仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil 作:X2愛好家
ラボ正面ゲートにて二柱の悪魔、レリジェとミルバスが新生し、その人ゆえの窮地を駆け付けたキマルスが救う場面より遡る事十数分。
(……勘が良いようだ)
ニノマエラボとノバシェード実働部隊、それぞれのトップが激突している第一試験場。未だ死闘が続く中、黒死兵四体に加えて襲撃犯のリーダーであるレッドホースマンを同時に相手取りながらも余裕を見せていた光こと仮面ライダーバウル。表情を外部に伝えない鋼鉄の仮面の奥で、光は若干の焦りを感じていた。
───!
「チッ……」
黒死兵達が防御主体に立ち回り始めたのだ。つい先程までは、作戦の主目的である光を抹殺せんと攻撃的に動いていたのだが、今はどちらかというと「見」に入っている。更には───
「おっとぉ」
「急に奥手になったものだねぇ?女性経験が無い事でも思い出した、のかなっ!」
首魁たるレッドホースマンを守るように動いている。軽くちょっかいを出すようにレッドホースマンが仕掛けては、その隙を狙わせないように黒死兵が割り込んでくる。複数体まとめて攻撃し、それに対応しようとすれば死角からレッドホースマンが滑り込んでくる。焦燥を悟られまいと挑発してみるも効果は薄い。さすがに歴戦の怪人といった所か。
(やっぱりな)
挑発は悪手だったのか、推測が確信に変わるレッドホースマン。無尽蔵にも思えるスタミナを活かし、こちらには時間はたっぷりある、とばかりに【時間稼ぎ】を黒死兵に指示したのが功を奏した。
「こう見えて女はそれなり、なんだが」
「ふぅん……?」
「さて、まだ遊ぶか?俺らは別に何時間でも付き合ってやれるが……そっちは疲れてきたろ?」
「…………」
「沈黙は肯定と受け取るぞ?」
右手でハンドサインを出し、黒死兵に一斉攻撃を指示する。盛大な舌打ちと共に迎撃を開始するバウルだが、戦闘開始直後のキレが無い事をレッドホースマンは見抜いていた。
「っ、ぐぅっ!」
「長持ちしないと見たが……まぁ、見るからに当たりだよな」
黒死兵の同時攻撃を何とか捌くも、休む暇など与えないと突撃してきたレッドホースマンの一撃をもろに受けるバウル。吹き飛んだ先で体勢を整えるが、その動作には疲労が滲んでいた。
ジャスティアNo.1 バウル。その根幹を成しているのは、光の胸に埋め込まれた生命維持装置である。生まれながらの虚弱体質であり、機械に頼らなければ生きていけない光が、死んでなるものかと心血を注いで開発したパワードスーツ。やむを得ず外敵を迎え撃つ際に使用されるバウルは、文字通り命を削る諸刃の剣。生命維持装置としてのリソースすらも戦闘に回して稼働させる為、ジャスティア随一の圧倒的なスペックを誇る反面レッドホースマンが予想した通り【長持ちしない】のが唯一の弱点なのだ。
(悟られる前に殲滅できれば最高だったけれど……まぁ、バレたなら当初の予定通り……)
「すぅっ……ハッ!」
「っ!」
一瞬にして黒死兵の包囲を破り、レッドホースマンへと肉薄するバウル。先の一撃分は返すと言わんばかりに強烈なボディブローを打ち込む。更に左フック、ローキックと続くが、レッドホースマンは即座に反応して的確に防いでいく。追い付いてきた黒死兵が組み付き、バウルの動きを止めるが───
「おいおい……飛べるのかよ」
「飛べ、ないとは……一言も言ってない、からねぇ!」
再び強引に黒死兵を振り払うバウル。そのパワーと勢いに負け、飛ばされて来た黒死兵を軽く退かしたレッドホースマンが見たのは、翼を生やした悪魔の姿だった。全身のブーストユニットを噴かし、新たに量子格納から取り出したウイングユニットを背部に装着し、宙に浮いていたのだ。
「面倒な真似をする……だが、最初から使わなかったって事はそれなりの理由があるんだよな?」
「ふっ!」
「っとぉ!……例えば、ただでさえ早い消耗が更に早くなるとかなぁ!」
バウルの加速を付けた強烈な一撃を受け止めつつ、今度はレッドホースマンが推測混じりに挑発する。そこへカウンターの蹴りを繰り出し、黒死兵が待ち構えている方向へと吹き飛ばす。戦場の流れはレッドホースマンが掴み始めていた。
───!
「しまっ───なぁんて、ね!」
読まれていた事への動揺を見せ、次の行動択をある程度絞らせた光。ウイングユニットを全力稼働させ、アクロバティックに体勢を反転させつつ、黒死兵に重い浴びせ蹴りを放つ。文字通りボディにめり込んだ脚は、常人ならば鎖骨を砕いていたであろう威力を遺憾なく発揮しつつ黒死兵に膝を着かせる。
動揺を見せる事なく一体のフォローに入る残りの三体。それに対して光が取った行動は、たった今ダメージを与えた一体を踏み台にしての跳躍。自由な左足で思い切り黒死兵の顔面を踏み、全推進ユニットを噴かして距離を取る。
「ぅつぁ……!」
「シッ!」
光が仕切り直しを図った方向にはレッドホースマン。全身に掛かる負荷に呻きながら、赤い一撃を避けてみせる。
「チッ……」
「っ……!っぐ……ハァッ!自分、より……素早、い相手と……戦う、カフッ!のは……初めて、かな?」
「はっ、そっちこそ限界超えて戦うのは初めてか?いつまで強がれるかねぇ」
「ふっ……言ったろう?死ぬまでさ!」
叫ぶと同時に足下に転がっていたブレードを蹴り上げ、逆手でキャッチしながらレッドホースマンへと突撃するバウル。指揮官を守るように黒死兵が防御陣形を取るが、そんな事などお構い無しにチャージを強行する。
───!?
「なまくらだねぇッ!」
先頭の一体がナイフを引き抜くも、そのナイフごと黒死兵を切り裂くバウルのブレード。切れ味と加速の勢いを乗せた一撃は、すれ違いざまに黒死兵の首を斬り飛ばしていた。
───!
「ダアッ!」
立て続けに迫る二体目。その左ストレートを急制動で回避し、急速噴射させた左膝で打ち抜く。休む暇など与えないと再びウイングユニットを稼働させ、足と下腹部で抱え込むように黒死兵の頭へと組み付く。
「天才の股ぐらに顔を埋められてラッキーだねぇ!代金として命を貰おうか!」
右腕が伸びてくるが、それより早く体勢を変えるバウル。上半身も使って頭を包むように体を折り、ブレードを背中から突き入れる。
「二体目!おっとぉ!がっつき過ぎだよ!順番は守りたまえ!」
そのまま前に回りつつブレードで胸から頭までを強引に切り裂く。と、ここでバウルの快進撃を止めるように残りの二体が掴み掛かる。それぞれバウルの左右半身を押さえ付けるように掴み、活動を停止した二体目ごと押し倒す。更に天井を見る事となったバウルの視界には影が掛かっていた。跳躍したレッドホースマンが、身動きの取れないバウルの頭を踏み潰さんとしているのだ。
「良い連携だねぇ!でも───」
───!?
「バウルの出力を甘く見積りすぎだ!」
地面に押し倒されてもなお、バウルのパワーは衰えていなかった。全身の推進ユニットを全力稼働させ、ウイングユニットを引き摺りながら滑り出す。間一髪の所でレッドホースマンのストンプを躱し、足を跳ね上げて体ごと回転しつつ黒死兵を振りほどく。
「しぶとい女だ───」
「やっぱりねぇ」
強化材質で出来ている試験場の床を易々と踏み砕いた足を引き抜き、即座にバウルへ追撃を行うレッドホースマン。だが、その行動こそ光が狙っていた瞬間だった。
推進ユニットと、破損しながらも未だ機能は生きているウイングユニットを噴かし、更に新しく量子格納から取り出した大型銃器を背後の黒死兵に向けトリガーを引く。その反動で一瞬、ほんの一瞬だけ加速し、レッドホースマンの予測を上回ったのだ。
「本命を外した場合ッ!」
「ぐっ!?」
「追撃を急ぐ!クセを見抜くのが得意なのはぁ!」
「君だけじゃないッ!」
データを与えていたのは光だけでなくレッドホースマンも同じ。咄嗟の防御もすり抜け、その首をがっしりと掴みながら天井に向かって飛ぶ。照明スレスレまで上昇した所でレッドホースマンに振りほどかれるが、ここまで来れば抵抗は問題にならない。
(しまった……さすがに空中戦は!)
馬に翼は有るか?答えは否だ。仮に幻獣ペガサスなら自由に空を駆ける事が出来ただろう。だがレッドホースマンは違う。どれだけ強靭な肉体を持ち、戦場に慣れていたとしても。所詮は人間に馬を掛け合わせた怪人に過ぎないのだから。
(こっちが不利───)
「っぐぁっ……!ガッ……ハッ!」
全身全霊、全機能を注いだキックでレッドホースマンを床に叩き付けるはずだったバウル。その途中で光に異変が起き、スラスターも停止。試験場の床に着くギリギリの所でバウルを蹴り飛ばしつつ姿勢を変えるレッドホースマン。無傷とはいかないものの、ダメージを抑える事が出来たようだ。
「くっ……ふぅっ!はっ、ははっ……今のは肝を冷やしたぞ?」
「……っ!うぐっ、おえっ……うぅ……!」
身体を起こそうとしては失敗し、立ち上がる事も出来ないバウル。しかも頭部装甲の口元、クラッシャーに当たる部分からは血が漏れており、かなりの量の吐血をしているようだ。
そう、とうとう光の限界が来たのだ。
「惜しかったなぁ。いやぁ、本当に惜しかった。まぁ良くやった方だぜ?ここまで歯ごたえのある奴は俺の身内くらいしか居ないと思ってたよ」
「……ぁ、か……だ、ぇ」
「ん?遺言なら聞いといてやるが」
「ばぁか……だ、ねぇ……と、ぐぶっ……!いっ、たんだ……よ……!」
「あ?」
「でぇぇやぁぁぁぁッ!!!」
真紅の鎧を纏った悪魔が馳せ参じる。
▽▲▽▲▽▲
「っ、とぉっ!」
瓦礫を粉砕しながら第一試験場へとエントリーしたのは忠義ことオルバス。道中、ノバシェード構成員を蹴散らしながら辿り着いた為に多少の消耗はしているが、戦闘続行には問題無い様子。対してレッドホースマンも、バウルによって蓄積させられた疲労とダメージは表に出していない。それどころか、意趣返しとばかりにバウルが取り落としていたブレードを先程のバウルのように蹴り上げてキャッチし、オルバスのエンジンブレードを受け止めてみせる。
「ようやく会えたなぁ?ジャスティアの坊主!挨拶代わりにアドバイスだ、奇襲はもう少し静かにやった方が良いぜ?」
「初対面にしては馴れ馴れしいな!」
「そりゃ失礼」
激しく火花を散らす事数秒。レッドホースマンが背後に向けてオルバスを受け流した事で、ファーストコンタクトは終了となった。
「おい博士!しっかりしろ!聞こえてるか!」
「おそ、いじゃ……ない、か……わたしの、かめん……らい、だー……」
「生きてるな……!そのまま大人しくしとけよ!」
光の生存を確認し安堵したのも束の間。感動の再会はもういいかとレッドホースマンが攻め掛かる。
「くっ!」
「軽いなぁ……俺としてはもうちょい重い方が好みなんだが、まぁ良いハンデになるか」
「何を───」
「ハッキリ言ってやろうか?期待外れだよ」
正面切っての鍔迫り合いは一瞬、レッドホースマンの鋭く重い蹴りがオルバスの右膝を捉える。思いもよらない一撃に体勢を崩されたオルバスに、本来は怪人に向けられるはずのバウルブレードが叩き込まれる。
「ぐあっ!?」
「正直そっちの女の方が楽しめたぞ。リミッターが掛けられてるとはいえ、これじゃ間違って殺しそうだ」
殺すつもりは無い、お前は眼中に無いとでも言いたげなレッドホースマン。その言葉に対して、いつもなら皮肉を返しながら身軽に立ち回るのが忠義だが、今の彼は冷静さを欠いていた。
自身の疲労、光の負傷、圧倒的な技量差、好転しない状況、そしてトドメに失望とも取れる敵の発言。それら全てが起爆剤となり、忠義の爆弾───一度冷静さを失うと勝負を焦るという悪癖を発露させてしまう。そう、一年前に同僚からも窘められた悪手を。
「っ……!うぉぉぉぉあぁぁぁッ!!!」
忠義が装着している外部向けのリミッターが掛けられた仕様では、一度の変身で一度しか放てない最大稼働スキル。いわゆる必殺技である「FIFTYΦブレイク」を、後ろ回し蹴りのスタイルで撃ち放つ。
「……はぁ」
それを見たレッドホースマンは、あえて聞かせるように溜め息を吐く。迎え撃つ、という動作も気概も見せず、ただ淡々と作業を行うようにバウルブレードを滑り込ませ、オルバスの脚に沿わせるようにしてカチ上げた。
「うっ、おぁ!?」
「生ぬるいんだよ……お前らの【それ】」
落ちてきたオルバスが起き上がるのと、それに完璧に合わせた拳をレッドホースマンが繰り出すのは同時だった。勢いを乗せた右ストレートを諸に受け、バウルよりも後ろに吹き飛ぶオルバス。
「【必ず】【殺す】【技】と書いて必殺技だ。お前らニュージェネレーションだかのは、それが軽いんだよ」
「ぐっ……かっ、はっ……!チッ……!怪人、が、ライダーを……語るじゃねぇか!」
「少なくともお前よりは見てきたからなァ。仮面ライダーってもんを」
そう言いながら忠義からも光からも視線を外すレッドホースマン。その虚ろに濁った瞳は、彼以外の誰にも理解できない何かを見ているのだろう。
「……俺の知ってる蹴りは、もっと重かった」
「あぁ……?」
【スワリング──ライダァァアァ!】
「キック───ってのはァ……!」
「うっ!?」
バウルブレードを投げ付け、再びオルバスの体勢を崩す。そして馬の能力を宿した怪人としての力を全解放し、あっという間にオルバスを射程に捉えた。
かつて自らを下した【本物】の一撃。その片鱗だけでも味わっていけ、と跳躍するレッドホースマン。
「こう、やるんだよッ!!!」
怪人として強化された蹄が、オルバスの胸部装甲へとめり込む。鈍い衝撃音を響かせ、試験場の更に奥へと飛んでいくオルバス。水面を切る石のように数度跳ねてからようやく止まる。
「っ、いけねぇいけねぇ。ついカッとなっちまった……死んでないよな?」
「……っ、ぐっ……がはっ……!」
素に戻ったレッドホースマンの生存確認に応えるように身動ぎする忠義。だが全身からスパークを迸らせ、胸部装甲は大きくへこみ、各部位はひび割れている様を見るに限界の一歩手前といった所だろう。
「ふん……まぁ、良いか。後はニノマエ・ヒカルの息の根を止めてお仕事終了ってな」
邪魔をしないようにと控えていた残り二体の黒死兵が動き出す。その歩みを進める先には、ドライバーも限界に達したのか変身が解除された白衣姿の光。口どころか鼻や耳からも血を流し、閉じられた目からは血涙が溢れている。生きてはいるものの、既に意識が無いようだ。
「グウッ……!グアァァァァァッ!」
「どっちが怪人だか。そこで寝てな」
目の前で殺させてたまるかと、雄叫びを上げながら強引に立ち上がる忠義。だが、損傷の激しいオルバスでは間に合わない距離、黒死兵を止めるにはあまりに遠い。足を縺れさせながら走り出すが、既に黒死兵はナイフを手に光へと迫っている。万事休すと思われた瞬間───
「救護ッ!」
───!?
言葉と裏腹に破壊と破滅しかもたらさない剛槍が黒死兵へと突き刺さった。
「無事だなウェルフリット!」
ラボ全体の救命活動を部下に任せ、一人試験場へと向かっていた駿介ことキマルスだ。未だ残る敵勢力を打ち払い、ようやく第一試験場へと辿り着いたらしい。
「増えやがった……何人居るんだよ悪魔のライダーは」
「その男だけじゃない」
突如として遮られるレッドホースマンの視界。急に差した影は、挨拶代わりの蹴りと銃撃を見舞いながら光の傍らに着地した。
「ってぇ……!」
「確保」
禍々しい紫を基調としたアーマー。どこか道化を思わせる意匠に加え、シルクハットのような頭部装甲が目を引く。ジャスティアドライバー適合者の一人、ジャック・サイファーが変身するライダー。71番目の大侯爵、ダンタルオンがその姿を晒したのだ。
「そのマーク……まさか例の怪盗か?こんな奴までライダーにスカウトしているのか……?」
「ハイパーレスキューか。少し前に世話になったな」
ダンタルオンの左胸に描かれたパーソナルマークのような物を見て適合者の素性に気付く駿介。一方、ジャックはキマルスの姿を記憶の中から探り当て、そう遠くない過去を思い出したようだ。
片や悪人限定とはいえ私刑と強盗を働く正体不明の犯罪者、片やどんな悪人だろうが救命する見境なき救護組織の長。ここまで立場の異なる人材を徴用する光に疑念の湧く駿介だが、今は忠義と光の援護が先、と一旦ジャックに関しては置いておくようだ。
「会場のテンションも上がってきたなぁ。だが残念ながら飛び入りお断りでね、マナーの悪い客には退場願おうか?」
急所に当たった訳でもない銃撃では、さしたるダメージは与えられない。何事も無かったように立ち直ったレッドホースマンは、独特な構えを取りつつダンタルオンとキマルスを見据える。発言通りに叩き出すつもりらしいが、「マナーの悪い客」はジャックと駿介だけではなかった。
───!
「む……さすがに反応は良いですね」
最後の黒死兵を狙った一閃。オルバスのエンジンブレードとも、バウルの物ともまた異なるブレードを振るったのは、格納庫の防衛に向かったはずのビロトこと縁だった。
「ビロト?亜灰か」
「縁!?お前、何で!ドライバーは!」
「知っているでしょう。ドライバーか光かの二択で私がどちらを選ぶかなど」
光の助手にして、最も彼女の近くに居る縁。詳細な事情を知らない駿介は純粋に味方が増えたと思っているが、忠義は驚愕し叫ぶ。だがその何れも縁の心を動かすには足らなかった。縁にとっての最優先は光なのだから。
「……さすがに厳しいか」
一人負傷させたとはいえ仮面ライダーが四人。黒死兵を盾として使い潰しても、離脱はギリギリ厳しいと言った所。遊び過ぎたなと自省しつつ脱出プランを練り直すレッドホースマンだが、さすがに易々と逃走を許してくれる相手ではない。最悪自らを囮にしてでもドライバーを盗み出させるか、と思案し始めたその時───
「ウゥオァァァァァッ!!!」
第一試験場に新たな乱入者。雄叫びを上げながら、手に持った槍でビロトへと襲い掛かる。どうやらラボの関係者やジャスティアライダーの仲間ではないようだ。
「……っ!」
「アレは!?」
「ライダーだと……?」
ジャスティアライダーの仲間ではないが、ビロトに攻撃を仕掛けたのは紛れもなくジャスティアライダーだ。
槍を手にした軽装騎士のような姿、左手から伸びる蛇のような複数の触手、鈍く輝く青い装甲。オルバスともキマルスとも異なる群青色の騎士は、ビロトに鍔迫り合いを切り上げられレッドホースマンの前に滑り込み止まった。
「無事ですか!リーダー!」
「お前……サフィアか?」
「奴らと同じ紛い物の姿をお見せしてしまい、申し訳ありません……ですが、この場を切り抜けるには力が必要で……!」
群青の騎士が発した声は、今回の襲撃作戦にてレッドホースマンの副官を務めるサフィアと同じだった。
「ふむ、まさか適合まで果たすとは」
「油断が過ぎたな、女」
縁が格納庫の防衛から離れた隙にドライバーを奪い、更にはその中の一つに適合してしまったようだ。さすがに予想外だったのか縁も驚いている。
「黒死兵をお借りします。貴方が離脱する時間は必ず稼いでみせます」
「……」
「ここまで来て逃がす訳にはいかないな」
「逃走ルートの予測は出来ている。本職を嘗めない方が良い」
それぞれの得物を手に睨み合うキマルス・ダンタルオンとサフィア・黒死兵。そこに傷を負ったオルバスとレッドホースマンを加え、一触即発の空気が漂う。
「取引をしましょうか」
その空気を即座に霧散させたのは縁だった。
「取引?」
「縁!何言ってる!」
「この場、及びドライバー強奪の部隊もまとめて見逃しましょう。その代わり、彼女……光には手を出さないと誓っていただきます」
忠義の言葉など何処吹く風と話を進める縁。突如として提案された取引を訝しみながらも、拒否するつもりは無いらしいレッドホースマン。
「こいつらはラボを破壊して、スタッフ連中を手に掛け!博士を……光をここまで痛め付けたんだぞ!」
「その女に関してはほぼ自滅だったけどな」
「黙れ!」
「だからこそですよ。そんな実力を持った怪人が、破れかぶれで特攻でも仕掛けてきたらどうするつもりで?」
「それは……!」
「それに加えて、アレはナンバー15 エルゴール。敵に回すと厄介な能力を持っているんですよ。どのみち確実に時間を稼がれます」
適合者を自ら選ぶジャスティアドライバー全てに50%前後の適合率を叩き出す特異適合体質の縁。全ジャスティアのテストパイロットも務めていた彼女だからこそ、スペックや機能を把握し、どれを敵に回すとどれ程厄介なのかという事まで熟知している。それを知っているからこそ忠義も強く出れないのだ。
「良いぜ、乗った」
「リーダー!?俺はまだやれます!」
「お前の腰の一機で将来的な戦力が変わるかもしれないんだ、適合したお前ごと無事に持ち帰るメリットは大いにある」
意外にも即決で縁の提案に乗ってきたレッドホースマン。目的の半分は達成した、と早々に出口へと足を向ける。
「っ、待てっ!」
「上司の命令は聞いとけよ?ジャスティアの坊主。せっかく互いに見逃してやる、で手打ちにしようってんだ」
「くっ……!」
「次に殺り合うまでに、腕を磨いとけよ?」
忠義以外のライダー達が動く素振りを見せない事を確認し、悠々と出口へ歩き始めた。その背に言葉を投げ掛けたのは、やはり忠義だった。
「俺は忠義・ウェルフリット!ニュージェネレーションライダーにしてジャスティアライダーのオルバス!俺の剣は常にお前の首を狙っているぞ!」
「威勢だけは一人前だなぁ。ま、落とせるもんなら落としてみな」
膝をつきながら叫ぶ忠義、振り向く事なく歩みを止める事もなく淡々と応えるレッドホースマン。光は無事だがドライバーは強奪された、という陣営として見れば痛み分けに終わった今回の戦闘だが、戦士として見れば大敗を喫したのは忠義で間違いなかった。
▲▽▲▽▲▽
『じゃあ手出ししなくて良いんだな?』
「あぁ、怪我人の処置を優先してくれ」
『了解……っと、ありゃオスプレイか?ちょっと前まで崩れかかってたテロリストとは思えない高級品使うもんだなぁ』
正面ゲートで撤収する襲撃犯達を目撃したらしい仁。うちにも回してくれないかねぇ、等と半ばぼやきになってきた通信を途中で打ち切り自分の作業へと戻る駿介。彼の視線の先には、自分と同じく変身を解除したジャスティアライダー達の姿があった。
「私も同乗しますが、そこから先は頼みます」
「あぁ、こちらの医療チームを信じてくれ。絶対に死なせはしない」
担架で運ばれていく光に付き添う為、一足先にラボを出ようとしている縁。駆け足で試験場を後にする───かと思われたが、思い出したように立ち止まり振り返りつつ言葉を発する。
「いじける暇があるなら動いてください」
「……言われなくても」
ふらつきながらも立ち上がったのは忠義。こういう時の忠義は、慰めるよりも焚き付けた方が早いと縁は知っている。この態度と物言いが縁のデフォルトだから、というのもあるが。
「追って全適合者にドライバー奪還の指示を出します。警察としての任務がある貴方一人では、時間が掛かり過ぎるので」
「……」
キマルスにも動いてもらいますよ、と駿介にもハイパーレスキューではなくジャスティア適合者として戦う事を暗に命令し、今度こそ本当にその場から立ち去る縁。
「お前も応急手当くらいは受けておけ」
それに続いて駿介も第一試験場から出ていく。救命従事者とジャスティアライダーの中間、無理はさせられないが言って止まる状態でもないと察した故の妥協案を投げ掛けて去っていく。
ダンタルオンことジャックはノバシェードの撤収とほぼ同時に姿を消しており、既にラボ敷地内には居ないと思われる。「本職」は伊達ではないらしい。
「……次は逃がさない」
一人残った忠義。拳を握り締め、静かに闘志を燃やしていた。
「奴は、俺が仕留める!」
手傷を負った深紅の悪魔は、決意を新たにリベンジを誓うのだった。
生きている限り
【ジャック・サイファー】(原案:SOUR 様)
ジャスティアNo.71 ダンタルオンの適合者。
26歳の青年。
極度の悪人に対して独自の制裁を下し、不正に溜め込んでいた財産を盗んでいく怪盗集団のリーダー。忠義や駿介といった治安維持組織に属している者も居る為、元ノバシェード構成員であるレイラと同じく素性は秘匿されている。
悪人を裁くダークヒーローとして一部から支持されている一方、そのやり口を危険視する者も多い。ダンタルオンのドライバーは怪盗行為の中で入手した戦利品らしく、光としては「適合率が高いならそれで良い」「悪人から悪人に移っただけの事」らしく、半ば活動を黙認されている。
組織としては特に自称している名も無い為、彼らを追う警察等からは「ファントム」のコードネームで呼ばれる。
【仮面ライダーエルゴール】
襲撃犯の副官サフィアが適合してしまったジャスティアライダー。ナンバーは15。
群青色の装甲が特徴。キマルスの物より細いタイプの槍をメインアームとし、サブアームとして非使用時は左腕に巻き付かせている蛇のようなウィップを持つ。
縁曰く「敵に回すと面倒」な能力を持っているらしい。