仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil   作:X2愛好家

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それは32番目の


Devil Archive
幕間 蒼血/王


わたしには何も無い。

 

産まれ落ちた瞬間から何も持っていなかった。

 

母親の顔も、父親の声も知らない。

 

この胸には穴が空いている。

 

ぽっかり空いた大きな穴。

 

わたしの全てが溢れていく大きな穴。

 

虚しくて、寂しくて。

 

誰かこの穴を塞いで、わたしを満たして。

 

何度も何度も叫んだ。

 

でも誰も手を差し伸べてはくれなかった。

 

誰も助けてくれないなら。

 

自分で埋めるしかない。

 

自らに無い物を求める事が悪だと言うなら。

 

わたしは喜んで悪魔になろう。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

2020年7月某日。

各地で暗躍するノバシェードに国や対策室が頭を悩ませていた時、その火種は投げ込まれた。

 

誰にも予想できず、誰にも制御不能な【それ】は不意に現れ消えていく。命からがら生還した者は言う、まるで天災のようだったと。だが【それ】には意思があった、人の形をしていた、そして自分達を見て笑っていたと。

 

それ以降、その男からは何も聞き出せなかった。何があったのかを聞き出そうとすると錯乱し始めるからだ。余程惨い目にあったのだろう、と対策室の人間ですら若干の同情を覚える程に。どれだけノバシェードを、或いはかつてのシェードを憎んでいたとしても、ここまで人を追い詰めるような者は各国軍にも新世代の仮面ライダー達にも居ないはず。となれば一つの仮説に行き着く事となる。

 

ノバシェードの戦力を物ともせず、対策室ですら詳細に動向を把握できていないアンノウン。いつその大鎌を人類に向けるか分からない気紛れな死神。稀代の天才科学者にして災厄を齎す狂人「一 光」が造り出した72ものイミテーション。

 

現代にて再現された悪魔達。

ジャスティアライダーではないか、と。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「ギルエードが陥落?ライダー共か?」

「どうやら違うみたいだよ?」

「なら対策室か特殊部隊か……なんにせよ、ただの人間程度に潰されるとはな」

 

北欧某国、後に厄災が訪れる事となる悲劇の地、エンデバーランドともオーファンズヘブンともまた違う街。一見平和そのものなこの街には、ただ漠然と日常を享受している一般市民は決して気付かない悪意が眠っている。地下どころか、そこかしこに建っているビルやら一軒家やらにすらその悪意が隠れている。

 

街一つを隠れ蓑として、ノバシェードの構成員達が潜伏しているのだ。その内の一つ、最も奥まった裏路地の更に奥。この街のノバシェード構成員にとって本拠地である地下施設にて、複数の人物が言葉を交わしていた。

 

「ふん……使えん連中だ」

「まぁまぁ、ここを含めた他の支部と足並み揃えようとしてたんだから。そう邪険にしないであげてよ」

「戦力の低下が痛い所か」

 

言葉を発した順に、筋骨隆々の男、白衣を纏った痩躯の研究者らしき男、腰に提げた刀剣が目を引く女。この三人が幹部クラスの構成員なのだろう。彼ら彼女らが話していたのは、つい先日壊滅させられた別の拠点について。紛い物と嫌悪する新世代ライダーですらない、改造人間以下の特殊部隊に殲滅されたらしい事に各々が反応を示している。

 

「補填は間に合うのか?」

「相当ズレ込むと思うよ。さすがに今の戦力で悪魔の巣窟を攻めるのは自殺行為だ」

「だろうな……」

 

悪魔の巣窟、そう呼ばれたのはノースカロライナの山奥に位置する研究施設。ニノマエラボとも呼称される、ジャスティアドライバーの開発・研究を行っている施設だ。この支部と件の殲滅された支部、他にも幾つかの北欧ノバシェード連合による戦力をもってニノマエラボを襲撃する計画だったらしいが、その内の一つにして中核を成すはずだった怪人開発施設が破壊されてしまい計画の修正が必要となったらしい。

 

「そろそろ時間の問題じゃない?着実に数減らされてるよ?こっち」

「分かっている!」

「上も黒死兵の一つ、さっさと寄越せばよいものを」

「その代わりがアレなのだろう、嘗めた真似をしてくれる……!」

 

圧倒的な戦闘能力を持つ黒死兵だが、全てのノバシェード支部に配備されている訳ではない。その代替品として送られてきたらしいモノに忌々しげな視線を向ける筋骨隆々の男。その視線の先に居たのは───

 

「……」

「ん……?」

 

二人の子供、片方は男でもう片方は女。どちらもボロ布を纏っており、清潔さとは無縁の扱いをされているのが見て取れる。二人の瞳には生気が無く、男の言葉と視線に反応して顔を向けたり首を傾げただけ。正に人形という言葉が当てはまる様子だ。

 

「調整は済んでるけどねぇ……如何せん実戦経験が無いから、一度は殺しの経験させたい所なんだけど」

「本当に使い物になるのか?コレは」

「ならなければ困る!せめて弾除け程度にはなってもらわねばな!」

 

「……」

「……」

 

貴重な黒死兵の代わりになるのか、そもそも戦力として数えて良いのか、疑問の残る少年少女。相変わらず幹部の男達が発する言葉に僅かな反応をしては虚ろな目を向けるしかしない。

 

筋骨隆々の男の我慢が限界に達しかけ、それを白衣の男が宥めようとした瞬間。

 

「っ!」

「うわっとぉ!?」

「爆発?上で何か起きたか」

 

地下にまで響く爆音と共に会議室が揺れる。適当に街の人間でテストする?と白衣の男が提案しようとした矢先に来たようだ。

 

実戦の機会が。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「ふんふーん♪ふふーん♪ふふっ」

 

構成員達が臨戦態勢を整える僅か数分前、カモフラージュとなっている地上の街に一人の女が現れた。上機嫌に鼻歌を奏で、軽くステップを刻みながら歩く女性。この街の人間ではない、外から来たであろう女性はその美貌を綻ばせながら歩みを進めていく。街行く他の人々は、その柔らかな笑顔と、豊かな胸、くびれた腰、締まりながらも張った臀部というワガママな肉体に目を奪われていた。男だけでなく女もまた、羨望や嫉妬、一部は男と同じように蕩けた視線を向けている。

 

情欲を煽る身体を、どこか「軍服」をイメージさせる黒と灰のミリタリーコーデで包んだ女性は、何かを思い出したようにピタリと足を止めた。大通りの真ん中で。

 

「んー、この辺りで良いですかね?」

 

誰に聞いたかも定かではない独り言を溢し、腰に提げていたスポーツタイプの水筒を手に取る。水かスポーツドリンクか、中身を喉に流し込んでいく。こくっ、と喉を鳴らす仕草すら危うい妖艶さを醸す女性に再び通行人の視線が集まっていく。

 

「ぷはぁ!……んんっ、さてと」

 

しっかりと飲み口を閉じ、水筒を腰のカラビナに戻す───のではなく何故か地面に置く女性。さすがに怪しい行動として映ったのか、警ら中と思われる警官が女性に駆け寄ってきた。

 

「あー、すいません。何をしてるんです?」

「旅行客?持ち物はちゃんと持ってもらわないと」

 

「ちょっと目印にしようと思いまして」

 

「は?目印?」

 

「はい。あ、そうだオマワリサン」

 

少し頭のイった女か、と職務質問に切り替えようとした警官二名。それに対して女性が発した言葉は、二人の肝を抜く爆弾発言だった。

 

「ノバシェードの拠点って何処にあるか分かります?」

 

「……はぁ?」

「ノバ、シェード……?拠点?」

 

「はい!拠点ごと構成員を潰しに来たんですよぉ。で、場所は分からないから、この水筒から先ぜーんぶ壊してみようかなぁって」

 

「……一緒に来てもらえるかな」

「応援送れるか」

 

何か危険な薬物でも使ってるのか、素で頭のおかしい女なのか、はたまたテロリストか。何にせよ放置は出来ない危険人物と認定された女性を連行しようとする警官。一人は一応の報告を無線に入れ、応援も要請していた。

 

が、遅すぎた。彼女を───

 

暁月レイラを止めるには。

 

「ふふっ……!」

 

「なっ!おいお前!」

 

手錠も出した警官だったが、それより早くレイラが動いていた。自らの左手、その親指を噛み千切り【自傷】したのだ。そしてその【流血】を感じ取った契約書(ドライバー)が、取引に基づき彼女と縁を結んだ悪魔を呼び覚ます。

 

「変身」

 

外的要因を検知して起動するタイプのジャスティアドライバー。認証と適合率という二つのロックをパスした32番目のデバイスは、レイラに悪魔の力を授ける。そしてその肉体にも強靭な鎧を。

 

「危ないですよ?死にたくなければ下がる事をオススメします」

 

血のように赤いラインが各部を彩るボディ、大型ガントレットで覆われた左腕、細身ながらもガッシリと上半身を支える甲冑のような脚、そして相対した者の内側を見透かし嘲笑うような狂気迸る機械仕掛けの瞳孔。

 

序列32番の大いなる王、ジャスティアタイプNo.32。適合者の中で最も危険な問題児、暁月レイラが変身する破滅の化身。

 

仮面ライダーアスモデイが目覚めてしまった。

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「こっ、コイツ!」

「お前!?何を!」

 

目の前で変身したレイラ───もといアスモデイに驚愕しつつも、ホルスターに収められていた拳銃を引き抜く警官。その銃口はアスモデイに向けられている。状況を把握できていないもう一人は、不審者の変身と同僚の凶行に右往左往だ。

 

「あぁ、貴方がそうだったんですね?ありがとうございます」

 

躊躇無く発砲する警官。至近距離という事もあり、連射された三発全てがアスモデイの頭部に直撃する。だが改造人間を筆頭に、危険な戦闘を想定して造られた装甲に通常火器の弾丸が通用する訳もなく。探していたノバシェード構成員、またはその内通者か協力者であると自分から明かしてくれた警官に感謝しつつ───

 

「っぐぅあ……!まっ、でぁ……!」

 

「まず一つ」

 

その頭を握り潰した。

悲鳴も命乞いも、文字通りその左掌の中に消えていった。これがフィクションなら、喜劇ならどれだけ良かっただろう。目の前で人間の頭が潰され、容易く弾けたのだから。だが飛び散った血液と肉片が伝えてくる、訴えかけてくる。これは現実だと。

 

「あぁっ……!あっ、うっえぁ……!うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「あら?そちらは違うんですか?まぁ一人くらい誤差ですかね、誤差」

 

つい一瞬前まで同僚だった血と肉を浴び、現状を認識した警官が逃げ出していく。それを合図として、野次馬達も次々とアスモデイから距離を取ろうと駆け出した。あっという間に阿鼻叫喚の地獄絵図が出来上がりだ。

 

「あらら……あそこまで多いと見分けるのが面倒ですねぇ……まぁ、今回は皆殺し目的じゃありませんし。良いでしょう見逃してあげましょう」

 

まるで「全て殺せ」と言われていれば、何の躊躇いも見境も無しに逃げた群衆を殺戮していたような口振り。狂気を孕んだ瞳を群衆とは逆方向に戻し、左手にべったりと付着した血肉を振って落とす。

 

「くふっ……うふふっ……!」

 

仮面に隠された素顔は、背筋の凍る蠱惑的な笑みを浮かべていた。

 

「あ、そういえば試し撃ちを頼まれていたんでした。本格的に壊す前に済ませておかないと」

 

そう言ってドライバーの中に量子格納されている二つの武装に意識を集中するレイラ。一瞬で形成され、虚空から落ちてきたそれを両手でそれぞれキャッチする。左手の大型腕で握ったのは巨大な鎚、右手の通常腕で握ったのはメカニカルな槍。

 

「それじゃあ適当に……えいやっ」

 

気の抜ける掛け声と共に投擲された右手の槍。軽いテンションからは想像もつかない勢いで飛んでいく槍は、何かしらの店だろう建造物に突き刺さった。そして一拍置いて爆発。どうやら炸薬が仕込まれていたらしい。

 

「んー……少し使い難いですねぇ……わたしとの相性が良くないだけでしょうか。キマルス辺りに持たせればそれなりに活躍できるかも?といった所ですかね」

 

とりあえずの所感を口にし、槍をメインアームとしている別のジャスティアライダーならと締め括る。次に左手で保持している機械鎚を肩に担ぎ、全速力で走り出す。ある程度走った所で跳躍し、右手も柄に添えて全力で地面に叩き付けた。

 

「おっとっとぉ!」

 

ヘッドの中程まで地面にめり込んだ所でまたしても爆発が起きる。それも、先程の槍よりも大きな爆発が。

 

「威力は凄いですけど、下手したら使用者も危険ですねこれ……要改良、と」

 

他のジャスティアと比較して装甲の厚いアスモデイだからこそ表面が煤けた程度で無傷だが、軽装甲では熱や衝撃でダメージを負いかねず、生身で使用すれば大怪我どころか最悪ダイナミック自殺すらあり得る。自分だから良いものの、と製作者のマッドサイエンティスト一 光に心の中で文句をつけるレイラ。だが、不服そうな膨れっ面は即座に薄ら笑いへと変わる。自分だからこそ任された、とポジティブな方向に思考が修正されたのだろう。

 

「見付けたぞ!アイツだ!」

「囲め!包囲して殲滅するんだ!」

 

「あら?」

 

悦に入ったレイラの耳にアスモデイが複数の声と足音を届ける。ガンハンマーの爆発は音も衝撃もかなり大きく、街の中心部で起こした事もあって至るところに響いたのだ。

 

それこそ地下の拠点にも。

 

「探す手間が省けましたねぇ。出てきた皆さんはとりあえず潰して……あー、一人は残しておかないと本拠地が分からないか……」

 

「やれぇ!」

 

レイラの独り言が終わるのを待つつもりは無いらしく、銃火器による一斉射が始まる。それが止むのと同時に身体の一部を変異させた準怪人や、ナイフや手斧等を持った前衛がアスモデイへと襲い掛かる。

 

「ぐうっ!?」

 

「向かって来るのは殺しちゃいましょうか。一人くらいは残ってくれますよね?」

 

ナイフを構えた構成員の頭を、先の警官と同じく左手で掴み持ち上げるアスモデイ。過程だけでなく結果も先と全く同じだった。

 

「うっ……」

「ひ、怯むな!数で押せば!」

 

「さぁ……楽しみましょうか!」

 

可愛らしく笑うレイラ。だがノバシェード構成員達の目に映っているのは、無機質で残酷な悪魔の仮面である。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「うーん……確かに量はありましたけど」

 

数分後。

アスモデイの周囲一帯は血の海となっていた。辺りに転がっているのは、無惨に頭が潰されているものや腕が無いもの、左胸に歪な穴が空けられているもの、中には真っ二つに裂かれているものまで様々だ。これらが無機物なら不気味な現代アートと言い訳できたかもしれない。だが此処に転がっているのは、さっきまで命だったモノ。紛れもなく人間だったはずのモノだ。

 

そしてこの惨状を作り出した張本人であるレイラは、不完全燃焼だと言わんばかりに溜め息を吐いていた。味の微妙なバイキングとでも思っているのだろうか。

 

「さて、次は───」

 

「貴様ァ……!」

 

「メインディッシュが来てくれましたね」

 

後は退屈な施設無力化だけか、と落胆していたレイラだが、新たな敵影を捉え再び高揚していた。メインディッシュと表した通り、現れたのはそこらの構成員とは明らかに格の違う二人の改造人間。一向に襲撃者を捌けないどころか、壊滅一歩手前まで追い込まれている事態にしびれを切らし、本拠地に居た幹部が出てきたようだ。白衣の男は戦闘向きではないのか不在である。

 

「紛い物風情が……!この俺が直々に叩き潰してくれるッ!」

「そこまで吠えるからには、楽しませてくれるんでしょうね?」

「ほざくな!この俺……ムン・ザンが───」

 

「アインヘッズが相手をしてやろう!」

 

そう叫ぶやいなや、大柄な男の身体を内側から破るようにして改造人間としての力が発露する。その鍛え上げられた肉体は鱗に被われ、首から上は大蛇となった。正に蛇の怪人である。

 

「ザン……?それに蛇……」

 

何の力も持たない一般人ならば震え上がってしまうような異形だが、レイラは記憶の片隅に引っ掛かっている既視感が気になり首を傾げている。どこで聞いたのかと唸っていたが、思い出せないという事は大した情報ではないのでしょう、とのんびりとした速度でアインヘッズへと頭を戻す。そんな態度が気に食わなかったのだろう、アインヘッズは怒り心頭といった様子で噛み付きを繰り出した。

 

「おっと」

 

余裕で間に合わせた左腕のガントレットで牙を受け止め、お返しの蹴りを繰り出す。

 

「グゥッ!」

「これで一発ずつですね。挨拶代わりの軽いジャブという事で」

「嘗めるな!」

「世話の焼ける……!」

 

アインヘッズに加えて、刀剣を提げた軽装の女もアスモデイを狙って動き出した。こちらは全身を羽毛で包んでおり、腕が翼に変異している事から鳥類の能力を持った改造人間と思われる。それを見たレイラは仮面の奥で目を輝かせていた。

 

「ノバシェードにしては珍しいですねぇ!二人とも全身変異ができるなんて!」

「恐れ戦け!機械の鎧を纏わなければ逃げる事しか出来ぬ人間よ!」

「我々をまとめて相手しよう等と驕った自分を呪え!」

 

アインヘッズは再び牙を剥き、鳥の女は器用に足で保持した剣を向ける。即席などではない、洗練されたコンビネーション攻撃がアスモデイを襲うが───

 

「ガァッ!」

「っ!?」

 

一瞬にして捌かれる牙と剣。更に得物を凌がれただけでなく、胸に強い痛みを感じる二人。次の瞬間には各々が後方に吹き飛ばされていた。

 

「多少はわたしを見ていたようですけど、力任せがわたしの基本だと思ったら大間違いですよ?」

 

アインヘッズは見た。粗雑な喧嘩殺法ではなく、自分達の連携と同じように洗練された「型」を。本人の言うように力押しするだけが暁月レイラではない。空手、ボクシング、システマ、果てはプロレスまで。様々な型と技を修め、それを「目の前の相手を殺す為の力」に昇華させたのがレイラなのだ。

 

「くっ……!」

「これ程、とは……!」

 

「あら?怖気付いちゃいましたか?そちらから来ないなら───」

 

「こちらから……行きますね?」

 

 

◇◆◇

 

 

『撤退だ!直ぐに戻ってこい!僕を護衛するんだ!』

 

装備させられたインカムに焦った声が届く。この目で見た光景は映像として拠点に送られている。戦闘のライブ中継を見たマスターの一人が声を荒げているようだ。残りのマスター二人が、いとも容易く蹂躙されているのを見てしまったからだろうか。

 

『早くしろぉ!ロートは二人の援護だ!少しでも時間を稼げ!』

 

ロート───同型の改造人間にも命令が飛ぶ。恐らく捨て駒になれ、と言われているのだろう。直接戦闘が得意なマスター二人が手も足も出ないのだ、今さらロートが加勢した所で結果は変わらない。ならば自分が逃げる隙くらいは作れ、と。

 

『おい!聞こえているのかロート!命令だ、戦え!……クソッ!この欠陥品が!』

 

コードネームの元になった赤い布を纏う少女型の怪人は動かない。通信は確かに届いているはずなのだが。

 

『そのスクラップは放っておけ!シュヴァル!お前はさっさと戻れ!』

 

「……了解」

 

何故、急にロートが動かなくなったのか。同型の不調原因は知りたい所だが、命令ならば仕方ない。

 

そう、仕方ないんだ。そう命令されたのだから。早く戻ってマスターを護衛しつつ、この街から離れなければならないのだから。同型を使い潰す事になっても、他のマスターを見捨てる事になっても。

 

これは命令なんだ。

仕方の無い事なんだ。

だから逃げる事は間違っていない。

 

これは、何だ?

あの仮面ライダーを見る度に沸き上がる、あの仮面ライダーから離れるごとに軽くなる、胸の内側にある重い何かは。

 

振り向いて抹殺対象である仮面ライダーを、最後に一目見る事は出来なかった。何故だ?

 

 

◆◇◆

 

 

「うふふ……!遅いですねぇ!」

 

目が離せない。

 

「綺麗な黒い羽根……カラスでしょうか?」

 

「その黒を染める赤い血……綺麗だと思いませんかぁ?ねぇ、ほら!綺麗だと思いますよねぇ!」

 

先程から聴覚にはマスターの声が届いている。でも、それが「邪魔」だと思えてきた。マスターの命令こそ唯一絶対に守るべきもの。でも───

 

「あら……右手は普通だから防御が薄い、と考えたんですねぇ?残念ですがぁ……!」

 

それすら煩わしいと思える程に、目の前の光景は美しかった。

 

美しい?そんな感性は持たされていない。

兵器に何かを愛でる感性なんて必要無い。

 

でも……

 

あぁ、でも……

 

「そういう方々の希望になる為の腕なんですよねぇ!それを砕かれてどんな気持ちですかぁ?生き残れる細い道を閉ざされて、今どんな気持ちです?」

 

仮面ライダーが右腕も大型の武装腕へと換装した。言葉の通り、右腕は防御が薄いと読んだ相手を釣る為のブラフだったのだろう。それを見たマスターの二人は、表情の読み難い爬虫類と鳥類型でも分かる程に絶望していた。

 

なんて……美しいんだろう。

 

「鳥なら鳴くのが得意ですよねぇ。さぁ、鳴いてみてください……ほらぁっ!!!」

 

左の翼と首を掴まれたマスター。ブチブチと心地よい音を響かせながら翼が本体から離れていく。インカムに届いていたマスターの声とは別種の声、悲鳴が直に私の聴覚を揺らす。

 

「うふふっ……!あはァ……!」

 

千切り取った翼をもう一人のマスターに投げ付ける。恐らくは目眩ましだ。翼と、それから滴る血も囮にして位置を変えている。跳躍した、つまりは上。警告を飛ばせば気付くだろうけど───

 

別に良いか。それより、もっと聞かせてほしい。

 

「くふっ!あははっ!アッハハハハハ!!!」

 

大きな蛇の頭を掴んで、器用に肩の上に着地して、力を込めて顎を開かせる。見事に……とはいかないけど、さっきより大きく開けるようになった顎から盛大に血が噴き出す。これが噴水という物なんだ。

 

「さぁ、貴女も幸福になりましょう?」

 

蛇の方のマスターが「終わり」、次は鳥の方のマスターの番が来た。目から涙を流して首を振っている。

 

「命が壊れる時、わたしは最高の幸福を味わえるんです。そして貴女もこれ以上苦しまなくて済むという幸福を噛み締める事が出来る!お互いに幸せですよねぇ?だぁかぁらぁ───」

 

「貴女も壊れて……命を散らして……わたしの幸福になってください!!!」

 

右腕で繰り出された渾身のストレート。それが鳥のマスターの頭に当たって鈍い音がした。

 

「……っ!」

 

あ、目があっ───

 

 

◇◆◇

 

 

「…………」

「……貴女」

 

ロート、と呼ばれていた少女の存在に気付いたレイラ。新たなお楽しみが現れたとばかりに、霧散しかけていた狂気を再び瞳に宿し少女の頭を撃ち抜かんと距離を詰める。だが、未だ付着した血も乾かぬ拳は少女の眼前でピタリと止められた。

 

「ふぅん?」

「……?」

 

そのまま拳を引き、右大型腕も量子格納して武装を一部解除、更には通常サイズに戻った右手でドライバーを操作して変身まで解除してしまう。不思議でしょうがないとレイラの目を覗く少女。レイラもまた、露になった両目で少女の瞳を覗き込んでいた。

 

「やっぱりそう、わたしと同じ目をしていますね」

「同じ?」

「えぇ、えぇ同じ目を」

 

そう言いながら膝をついてしゃがみ込み、少女と目線を合わせるレイラ。しばし見つめ合い、トンッと少女の胸に人差し指を当てる。

 

「ずっと見ていたのでしょう?何を感じました?ここにどんな感覚がありました?」

「……綺麗、だと思った。ここ……胸?は、ゾクゾク?したのが、多分」

「ふふっ……!」

 

恐らく改造人間だろうとは推測していたレイラだが、まさかここまで「似ている」とは思わなかったようだ。この少女は過去の自分だ、自らの胸に空いた穴を塞ぐ事の出来る何かを知る前の自分だ、と気付いてしまった。

 

同類であると。

 

「共に行きましょう」

「?」

「来ればもっと多くの美に会えますよ」

「!」

 

なぜ行動を共にしなければならないのか、と首を傾げていた少女だが、レイラの言葉に目を輝かせ始めた。かつてのマスターよりも、もっと美しい光景を見る事ができると。差し伸べられたレイラの手を強く握り、共に歩き出した二人。その姿は仲睦まじい姉妹のようであり、無垢な子を人の道から外さんとする悪魔のようでもあった。

 

「わたしはレイラ、暁月レイラ。貴女は?」

「ん……コードネームはロート」

「ロート、ドイツ語の赤でしたっけ?確かに綺麗な赤い目をしていますね」

 

何もかもを染め尽くしていくような【赤】に祝福され、歩みを進める二人。ロートの案内で辿り着いた本拠地を気儘に破壊し、散歩をするかのように軽い足取りで街を出る。

 

次は何処へ行きましょうか、どうやって壊してみましょうか。他者を魅了する笑みを浮かべながら、命の弄び方を愉しげに語る悪魔。その足が向く先には血の海が広がる事となる。何処までも身勝手で傲慢な【相互幸福】が振り撒かれるのだ。

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

後日、その街を訪れた事後処理を担当する対策室の人員は皆一様の反応を示す事となる。絶句し、顔をしかめ、吐き気を催す。それ程までに現場は惨たらしい状況だった。

 

一つだけ不可解な点があった。ポツンと道に置かれていた水筒だ。それ自体に不審な点は無かったが、置かれていた場所が不可解だったのだ。まるで境界線のように、その水筒から後ろには被害が無かった。地面が吸いきれなかった血もそれより後ろには流れてこなかった、飛び散った肉も骨もそれより後ろには飛ばなかった。

現場を見た捜査官は言う───

 

まるで人の世と地獄の境目だ、と。

 

 

そして頭を抱えたのは対策室とノバシェードだけではない。

 

「まったく、本当に……!誤魔化すこちらの身にもなれと何度言えば……!」

 

隠しきれない怒りを滲ませる女性の名は亜灰 縁。悪魔達の王の右腕にして、悪魔達の行動に胃を痛める悲しき中間管理職である。




幸福は人だけでなく悪魔にも定められた義務。

【暁月レイラ】(原案:Rerere 様)
一見すると優しげな柔らかい雰囲気を纏った女性。
だが、その内面は常に破壊・殺戮衝動が渦巻く人格破綻者。何かが壊れる瞬間、命が潰える瞬間に「幸福」と「快楽」を見出だす狂人。
元はノバシェード側の改造人間。満足出来る戦場を用意せず、ただの消耗品としてしか自分を見ない上官に辟易していたが、ジャスティアドライバー32番機「アスモデイ」の実戦テストで襲撃を仕掛けてきた亜灰 縁と遭遇。アスモデイに適合反応を示し、更に一 光に「必要な存在、君が欲しい」と口説かれ寝返った経緯がある。
ジャスティアライダーの中ではそれなりの古株。

【ロート】
ノバシェードが試作した改造人間の一体。
その赤い瞳とボロ布の色からロートというコードネームが与えられた。
カタログスペック的にはニュージェネレーションライダーとも互角に渡り合える戦闘能力を持つが、製造直後の為に戦闘思考用の自我が不安定。程よく戦闘経験を積める支部に送られたが、あろう事か「死と破壊の美しさ」に魅せられてしまい、レイラについていく形で離反した。
怪人としての姿は昆虫と人間を混ぜたようなもの。

【シュヴァル】
ロートと同じタイプの試作改造人間。こちらは少年型。
命名はロートと同じようなもので、瞳と布が黒い事からシュヴァルと名付けられている。
戦闘を行う事なく支部の幹部だった男を連れて撤退した。
ロートと同じく僅かな自我が安定していなかったが、レイラと戦っていた二人の幹部の無惨な姿を目撃し「恐怖」を覚えてしまった。

【ムン・ザン】
レイラが襲来した街のノバシェード支部で、最高司令官である幹部を務めていた男。三人の幹部の内の一人でもある。
大柄な体格が特徴で、肉弾戦を得意とする。改造人間でもあり、アインヘッズと呼ばれる蛇型怪人に変異する。

子孫を残していたのか、はたまた他人の空似か。

【クオニ・ノィチ】
三幹部の一人。紅一点。
カラス型の怪人体を持ち、鋭く洗練された剣術の使い手。

【ロンバイ・ゲーゴ】
三幹部の一人であり、唯一戦闘向きではない研究者。
ロートとシュヴァルの現地調整を担当しており、二人のスペックに期待していたものの、確立前の自我に一抹の不安を抱いていた。
ロートの自我確立をバグと判断し、失敗作として放棄を決定したがその判断が後に大きな間違いであったと身をもって味わう事となる。
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