仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil 作:X2愛好家
第一試験場にて、ついに始まってしまった光と襲撃者達の死闘。当初は───もとい、最も楽観的なシナリオでは一瞬で片が付くはずだった光の抹殺。だが、その希望的観測は当然の如く裏切られ、襲撃犯のリーダーである戦馬 聖ことレッドホースマンの予想通り反撃に遇う事となった。
「遅い」
それも最悪に近い形で。
「ふぅむ……?少しやり過ぎてしまったかな?まぁ噂の黒死兵相手なんだ。本気を出しても───」
───!
「構わないよねぇ?」
連携を駆使し、次々と襲い来る四体もの黒死兵。それを迎え撃つ光には、焦燥も恐怖も何もかも、負の感情の一切が感じられなかった。
最初の一体目のチャージを紙一重で躱し、回避の後隙を狙って飛び込んできた二体目の拳を同じく片手で止めてみせたのだ。びくともしないバウルの右手から、自身の右拳を外そうと力を込める二体目だったが、それよりも速くバウルの左ストレートが飛んでくる。
「おや、この程度では壊れないか。ふふっ……!そうでなくてはね!」
防御より先に滑り込んだバウルの拳が黒死兵の顔面にめり込む。互いが互いの片腕を封じた状態の、不安定な姿勢から放たれたとは思えぬ威力を発揮しながら。間違い無くノバシェード下級構成員や、生半可な改造しか施されていない怪人ならば、顔を「さっきまで命だったモノ」に変えながらその命を散らしていた一撃だ。
「…………」
それを一歩引いた場所から観察していたレッドホースマンは、改めて光に異物感を覚えていた。違い過ぎるのだ。自分の調べた「一 光という人間」の情報とは。
(ニノマエ・ヒカル……生まれながらに身体のあらゆる部位が弱く、産まれてきた事が奇跡とまで評された【人間の欠陥品】。アレの何処が人間だと……?)
二体目を殴り飛ばし、背後から迫っていた三体目の攻撃をカウンター気味に放った脚で中断させ、立て続けに迫る四体目にはラッシュを潜り抜けて肘鉄を見舞う。後ろに目でも付いているのかと問いたくなる程に鋭い感覚、砲撃にも匹敵する黒死兵の拳撃を容易く止めた外骨格の強度と本人の体幹。何よりも、常に機械式電動車椅子に乗り、生命維持装置無しには明日の朝日を拝む事すら危うく、泥臭い前線とは無縁そうな根っからの研究者然とした風体からは考えられない程に高い戦闘センス。
レッドホースマンは、戦馬は再度問う。
アレの何処が人間だと。
「っ」
「無視は寂しいね」
「そりゃ悪かったな、お楽しみ中だったからよ」
黒死兵の猛攻を捌き切り、どこから取り出したのか大型の銃器をレッドホースマンへと向けていたバウル。一瞬前まで彼が立っていた空間を、一筋の閃光が切り裂いていった。
「武器は持ち込み式のはずじゃなかったか!」
「……?まさかとは思うが、ノバシェードに於けるジャスティアの基準はオルバスなのかな?」
「だとしたら?」
「やれやれ……!」
続けてレッドホースマンを狙いながら、聞こえるようにと盛大に溜め息を吐いてみせる。
「こんな仰々しい機動外骨格を手に持って運べるドライバーに出し入れしているんだよ?武器の一つや二つ程度、追加できないとでも?」
「ならあの警察ライダーは何なのかねぇ!」
わざわざ一発毎に狙い直している事から、絶大な破壊力の代償として連射が利かない兵器と睨んだレッドホースマン。誘いの罠である可能性も考慮し、数度のフェイントを挟みながらバウルへと急接近していく。対するバウルも、自ら発した言葉を実演するように空いている左手を虚空へ翳し、新たな武器を引き抜いてみせた。近接戦闘用のブレードだ。
「量子格納機能をオミットしたデチューン仕様さ、私やここのスタッフ以外が触るのだから【一般向け】にするのは当然だろう?」
怪人の強烈な蹴りを大型銃器で防ぎ、ブレードによるカウンターを見舞うバウル。回避出来て当たり前と予定調和のようにブレードを躱し、銃器を蹴り払いながら着地したレッドホースマン。激突から仕切り直しまでほんの僅かな時間しか経過していないが、その僅かな時間の中で一般人なら幾度となく命を落としていた事だろう。
「シレっと語ってくれるねぇ……あの赤い馬の坊やは本気を出したくても出せないって事かい」
「さて、どうかな」
言葉と同じく軽い動作でもう一本のブレードを取り出すバウル。二刀流の構えを取ったバウルを見たレッドホースマンは、隠す気の無い溜め息を盛大に吐き出す。
「何本持ってやがるんだか……」
「知りたいのなら捌いて見せたまえよ。武器に狙いを絞れば、その内品切れになるかもしれない」
「減らない口だな。いつまで続くのやら」
「無論───」
「死ぬまでさ」
▽▲▽▲▽▲
「ぐおぉっ!?」
同時刻、ラボ正面ゲート及びロビー。
五体目の黒死兵との戦闘を選んだマウンス・シーバードこと仮面ライダーレリジェ。今は何の力も持たない民間人二名をラボから離脱させる為、そして目の前の五体目を光ことバウルの元へ行かせない為に奮闘しているが、戦況は芳しくなかった。
「ってぇ……やっぱ現物は違うな……!」
悪態を吐きながら再び走り出し、右腕に装着されているクロスボウによる連続射撃を行う。
「見えてる射線には入らねぇか……」
牽制の二連射は当然のこと、予測回避先に撃ち込んでおいた本命の一射も躱される。好転しない状況に文句の一つでも言いたい所だが、文句を言いたいのは戦況にのみではなかった。
「がはっ!?」
「うおっ!?危ねぇな!」
レリジェの近くに何かが飛んでくる。派手に床を砕きながら着地───もとい落下したのは、レリジェとは異なる装甲を纏った戦士。
鬣のような頭部の装飾、手首辺りから伸びる鋭利な三本のブレードクロー、各部アーマーに覆われた屈強な人工筋肉。人の形を取った獅子のような仮面ライダー。
ジャスティアNo.5 ミルバスである。
「っるせぇ!テメェがチョロチョロ動き回って気が散るんだよッ!」
「へいへい、そりゃすいませんね」
「クソッ!」
ミルバスの適合者は随分と荒れているようだが。
(素性経歴問わずで集めてるとはいえ……さすがにコイツは駄目だと思うんだがね、所長さんよ)
理不尽な文句を言われながらも、きっちり援護に動くレリジェことマウンス。そのマスクの奥では、ミルバスの適合者の登用に疑問を呈していた。現在ミルバスを使用して変身している男、軽井 浅留は所謂「半グレ」。どんなヘマをしたのか定かではないが、所属グループが検挙された際に一人逃げ出し、雲隠れしようとした所をスカウトされたらしい。
(同じ日本人でも、あっちの嬢ちゃん坊主とはえれぇ違いだな……)
自己中心的に行動する浅留と、互いに助け合いマウンスに無理はしないでほしいと気遣いを見せた二人。どちらを助けたいかと問われれば、まず間違いなく二人の方だと答えられる。
(もう少しだな。さて、こっちは───)
「ぐあぁ!離せッ!離しやがれクソマネキンがぁぁぁッ!!!」
「ったく、ちったぁ考えて動け!」
瓦礫と粉塵に隠れて歩を進め、一気に走り抜けるタイミングを計っているらしい二人。黒死兵の人間離れした力と、野戦服に収められたコンバットナイフを見て、未だキルゾーンから出られていない事を察しているのだろう。二人、特に女性の方の観察力に舌を巻くマウンスだったが、浅留の叫びに意識を戻される。この正面ゲートに現れた時と同じく首を掴まれ、宙吊りにされているのだ。
「っ!」
───……!
クロスボウによる援護を行おうとするも、その浅留を盾にするかの如く位置取りをしている黒死兵。改めて認識せざるをえない。こいつは、そこらの中途半端な改造人間とは格が違うと。
「チッ……しゃあねぇ、切らないに越した事は無かったんだがな!」
クロスボウごと右腕を降ろし、攻撃の意思を喪失したかのように見せるレリジェ。ミルバスを盾にしたままナイフを抜き、レリジェとの距離をゆっくりと詰めていく黒死兵。だが、数歩刻んだ所でレリジェが動いた。
「そらよ!」
黒死兵ではなく自らの足下にエネルギー矢を連続して撃ち込み、粉塵を巻き起こした。視界が遮られ、接近を止めた黒死兵。レリジェの次の行動を読もうとした瞬間、即席スモークの中からレリジェが飛び出してきた。
「食らいな!」
───?……!
後退するでもなく、ただ回り込もうとしているだけのレリジェ。向かって来るなら迎撃するだけ、とナイフを構える。危険度はレリジェの方が圧倒的に高いと判断しているのか、振り回されるだけのミルバスクローは全く意に介していない。
この場において最も危険なのはレリジェ───
「掛かった」
───!?
を操るマウンスなのだ。
ミルバスを盾として締め上げていた左腕。そこに二度、三度と衝撃が伝わる。レリジェが飛び出してきた粉塵は不自然に一部が払われており、そこから飛んできた何かが黒死兵の腕に着弾したようだ。
「動き回って撃つだけが!」
───!
「レリジェの戦い方じゃないんだよ!」
衝撃によってミルバスを解放してしまう黒死兵。更にその隙を逃すまいと、レリジェ自らが迫る。右手に残っていたナイフを投擲するが、レリジェは突撃の勢いを殺さないスライディングで回避してみせる。低い体勢で滑りつつ、クロスボウを黒死兵の腹へと向けるレリジェ。対する黒死兵は、それより早く踏み潰そうとストンプの構え。
「頭が───」
「お留守だ!」
その言葉通り、黒死兵の頭にエネルギー矢が直撃した。思い切り体勢を崩され、本体から放たれた腹部への射撃で大きく仰け反る黒死兵。
何故、本体とは別方向からエネルギー矢が飛来したのか。それはレリジェの機能の一つに、エネルギーの停滞が存在しているからである。短時間ならば射出したエネルギー矢をその場に留める事が可能であり、その機能を利用し粉塵の中に隠しての射撃と、本体で注意を引いての偏差攻撃を行ったのだ。
「どうよ。今のは効いたろ?」
───……!
「チッ……タフだな。おいチンピラ、連携で仕掛けるぞ」
いわゆる必殺技に該当する最大稼働スキルではなく、あくまでノーマル・パッシブスキルでの連続攻撃だった為か、傷を負いながらも倒れない黒死兵。だが、倒せない相手ではないと判断したマウンスは、ミルバスこと浅留に声を掛けコンビネーションアタックを提案する。しっかりと指示を出して動けば、多少のゴリ押しでも通せるだろうと考えたのだ。
「……?おい、何して───」
「きゃあっ!?」
「なっ、にを!」
「るせぇ!さっさと壁になれクソ女!」
マウンスは一つだけ計算を間違えていた。軽井 浅留という男は、いざ追い込まれれば仲間ですらも防壁にして逃げ出すような人間性の持ち主なのだ。ほぼ面識の無い、戦う力を持たない女子供なら尚更容赦無く自分の為に死ねと蹴飛ばすような。解放されたのを良い事に、仲間を見捨て、密かに敵に背を向けるような。
そんなクズなのだ。
「あの野郎───」
───!!!
「っ!」
そしてマウンスはもう一つミスを犯した。一瞬、ほんの一瞬だけ浅留に気を取られ、黒死兵から目を離した。全力を以てこの敵を排除すべき、と活性化した黒死兵からすれば充分過ぎる一瞬。
黒い拳の形を取った死がレリジェに迫っていた。
▲▽▲▽▲▽
この人は、弱い。確実に人を殺せるような鎧を纏っていても、私を振りほどけない。力は確かにこの人の方が上だけれど「人の倒し方」を理解していない。
大丈夫、耐えれる。
「んだよ……!さっさと離せよ女ァ!」
「止め、て……!ください!」
「うおっ、次から次へと!クソガキがぁ!!」
あの子もこの人に組み付いてきた。確か、琥珀くん。この人も私も無視して逃げれば助かったのに、おどおどしてるけど根は優しい子なんだろうな。
───……!!!
「もうやられたのかよ!クソッ、使えねぇ!」
凄い音がして、この人も私も、琥珀くんもそちらに意識が向く。大きくへこんだ壁に緑色の何かが埋まっているのが見える。
見なければよかった。
「ガッ……はっ……」
あの人だ。私と琥珀くんを案内してくれていた、年上の人。私達が緊張しないように、怖がらないようにと気さくに接してくれた親切で優しい人。
そんな人が、死んでしまう。
私達を逃がそうと戦ったせいで───
「……へっ」
「っ、あぁっ!」
ふわっとした浮遊感の後、直ぐに来る痛み。あのライオンの鎧の人に投げ飛ばされたんだろう。
「そんなに心配なら傍に居てやったらどうだ?バァーカ!」
少し離れた所からあの人の罵倒が聞こえてくる。それに怒る余裕も、痛がる暇も無かった。
───……!
「あっ……あぁ……!」
目の前に黒い怪人が居た。
あぁもう駄目だ、このまま殺されるんだ。そんな風に客観視している自分と、まだ死ねない死にたくない。こんな所で死んでたまるものか、と無様に叫ぶ自分が居る。
でも現実は非情で。私がどれだけ抗おうが泣き喚こうが、何も変わらない───
「なっ!?テメェ、クソガキィッ!何しやがった!」
「桔梗さんから……離れろぉっ!」
機械の音、あの人の叫ぶ声、琥珀くんの声、誰かが走る音。それらが立て続けに聞こえた後、もう一度琥珀くんの声が聞こえて───
「変身!」
───!?
黒い怪人が吹き飛んだ。
未だに立てず、情けなく座り込んでいる私の前に、さっきのライオンの鎧が着地した。
「だい!じょう、ぶ、ですか!?桔梗さん!」
ライオンの鎧からは、何故か琥珀くんの声がした。
▽▲▽▲▽▲
桔梗さん。
最初は綺麗な人だなぁ、くらいにしか思ってなかった。たまたま飛行機で一緒になって、たまたま同じバスに乗って、凄い偶然もあるんだなぁって。でも同じ研究所に到着した時に、あぁお互い不運だなぁに変わった。でも、言い方が悪いけど道連れが出来たみたいで少し安心したりもしてた。
「そんなに心配なら傍に居てやったらどうだ?バァーカ!」
おめでとうございます、貴方は今日から仮面ライダーです!なんて訳も分からず祝われて、適合率が高いから鎧を纏って命懸けで戦ってくださいって理不尽な事を言われて。拒否権は有るから断ろうと思ってた矢先に、本当の戦いが始まって。
逃げ出したかった、そのつもりだった。
僕に戦う力なんて無い。
あの赤い鎧の人とか、緑の鎧のおじさんとかに任せれば良いって思ってた。
正直、家族でも何でもない人が死んだって、どうでも良かった。良いはずだった。
「あっ……あぁ……!」
でも───
【私は紫宮 桔梗。よろしくね】
【大丈夫、絶対に助かるから】
【初めて会ったばかりの私を信じてって言っても、信じられないと思う】
【それでも】
「それっ……でもッ!」
「あぁ?」
ドクンッ、と心臓が跳ねた。
いつもみたいに治まらないどころか、どんどん速くなってる。
熱い、身体中が熱い。
「なっ!?テメェ、クソガキィッ!何しやがった!」
僕の中で、何かが解けた音がした。
「桔梗さんから……離れろぉっ!」
《UNLOCK》
「変身!」
───!?
無我夢中で目の前の黒怪人を蹴る。自分でもよく分かってない力が出て、黒怪人が飛んでいく。桔梗さんは、無事みたいだ。良かった。
「だい!じょう、ぶ、ですか!?桔梗さん!」
▲▽▲▽▲▽
仮面ライダーミルバス。
ジャスティアタイプNo.5という比較的初期に完成したライダーシステム。その認証方法は、「適合者の心拍が一定以上」になる事。大きく分けて三つに分類されるジャスティアドライバーの変身認証において、「適合者の肉体的・心理的要因に左右される」タイプの一つでもある。
琥珀は臆病な性格かつ極度のあがり症の為、緊張状態が続きやすい「戦場」において、最も早く現場で認証を終えられる点を評価され選出された経緯がある。更に言えば適合率も高く、精密検査を受けた浅留が30%前後で確定したのに対して、招聘の前段階である各地の医療データの時点から70%以上と確約されていたのだ。
正に、選ばれるべくして選ばれたミルバスの適合者。
「琥珀くん後ろ!」
「へ?っあ!?」
あくまでデータ上の話では、だが。
「琥珀くんっ!!」
───……!
変身した琥珀に蹴り飛ばされ、床に倒れていたはずの黒死兵。琥珀が桔梗を気遣っていた僅かな時間で立ち上がり、反撃の拳を繰り出してきた。
「ぐっ……あっ、うぅ……」
今度は逆に殴り飛ばされ、瓦礫に倒れ込むミルバス。
そう、いくら適合率が高く、即座に変身できるとしても、琥珀はパワードスーツを纏っただけの素人に過ぎない。「素質」はあっても「経験」は無いという事実が、残酷かつ無慈悲に形を持って襲い掛かって来ているのだ。
「っ!」
───!
ミルバスの復帰の遅さを確認し、予備と思われるナイフを抜き放つ黒死兵。今度こそ仕留めると言わんばかりに桔梗へナイフの切っ先を向けるが、黒死兵の身体に衝撃が走る。先程と同じように。
「へっ……キッチリ、確認しないからよぉ……」
レリジェだ。右腕のクロスボウを黒死兵に向けている事から、援護射撃を行ったのだろう。想定以上のダメージを受けているのか、壁に背を預けながら立ち上がっており、足もふらついている。
───!!!
「節操、ねぇ……なぁっ!」
黒死兵ごとに固体差があるのか、はたまたダメージを受けすぎた事で攻撃に対して過剰に反応しているのか、桔梗からレリジェへとターゲットを変えた黒死兵。地を蹴り、圧砕する勢いの拳をレリジェの顔に向ける。それを不恰好に転がりながら回避し、息つく暇無く振り下ろされたナイフをクロスボウで受け止める。
「くっ……!」
毒か高硬度か、何が仕込まれているか分からないナイフを装甲以外の部位に受ける訳にはいかず、互いに武器を武器で受け止めた状態で膠着する両者。そんな中でマウンスは、ようやく立ち直った琥珀に声を掛ける。
「坊主!動けるなら嬢ちゃん担いで逃げろ!」
「っ……ま、まだ!戦え、ます!」
幸いにも、そしてマウンスにとっては不幸にも琥珀の心は折れていない。震える手を必死に握り、恐怖を噛み砕いて前を向く。走り出したミルバスを認識したのか、組み合いを切り上げようとする黒死兵だが、レリジェにがっしりと掴まれ身動きが取れなくなっていた。
「忠義に顔向け出来ねぇ……こうなってほしく、なかったんだがなぁッ!」
ナイフを手放し、レリジェを殴り付けるが拘束は緩まない。膝蹴りを繰り出しても、手首を掴まれている方の腕に力を込めても、レリジェは───マウンスは動じなかった。
「う、あぁぁぁぁぁっ!!!」
ただ全力で走って、ただ全力で腕を振り上げる。それだけなら素人にも簡単に出来る動作だ。レリジェの顔を殴打していた黒死兵の左腕に、ミルバスクローが深く食い込んだ。そして───
「っうぅっ!だぁぁぁぁぁぁッ!!!」
───!??!?
ブチブチと嫌な音を発しながら、黒死兵の左肘から先が抉り裂かれた。更に追い討ちを掛けるように、黒死兵の腹に両腕のクローを突き込みレリジェからも桔梗からも引き離す。
「やっと、距離……くそっ、ダメか……!」
琥珀の奮闘でレリジェの得意距離に戻れたマウンスだったが、クロスボウを構えられずその場に膝をついてしまう。疲労と負傷が重なり、ついに限界が来たらしい。
「マウンスさん!」
「嬢ちゃんか……悪い、おれはここまでみたいだ」
「そんな……!」
「なぁに、今すぐ死ぬって訳じゃない。適当に足止めするから……出来るだけ、遠くっ、に……逃げろ」
駆け寄ってきた桔梗に自身の限界を語るマウンス。それを聞いた桔梗の瞳に涙が溜まり始めた。
「こんな、オジサンの為に泣ける優しい娘を……んな所で死なせる、訳にゃあ……いかない、からなぁ」
「でも……貴方は……!」
「……無事に離れたら、忠義……さっきの赤いライダーを頼れ……坊主、も、どうにか……適合者から外して、くれるはずだ」
膝を震わせながらもどうにか立ち上がり、黒死兵にクロスボウを向けようとするマウンス。だがその先端は不規則に揺れ、まともな狙いを定められていない事が見て取れる。今度は腕ではなく脚に力を込め、一歩踏み出そうとしている。ある程度近付いて命中率を上げようとしているのか。満身創痍という言葉が当てはまるマウンスを止めようと、その煤けた装甲に抱き着く桔梗。
その手が腰のドライバーに触れた瞬間だった。
《UNLOCK》
「えっ……?」
「嘘だろ……!」
突如、戦闘を続行しようとしていたマウンスの意思に反して変身が解除されたのだ。今もなお二人を守ろうと戦っている琥珀が、ミルバスに選ばれた時のように。
つまり───
「これ、は……」
「運命の女神様ってのは、よっぽど皮肉な運命がお好きらしいな……!クソッタレが!」
そう。レリジェが桔梗を選んだのだ。
「……これで、私も───」
「駄目だ!」
「っ!」
戦える、皆を守れる。そう続けようとした桔梗の言葉を強く遮るマウンス。レリジェのアシスト機能が無くなった事で、先程よりも強い疲労感に襲われその場に崩れ落ちそうになるが、ドライバーを持つ桔梗の右手を掴んで踏み留まっている。
「それは悪魔の誘惑だ!一度でも変身すれば、たとえドライバーを手放しても悪魔が憑き纏う!地獄に堕ちる最後の瞬間まで!」
「マウンス、さん……?」
「どんな高潔な奴でも!どれほど綺麗なお題目を掲げていても!その悪魔の力を振るえばいずれ報いが来る!人間に生まれながら、人間とは違う世界に生きる事になるんだぞ!後戻りなんて利かない世界にだ!」
軍人として、そして今は仮面ライダーとして、守るべきモノを守る為に多くの命を奪い生きてきたマウンス。そんな世界に、自分が歩んできた地獄のような世界に、多くの敵を殺した者が英雄と崇められる異常極まりない世界に足を踏み入れるべきではない。そうさせない為に自分や忠義は戦っているんだとマウンスは叫ぶ。
「そう、かもしれません」
「ならっ!」
「それでも……私は……」
桔梗の視線はミルバスに、琥珀に注がれている。マウンスの言葉通りなら【既に後戻りなど出来なくなった】琥珀に。ハッと、それに気付いたマウンスは必死に琥珀も引き戻す言葉を探るが、その間に桔梗は歩を進めている。意図せずマウンスから受け継いだジャスティアドライバーを、自らの腰に当てながら。
「彼を、琥珀くんを……一人には出来ませんから」
「よせ……!クソッ!」
無理に動こうとして転倒するマウンス。覚悟を決め、自分や忠義とよく似た瞳になってしまった桔梗を止める方法など、もはや残ってはいなかった。唯一、桔梗が諦めざるをえない可能性としては、変身を許可するデバイスとしてのロック機構を突破できない事。
だが、マウンスよりも遥かに高いレリジェとの適合率を秘めた桔梗には、それすらも理解できてしまう。
悪魔の声を聞いてしまったのだから。
「すぅ……はぁ……」
「ぅあっ!?桔梗さん!」
黒死兵がミルバスを蹴り飛ばし、残った右手に予備のナイフを握らせ、それを投擲してきた。だがそのナイフは桔梗の左頬を掠めるだけに終わる。偶然外れたのか、それとも見えざる悪魔の手によって必然的に逸らされたのか。
桔梗は頬から流れ出た血を拭い、その手を黒死兵へと向ける。これからお前を射抜くと告げるように。小指と薬指を曲げ、中指と人差し指を伸ばし、親指は立てる。それは現代に於ける弓の互換にして亜種。まるで子供の悪戯、何も出ない拳銃。
これこそ
「……変身!」
脈動するようにドライバーから伝わる熱に浮かされ、自らの身に悪魔を降ろす。一瞬にして装着が完了した鎧は、マウンスが使っていた時と全く同一の物。だが今は、新たな契約者を迎え入れ、狂喜乱舞しているかのように爛々と輝いて見えた。
「紫宮 桔梗……仮面ライダーレリジェ、推して参る!」
新生、五番と十四番の悪魔。
【仮面ライダーバウル】
ラボの所長にして最高責任者である一 光が変身する仮面ライダー。ジャスティアタイプの始まりであるNo.1。
右肩に猫、左肩に蟇蛙を模した装甲を持ち、頭部には王冠のような装飾が施された外観が特徴。基本装甲色は白であり、一部を黒と黄色で彩っている。
ジャスティアの中でもトップクラスの性能を誇り、量子格納スロットも豊富で様々な状況に対応可能。劇中では大型レールガンとレアメタルブレードを披露した。
腰部にドライバーが存在せず、変身後は胸部装甲で覆われ露出しない。この事から、光のジャスティアドライバーは胸にあると考えられるが……?
【軽井 浅留】
ミルバスの適合者。かつては日本で、いわゆる「半グレ」グループの一人として活動していた。
性格は自己中心的かつ姑息。自分が助かる為なら平然と味方を売る。グループが摘発対象となり、自身も逮捕される直前にスカウトされ首の皮一枚繋げた。
適合率は30%前後。
【紫宮 桔梗】(原案:ミストラル0 様)
新たな仮面ライダーレリジェ。
19歳の女子大生。一般的な定期検診に紛れた適合率検査に引っ掛かり、日本から招聘された経緯を持つ。
一般人の為、黒死兵を前に死を覚悟したが、同じく日本から招聘されていた宍倉 琥珀の助けにより生存。偶然触れたマウンス・シーバードのジャスティアドライバー、レリジェと適合した事で変身。黒死兵への反撃を開始する。
【宍倉 琥珀】(原案:人見知り 様)
新たな仮面ライダーミルバス。
16歳の男子高校生。桔梗と同じく、一般の検診でジャスティア適合の可能性を見出だされ招聘された。
臆病、あがり症という心拍数が上がりやすい性格と体質をしており、その事前情報からもミルバスとの適合を期待されていた。引き継ぎの仕方こそイレギュラーだったものの、光の目論見通りミルバスと適合。
状況を打破する為、自分を励ましてくれた桔梗を守る為、生きて家族の元に帰る為、ミルバスとして戦う事を選んだ。