仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil   作:X2愛好家

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月夜に踊れ、魔を戒める騎士よ


第?話 黄金/騎士

曇天の夜空。雲の切れ目から僅かに月光が差す逢魔時。人々が眠り、明日の朝日を待ちわびる夜。

 

個々人の事情によって起きている者も居るだろう。遅くまでの仕事であったり、或いは深夜から朝にかけての業務であったり。酒に溺れて道端で寝こける者も居れば、夜も朝も関係無く騒ぐ者も居る。

 

だが、そういう者達ほど餌となるのだ。

 

奴らの。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

───グゥゥゥゥッ!

 

「っ!」

 

夜の闇に紛れて疾走する二つの影。

一つは暗闇に包まれてなお、それらの黒に染まらない確固たる意志を示すかのような黒いコートを着た男。左手には鞘に収まった状態の刀剣を握っている。

 

もう一方は人非ざる異形。骸骨を思わせる頭部に白く淀んだ瞳、尖った角に黒い身体と小さく退化したような翼を持つ姿は、それを見た人間に「悪魔」という言葉を想起させる見た目をしている。

 

人間など軽く殺傷できそうな悪魔だが、何があったのか刀剣を持った男から必死に逃げている。どうやら、この場における狩る者と狩られる者の立場ははっきりしているようだ。

 

───ギィッ……!ガァッ!

 

「逃がさん!」

 

路地を抜け、工業地帯に入った両者。悪魔はパイプを破壊して迫る男に向けて飛散させるが、男は飛んでくるパイプや破片の軌道を全て読み切っているかのように悉くを回避してみせる。一際大きなパイプを引きちぎって投げ付ける悪魔だったが、それすらも抜き放った剣に両断され意味を成さずに終わった。

 

───シャウアッ!

 

「往生際の悪い……」

 

[流牙!]

 

斬撃を行った事で、僅かに追跡スピードの緩んだ男を見て再び逃走に移る悪魔。男もまた追いかけようと走り出すが、男を流牙と呼び、話し掛ける声があった。その声の主は、なんと男が左手の中指に嵌めている髑髏の指輪だった。

 

「何だ、ザルバ!」

[あのホラー、力を溜めているぞ。何か仕掛けてくるつもりかもしれん]

 

ザルバと呼ばれた指輪は、流牙が追い掛けている悪魔───ホラーが何らかの能力を行使しようとしていると警告を飛ばしたかったようだ。それを聞いた流牙は、警戒度を更に引き上げつつ追跡を再開。どちらにせよこのまま逃がす訳にもいかない為、その隠し球ごと叩き斬るつもりのようだ。

 

プレハブ小屋を飛び越え、工場の屋根に辿り着いたホラー。流牙が追ってきている事を確認し、そのまま反対側へと逃げようとしている。流牙もまた人間離れした身体能力を存分に発揮し、そこらのトレーサーを軽く凌駕する身体捌きでもってホラーに追い付いてみせる。そしてホラーが建物の向こうに消えようとした瞬間、流牙は自身のジョーカーを切った。

 

「ふっ……ハァァァァッ!」

 

ホラーを追って工場の屋根から飛び降りたのと同時に剣で円を描いた流牙。一瞬、周囲を金色の光が照らし、裂帛の一閃を繰り出しながら着地。剣を振り下ろし終わった所で流牙の全身から輝きが失われ、元の黒コート姿に戻った流牙。その顔に勝利の喜びは無く、苦虫を噛み潰したような渋面をしていた。

 

「手応えが無い……逃がしたか……」

[どうやら逃げる為に力を蓄えていたらしいな]

 

ホラーどころか自分とザルバ以外の気配が無い事を確め、鞘に剣を収める。人的被害こそ無いものの、ホラーは取り逃がしてしまったようだ。

 

「あのホラーを追うぞ」

[どうするつもりだ?俺様でも気配が掴めんぞ?]

「ぬぅ……」

 

「お教えしましょうか?」

 

背後から掛けられる声。流牙もザルバも気付けなかった事に驚きながらも、納刀したばかりの剣を即座に抜けるように手を掛けつつ声の主と間合いを取る。

 

「そう警戒しないでください。私は敵ではありませんゆえ」

「そんな見てくれで言われてもな」

[ん?コイツは……]

 

立っていたのはホラーとはまた異なる異形。表情を読ませない仮面を張り付け、流牙のコートに似た漆黒と血のような赤が混じったマントで全身を隠した痩躯の怪人。別のホラーかと直ぐにでも抜刀する勢いの流牙だが、ザルバはこの怪人を知っているようだ。

 

「お久しぶりですねぇ、ザルバ。こちらでも相変わらず魔導輪ですか」

[……流牙、気を付けろ。コイツの名はエグルスフム、誰もその正体を知らない古代のホラーだ]

「何だと……?」

 

ザルバの警告に対して仰々しく礼をするエグルスフム。ご紹介に預かりました、と改めて自ら名乗る。

 

「ここではザルバの言う通りホラーとして存在しております」

「まるで他ではホラーじゃないというような言い方だな」

「えぇ、勿論」

[こうやって他者を煙に巻く。人を襲った事は無いらしいが、信用できたものじゃない]

 

胡散臭いエグルスフムを信用ならない存在として認定する流牙。そもそもザルバが知っていて、尚且つ自らホラーを名乗る存在を信用などできないのは当然なのだが。

 

「それよりも、先のホラーを追いたいのでしょう?ライマズ、と言えばその厄介さが伝わりますでしょうか」

[ライマズだと?……確かに厄介ではあるな]

「知っているのかザルバ」

[陰我を溜め込み、その陰我を使って別の陰我に飛ぶホラーだ。燃費はすこぶる悪いが、それゆえに貪食というタチの悪い奴だ]

 

エグルスフムが告げたホラーの正体。ライマズの名に反応したザルバが流牙に能力を伝え、取り逃がした理由を理解する。流牙の切り札を躱したのは、その陰我から陰我に飛ぶ能力だったようだ。

 

「なら別の場所に───」

「今回ばかりは魔戒騎士でも追えないと思いますが。何せ別の世界に飛んだようですので」

「なに?」

[別の世界だと?]

 

「えぇ、何の因果か、ここではない別の世界へと逃げ込んでしまったようで。あなた方だけでは到底追えないかと」

 

溜め込んでいた陰我が多く強かったのか、はたまた本当にただの偶然か。ライマズは数多く枝分かれした別世界へと飛び、意図したのか意図せずかは不明ながらも魔戒騎士の追跡を振り切ったらしい。エグルスフムの言葉を鵜呑みにする訳ではないが、陰我へと跳躍するライマズの能力自体はザルバが真実と知っている為、ある程度は信じるしかない流牙。となれば、次の問題はどうやって別世界へ飛ぶかなのだが───

 

「私がお手伝いいたしましょう」

「……信用しろと?」

「信用してもしなくても構いませんが、ライマズの飛んだ世界は魔戒騎士が存在しない世界。いわばその世界にとって原初のホラー。知識もノウハウもソウルメタルも無い、明日を生きるだけに必死な人間が、果たしてライマズに対抗できるかどうか」

「魔戒騎士が存在しない世界……」

 

「今までは傷付けられては陰我を消費して飛び、を繰り返していたようですが。魔戒騎士という唯一の天敵に脅かされる事なく伸び伸びと魂を喰らい続ければ……やがて、かつてのラダンのような厄災のホラーへと」

「っ!」

 

ラダンの名を聞き、動揺する流牙。何故そこまで詳細にライマズや飛んだ先の世界について知っているのか、不審な点は多々あるが、自分が討ち漏らしたホラーが魔戒騎士の存在しない世界を蹂躙するなど許容できるはずもない。しかも、ラダンとまではいかなくとも、魂を喰らい続け強大なホラーになる可能性は非常に高い。疑念は拭いきれないが、ライマズを追うにはエグルスフムの手を借りるのが最も手っ取り早い手段だ。

 

「良いだろう、今回はお前の口車に乗ってやる」

「ありがとうございます。あぁそれと、鎧の召喚は向こうでも可能なように繋げますのでご安心を」

「っ……!?」

 

「それでは、行ってらっしゃいませ。健闘を祈っております」

 

流牙が僅かな浮遊感を感じた瞬間、灰色のオーロラのような物に包まれていた。そして数秒と経たない内に、流牙とザルバの姿は消えていたのであった。

 

「団長さぁ……」

「おや、チズですか。こちらの世界のマッピングにでも?」

「そんなとこ」

 

別のオーロラから現れ、溜め息混じりにエグルスフムに絡んできたのは一人の少女。メモ帳とスケッチブックというアナログな道具と、デジタルデバイスであるタブレット端末という二種を収納した改造ジャケットが目を引く姿。もう一つ特徴を挙げるなら、先のホラーとは真逆に天使のイメージを抱かせるヘイローが頭上にある事だろうか。

 

「良いの?全部知ってるんでしょ?嘘つかれたって知ったらあの人激オコじゃない?それに世界への干渉はしないってウチらのルールも微妙に破ってない?」

「嘘はついていませんよ。全てを伝えずとも、かの黄金騎士ならば討ち果たしてくれるでしょうし。干渉ルールもご心配なく、運命に定められた敵を討ち果たす為に偶然世界を跨いでしまっただけ、ですからねぇ……フッフフ……」

 

屁理屈じゃんと呆れるチズに対して、隠すつもりなど一切無く楽しげに言葉を続けるエグルスフム。

 

「あの世界は破壊者の来訪から次元の壁が薄く脆くなってしまっていますからねぇ。私が飛ばさずとも、そういった能力を持つ者なら割と簡単に入り込めてしまうのですよ。放浪者しかり、侵略者しかりね」

「ふーん」

「それに、あの世界は既に一度、独力で異世界へと渡る術を確立した事もありますからねぇ……それが決定打となり、世界を隔てる壁が崩れやすくなったのでしょう」

「あー、アグレッサーだっけ?それが風穴空けて、かんむす……とかいうのが怪物と戦ってる世界に繋がったんだっけ。旅団には居ないんだよね、そのかんむすもしんかいせーかんもどっちも。一回見に行きたいなー、そろそろ海図にもチャレンジしてみたいし」

「おや、チズは会った事がありませんか。旅団の深海棲艦に」

「えっ」

 

興が乗ってきたチズとそれを興味深そうに眺めるエグルスフムをよそに、この世界の夜は明け始めていた。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「この辺り……ったく、本当に面倒な事してくれるよ。ノバシェードの連中は」

 

2021年9月27日。

復興の進む北欧某国の小都市オーファンズヘブン。以前───どころか、つい11日前にこの場所を後にしたはずの忠義・ウェルフリットが、何故かオーファンズヘブンに舞い戻ってきていた。その理由は至極単純。自分と他の一部メンバーが追っている、強奪されたジャスティアドライバーを所持したノバシェード構成員がこの付近に潜伏したという情報を得たからだ。

 

「あんだけカッコつけてサヨナラしたってのに、戻ってきてる所を見られたら絶対にからかわれる……会いたくねぇ……」

「誰に会いたくないって?」

「うぉあぁ!?」

 

何かブチギレてたしなぁ、とオーファンズヘブン解放戦線の主要メンバーとの別れを思い返してげんなりしていた忠義。そんな彼の背後から声を掛けたのは、焦げ茶とオレンジの混じった長髪とネコ科を思わせる鋭い目が特徴の少女。名を川上ティエナという。

 

「おまっ、解放戦線の……」

「ティエナだよ、カワカミティエナ。こうやって落ち着いたとこで話すのは初めてだね」

「まぁな」

「で?出戻りライダーさんは何しに?」

「こうなるから会いたくねぇって言ったんだ!」

 

天を仰いで叫ぶ忠義と、イタズラ成功とネコのような目を細めて笑うティエナ。羞恥心に苛まれながらも、ティエナの笑顔を見て普通に笑えるようになったんだなと満更でもない忠義。道化を演じて場を茶化すのにも慣れている。

 

「仕事だよ仕事。お前こそ、こんな所に何の用だ?街の復興は良いのか?」

「私は休憩中だよ。瓦礫やら資材運びやらも良いけど、やっぱ自分で組んだメニューが一番良いからね」

「聞き間違いか?休憩中にトレーニングしてるって意味に聞こえたんだが?」

「その通りだけど」

「あー……完全に思い出した……解放戦線の筋肉女か……」

「えっへへぇ~、まぁ?それほどでも?」

「褒めてねぇ」

 

照れるじゃないさぁと頬を掻くティエナを見て感慨深さが一瞬で消し飛ぶ忠義。そういやと更に思い出してみると、解放戦線メンバーや避難民すら悪感情を向けていた中で、ティエナだけが余所者仮面ライダーである忠義達への警戒心が薄かったように見えた。信用信頼ではなく、単純に興味が無かっただけでは?と平時のティエナを見て疑念を強める。仲間を傷付けるなら容赦はしないが、ティエナ的には「気になる筋肉が居なかった」だとか、「ライダーアーマーに隠れていて筋肉が見えないからどうでも良い」だとかなのだろうか。

 

「……まぁ、いいや。一応聞いておくが、ここ最近で変わった事とかあるか?」

「変わった事?……いや、特には」

「そうか……何かあったら直ぐに言えよ」

 

リーダー格四人には黙っておいてやるよ、等と二言三言じゃれあってから別れる忠義とティエナ。かつて弓と拳銃を握っていた彼女の両手に一瞬だけ視線を送り、おどけて言った過去の自分の言葉を現実にするため歩き出す。

 

銃もベルトも、本当に必要が無くなる世界のために。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「ハァッ!ハァッ!クッ……ソォッ!」

 

一人の男が、何かから逃げるように走っていた。実際に何かから逃げているのだが。

 

「メチャクチャしやがって!どこのどいつだッ!イカレ女か!?それともエセシスターか!怪盗野郎か!」

 

既に自分以外は全滅させられている。男も左手を切り裂かれたらしく、右手で傷口を抑えながら必死に走り続けている。彼の仲間は皆、高く吹き飛ばされて落ち地面の赤い染みになったり、男よりも酷く切り刻まれたり、左胸を一撃で貫かれたりと無惨な死を遂げていた。そんな惨いやり方をするのは、少なくともニュージェネレーションライダー達ではない。悪魔の力を身に宿したジャスティアライダー、その中でも特に容赦の無い三人かと情報を記憶の底から引き摺り出す男だが、今回に限ってはその三人でもないのだ。

 

「クソッ!やってやる!やってやるよ畜生が!」

 

逃げ切るのは不可能と判断し、追跡者が迫っているであろう背後を向く。右手で保持していたデバイス───ノバシェードに奪われたはずのジャスティアドライバーを自らの腰に当て、変身待機状態へと移行する。男はノバシェードの構成員であり、更にはドライバーに適合しているらしい。それをもってして仲間の仇を迎え撃とうとしているが、追跡者は真正面からは来なかった。

 

───グルルァッ!!!

 

「なっ!?」

 

男の真上から現れ襲い掛かる黒い影。改造人間といっても、感覚器官が優れている訳でもなく怪人態への変身能力を持っている訳でもない、一般人よりは強い程度の男が、正真正銘の怪物が行う奇襲に即応などできるはずもなく。簡単に男を組み伏せ、僅かな光源でも互いの顔がハッキリ見える距離にまで近付く怪物。男の顔が恐怖に引き攣るのを認識し、怪物が笑った。

 

次の瞬間には、男の意識は闇に溶かされていた。誰に認められる事もなく惰性で生き、改造されてなお使い走りの雑兵、ようやくジャスティアドライバーという転機が訪れた所に異形の怪物。何一つ良い事などなく、男の命が消されていく。誰に届く事の無い断末魔が、夜の空に吸い込まれていった。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「っ……ここは?」

[どうやら無事に着いたようだな]

 

2021年9月28日、オーファンズヘブン都市部の路地裏。崩れた屋上からほんの僅かにだけ差し込む日の光。それらから朝と思われる時間帯に、流牙とザルバは現れた。彼らを飛ばした灰色のオーロラは既に消えている。

 

「別の世界、なのか」

[そのようだ。この世界もまた陰我に満ちているが、流れている気配が違う]

「気配?」

[ホラーによる穢れを知らない、とでも言うべきか。陰我による淀みはあるが、それを更に悪化させる要因の存在を感じない]

「魔戒騎士もホラーも存在しない、というのは本当らしいな」

 

何はともあれ動くかと路地裏から出る流牙。念のため、コート裏に鞘ごと仕込んである魔戒剣を確めてから大通りへと出る。人と魔の争いどころか、酔っぱらいの喧嘩ですら珍しい平和ボケした世界である可能性も考慮し、凶器である剣が見えていないかも確認してから陽光の下へと出た。

 

「これは……」

 

流牙が目にしたのは、整理されてなお通行の邪魔をする瓦礫の山。次いで辺りを見回してみれば、建造物は所々が崩れており、忙しなく動き回っている人々もどこか活気が無い。路地裏から見えた屋上の崩れた建物もその一部だったのだろう。

 

「まるで戦の後だな。人間同士の戦争はある、という事か」

 

惨状と呼ぶに相応しい戦禍の傷痕。それを拡げさせない為にも自分は来たのだと歩き出そうとした矢先、足下に小さな影が過る。

 

「あっ、わわっ」

「おっと」

 

前が見えていなかったのか、危うく流牙にぶつかりかけたのは一人の少女。作業の手伝いをしていたらしく、木箱を抱えている。流牙を避けた弾みでふらつき、木箱を取り落としてしまう少女だったが、地面に落ちる前にキャッチしたのも流牙だった。魔戒騎士の身体能力と動体視力は伊達ではないようだ。

 

「ほら」

「あ、ありがとう。黒いお兄ちゃん」

 

転びかけた少女もしっかり支え、木箱を返す流牙。少女の頭に手を置き優しく撫でてから道を譲り、反対側へと歩き出す。少女を探しに来たであろう、膝上まで伸びた黒と赤の長髪と赤い瞳の持ち主───レオナが現れ、何かあったかと少女に尋ねた。

 

「あのお兄ちゃんが手伝ってくれたの!」

 

そう嬉しそうに答える少女。レオナの目には、親切な黒いコートの男の背中が映っていた。無邪気にはしゃぐ少女に対し、レオナは男の背中に修羅を見ていた。かつて心を通わせた、流牙とは正反対の白いコートを着た一人の男と同じ。或いはそれ以上の業と血を被った修羅の背を。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

[流牙]

「あぁ、分かっている。奴だ」

 

「ドライバーの反応?へっ、売られた喧嘩は言い値で買ってやるよ!」

 

ザルバがホラーの気配を察知し、流牙もまたそれを捉えていた。同時に、忠義のデバイスにジャスティアドライバーの反応が表示される。

 

夕暮れが訪れ、やがて魔が踊る時間が来た。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

オーファンズヘブンの中心部から離れた、戦禍の傷痕が色濃く残る廃棄区画。今は、瓦礫やスクラップの集積所としても使われている場へ足を踏み入れた流牙。彼の追う敵は、姿を隠す必要も無いとばかりに土砂と瓦礫の山の上に立っていた。

 

「ライマズ……次は無い、此処で斬る!」

 

───しつこい騎士だ。オレの食事を……邪魔するなァッ!

 

鋭利な爪を振りかぶり襲い掛かるライマズ。雲の切れ目から差した月光と簡易照明がライマズの姿を照らし、その姿を見た流牙は驚愕に目を見開いた。

 

「鎧だと!」

 

───グゥアッ!!

 

流牙が元の世界で追っていた際には、素体とも呼ばれる黒いガーゴイルのような姿をしていたはずのライマズ。だが今は流牙の発した通り、全身を隙間無く覆う鎧を身に纏っていた。抜刀した魔戒剣でライマズの爪を受け止め、蹴りを入れて距離を空けさせ剣をカチ上げる。魂を喰らい、己を強化したとしても関係は無い。体勢を崩したライマズを一刀の元に斬り伏せた───

 

「何っ!?」

 

はずだった。

肩口から袈裟斬りにする完璧な太刀筋。だが、入口となる首もとに刃を入れた時点で弾かれたのだ。魔戒剣を弾かれた事で、今度は逆に体勢を崩された流牙。ライマズが不恰好ながらも蹴りを繰り出し、吹き飛ばされてしまう。

 

「くっ……どういう事だ……!」

[流牙!あの鎧、何かがおかしい!]

 

───フハハハハッ!良い、良いぞこの鎧!あの人間を喰った時に身に付けていたオモチャ程度に思っていたが、これは良い拾い物をした!

 

幸い致命傷には程遠く、素早く立ち直る流牙。試してみなければ策も何も無いと、一気にライマズとの距離を詰めていく。

 

「ふっ!」

 

───無駄だ!

 

二度、三度と太刀筋を変えて魔戒剣を振るう流牙だったが、その結果はどれも同じ。ライマズ本体どころか、その漆黒の鎧に傷一つ付ける事なく全て弾かれてしまう。

 

「駄目か」

[……まさかとは思ったが。流牙]

「ザルバ?」

[あの鎧、恐らくソウルメタルを拒絶する力を持っている]

「何だと?」

 

ソウルメタル。流牙をはじめとした魔戒騎士達が持つ武器、魔戒剣に使われている魔界の金属。これで拵えられた武具だけが唯一、魔獣ホラーに物理的なダメージを与える事ができ、ホラーの陰我を祓い封印する力を持つ。だがライマズが纏っている鎧は、どういう事かそのソウルメタルを拒絶し弾く能力を持っていると言う。そしてライマズはその鎧を隙間無く纏っている。

 

つまり、流牙には打つ手が無い。

 

「なら、どうにかして鎧を剥がす。これ以上奴を逃がす訳にはいかない!」

 

絶望の中にあっても闘志は衰えない。魔戒剣を構え直し、ライマズを正面に見据える。

 

「っ!」

 

 

◆◇◆

 

 

「穏やかじゃねぇな……」

 

流牙とライマズが戦闘を始めたのと同時刻。彼らの戦場となっている場所のちょうど反対に位置する区画にて。マシンGチェイサーに乗った忠義が、進行方向を塞ぐ影と対峙していた。

 

───グルルルルッ……!

 

「ノバシェードの実験体か何かか?ドライバーの反応はもう少し先だってのに……」

 

───ゴアァァァァッ!!!

 

「やるしかねぇか!」

 

裾が大きく広がった独特な形状の脚部。笠のような頭部装甲と、生物のように脈打つグロテスクな銃火器が特徴の怪人が忠義に迫る。後部マウントからエンジンブレードを引き抜きつつ、怪人の飛び掛かりを避けGチェイサーから降りる。転がった先で姿勢を整え、装着済みのジャスティアドライバーを叩き起こした。

 

「変し───」

 

───キィャァァァァ!

 

ドライバー上部の起動スイッチを押し込み、量子格納されていたオルバスのアーマーが今まさに展開されようとした瞬間。怪人が悲鳴のような甲高い叫びを発し、同時に忠義のドライバーが火花を散らせた。

 

「なっ!?」

 

変身シークエンスが強制的に中断させられ、ジャスティアドライバーから粒子が噴出し怪人に吸われていく。変身に失敗し、動きが止まってしまう忠義。その隙を逃さず怪人が銃火器を乱射する。

 

「クソッ!」

 

エンジンブレードを最低限の防御としつつ瓦礫の陰に身を隠す。能力の使用や状況判断は本能的に行っているのか、銃撃の精度はさほど高くないのが幸いし、無傷でカバーに入る事ができた。

 

「どうなってる……!どうして変身が!」

 

『原理は不明ですが』

 

「あぁ?」

 

突如として忠義の耳に届く声。通信機を介して忠義に回線を開いたのは、光の助手であり全ジャスティアの性能を把握しているテストパイロットでもある縁。

 

『あの怪人は、ドライバーの量子格納を展開するエネルギーを吸収できるようです』

「急に電話掛けてきて何で把握してんだ!?」

『ジャスティアドライバーの緊急停止を確認したので。ノバシェードがブラックボックスの解析に成功したとすれば一大事ですから』

「購入後のメンテ保証が手厚くて感動だよ!」

 

精一杯の冗談を飛ばし、限界寸前だった瓦礫を飛び出す忠義。弾切れや銃身の焼き付き等の兆候が一向に見えない生体銃に痺れを切らし、高くない命中精度に賭けて一息に距離を詰める。変身できなくとも、エンジンブレードの切れ味なら問題は無いと斬り掛かっていく。

 

───グゥアッ!

 

「んな大振りの攻撃なんざ!」

 

射撃姿勢そのままに生体銃を振って迎撃するつもりの怪人。そんな見え見えの攻撃に当たってやる義理は無いと、軽く銃と腕をすり抜けエンジンブレードの間合いに踏み込む。勢いをつけた斜め下からの一閃は、怪人の右腕装甲を容易く切り裂いた───だけに終わった。

 

「なんっ───」

 

───ガァァァァァッ!

 

装甲こそ簡単に斬ったものの、肝心の本体には傷を付けられていない。せいぜい刃が食い込んだ程度だ。忠義を振り払うように暴れ出した怪人の勢いに負け、再び生体銃の距離にまで押し出されてしまう。

 

「何なんだよアイツは!」

『あの装甲形状……まさか……』

「何だ!何か知ってんなら、っぶねぇ!?」

 

如何に杜撰な狙いとはいえ、一発でも直撃したら危険な弾丸。それを絶え間なく発射し続ける怪人に悪態をつきながら、先程までの遮蔽物とは別のカバーに飛び込む忠義と何かに気付いた様子の縁。手元で調べていたのか、確証に変わった推測を忠義へと伝える。

 

『一年前、アレの同型と戦っているはずですよ』

「一年前!?同型……って……」

 

脳裏を過るのは2020年7月、孤島での出来事。狂気と野望に取り憑かれた男が、その野望の体現として、切り札として繰り出してきた鋼鉄の悪魔。

 

「スパルタンだってのか!アレが!」

『何らかの生体融合を行っているようですが、各部の装甲や電装系の酷似に加えてエネルギー循環の経路もほぼ同一です。スパルタンないし、それに近しいロットで製造されたアーマーシステムなのは間違いないでしょう』

 

忠義の電子装備とドライバーを通して分析を行っていたらしい縁が断言する。アレクサンダー・アイアンザックが用いていたスパルタンと同じ、或いはその系列機であると。

 

「ぐっ……くぅっ……!それで!?ヘイ!エン!この状況打開できる!?」

『それだけ無駄口を叩けるなら大丈夫でしょう』

「真面目にどうすりゃ良い!」

『はぁ……腰部の生体部品、恐らくアレがエネルギータンク相当の部位と思われます。そこを破損させれば弱体化、ないし奪われたエネルギーの回収が可能かと』

「あの背中側の膨らみか!了解、だッ!」

 

どこからともなく新たにバズーカのような物を取り出す、というよりも体組織を変異・組み換えて形成する怪人。左腕が丸ごとバズーカ砲になったのを見て遮蔽物から飛び出す。不気味な生体砲弾によってカバーポイントが砕かれ、再びアサルトライフルの弾丸が忠義を襲う。だが、これで両手が接近戦を不得手とする射撃武装で埋まった。畳み掛けるなら今だと意を決して直線で突っ込んでいく。

 

「っ……!オォラァッ!」

 

───グゥゥッ!

 

乱射された内の数発が肩を掠めたが、その程度で怯む忠義ではない。左斜め下からエンジンブレードを振り上げて生体銃を弾き、その勢いのまま回転。かつてエグルスフムが見せた「背後に抜けて叩き斬る」斬撃の模倣を繰り出し、後腰のエネルギータンクを狙う。

 

「貰っ───」

 

直撃コースのはずだった。だが、怪人が突如として浮いたのだ。更には滑るように体勢を変えてエンジンブレードを回避、忠義の渾身の一撃は空振りに終わってしまった。

 

「っ、とぉ!ホバークラフトだぁ?豪勢な装備してんじゃねぇかよ!」

 

特徴的な脚部が展開しているのが見えた。生体部品として稼働させているホバーユニットによって忠義の攻撃を強引に回避したのだろう。しかも動力にかなりの余裕があるのか、着地する事なく忠義との距離を離し続け、引き撃ちの姿勢を見せる。またも一方的な展開に陥る忠義だったが、怪人の攻撃パターンはそう多くないと判明し活路を見出だしつつあった。

 

「だいぶ読めてきた……!覚悟しろよ!」

 

そして、忠義が狙ってやっている事ではないが、怪人が距離を取ろうと後退していく先こそ騎士と魔獣が戦う月下の舞台なのだ。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「ハァッ!」

 

「待ちやがれ!」

 

流牙がライマズを押し返したのと、忠義が怪人との距離を詰めようと走り込んできたのは同時だった。

 

[流牙!別のホラーだ!]

「何だと?ライマズ以外のホラーが何故」

 

『ジャスティアの反応?奥の怪人からです』

「何だって?アイツが本来のターゲットか」

 

邂逅する異界の騎士達。

互いを視界に収めたのは一瞬、直ぐに各々の相手が牙を剥き、それぞれの戦いに引き戻されてしまう。

 

(魔戒騎士ではない……何者だ?)

 

(ニュージェネでもジャスティアでもないライダー?誰だあの男は?)

 

流牙とザルバによってホラーと判断された怪人。忠義が本体にダメージを与えられないのはこれが原因なのだが、忠義は当然のこと縁すらもホラーの存在と特性を知らない為に決め手に欠けている。ライマズと別のホラーの特異性に翻弄されながらも、互いを意識の内に置き続けている両者。ようやく近接戦の間合いに詰め寄る事ができた忠義が、ホラーの胸にエンジンブレードを押し当てたのを見て流牙も動いた。

 

「そら、よっ!」

「フッ!」

 

ホバーにかまけて地に脚を着けていなかったのが災いし、咄嗟の踏ん張りが利かず押し込まれるホラー。そこに合わせて流牙もライマズに強烈な二連蹴りを繰り出す。

 

「ふん……!」

「そいつに剣は効かな───」

 

背中合わせの状態で激突したライマズとホラー。忠義が相手をしていたホラーの右腕装甲に、斬撃痕が残っている事を見逃さなかった流牙。どのみちホラーは討滅する積もりの為、そちらに向けて魔戒剣を振り上げる。エンジンブレードが通らなかった事を伝えようとする忠義だったが、先の忠義とは異なり、流牙の魔戒剣はホラーの右腕を中程から切り落としてみせたのだ。

 

───ギャァァァァッ!?

 

「内側からならば!」

「は?まっ、待て!どういう事だ!?」

 

───貴様らぁぁぁぁッ!!!

 

「くっ!」

「うぉあっ!?」

 

魔戒騎士ではない忠義が手こずっていた事から、ある程度は状況を読んでいた流牙。鎧の内側にはソウルメタルを弾く力が備わっていないらしく、ライマズにも致命傷を与えられる光明が見えた所でそのライマズが動く。激昂の雄叫びと共に、物理的な効力を発揮するプレッシャーを放ち二人を吹き飛ばしてみせた。更に立ち直ったホラーが左腕のバズーカから生体砲弾を放ち、二人の姿が煙に包まれ見えなくなる。

 

「お前、あの鎧を斬れるのか?」

「あ、あぁ。そっちは中身を斬れるみたいだな」

 

あわや全滅と思われたが、爆煙に紛れて瓦礫の陰に退避していたようだ。捕捉される前に情報共有を済ませようという魂胆だ。

 

「互いの協力が必須なようだ」

「だな!俺は忠義・ウェルフリット!そっちは?」

 

「道外流牙、魔戒騎士だ」

「まかいきし……?」

[来るぞ流牙!]

 

指輪が喋った事に驚く忠義。次の瞬間、ザルバの警告通り頭上からライマズが降ってきた。爪による刺突を転がって回避し、流牙が反撃の一閃を放つ。

 

───学ばないなぁ!人間!

 

「忠義!」

「おうさ!」

 

当然のように魔戒剣は弾かれるが、意識を忠義から反らすのが目的だった流牙は弾かれる方向まで計算に入れており、立て直しは容易だった。そして忠義は回避の後隙を消してくれた流牙に応えるように、エンジンブレードを振りかぶっていた。

 

───バカな!?

 

「流牙!」

「デェヤァ!」

 

忠義によって右脇腹の装甲を抉られたライマズ。立て続けに流牙が迫り、悪あがきに振り回した爪もスライディングで避けられ、低い姿勢のまま脇腹を切り裂かれる。ライマズに対して、初めて流牙の魔戒剣が通った瞬間だった。

 

───グオォォォ!?

 

「流牙!次はあっち手伝ってくれ!腰のタンクだ!それさえ壊しゃあ、変身できるかもしれねぇ!」

「分かった!」

[変身……?]

 

深く脇腹を斬られて動きを止めるライマズを一旦放置し、今度はホラースパルタンへと向かう忠義と流牙。斬り落とされた右手は再生し、生体銃を拾い直して構えていたホラースパルタンだが、スパルタンの装甲までは再生していない。アサルトライフルとバズーカによる弾幕を張るものの、完全に弾道を見切った二人には何の脅威にもならなかった。

 

そしてこの土壇場で予想外の援軍も現れる。

 

───グヴッ!

 

「出戻り!」

 

ホラースパルタンの後頭部を狙った矢が飛来し、狙い違わず見事に命中。忠義を出戻りと呼ぶ女性の声。そう、ティエナがコンポジットボウを手に駆け付けたのだ。

 

「今だ!」

「だから出戻りって言うなって……言ってんだろうがぁッ!!!」

 

傷を抑えながらも立ち上がったライマズが陰我の塊を放ち、ティエナが立っていた建物を完全に崩壊させるが、既にティエナは退避済み。そしてホラースパルタンはティエナの矢に気を取られ、一瞬とはいえ二人の騎士から目を離してしまった。それが齎す結果など赤子でも理解できるだろう。

 

再び流牙がホラースパルタンの右手を叩き斬り、その衝撃で体勢が崩れた所に忠義のエンジンブレードが突き出される。ブレードは深々とエネルギータンクに刺さり、勢いのまま振り回して引きちぎる。ようやくオルバスへの変身機能を取り戻したのであった。

 

『解析完了……タンクの中身を散布してください。まだ生きているスパルタンのシステムを量子展開に巻き込んで奪います』

「こうか!」

 

タンクを突き刺したままのエンジンブレードを地面に叩き付け、ガリガリと引き摺りながら自分を中心とした円を描く。その忠義の行動にかつての戦友の姿が重なる流牙。感慨を振り切り、自らもジョーカーを切る。

 

「変身!」

「……ッ!」

 

エネルギーを取り戻し、オルバスの鎧を展開しつつ、縁のアシストによってホラースパルタンの装甲を奪い取っていく忠義。

 

忠義とは逆に頭上に魔戒剣を掲げ、円を描き、門を開く流牙。

 

「黄金の……騎士……」

 

───魔戒騎士だとでも言うのか!?

 

ティエナが輝きに目を奪われ、ライマズが驚愕する。そこに立っていたのは二人の騎士。

 

JSPR-55+11 アサルトオルバス

黄金騎士 ガロ

 

ここに光臨。

 

[その鎧]

「何だよ?ドクロリング」

[ザルバだ。あのホラーの陰我を取り込んで性質が少し変わったようだな。特にその剣、ソウルメタルに近くなったようだ。今なら流牙に頼らずとも、ホラーを斬れるぞ]

「へぇ……そりゃあ良い事を聞いたぜ」

 

最強・最高位の証である黄金騎士と、本来は居ないはずの魔戒騎士モドキ。それらの放つ圧力に完全に呑まれているライマズとホラースパルタン。ザルバの言葉を聞いた忠義は不敵な笑みを浮かべ、流牙は魔獣共に鋭い視線を向けていた。

 

『そう長くは使えません、短期決戦を』

[だそうだ]

 

「へっ、行くぜ?流牙!」

「あぁ。ライマズ、そして存在してはならぬ異界のホラーよ……貴様らの陰我、ここで断ち斬る!」

 

アサルトスパルタン譲りのホバームーブユニットを全力稼働させ、先行して斬り込む忠義。今までのオルバスとは段違いの出力に僅かな戸惑いを見せるが、直ぐに乗りこなしてエンジンブレードを振りかぶる。更に負けじと飛び出す流牙のガロ。それを見てもはや勝ち目無しと判断したライマズは、ホラースパルタンを前に押し出し逃走の姿勢。知能の低いホラースパルタンは捨て駒にされたなどとは微塵も考えず、別のスパルタンの鎧を生成していた。

 

[流牙!また陰我で跳躍する積もりだ!]

「二度目は無い!」

 

「逃げるんなら翼でも生やしとくんだったな!」

 

凶暴な牙が無造作に生えた口を持つ大盾、という不気味な装備を作り出し突撃してくるホラースパルタン。跳ね回って逃げようとするライマズを追う為、忠義が取ったアクションは───

 

(肩借りるぜ、本物の英雄……!)

 

ホラースパルタンを踏み台にしての大ジャンプ。ジャスティア、スパルタンの両システムをフル活用し、本来のカタログスペック以上の出力を見せるアサルトオルバス。遂にライマズの背をエンジンブレードの間合いに捉えた。

 

───人間風情がぁぁぁぁ!!!

 

「オォラァァァァァァァッ!!!」

 

苦し紛れに振るわれた爪をすり抜け、ライマズの腰に装着されているジャスティアドライバーにエンジンブレードを叩き付ける。

 

───ゴッ……アガァッ……!

 

そのまま地表に向けて振り下ろし、エンジンブレードを手放すと同時にドライバー上部のスイッチを押し込む。ホバーユニットを噴かして姿勢を変え、ライマズのドライバーに食い込んだままのブレードに向けて最大稼働スキルを繰り出した。

 

「こいつも……持ってけぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

叩き込まれたアサルトFIFTYΦブレイク。ブレードの分も相まり、人智を超えた魔獣であるライマズの身体を真っ二つにしかねない威力を発揮し、そのジャスティアドライバーの機能をも止めていた。

 

───ガッ……!?ヴァッ!?!!

 

ジャスティア部分の変身を解除させられつつも、まだ生きているライマズ。地を這って逃げようとするも、ここにはもう一人、それも最強の騎士が居るのだ。

 

「光を受けて闇へ還れ!」

 

飛んできた光の波動に拘束されて浮き上がるライマズ。その正面には盾を取り落としたホラースパルタンも、同じく拘束された状態で立ち尽くしていた。

 

闇を取り込み、光に変えて放つ奥義 閃光剣舞。目にも留まらぬ速度で迫る流牙と、彼の構えた牙狼剣を回避する術はライマズとホラースパルタンには残されていなかった。

 

───ギャアァァァァ……

 

ライマズの背後に斬り抜けると同時に返還されるガロの鎧。鎧が消えるのとほぼ同時にライマズとホラースパルタンが爆散し、戦いは終わった。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「助かったよ、改めて礼を言う」

「俺も助けられた。お互い様だ」

 

それぞれの鎧を解き、素顔を晒した状態で向かい合う忠義と流牙。今回の勝利は、どちらかが運命に翻弄されてこの場に居合わせなければ掴めなかった、綱渡りの勝負だった事を二人は理解している。

 

「やるもんだな、魔戒騎士ってのは」

「仮面ライダー、そちらもな」

 

そう言いつつ、忠義の腰に装着されたままのオルバスと、回収された破損状態のドライバーに目を向ける流牙。その視線は、ホラーに向けるものには遠いが厳しさと警戒感を孕んだものだった。

 

「……一つ聞かせてくれ。仮面ライダーは、お前は、何の為にその力を振るう?」

 

先程のザルバの言葉は流牙も聞いている。陰我を取り込み、特性が変質したと。裏を返せば、このジャスティアドライバーが次のホラーを生む可能性があるのだ。返答次第では魔戒剣を忠義に向ける事も厭わない流牙。それに対する忠義の返答は───

 

「ダチや家族、力の無い人々を守るためだ」

 

目を逸らす事なく、正面から流牙を見据えて言い切る忠義。

 

「仮面ライダーは、人間の自由を守る為に戦う戦士の称号だ。まぁ、俺がそれを名乗るのに相応しいかどうかは分からないけどな」

「……そうか」

 

それを聞き届け、特に何をするでもなく歩き出す流牙。その先には忠義も見覚えのある灰色のオーロラが広がっていた。別れの時が来たらしい。

 

「じゃあな!魔戒騎士!」

「あぁ、仮面ライダー」

 

ほんの少しだけ振り向く流牙の目に映ったのは、赤い片刃の剣を持つ騎士と、彼に駆け寄る弓を持った女の姿だった。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「魔戒騎士にホラー、ねぇ……ふっ、ふふっ……やはりキミは飽きさせてくれないねぇ。私の仮面ライダー?」




異聞 忠

【道外流牙/黄金騎士ガロ】(原作:牙狼シリーズ)
魔戒騎士最強の証であるガロの鎧を纏う男。
陰我から陰我へと飛ぶホラー ライマズを追う為、エグルスフムの提案に乗ってAP世界へとやってきた。
今回の話における時系列はハガネを継ぐ者 第1話の直前。元の世界に帰還した後、シャウラスを撃破しクレアシティに向かう事となる。
無論ザルバも健在。

【JSPR-55+11 アサルトオルバス】
ホラースパルタンからエネルギーを奪い返す際、オルバスアーマーの量子展開にスパルタンのパーツを巻き込む事で強化変身した現地改修形態。
ジャスティアドライバーのコアであるブラックボックスにホラーの陰我が反応した事で、微量の陰我を内包している。それによってエンジンブレードも変質し、ソウルメタル製でないにも関わらずホラーに傷を負わせる事が可能となっている。
なお、無理な合一強化が祟り戦闘終了後に大破。日本への帰国後にオーバーホールを兼ねて芦屋隷が手を加え、最終決戦に赴く事となる。
だが、亜灰 縁によってアサルトオルバスの存在は秘匿され、強化システム自体も封印が施されたようで……?

【ライマズ】
流牙の世界、ひいてはその魔界に存在するホラー。
陰我を溜め込み、それを消費して別の陰我に飛ぶという能力を持つ。ザルバ曰く「燃費が悪いがその分貪食でタチの悪い奴」。
陰我跳躍によって世界の壁を越えてしまい、魔戒騎士やホラーの存在しないAP世界へと紛れ込んでしまった。その際に、強奪されたジャスティアドライバーを持つノバシェード構成員を喰っており、「ソウルメタルを弾く」という特性を獲得したジャスティアライダーシステムNo.72 レマリウスも一緒に取り込んでいた。

【ホラースパルタン】
ライマズが現出した場所、エンデバーランド近郊に埋没していたスパルタンの破片に陰我が集まり、ライマズの陰我に当てられて自然発生した「AP世界産のホラー」。
主にアサルトスパルタンの要素を多く持っており、アサルトライフルやバズーカ等の銃火器は体細胞を変異させて作り出す。自分やライマズの装甲を破壊できる、天敵と言えるライダー対策として「変身時のエネルギーを奪い、変身不可能にする」という能力を持つ。
縁の機転でアサルトユニットを奪われた後は、31~53号機までの何れかのスパルタンユニットを生成していたようだが、ライマズ諸とも閃光剣舞で両断されてしまった。

【地塚チズ】
遍在旅団のメンバー。
キヴォトス出身、ミレニアムサイエンススクール所属の二年生。
KMS(キヴォトスマッピングサービス)を営む地図作りのプロフェッショナル。他の世界に出向いてはオリジナルのマップを作るのが現在の趣味。

【世界の壁】
この物語における解釈として、Gの激励にディケイドが現れた事で次元が揺らいだのが始まり。それだけならば自然と元に戻るはずだったが、アグレッサーによって完全に穴が空けられた事で境界線が機能しなくなり、今回のライマズや特別編のハンドレッド介入を招いた。
という形を取っている。
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