仮面ライダーAP外伝 Imitated Devil   作:X2愛好家

6 / 19
一つが終わり、また一つ始まる


第六話 紅黒/来訪者

薄暗い病室。照明は消され、稼働している医療機器の電子表示だけが僅かな光源となっている。

 

「……」

 

そして室内で発せられる音は、傷病者の生存を一定の間隔で伝える電子音と、ベッドに横たわり目を閉じている女性の微かな呼吸音だけ。そこに入室を報せるドアロックの解除音と、カツカツという靴音が混じる。

 

「まだ、お目覚めにはなりませんか」

 

亜灰 縁。未だ意識が戻らず、ベッドで眠り続ける女性───ラボ襲撃で重傷を負った一 光の助手だ。

 

「……報告を」

 

手にしたタブレット端末を操作しながら淡々と言葉を紡いでいく縁。光の意識は戻っておらず、その報告は半ば独り言、改めて事件の顛末と事後処理を確認していく作業のようだった。

 

「まずラボの被害について。脱出に成功した人員の数が想定を上回っていました。復職に前向きなスタッフも多く、ラボの立て直しにそう時間は掛からないと思われます」

 

不幸にも命を落としたスタッフには哀悼の意を表し、その親族には補償をと「作業」らしく流していく縁。報告の最初に持ってきた辺り、彼女としては最もどうでもよい事なのだろう。

 

「次に新たなレリジェとミルバスの適合者について。イレギュラーな形ではありましたが、当初の予定通りに適合してくれました。初陣ながらも黒死兵を相手取ったポテンシャルの高さは、嬉しい誤算と言えるでしょう。紫宮、宍倉、共に帰国しドライバーも常備しています」

 

襲撃の最中、縁の言った通りイレギュラーな形で適合・変身を果たした桔梗と琥珀。どちらも無事に帰国し、今頃は自宅だろう。前任者よりも適合率の高い、新たなジャスティアライダーの誕生は縁としては喜ばしい所だが、続く縁の報告からその前任者はあまり喜ばしく思っていない事が分かる。

 

「その前適合者……マウンス・シーバードと軽井 浅留ですが。まず、シーバードは生存しており、つい先日までこの病院にて療養していました。今は退院し、紫宮をレリジェの適合者から外せと抗議しています」

 

さすがに騙し騙しで追及を避け続けるのは面倒だと判断したのか、日本行きのチケットと正式なパスポートを用意し、アドバイザーとして近くに置くらしい。飄々とした男だが、女子大生のプライベートには踏み込まないようにと釘を刺しておけば易々と強硬手段には出ないだろう。

 

「そして軽井ですが───」

 

琥珀が半ば強奪する形で受け継いだミルバス、その前適合者である半グレ上がりの軽井 浅留。彼についての報告をしようとした時、縁の携帯端末が着信を報せた。

 

「早いですね。今ちょうど報告していた所です」

『それは良かった』

 

 

◆◇◆

 

 

『結果は?』

「ロクな訓練もしていない、変身も出来ない。そんな男に後れを取るとでも?」

 

縁との通話回線を開いたのはチャイナドレスを纏った女性。色々と規格外なボディを夜の闇に隠し、電気の切れかけたネオン看板と手に持った携帯端末の光だけが彼女の存在を示している。

 

彼女の名は真凛・S・スチュワート。ジャスティアライダーの一人にして、元ノバシェード対策室の特務捜査官という経歴を持つ才媛である。

 

「ただ、少し面倒な事になってね」

『面倒とは?』

「持ち出したドライバー、どこぞのマフィアに売り払った後だったの」

 

そう言う彼女から少し離れた場所が騒がしくなっている。サイレンの音も鳴り響き、警察や消防等も出てきているようだ。それを通り一つ隔てたビルの屋上から眺めつつ縁と通話している真凛。

 

『珍しい……いえ、此方のミスですね。貴女の初動が遅れたのは』

「流れた先の見当はつくわ。どうする?やろうと思えば私一人でも潰せる規模だけれど」

 

騒ぎの元凶、そこに「落ちているはず」のモノとは、縁も報告しようとしていた軽井 浅留。厳密に言えばつい先程まで生きていて、「不幸にも足を滑らせ高所から落下死」してしまった軽井だった死体。

 

そう、ニノマエラボから逃走した軽井は、事前に返す予定の無い拝借をしていたジャスティアドライバーを持ち出し、それを手土産にラボでもノバシェードでもない組織に匿ってもらう算段を立てていたのだ。本来なら適合しているミルバスを自衛手段にするつもりだったようだが、琥珀というイレギュラーによってご破算。やむを得ず手土産を渡し、受け入れだけしてもらった矢先に真凛が動いた───もとい、「不幸に見舞われた」のである。

 

『……その組織についての情報を』

「あら、直ぐに取り返せとは言わないのね?」

 

別の端末を取り出し、縁のタブレットへと情報を送信する真凛。彼女との専用回線で秘匿・暗号化され、即座に縁の元へと届く。

 

『アジア圏ではそれなりに有名な組織ですか』

「国とベッタリのね。恐らく国の暗部、汚れ仕事専門の部署に流れるわよ?」

 

縁が受け取った情報によれば、アジア某国の裏側で名の通ったマフィアが受取人らしい。更にその組織は国と癒着関係にあるらしく、今止めなければ悪用される危険性が極めて高いとの事。

 

「噂じゃあマス・ライダーの技術も仕入れたみたいだし、対策室もマークしてる国よ。随分と手広くやってるみたいね、表向きは国民の守護を公言してるし……不都合な事は覆い隠して懐に入れて、その肥えた体をぶくぶくと大きくしていく。まるで生きた傘(アンブレラ)みたい」

『泳がせます』

「……話、聞いてた?」

 

まるで話を聞いていないような縁の発言に溜め息を返す真凛。下手をすればノバシェード───自身がこの世から跡形も無く消滅させたい組織に次ぐ脅威となるかもしれない某国に、わざわざ新たな戦力を与えかねない縁の判断に異を唱えたい真凛だが縁は縁で考えがあるようだ。

 

『データが取れるなら此方の望む所です。それに、コアの解析と分解はどう足掻いた所で無理ですし。博士も同じ返答をするはずですので、これは貴女を雇っているクライアントの意向として受け取ってください』

「……飼い犬は飼い主に似るのね。あぁ、あなたは猫だったかしら?」

『良いですね?』

『……了解』

 

苛立ちを乗せた指で通話終了ボタンを押し込む真凛。その大きな胸と臀部を揺らしながら屋上を後にする。向かう先は、その某国。泳がせるという決定はされたが、何もするな調べるな、とは言われていない。有事に備えて可能な限りの調査はしておくべき、という自らの判断で動こうというのだ。

 

「恨むならキチンと首輪を着けなかった自分を恨むのね、子猫ちゃん」

 

思い通りにはならないと動き出す真凛だが、そんな彼女の独断すらも光は笑って済ませるだろう。

 

全ては悪魔の魂を満たす為に。

 

 

◇◆◇

 

 

「まぁ貴女なら言わなくても勝手に動くでしょうね」

 

真凛の独自行動は予想の範疇、と縁もまた携帯端末を懐に仕舞っていた。

 

「少し長くなりましたが、軽井の処遇と持ち出されたドライバーに関しては聞いての通りです」

 

その後も淡々と報告を済ませていく縁。駿介とハイパーレスキューにはノバシェードの動きが活発な地域への移動を指示した、ジャックは定期連絡以外の情報を寄越さず、レイラは真凛と同じく言わなくても勝手に行動するだろう、その他の何人かも特殊な指示を出さずとも戦闘データは集まるはず。

 

「既に実戦稼働しているジャスティアは良いとして、模擬戦やデータ収集の機会が無い適合者が数人居るのが懸念でしょうか」

 

それこそ桔梗と琥珀の二人は、親族や友人知人の危機、或いはなし崩し的に巻き込まれた際の自衛でしか変身しないだろう。ノバシェードの襲撃が無ければラボでゆっくりとデータを取れたのだが、襲撃のお陰でより高い適合率を誇る二人にドライバーが渡ったとも言える。一度レベルの高い相手にぶつけて黒死兵との戦闘で開花させた才能を図っておきたい、というのが縁の考えらしい。

 

「全て上手くは行きませんね……」

 

タブレットのデータも終わり、報告は以上と溜め息を吐く。そのまま倒れ込むように光の手元に顔を埋め、自分の指を光の指に絡めた。

 

「本日の業務は終了です……ここからはプライベートですので……」

 

鉄面皮を崩し、今にも泣きそうな表情で光に抱き着く縁。そこには人の命を数字で表し、人道から外れた行いすら厭わない悪魔の姿は無かった。

 

「早く起きて……光……」

 

 

▽▲▽▲▽▲

 

 

「…………」

「その可愛らしい部分を普段から見せてほしいものだねぇ」

 

報告業務を終えて三十分と少し。

光の手を自らの頬に添えながら、すぅすぅと寝息を立てる縁の姿があった。未だ目覚めないはずだった光は、いつの間にやら意識を取り戻し上体を起こして苦笑していた。本当は甘えたがりの助手に捕まっていない方の手を伸ばし、優しく頭を撫でる光。眠っている縁が微かに笑ったように見えた。

 

「さて……一つ良い事を教えてあげよう。百合の間には挟まるな、という言葉があってね」

 

「おや、貴女方はそういった関係でしたか?」

 

苦笑を続けたまま縁とは反対側の「誰か」に話し掛ける光。

 

そこには、始めから存在していたように【何か】が立っていた。縁の入室時には誰も、何も無かったはずの場所に【それ】は居た。

 

「まったく、相変わらず人の心が分かっていないね」

「それは失礼」

 

血のような紅と光を通さない黒が混じった不気味なマントで体を覆い、感情という感情を表に出さない無機質な仮面を張り付けた痩躯の怪人。人なのかどうかすら怪しい【それ】は光の言葉に反応するように現れた。

 

「どうせ聞いていたんだろう?なら、一つ頼まれてくれないかなぁ」

「おや、私に頼み事ですか」

「私と君の仲じゃないか。丁度良い戦闘能力を持った団員を……そうだなぁ、三人程用意できないかな?」

 

まるで気心知れた友人のように、旧知の腐れ縁のように仮面の怪人へと語り掛ける光。対して怪人は表情こそ分からないものの、その声色は明らかに歓喜を孕んだものになりつつあった。

 

「我々を舞台に上げてくださる、と?」

「そういう事さ。いつぞやの礼も兼ねてね」

「クッ、フフッ……!ありがとうございます。では、彼女らに声を掛けてみましょう。して、お相手役は?」

「紫宮 桔梗、宍倉 琥珀、春次郎・リューバ。現状、戦闘経験が特に少ない三人だよ。それと───」

 

「忠義・ウェルフリット」

 

「あぁ……彼も含めるとなると一人足りませんが?」

「君が相手をしてくれたまえよ。くれぐれも死なない程度に、ね?」

「おやおや……フフッ、ハハッ!クフッ!ハハハハッ!えぇえぇ、善処いたしますとも……!」

 

 

▲▽▲▽▲▽

 

 

「っ!?」

 

目を見開き驚愕しているのは私服姿の忠義。普段のおちゃらけた軽いノリは鳴りを潜め、半ば戦闘に赴く際の思考に切り替わっている。

 

つい先程までノバシェードの構成員をGチェイサーで追跡し交戦、特に苦戦する事も無く撃破し、現地の警察と対策室の人員に引渡してコーヒーブレイク中だったのだが。何が起きたのかと周囲の状況を確認する忠義の目に、本来この場に居るはずのない人物が映る。

 

「お前、あの時の……!」

 

「へっ?……あ、え……?」

 

宍倉 琥珀だ。既に日本へと帰国したはずの琥珀が、何故またアメリカに戻ってきているのか。

 

「琥珀、くん?それに……」

 

忠義よりも困惑している琥珀に気付いた人物がもう一人。紫宮 桔梗である。

 

「桔梗さん!?なっ、なんで……?」

「お前ら日本に戻ったんじゃないのか!」

「えっ……ここは日本ではないのですか?」

 

「ん?んん?……えぇ……なーにが起きて……って、ルフさん!?」

 

事情を聞こうと二人に詰め寄る忠義だが、更にもう一人の声が背後から掛かる。運動性を確保した薄い青の制服に同じ色合いのキャップ、モップを手に持った黒髪碧眼の青年。ついでに忠義のファミリーネームを独特な略称で呼ぶともなれば、誰なのか直ぐに分かる。

 

「ハル?」

「お久しぶりっすルフさん!」

 

春次郎・リューバ。ジャスティア適合者であり、普段は金持ち専門の清掃業を営む忠義と同じハーフの青年だ。

 

「ルフさん……?」

「俺のファミリーネーム、ウェルフリットを縮めてそう呼ぶのはコイツくらいだよ」

「春次郎・リューバっす!気軽にハルって呼んでくださいね!ところで、お二方はどちら様で?」

「後輩だよ……残念な事にな」

 

掃除の?と一度ボケてみるハルだが、さすがに冗談でない事は分かっている。気まずそうに頬を掻きながら改めて自己紹介を行った。

 

「で?お前が居るって事は、ここはアメリカで間違いないのか?」

「の、はずですけどねぇ……オレは今日の仕事終わって着替える所───」

 

ハッと何かに気付いた様子のハル。状況整理の為にも多くの情報が欲しい所だが、次にハルの口から飛び出した言葉でどういうタイプの人間だったか、詳細に思い出す事となる。

 

「まだ代金貰ってねぇ!!!あぁ!チップも!!!」

 

どうやらハルにも元の場所に戻らなければいけない理由が出来たらしい。忠義は呆れ、桔梗と琥珀は驚きながらも悪い人ではない、と認識したようだ。

 

「コハク、だったか?お前は何故アメリカに?」

「ぼっ、僕は……学校が終わって、定期検査に……ドライバー、の……適合者、用の……」

「私も似たような状況でした」

 

忠義とハル、桔梗と琥珀、それぞれこの現象に巻き込まれた際の状況があまりにも異なる。仮に桔梗と琥珀が近い地域に住んでいるとしても、忠義とハルは同じアメリカ国内とはいえ互いの距離は相当離れていたはず。気になるのは原因だけでなく、この場所もそうだ。

 

「何なのかしら……ここは……」

「スタジアムっぽいけど……今まで見てきたどれとも違う気がするんだよなぁ。アメリカにこんな形のスタジアムなんてあったっけ?」

「……!あのっ、だっ、誰か居ます!」

「あいつに聞くとしようか……!」

 

「ようこそ、仮面ライダーの皆様!」

 

ちょうど忠義達が立っている位置と反対の場所に、それは現れた。




来る異形

【真凛・S・スチュワート】
(原案:オリーブドラブ 様)
ノバシェード対策室の「元」特務捜査官。年齢は28歳。
対策室のエースと呼ばれた有能な女性だったが、ノバシェードを追い詰めるためなら平然と非道な手段を取り、命令違反も犯す問題人物だったため一年前に対策室から除名された過去を持つ。
それ以降は裏の世界で独自にノバシェードを追跡する女探偵として活動しており、そこを縁を通して光にスカウトされた。現状、彼女の専用となっているドライバーとの適合率は78%。
性格は飄々としている皮肉屋であり、ノバシェードの怪人達を冷たく煽ることも多く、自分以上に非合法かつ手段を選ばない光や縁には平気で噛み付く。

個人で動き始めた時から事件の裏に居る事が多く、忠義をはじめとした何人かの適合者や、対策室の後輩であるヘレン・アーヴィングを陰ながら援護した事もある。

【春次郎・リューバ】(原案:黒崎 好太郎 様)
主に富裕層相手の清掃業者に勤める、アメリカ人の父と日本人の母を親に持つハーフの青年。年齢は21歳。
確かな腕前で、チップさえもらえれば依頼人の個人的な頼みもこなす事から、それなりの人気を誇る。
四人兄弟の次男であり、本来は長男がドライバーの適合者候補だったが兄弟の中で最も頑丈に育ったと自称し立候補。70%近くの適合率があり、兄の代わりにジャスティア適合者となった。
人懐こく、他者と心の距離を縮めるスピードが速い。また、仲良くなった相手はニックネームで呼ぶが「忠義・ウェルフリット」を略して「ルフさん」と呼ぶ等そのネーミングセンスはやや独特。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。