日本生まれ、グランバハマル育ち。 作:痩せ型のオーク顔
「おじさん、スマホにもSE●Aのゲームはありますよ?」
始まりは、藤宮のこんな発言だったかもしれない。
「ああ……でも、ボタン操作のない機械には慣れなくてな……」
「いや、いいかもしれないよおじさん。今どきの子供たちはみんなケータイ持ってるから、スマホ向けにショート動画なんか出してみても……」
「……え?今どきの子供ってみんなケータイ持ってんの?」
ビジネスチャンスを見出して提案してみたが、おじさんが食いついたのは別のところ。
──おじさんは回転式の、ネットに繋がらないケータイしか持っていない。
今どきの子供たちに遅れをとっていると知ってか、少し頬に冷や汗を垂らしているのが見えた。
「はー、17年の間に進んでるなぁ!……じゃあアイツも今はスマホ使えるようになってんのかもな?」
「アイツ?おじさんの……子供の、知り合い?」
甥だとかではない、というのは俺が誰よりも知っている。
……少し嫌な顔をしながら席に座ったところで、おじさんがパソコンをいじりながらぽつり、と語り始める。
「いや、異世界には俺以外にも日本人の子がいてな。7歳だったか?……そんくらいの中国系ハーフだかの子で、たまに喧嘩はしたが……えっ、Vシネ俳優がゲームに!?」
「へー……えっ!?」
「異世界に……えっ!?」
藤宮ともども、いつも通りめちゃくちゃ食いついてしまう。
異世界に、まさかおじさん以外の転生者がいたなんて。
2人分の視線に晒されたおじさんは少しの戸惑いの後、頷いてからパソコン画面を指差す。
「ああ……驚くのも無理はないよな。任侠映画は俺が日本にいた頃から人気だったが、まさか、SE●Aが俳優さん本人を実際にキャスティングしてゲームにするなんて……」
「そっちじゃなくて他の転生者の話だよおじさん!」
「小学校に入ったばっかの子が転生って……色々と大変なんじゃないですか!?」
「そっちか……?って言っても、アイツはそんな大変そうでもなかった気がするぞ……」
おじさんの「大変じゃない」は結構一般的なソレとは乖離がある。
「まぁ、口で言うより見た方が早いな。【
『醜いオークと炎の悪魔を殺せ!』
「あっ、ミスった。もうちょっと後だ……」
(その子も狩られかけてる……!?)
炎の悪魔。
なんの説明もなかったが、後ろ姿は小学生のそれ。
恐らく彼か、と考えていたのも束の間、服が焼けたり武器をへし折られたりした後、誤解を解かれた村人たちが二人を歓迎する姿が映る。
なんというか、見事な瞬殺劇だ。
『我々の村へようこそ!』
「今回は比較的穏便にすんだけどな」
(やっぱり
おじさんへの加害は、もはや基本のようだ。
子供が隣にいることもあってやや心臓に悪い映像だったが、ツンデレエルフさんがこっちに歩いてくる姿を見ると謎の安心感があった。
『……ったく、また騒ぎを起こしてたのねオーク。それに……ハーディンまで!』
『ああっ、エルフの姐さん!久しぶりだねぇ!鞘は手に入ったの!?』
「おじさん、この子の名前……」
「ああ、偽名だ。エルフの奴に『冒険者は真名を隠せ』と教わったらしくてな、アイツはああ見えて子供には優しいんだ……」
受け継がれるリテラシーと、どことなく
そこにいたのはやはり黒目黒髪で、昔の藤宮とどこか似た雰囲気のある中性的な顔立ちの少年だった。
『いいや、まだ手がかりがない。……で、オーク!なんでアンタ逃げたのよ!』
「あれっ……ちょっといいですか、おじさん。この子とエルフさんって知り合いだったんですか?」
「ああ、俺と出会う前の話だな。かなり前の事だし、俺はその時いなかったから再生には交渉含めてかなり時間がかかると思うが……」
おじさんと出会う前にエルフに出会っていた。
どういうことなんだ、と藤宮に続く形で質問しようとした最中、突如インターホンが鳴る。
「……はーい!おじさん、少し止めてて!」
「通販か?何か頼んだ覚えは……」
とりあえずボールペンを手に取り、ドアに手をかける。
──次の瞬間、俺の目の中に見慣れた天井が映り込んだ。
凄い勢いで抱きつかれながら吹っ飛ばされたのだ、と理解するまでに、俺は少しばかりの時間を要した。
彼は少しズレた大きなヘッドホンを直そうともしないまま、ハイテンションでこちらをさらに強く抱きしめてきた。
「……っ⁉︎」
「会いたかったぞ、 アンリ!」
こちらの目を見つめてくるのは、高級品の宝玉のように爛々と輝く、赤と緑の大きなオッドアイ。
鮫のような歯が生えた大きな口を三日月のように曲げて快活そうな笑顔を浮かべる姿は、顔立ちの割に少し幼く見える。
空色の長髪と中性的な美貌が性別を迷わせるが、骨格は男。
……声は意外と高めだ。これもかなり、性別に関しての判断を妨げるかもしれない。
服装がワインレッドの開襟シャツでさえなければ、男らしい大きなエナメルバッグでも担いでいなければ、おそらく性別を見分けるのはもっと困難になっていただろう。
「えっ、えっ」
「風の妖精に道を聞いて来たんだ!アンリってば髪切ったねえ!ヒゲも剃ってる!シワも無いし!看護師さんにやってもらったの?」
「たかふみ……えっ、えっ?」
玄関にやってきた藤宮が、全く俺と同じ反応で止まる。
……知らない天井ならぬ、知らない
「あ、あの……おじさんの知り合いですか?」
「おじさ……?……あ〜!そういえばもう34歳なんだっけ。顔が変わんないからさ〜、そんないってない感じがしてたなぁ〜!」
おじさんの若い頃を知っている。
……ますます誰なんだ、と思っていたところで、後ろのドアが開く。
「おっ?……ああ!少し痩せたな、アンデッドヒーロー!」
「あれっ!?こっちは誰……アンリの息子さん?」
アンリ。アンデッドヒーロー。
なんだ、コードネームか、と思っていたところで、正気に戻ったかのようにおじさんが口を開く。
「……なぁ。
「……?……あっ、ニホンバハマルなら
なんなんだ、わけがわからない。
そう思って冷や汗を垂らす俺に、彼は頭を下げてから手を差し伸べる。
「ああ……はい、たかふみです。えっと、異世界の……」
「失礼、ボクは福丸不二郎だよ。あっちの世界だとアンデッドヒーローとかハーディンとか名乗ってたから、陽介の【記憶魔法】で見たことがあるかもしれないね!」
ハーディン。……小学校の頃の藤宮そっくりの、あの少年だ。
手から炎を出していたりした、あの少年。
黒目黒髪の、少しキツい吊り目で、時代遅れなほどステレオタイプのアジア人、という顔だった少年。
((人種は……!?))
それを横で聞いていた藤宮は驚きのあまりスマートフォンを取り落とし、そのまま首を横に振った。
「えっ、えっ?……いやいやいや、いくらなんでも映像の頃と変わりすぎじゃないですか」
「やっぱそうだよね〜!確かにボク!背とか陽介より大きくなっちゃったもんね!」
「えっ?……いや、髪と目……ッ!」
空色の髪に、赤と緑の強烈な色のオッドアイ。
黒目黒髪の
……あまりにも面影のない成長っぷりに戸惑っていた所で、おじさんは彼に何かをハンドサインで送る。
なんだろう、と思っていたが、彼は案外スムーズにそれに応じる。
「えっと?……『記憶』、『一緒に』、『見よう』……?わかった!」
「俺も見たことはない。たかふみたちと一緒に後ろで見させて貰うよ」
2018年。
いつもは異世界の記憶を見せてくれるおじさんと、一緒におじさんの記憶を見ている藤宮と、今度は別の人の記憶を覗く。
──なんだか、特別感があって楽しみな気がします。
どこまで続くかは未定です。