相手としても完全に捌き抜くのは難しそうですね」
「うん。リーダーが戦闘中に鎖を外す場面なんて、私達も見たことがない」
「それで...鎖を振り抜けるチャンスはあったの、リーダー?」
「...あった。でも、
...止められたではなく、弾かれた。
状況がイマイチ想像出来ずに首を捻る3人に、ネルはとある柱と柱の間を指し示す。
立ち上がったカリンがそちらへ向かい、柱の間に一歩を踏み入れる直前...僅かな光に反射した、ソレの存在を知覚した。
「...!
「...アイツが着てた服の袖の下...左手首と肘の間くらいに、鋼線を巻いたリールが隠れてやがった」
リールが取り付いていた箇所を自身の腕で示しながら、ネルは続ける。
銃弾と暗器の応酬を繰り広げながら、ネルはいつの間にか自身の背後にソレが来るよう誘導され...視線誘導に成功して鎖を振りかぶったところを、
直後____ザンッッッッ!!!と懐まで踏み込まれ、シキの鋭い回し蹴りがネルの側頭部へ突き刺さり...視界が床へ落ちていく感覚と共に意識を失ったのだと。
「......最初から最後まで部長の間合いで戦い続けた上に、悟られないよう鋼線を柱に括り付けて網を作る......そんなデタラメな芸当、キヴォトス全体を見ても果たして何人出来るか...」
「...だけど、アイツはやった。宣言通り、『現状最も強い状態のあたし』から...文句の付けようがないくらいの『勝利』をもぎ取っていきやがった」
応急手当が終わり、寝かされる形でアスナの膝に頭を乗せたネルは右腕を上げ、手の甲でそっと目元を覆う。
「.........本当に、文句なんかねぇんだ。今までは出し切る前に終わってた『全身全霊』ってヤツをぶつける感覚は堪らなかったし、アイツの何が飛び出してくるか分からない手数の多さにはワクワクしっぱなしだった...なのに......」
なのに、と再び呟いて、そのまま押し黙ってしまうネル。
アカネもカリンも、明らかに普段と様子の違う部長にどう言葉をかけるべきか逡巡していた...その中で。
「____いいんだよ、リーダー」
唯一人...美甘ネルと最も付き合いの長いアスナだけが、何の迷いもなく言葉をかける。
「......何がだよ」
「んー...私もよく分かってはないんだけどね?」
オイ...と左目を手の甲の影から出したネルに、ズイッと顔を寄せたアスナは続ける。
「『先輩』とか『部長』とか『コールサイン00』とか...なんか凄そうな肩書きや名前も増えちゃったけど、『だから何かをガマンしなきゃいけない』ってことには、多分ならないと思うな」
「......っ」
「どんな名前を背負っても、責任が増えても...
かつての呼び名を使って目を細めるアスナに『そうかよ...』と返し、再び目を手の甲で覆ってしまうネル。
「................................................クソ...ッ」
5秒が経ち、10秒が経ち...零れるように呟かれたその言葉で、アカネとカリンは少しだけ安堵した。
自分たちは、この頼もしいリーダーに『こういう場面を見せてもいい相手』だと...そう思ってもらえているのだと。
「クソッ......クソッ、クソッ、クソッ、クソッ、クソォ...ッ!!」
結果に文句がなくたって...
全身全霊を賭して負けるということは...現状の自分の最大値ですら敵わないという事実を、否応なしに直視することになるのだから。
ましてや...初めてだったのだ。
タイマンでの完全敗北を味わうのは、ネルにとって初めての経験だったのだ。
...喉がヒクついて、渦巻く『悔しさ』に思考が埋め尽くされて...もはや同じ言葉しか口に出せない。
溢れ出し過ぎて決壊寸前の感情を散らそうと、左の拳がひたすらに床を叩く。
「クソッ!クソッ、クソッ!............クソッ...ク、ソッ............っ」
アスナも、アカネも、カリンも...何も言わず、とめどなく溢れるネルの感情に自身を重ね合わせる。
...少し本気を出しただけの彼女に、自分達は立っていることすら出来なかったのだから。
...月明かりが差し込む『廃墟』の片隅で、エージェント達は己に刻みつける。
運動能力、継戦能力、精神力...全て包括した、自分の『強さ』の現在地。
渦巻く悔しさ、やるせなさ、現状自分に足りてないモノへの渇望を咀嚼して...また一つ決意する。
____次は必ず、自分達が勝ってみせると。
いざ書いてみると、アスナのエミュが一番難しかったかもですわ~!
アスナっぽくない言い回しもあったかもですが、ご容赦いただけると幸いです。
色彩ちゃん視点に続きます!