ヘイローが『反転』できるようになったので、謎のヒロインごっこを楽しみます。 作:YEBIS_nora
今日の投稿分だけで一万四千文字超えててビビり散らかしましたわ!
少し長いですがお付き合いいただけますと幸いです。
「...この
四方を室外機が
シキを連れて場所を移した小鳥遊ホシノは...単刀直入に聞けばいいものを、勇気を整える一拍を確保するように、1つ変化球的な質問を投げかけた。
『......?当然知ってる』
「...!?」
期待していた答えの筈なのに...いざ当人に口にされた途端、ホシノの鼓動がドクンと脈打つ。
「____ユメ先輩...なの?」
...渦巻くドロドロとした熱が、ホシノの冷静な部分を完全に溶かし去っていた。
『............』
...逡巡があった。
地面に接するスニーカーがザリッと音を立て、マスクの位置を合わせるように右手を顔に伸ばし...
『貴女...
「......え...?」
一瞬、言葉の真意を測りかねた。
遠回しに、自分の質問に対して肯定したのだろうか?
シャーレで読んだ漫画で偶に出てきた、『お前に私の何が分かる!?』的なニュアンスの言葉だったのだろうか?
...それとも。
それとも、そんなフィクションみたいなことがあるのかと思うけれど...。
「...記憶、喪失...?」
『...そういう意味で聞いてない』
...割と即答だった。
『思い過ごし...?』と呟きながら、数秒考え込む素振りを見せるシキだったが...その後小さく嘆息を漏らし、再びマスク越しの顔を上げてホシノへ告げる。
自分の名は『シキ』であり、ホシノが言うところの『ユメ先輩』...アビドスの元生徒会長ではないと。
その防弾盾を知っていたのは、『
そもそも記録では、彼女は2年前に____
「____だったらっ!!」
『...!』
...他にも色々言われた気がするが、最早ホシノの耳には
「だったら...どうして貴女はそんなにもあの人に......ユメ先輩に...っ」
「......一緒に、アビドスへ帰りましょう...?」
『......何を...?』
「初めから、この場で全部の話を済ませるつもりはなかったんです...私達の生徒会室で、お茶でも飲みながらゆっくり話しましょう?」
「あれから月日が経って、私にも後輩が出来たんですよ?皆かわいくていい子達ばっかりで...きっと、先輩もすぐに仲良くなれると思うんです」
「あっ、でもセリカちゃんに恐い思いをさせたことについてはいただけませんね...でも大丈夫、私も一緒に謝ってあげますから」
「だから、アビドスへ____私達の帰るべき場所へ、一緒に......ね?」
...息を呑んだシキが半歩後ろへ下がった音だけが、いやに大きく反響する。
ここに来てようやく、シキも対峙する少女の様子が
小鳥遊ホシノの、その泥のように濁った双眸に...無尽蔵に『恐怖』を振り撒く色鮮やかな少女ですらも、本能で警戒レベルを引き上げた。
『.........悪いけど、貴女と一緒に行くことは出来ない』
約10秒に渡る沈黙の
『元より私に、貴女の世迷言に付き合う義理は一つもない』
このキヴォトスという都市において、突き付けた銃口が『威嚇』の役割だけで終わるケースなど滅多にない。
『____あまり、
「......出来れば、こういう流れにはなって欲しくなかったな」
ガシャンッ!と音を立てながらショットガンをリロードし、ホシノはゆっくりと戦闘態勢をとる。
「......あの頃も定期的に模擬戦しましたけど...一度も私に勝ててないじゃないですか」
『............
相対するは、最も強力と目される『神秘』と、ソレとは似て非なる得体の知れない『恐怖』。
D.U.の広大な都市部の片隅で...対極に位置する2人の衝突が、今静かに始まった。
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美甘ネルと剣先ツルギ、既に2人の最強格と闘った経験から学んだのだろうか。
シキが呟いたのは、件の2人を下す前にも零していた『三速』という一言。
小鳥遊ホシノという『最強』相手に、のんびり段階的に出力を上げていく暇などない。
駆ける舞台は路地裏、左右が常に構造物の壁に制限された一本道。
得意の機動力と身のこなしを駆使して、シキは壁面すらも足場にしながら三次元的に攻め立てる。
『____っ!』
ホシノの頭部を狙って集中的に撃ち続け、彼女が
その瞬間を突いて上へ跳び、壁伝いに距離を詰めながら真上からのヒットを狙う。
「...!」
当然壁を蹴る音で居場所を看破されるため、ホシノは即座に盾とショットガンを斜め上へと構え直してくる。
例えこのままシキが自由落下の力を加えて蹴りを落としても、神秘で強化されたホシノの
『...
「...っ!?」
故に、ここで落とすのは蹴りではない。
金属同士が擦れる嫌な音と、メッキ鉱板がベコベコベコッ!と反り返るような音と共に...ホシノの周囲に影が差す。
...降り注いできたのは、壁面に取り付いていた幾つもの室外機と排気ダクト。
今から走っても範囲外に出られないと判断し...自由落下を加えた質量の波状攻撃を、ホシノは一身に受け止める。
『(...まずは一撃)』
防御のために視界を制限させ、室外機とダクトが降り注ぐ金属音で聴覚を撹乱し。
足音と
立体機動と環境利用...シキが得意とするスタイルを存分に駆使したチャンスメイク。
現状誰にも初見で防がれたことのない汎用戦術で、いざ一撃入れようと引き金を引き絞ろうとした...その刹那。
「......」
『____っ!?』
濁りきった青と金色の瞳が、上からシキを見下ろしていた。
ゆっくりと向けられたショットガンの銃口に、シキの全身を冷たい緊張が駆け抜ける。
シキの基本スタイル...本人曰く『自然に身についただけ』であるソレは、安全マージンを自らかなぐり捨ててでも攻撃するチャンスをこじ開けるインファイトスタイル。
裏を返せば...攻め方を完全に読み切られていた場合、為す術なく反撃を喰らうことと同義である。
『(撃たれっ____!)』
「____ぁ...」
『.........っ?』
____しかし、反響するはずだった銃声がいつまで経っても聞こえない。
時間が止まったかのように硬直したホシノをハッキリ視認するより前に、シキは瞬時に彼女から距離をとる。
「な、にを......っ、連れてかなきゃ...連れてかなきゃいけないのに...っ」
『.........!』
恨めしげに自身の右腕を左の拳で殴るホシノを見て、シキは
...思い直したようにその場で留まったまま、握り込んだ左手を静かに下へ降ろすのだった。
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......時間が経てば経つほどに、戦況は一方的に傾いていった。
路地裏を駆け抜け、一時的に通りへ出て歩道橋や路線バスの上でも攻防を繰り広げながら、再び別の路地へ飛び込んでいく。
その
それどころか、チャンスを逃す度に段々と動きの精彩を欠いていき......ついに戦局は、シキが出力を『二速』に落としても余裕で優位をとれる程のワンサイドゲームと化していた。
「.........っ...ゲホッ!...ぜぇ、ぜぇ...っ!」
肩で息をするホシノの全身には、擦り傷や切り傷に加えて幾つもの小さな
『.........』
対するシキに、特に目立った外傷は無く...体力の消耗すら欠片も感じさせない様子で、手早くハンドガンの弾倉を交換していた。
『.........こんなの...っ』
爪が食い込みそうになる程握り締められた拳は、果たしてどんな感情の表れなのか。
マスクの下からギリッ!という音を漏らし...シキは足音を大きく立てながら、盾すら碌に構えていないホシノのもとへ歩み寄る。
『......撃って』
「...............えっ?」
『撃って...そのショットガンで、私を、今この場で』
ホシノの愛銃を鷲掴みにして、シキはその銃口を自らの胸部の中心へ押し当てる。
『ゼロ距離身体のド真ん中...流石の私でも、ここから弾を避けることはまず不可能』
「......まっ、て」
『指をへし折った覚えはない...さあ撃って、引き金を引き絞って』
「...まって」
『さあ』
「待って」
『さあ...!』
「待って!」
『さあっ!!』
「____出来ないよっっっ!!」
...絞り出すような悲痛な声が、薄暗い路地裏に反響する。
ホシノの指先も、肩も、両足も...まるでか弱い少女のように、カタカタと力無く震えていた。
「...銃口を向けると、指先の血の気が引いてくの......凍りついたみたいに、そこから動かせなくなるんだよ...」
『......』
「...ホントは分かってる...貴女は、
『.........』
「...でも、撃てないんだよ...重なるんだ。貴女に先輩の姿が、表情が...あの日の光景が......私の未熟さが原因の一端だったくせに、今度は
...力無く、ホシノはその場に膝をつく。
最早彼女の中には、欠片ほどの戦意も気力も残っていなかった。
...車が表通りを走り抜ける音が、雑居ビルの隙間に忙しなく響く。
排気を含んだあまり清々しいとは呼べない風が、少女達の肌を撫でていく。
『____小鳥遊ホシノ』
「........................?」
...前置きはそれだけだった。
____ゴヅンッッッ!!!という鈍い音が炸裂し、虚ろに沈みかけていたホシノの意識が強制的に引き上げられた。
「い゛ぃっっっっっっっ!!?」
『...意味不明。そちらから突っかかってきておいて、何勝手に抜け殻みたいな有様になっているの?』
ホシノは涙目で額を押さえているのに、対するシキは痛がる素振りすら見せない。
...喰らったのは、種も仕掛けもない単なる頭突きだった。
しかも常人なら普通躊躇うレベルの...自分が喰らう痛みなんて気にも留めていないかのようなフルパワーである。
『...離れないで』
「いや離れてるんじゃくて仰け反ってるだk____って近っ!?」
後頭部に腕を回されたホシノはそのまま引き寄せられ、額をグリグリと突き合わされる。
...『自分から目を逸らすな』という意志を、暗に訴えかけられているような気がした。
『...私は別に、もういなくなってしまった人のことを忘れろとも、いい加減悼むのを止めろとも言うつもりはない』
「っ.........」
『だけど.........っ......ホントは、貴女もとっくに
...まるで、可能な限りホシノを傷つけないように。
一瞬だけ言葉を選ぶような逡巡を見せ...ホシノの後頭部に触れる指先に力を込め、シキは再び口を開く。
『目の前の相手に、いなくなった『誰か』を過剰に重ねるその行為は...相手に対して、何より都合よく勝手に重ねられた『誰か』に対しての明確な____
「...っ!」
...知っていた。
先生と出会い、シャーレに加わり、妹分のような事務員の少女や後輩達と過ごす日々の中で...ホシノも同じ結論に至っていた。
だからこそ...分かっていた筈のことだからこそ。
誰かに真正面から指摘されると、どうしてか自分が情けなくて、悔しくて...ひたすらにもどかしい。
「...............あぁ...」
ついこの間までのサイカと、先輩に何の関係がある?
今目の前にいるシキという少女と、ユメ先輩に何の関係がある...?
騙されて、失って、純粋な善意すら信じられなくなって。
学校を守るためにと一人で進んで、また騙されて...遂には傍から見たら身勝手過ぎて理解に苦しむような盲信に、第三者を巻き込んで。
自分は一体
『...少し、アプローチを変えてみよっか』
独り言のようにそう呟いたシキは...徐々に光が戻りつつあるホシノの双眸を真っ直ぐ見つめながら続ける。
『貴女が慕うその先輩は、仮に自分がいなくなった時____
「なわけ無いでしょぶっ殺されたいわけ?」
『...............なんかゴメン...』
...一瞬でホシノに胸ぐらを掴まれ、シキは咄嗟に降参の意を示すように両手を挙げる。
『...こう煽った方が早かった...?』という呟きは...なんかもう悔しさとか恥ずかしさとか怒りとか色々混ざり合って一周回半くらい振り切れてしまったホシノの耳には全然届いていなかった。
「............いいよ、許す____はぁぁぁぁぁぁぁぁっ......
『...ホントに傍迷惑な話.........
「おかげさまで......ありがとね、シキ...ちゃん?」
『...どうせ偽名だから、呼び方なんてどうでもいい』
優しく撫でるようにホシノの髪に触れ、立ち上がったシキは衣服に付いた砂埃を手で払う。
『正気に戻ったならさっさと立って____
「........................えっ?」
『...?決着はまだついてない...早く立って、銃を構え直して』
「...ん〜?.........んんっ!?」
...一瞬、何を言われているのか分からなかった。
なので少し落ち着いて、耳から入ってきた言葉を丁寧に脳内で文字変換していって...その上で、やはりホシノは驚きの声を漏らした。
「いやいやいやいや、何言ってんのさ!?雰囲気的に一段落したし、『今日はこれで解散』みたいな流れになってたじゃん!」
『......貴女の方こそ、何を言っているの?』
仮面の下で『ソレ本気で言ってんの?』みたいな
『貴女の後輩に恐い思いをさせた件と、貴女達を差し置いて先生とお出掛けしようとしてる件......
「それは...っ!......さっきまで沢山面倒をかけちゃったのに、これ以上因縁つけて引き止めるような真似なんて『その考えがもうバカ。バーカバーカ』...って、はあぁぁぁぁっ!?」
いきなり小学生みたいな罵倒を浴びせられ、ホシノは思わず声を上げる。
...こんなリアクションをしたのは、およそ2年振りのことだった。
そんなホシノに反応すらせず、当のシキは淡々とした調子で続ける。
友達でも味方でもない自分に、何を勝手に負い目なんて感じているのだと。
貴女の大切な人達に対する想いは、本来抱く必要すらない『負い目』一つで抑え込めてしまえる程度の...ちっぽけでしょぼくれた大きさのモノなのかと。
『身体に染み付いたみたいに、自分から『窮屈』な道ばかりを選んで...それで、何かが本当の意味で好転したことがあったの?』
「...!」
『大多数が揃って納得してくれる理由なんて、どこまで行っても理論武装...義憤だろうと嫉妬だろうと『自分がそうしたいから』って気持ちがあるのなら、
互いの譲れないモノのためにぶつかるのは当たり前のことだからと、シキは言葉を締め括る。
「____ははっ...」
『...?』
「ううん、ゴメンゴメン...っ。小馬鹿にしてるとかじゃないんだけど、なんか自然と笑えてきちゃって...!」
...この少女と話していると、どうにも情緒が追いつかない。
地面に手をついて足を広げたホシノは、天を仰いでケラケラと笑う。
「...『私の邪魔さえしてこなければ、こちらからシャーレを攻撃するつもりは毛頭ない』な〜んて先生に言ってた割に、随分サービスが良いんだね?」
『......この先二度も三度も理由を付けて絡まれるくらいなら、この場で全部
「...うへ、じゃあそういうことにしておこうかな」
空気を切り替えるようにフッと息を吐き、ホシノはゆっくりと立ち上がる。
「____セリカちゃんってば、あの後三日間くらい夜を一人で過ごせなくなって大変だったんだよ?...おじさんが勝ったら、直接ごめんなさいしに行って貰うからね?」
『......一応その件については、私も力の加減を誤った自覚がある......この結果がどうであれ、彼女宛にお詫びの品を送る予定』
「おじさんがシキちゃんを連れてきてから30分経って、現在15時40分...本当にいいの?今から先生の所へ向かえば、10分か15分位の遅刻で済むと思うけど」
『...遅れた分は誠心誠意謝るけれど、怒って帰ってしまうかもしれないなんて不安は少しもない......
「へぇ......ていうかさ〜、この前の先生との
『...?私と
1つずつ、内心を言葉にしていく度に...ホシノの口角が吊り上がる。
シキが律儀に問答に応じているのも...これが、長年ワガママを押し殺してきた少女に必要なプロセスであることを理解しているからなのだろう。
......言葉の節々で煽りまくってるように聞こえるのも...恐らく、わざとやってる訳では無い。
『...やる気が出たなら、いい加減本気でかかってきて____
「あはは〜、やれやれ全くシキちゃんってばさぁ____人をその気にさせるのが上手いよねぇっ!!!」
途端____ブワッッッッッッッッッッッ!!!!!と。
小鳥遊ホシノという『存在』から溢れ出るプレッシャーが、
...天輪は強く光を発し、その双眸にはギラギラとした闘志が宿る。
数週間に渡って蓄積された情念と、この数十分で振り切れる程に荒れ狂い、追い付かなくなってきた情緒の数々。
それらが無意識下の『枷』すら喰い破り____最強の『神秘』が解き放たれる。
『......暁の、ホルス』
「...うへ。そんな
...防弾盾をそっと壁に立て掛け、愛銃たるショットガンを肩に担ぎ。
振り返る顔に獰猛な笑みを浮かべながら、色彩豊かな少女へ告げる。
「本気のおじさんはとっても強いよ?____少なくとも、キヴォトスに住む生徒の中で
色彩ちゃん視点に続きます!