ヘイローが『反転』できるようになったので、謎のヒロインごっこを楽しみます。   作:YEBIS_nora

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お久しぶりです。
私事ですが、会社から資格取得の指示があったため投稿頻度が落ち込む可能性があります。
ゆっくりでも更新を続けて参りますので、今後も読んでいただけますと幸いです。



無邪気に狂いし少女の瞳

『____うひゃ〜っ!危ねぇ危ねぇ...助けに来てくれてマジ助かったよ黒服さん...!』

 

 ブラックマーケットの一角に紛れるようにして建つ、黒服のセーフハウスである()()()()()雑居ビル。

 『門』を介して路地裏を後にした少女と黒服は、周囲のネオン光に照らされた屋上へと降り立った。

 

「ククッ、お気になさらず...『困った時はお互い様』と、世間ではよく言うではありませんか」

『わーお、黒服さんが言うと胡散臭さが増し増しだね...そんなこと言って、実は()()()()()()()()()()()()が巡ってくる機会をチラチラ伺ってたんじゃないの〜?』

「クックックッ...!そうですねぇ...ここは敢えて、『ご想像にお任せします』と返しておきましょうか」

『素直じゃない大人だなぁ、このこの〜♪』

 

 手を後ろで組んだまま、少女は肩を使って黒服の二の腕辺りをバシバシと叩く。

 セミロングに戻った白髪や、収束を終えて黒い天輪だけとなったヘイローが...彼女の『反転』が完全に解かれていることを示していた。

 

「状況が状況だったとは言え...貴女の『謎のヒロインごっこ』に()()()()()してしまった点については、素直に申し訳なく思っていますよ」

『そんなの全然気にしなくていいのに...!激戦で暴走気味(ハイ)になってたボクのフォローに入ってくれたわけなんだから、寧ろこっちが謝りたいくらいだよ!』

 

 『と言うかさ』と言葉を切って、少女____色波サイカは、顔に被っていた仮面を大切そうに両手で取り外す。

 (あらわ)になった仮面の下で、少女は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。

 

「自慢じゃないけど、『謎のヒロインごっこ』が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?アドリブ上等、クソ度胸上等____そんくらいの気構えで臨まなきゃ、先の読めない現実(リアル)でロールプレイは楽しめないってもんよ♪」

 

「ほう?...普段の貴女を見る限り、些細なことで頻繁に動揺しているように感じられますが?」

「それとこれとは話が別ですぅ〜!敢えてオーバーにリアクションすることで、即座に思考を『動揺』から『対応』に切り替えるテクニックなんですぅ〜!」

 

 『ロールプレイ中はソレを内心でやってるだけなんですぅ〜!!』と続けて、サイカはゲシゲシと黒服の脇腹を小突く。

 ...一方が少し揶揄って、もう一方がそれに乗っかってツッコミを入れたり揶揄い返したり。

 特に意図したわけでは無いものの...いつの間にか、コレが二人のコミュニケーションとして収まりの良いカタチになっていた。

 

「____こちらのハンドサインで寸劇の意図を理解してくれたのは幸いでしたが...まさか、いきなり『我らが姫』の部分を『否定』で打ち返されるとは思いませんでしたよ?」

「いや〜。正直『姫』の部分に乗っかって、『ゲマトリア所属』ってことにしても良かったんだけどね?...嘘は極力少ない方がボロも出にくいし、ここは正直に『協力関係』であることを示しとこうかなって思ってさ」

 

 小突き合いから流れるように、話題は先程繰り広げた寸劇の内容へと移り変わる。

 サイカも黒服も...あのヒリつくような『舞台』で味わった興奮と手応えを、互いに共有したくて仕方がなかったのだ。

 

「や〜!マジであん時、黒服さんに色々()()しといて良かったよ!ボクらの間で『謎のヒロイン』のビジョンが共有出来てなきゃ、アドリブであの完成度は出せなかったでしょ!」

「思わぬ所で役に立ちましたねぇ...当初は懐疑的でしたが、やはり貴女の突飛な提案に乗っておいて正解でした」

 

「てかさ、てかさ!黒服さんと先生が話してるとこ見るの初めてだったんだけど...初っ端からあのレベルで敵意向けられてんのヤバくない?普段から黒服さんの()()()()()()()()()()()()()()とか聞いてた手前、表面上は落ち着いて会話出来る関係性だと思ってたんだけど?」

「そうですねぇ。以前お会いした時と異なり、今回は周りで多くの生徒達が見ていましたから...尚のこと、『悪い大人』である私への態度が刺々しくなるのも妥当と言うものでしょう......まあそれに」

「それに...?」

 

「好意、敵意に関係なく____()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と実感出来たのは...何とも得難い機会に恵まれたと考えておりますよ?」

「うっはは!気持ちわりぃぃぃぃぃぃっ!!...とか叫びたいところだけど、ボクもそんなに他人(ひと)のこと言えないから困ったものだよねぇ」

「クックック...同じ穴の狢、というやつですね」

「おうおうおう、言葉で肩組もうとするんじゃねえですわ!少なくともボクの中に、先生から嫌われて興奮する類の性癖は欠片も内在してないんだからね!?」

 

 ...屋上の手すりに並んで背を預け、少女と大人は夜空を見上げて語り合う。

 互いのアドリブを褒め合って、時々セリフ回しのチョイスに笑いながらツッコミを入れて...同種の立場(ポジション)と緊張感を共に味わった者同士、あと数時間は余裕と感じる程に話題が溢れていた。

 

「____意を決したように振り向いて、先生と約束しようとするまでの一連の流れ...あれは素晴らしい。ここぞという場面に出る貴女の機転や演技には、思わず舌を巻いてしまいますよ」

「ん、あんがとあんがと♪......別に演技のつもりじゃなかったんだけどね

「...?そして、貴女の言葉によって一気に『らしさ』を取り戻した先生のあの瞳...!『シキ』という少女を諦めない決意を畳み掛けるところまで含め、とても胸躍る場面を観ることが出来ました」

「...............ぅん...そだねぇ...」

 

 ...先程から、サイカの様子がどこかおかしい。

 少し前まで決壊したダムのように語りまくっていたテンションは何処へやら...反応(リアクション)も薄くなり、語尾も尻すぼみになっているようにすら感じてしまう。

 

「...どうされましたか?お疲れのようならもう解散に.........」

 

 視線を星空から隣へ向けたところで...黒服は言葉を呑み込んだ。

 

「.....................っ...」

 

 背中を預ける手すりに両肘を掛けながら、頭がプルプルする程首を捻って黒服から顔を背ける白髪の少女。

 ...しかし、髪の間からチラリと覗く両耳は...()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()____

 

「......おや」

「...!?」

「おやおや」

「っ!!」

「おやおやおやおやおやおやおやおや...!」

「~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!///」

 

 全てを察した黒服は、弄り甲斐の有るオモチャを見つけたような調子で隣の少女の方へと身体を向ける。

 滅茶苦茶に揶揄う気満々の声音に追い詰められ...我慢の限界に達したサイカは、風圧が出る程の勢いで黒服の方へ振り返った。

 

「なななななな何だよ黒服さんっ!言いたいことあんならハッキリ言えばいいじゃんか!!///」

「ククッ...そうですよねぇ?時々忘れそうになりますが、貴女も年頃の女生徒ですからねぇ?先生のような『素敵な大人』にあれだけ真っ直ぐな感情を向けられて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()...!」

「そこまで詳細に言語化しなくたって良いじゃん!余計恥ずかしくなるだろうがこんにゃろー!!」

「可笑しなことを仰いますねぇ、『ハッキリ言え』と言ったのは貴女の方では?」

「〜〜〜〜〜っ///ぶっころっ!」

「クックックッ!恐ろしくシンプルな殺意...!」

 

 日付けが刻一刻と変わろうとする中、いい大人とお目目グルグルの少女は屋上でコミカルに走り回る。

 ド深夜にバカをやる二人はどこまでも自然体で...黒服といえど、一人の少女とこんな愉快な関係性になることまでは想定していなかったことだろう。

 

 ...でも、だからこそ。

 この関係性に居心地の良さを感じてしまったからこそ...黒服は、()()()()()()()()ことを選んだのだ。

 

「____時にサイカさん...っ、今後のプランはどのようにお考えで?」

 

 ...彼女は知らない。

 自身が神妙(シリアス)な雰囲気で話していた『厄災』が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 夢で見たというその光景は、()()()()()()()()()()()()()()()の一つである可能性すらあることを。

 

似非(えせ)カバディやってる状況下でそれ聞く!?...プランも何も、やりたいことの指針は少しも変わんないよ!」

 

 曰くソレは...解釈されず、理解されず、疎通されず...ただ到来するだけの不吉な光。

 『サンクトゥムタワー』に縫い止められし()()キヴォトスを、『忘れられた神々』に連なる生徒達を____黒服達『ゲマトリア』が、心血を注いで築き上げてきた探究の数々を。

 ...()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「____『厄災を打倒する準備』をしているように()()()()()、先生の活動をそれとなくサポートする『謎のヒロイン』ポジションを満喫する!...そのためにも、うっかり身バレして『シャーレ所属の一般事務員』って立場を失うわけにはいかないよね...!」

 

 生体データ、『神秘』の組成...『人の輪にするりと溶け込める』才能に、本人からヒアリングした『力』を扱う際のアプローチ。

 何時からこの都市に紛れ込んでいたのか、誰によって産み落とされたのか____()()()()()()()()()()()()()()は、一体何だったのか。

 

 多くの『事実』を得られた代わりに、未だ明らかに出来ない『疑問』の数もまた多い。

 だけど一つだけ...確たる証拠は少ないけれど、この『考察』だけは黒服達の中で揺るがない。

 

 ____今の彼女は、当初のデザインから大きく逸脱した方向へ変貌を遂げているのだと。

 

「今回の一件で...先生は多くの『事件』に、より一層積極的に関わるようになる...こっちが(けしか)けたようなものなんだから、ボクも全力で『表』と『裏』の両側面からシャーレを支援していくつもりだよ」

 

 理屈はともかく、()の超常と彼女はヘイローを通じて繋がっている。

 そしてこれまでの活動を通して...引き出せる『力』の総量も、日を追うごとに増えている。

 だが一方で、彼女に『厄災』の真実を伝えた時に生じるであろう精神の揺らぎが...『顕現』のタイムリミットを()()()()()()()()()()()()()可能性も否めない。

 

 ...故にこそ、黒服達は選択した。

 時に見守り、時にそれとなく助言を与え、時に愉悦を共に楽しんで。

 『悪い大人』らしく、彼女を欺き続けながら____()の『厄災』を討ち払う、最強の()()()()に育て上げることを。

 

「ククッ、成程...差し当たって、何か我々に要望などはありますか?」

「んー、『複製(ミメシス)』との戦闘訓練をもうちょい頻繁に繰り返したいかな。欲を言えばケセドくん達ともバトりたかったけど...『パス』が切れてるんじゃ仕方ないしね」

「分かりました、マエストロにも伝えておきましょう...()()()()()()()()()()()()()()()()、彼も喜んで協力すると思いますよ?」

 

 『謎のヒロインごっこ』は意図せずして、彼女の研鑽にこの上なく適した環境の土台となった。

 理想の自分を()()()()()()()()からこそ、普段なら躊躇するような事象にも積極的に挑戦出来る。

 『ごっこ遊び』だろうと()()()()()()()()だからこそ...その成長過程に、『苦しい』や『面倒くさい』というマイナスな感情は一滴たりとも混じらない。

 

 ...だからこそ、この()をみすみす手放すわけにはいかないのだ。

 彼女に真実を伏せることには多少の抵抗があるが...それでも今は、未来のために欺き通す。

 

 ____色波サイカが、『器』として成熟するその日まで。

 

「____うっはっはァ!隙ありだオラァンッ!!」

「っ...!?」

 

 思考に注意を引っ張られた隙を付かれ、少女のフライングクロスチョップが黒服に直撃する。

 手加減されていたとは言え、少女の一撃にはそれなりの威力が残っており...勢いそのまま、黒服はその場に押し倒された。

 

「ぴゃ〜、良い汗かいたぜ☆......でもそろそろ空腹感が限界なんだけど、空っぽ過ぎて必殺の『胃液リバース』が炸裂しちゃいそうなんだけど...!?」

「この体勢で吐かれるのは遠慮願いたいですねぇ...お詫びと言っては何ですが、夕食は私がご馳走しますよ?」

「マジで!?ならあそこ行こ!この前連れてってくれたブラックマーケットの深夜食堂!だし巻き玉子めちゃウマだったから食べに行きたい!!」

「ええ、ええ...ですが()()だけは確実にお願いしますよ?あのお店に、個室の席は設けられていませんかr「だし巻きっ、手羽先っ、ちっくぜっん煮〜♪」...クックックッ」

 

 自身の腹部に跨って左右に揺れる少女を見て、黒服も半分諦めたように笑みを零す。

 

 ...少し前の自分が見たら、きっと小馬鹿にしたように嗤うだろう。

 どうして自分は、こうも回りくどい選択をしてまで彼女を見守ろうとするのかと。

 黒服の本気を()ってすれば...()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだって難しくはない筈なのに...どうして、『ただ好き勝手に利用する』という選択肢を真っ先に除外してしまったのかと。

 

「黒服さん、黒服さんっ♪」

「...どうしました?」

「あれだけの大立ち回りを一緒にやっちゃったんだもん____当然最後まで付き合ってくれるよね?」

 

 結局のところ...根底(そこ)にあるのは『合理』ではないのだ。

 

「『シキ』一人だけが情報ソースだった『厄災』の存在...それを黒服さんが認知している(さま)を見せつけたことで、今まで懐疑的だったシャーレ部員達も考えを改める...()()()()()はより一層、取り返しのつかない段階まで登り詰めちゃったわけだ」

 

 『大人』として、『ビジネス』として、自身の活動に関わる多くの些事を割り切れる黒服とて。

 単なる打算や功利だけで、ここまで一人の少女に目を掛けていられる程...自らの時間を持て余しているわけでは無い。

 

「シャーレが能動的に動き出せば、今まで鳴りを潜めていた色んな『悪事』や『不可解な現象』が明らかになる...『謎のヒロイン』として()()()()便()()出来る機会も、これまで以上に増えていく」

 

 色波サイカが、単に()の『厄災』と繋がっているだけの()()()()()()()()()()()()()()()()()...こんな屋上でバカをやる関係になれる程、言葉を交わすことすら無かったのだろう。

 

 故に...もし仮に、当時の自分と言葉を交わすことが出来るなら。

 黒服は芝居がかった動きで両腕を広げ、自慢するように謳うだろう。

 

()()()()()()()()、黒服さん!____今後も『謎のヒロイン(ボク)』の華麗な暗躍から、目を離しちゃダメなんだからね♪」

 

 

____無邪気に狂った彼女の瞳に、もうどうしようもなく魅せられてしまったからなのだと。

 

 

 




これにて『謎のヒロインごっこ』の第一章は閉幕です。
次回から掲示板回を数話挟んだ後、最終編へ繋がる第二章の開幕となります。

現状の時系列としては、対策委員会編2章とパヴァーヌ1章が終了している辺りです。
まだ確定ではありませんが、本作ではエデン条約編の前にパヴァーヌ2章を掲示板回の中でダイジェストにしようと考えております。
すべてを丁寧に書こうとすると間違いなく作者の頭が爆発するので、掲示板回を上手く活用していこうと思います。

こうやってなぁ、こうやってなぁ。
黒服の心理描写も盛り込んでおくことでなぁ、最終編で先生と「本船」について話す時、本編時系列にない本音トークが実装されたりするかもなんだよなぁ...!

次回に続きます!
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