日本生まれ、グランバハマル育ち。   作:痩せ型のオーク顔

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「あの日はいろいろあったからね!」

 おじさんがすっかり雑誌置き場にしていた椅子の雑誌をどける。

そのまま彼を机の真ん中に案内すると、今回の上映会は始まりを告げた。

 

「今回は……始めだしおじさんとSE●Aと任●堂どっちがすごいかで口喧嘩になった日のエピソードがいいかな?」

「いいや、福丸さん。ここは転生初日のエピソードを是非!」

「あ〜、そうか。確かにあの日はいろいろあったからね!」

 

転生初日。

おじさんはだいぶ散々なものだったので、夢を見せてくれるとしたら彼だけだ。

彼は最初の方は「しばらく動かないから」と飛ばした。

 

……意外とせっかちなのかもしれない。

 

『キャアアアアア!!』

『……ッ!!困惑は後でもできるもん!』

 

……そう思いつつ映像を見ていると、今度は近くから悲鳴が聞こえる。

キョロキョロ、と周囲を見渡して困惑していた彼はその悲鳴に反応すると、一も二もなく駆け出していく。

 

汗を垂らしながら、小学一年生にしてはかなり異常なスピードで森を駆けていく彼。

 

彼が森を駆け抜けた先にいたのは、怯えた様子で頭を抱える、村人らしき女性の姿。

そして、それを取り囲むようにして下卑た笑みを浮かべる『ゴブリン』の姿である。

 

(まさか……開始数秒でテンプレ無双展開か⁉︎)

 

「……ッ!!これだよこれ……ッ!!」

「お前、本当にテンプレになるとテンション上がるな……」

 

まさにやられ役と、まさに主人公。

そんなマッチメイクに心躍らせつつ画面を見ていると、突然福丸さんの姿が()()()

 

「「……っ!?」」

 

どこに。

同じくそう思ってだろう、あたりを見回していたゴブリンの一体が、突如姿勢を崩す。

 

そいつが自らの()()()()()()と気づく頃には、すでにサッカーボールキックで昏倒させられていた。

 

その隣のも流石に正気に戻ったのだろう。

咄嗟にナイフを突き出し、福丸さんの喉を突きに行く。

 

『ふう……っ!あいやぁ!』

 

しかし、その一撃も一瞬のうちに『間合いの内側』に入っていた福丸さんにいなされ、ゴブリンは見事に宙を舞った上に頭から地面に叩きつけられる。

同胞の姿を見ていた残る1匹は弓矢で狙おうとしたが、弦から手を離しても矢が飛んでいかないことに気づく。

 

『へへっ……弓兵には近接戦だぁ!』

 

──既に鏃を指で摘まれ、発射不能にさせられていた。

 

ゴブリンはそのまま脇腹に蹴りを受け、激しくもんどり打ってから動かなくなる。

一瞬で下手人を始末した彼は、そのまま怯える女性に目線を合わせるようにしてからささやいた。

 

『やぁ!麗しきお姉さん、ケガはないよね?』

 

──なんだかその顔は、本来の顔以上に格好良く見えました。

 

「ちょっ、止めて」

「ん」

 

そこまで見た俺は、思わずメガネを外して目頭を抑えた。

あの、おじさんにはあんなに残酷だった異世界が。

初日から差別と迫害を見せてきた、グランバハマルが。

 

眼前では王道の無双展開として、爛々と輝いており。

 

「いや……福丸さん強すぎないですか?こう、小学生って普通こうはならないと思うんですけど」

「ああ、4歳の時から合気道とか地功拳とか色々やってたから……」

「いいよな中国拳法。バー●ャファイターでも主人公が使ってたな……」

 

(いい。そういうのハッタリが効いてて最高にいい!)

 

前世での記憶を活かした無双展開。

そういうのは最高に大好物だ。

……中国拳法無双なんてのも、たかふみとしては好物の類に入る。

 

「福丸さん、続きはどうなるの?」

「うん!続きだね……」

 

女性が、彼の声に反応して顔を上げる。

怯えていた目が、震えていた手が、少しずつ動きを変える。

 

『──イルグ!』

 

──次の瞬間、福丸さんの腹に草刈り鎌が突き立った。

 

「止めて」

「うん」

「……えっ?なんで……?」

 

女性を助けた瞬間、殺害された。

あまりにも理不尽な仕打ちに絶句していると、そのまま彼が頬を掻きながら続ける。

 

「この時、異世界語話せてないんだよね」

「それが一体……」

「……なるほど。俺と同じくオークの亜種だと思われていたのか」

 

おじさんの経験からくる補足。

あまりな惨状に項垂れる俺をよそに、再び映像が流れる。

 

親愛的顧客盟友(親愛なる客人よ)……』

『……是谁(だれ)?』

 

再び、中国語で放たれる質問。

だが、それに対して彼は()()()()()()()

 

「……そっか!福丸さん母親が中国人って!」

「語学は叩き込まれてたからね!この時点で日、中、英、韓にドイツ語とフランス語もいけるよ!」

「そんなにスペック積んでも数秒で死にかける異世界怖いな……!」

 

おじさんと違い、ちゃんと願いを言える余裕のある彼。

このまま逆転してあの村人に仕返しする展開か、なんて思っていた俺の耳に、聞き慣れた声が飛び込んできた。

 

『……ぐえっ!がっ、助け……』

「あれ?俺の声……」

 

そう。それは、おじさんが初日にリンチされていた時の悲鳴。

どういうことだ、と困惑する俺たちをよそに、画面の中の福丸は続ける。

 

我的肚子是致命的(ボクは助からない)……。我不在乎这个身体会发生什么(だから、この身が滅ぶのは構わない)给我力量至少帮助他(だからせめて、今あの人を救える力を)……ッ!』

我批准了我實現了你的願望(汝の願いは聞き届けた、力を授けよう)如果你去爾多山頂部(ドルド山に行けば、次は知恵を授ける)……』

 

「……福丸さん!カッコいいよ福丸さん!」

「えっ!?ありがとうたかふみくん!」

 

おじさんを助ける力を神に求め、悲鳴の方へボロボロの体で這って向かいながら歯を食いしばる福丸さん。

ダークでありながら王道だ。

 

『……血が……まだ……ボクは、戦える……』

 

血を吐き、這うことすらゆっくりになりながら、それでも止まらない福丸さん。

彼の手が、捕まっていたおじさんたちの場所へと伸びる。

 

『……音が』

『気のせいだろう。さっさとオークを運ぶぞ』

 

──しかし、そこでついに福丸さんは力尽きた。

ほんの数センチ、あと1秒命が保てば救えていたかもしれないのに。

 

福丸さんは、願いを叶えることなく絶命した……

 

「……えっ?異世界ファンタジー……は……?」

「福丸さん……死んでるじゃないですか!」

「うん。死んだからしばらく倍速にするね」

 

虚な目で横たわる福丸さんの手には、いつのまにか『果物かご』が握られていた。

異世界を生き抜く力は、それなのだろうか。

今となっては知るよしもなく黙っていたところで、ふとガラの悪い男女が現れる。

 

『キャハハハ!あの女もバカねぇ……ドルド山の祠にそんなものある訳ないでしょ!』

『全くだ、世間知らずのお嬢様は騙しやすくって仕方ない!……うん?』

 

不快な哄笑を上げていた男女が、死体の手の果物かごに気づく。

死体のものなら取っていいと思ったのだろうか、彼らは金のリンゴの存在に気づき、その一つを手に取った。

 

『なんだ?死体の持ってたものにしては新鮮だな……』

『え〜、マジぃ?じゃあ私貰うわ!』

 

転生特典らしきリンゴは、頭のゆるそうな女に掠め取られ、あっという間に芯になるまで飾られ尽くす。

 

「えっ、福丸さん。この状態からどうやって……?」

「これっ、死……!」

 

『はーっ、美味し……ィ……?コホ……ッ!!』

 

画面の中。

笑顔で林檎を食べていた女の体が、突然火に包まれる。

 

全身の穴から煙が上がり、手足が痙攣し、吹き出た血に引火してますます全身が燃え上がる……

 

「うえっ……と、飛ばして……」

「あー。女子にはキツいシーンだったかもね〜!」

 

ハッキリ言って、俺にもキツいシーンだった。

……というか、あのリンゴは本当になんなんだ。

そう思っていたところで、画面の中に映像が移る。

 

体を焼け焦げたワンピースに包まれた女性が、頭を抑えながら立ち上がったのだ。

 

『……っ!ボク、生きて……!』

『おい……どうした……?待て、やめ……ぐああああ!』

『なるほど、妖精……!全部理解した、キミは悪い盗賊だ!』

 

苦悶の声をあげなくなった女性。

そして、それを見ていた青年は青ざめた顔でナイフを抜くも一瞬で取り上げられ、腕を極めて組み敷かれた。

 

「アイテムは禁断の果物籠鍍金のリンゴ、って言っていたな」

「うん!禁断の果物籠は『持ち主が死ぬと魂の果実【鍍金のリンゴ】を作る』ってアイテムで、鍍金のリンゴは『食べた対象の魂が崩壊するまで苦痛の炎で焼き尽くし、そこに元の魂を入れることで記憶と肉体を奪い、永遠の命を実現するアイテム』らしいよ……よくわかんないけどね!」

 

(エグい……!あの願い曲解されすぎだろ……!?)

 

確かに『体は終わってもいいからおじさんを助けられる』チートだ。

……かなり歪んでこそいるものの、まぁ確かにこれなら大丈夫かも、と思ってしまう。

 

「まぁ……とりあえず、この力でおじさんは助かったんですよね?」

「ああ!この後はさ……」

 

画面の中、組み敷かれた男が咄嗟に床に落ちた『何か』を探す。

……それは、()()()()()()()()の芯。

ドーピングの類とでも思ったのだろうか、組み敷かれた姿勢のまま、彼は慌ててその芯にかぶりつく。

 

「あれ?でも、おじさんって……」

 

この後の展開を思い出し、なんとなく察してしまう。

精霊の魔法には『副次効果』が生じることがある。

 

例えばこのリンゴは『魂を燃やす』作用があるそうだ。

持ち主の肉体には火傷の跡はなかった……が、()()は燃えていた。

 

──この密着状態でなら、何に引火するだろうか。

 

「この人、意外とメンタル強かったらしくてさ……」

 

その一言で、俺は全てを察した。

 

画面の中、福丸さんの乗っ取っていた女性の髪に火がつく。

咄嗟に男から手を離して地面に転がった福丸さんだが、お構いなしに火の手が回る。

 

後はもう、火だるまが出来上がるまでの工程でしかなく。

 

「体に引火してたから助けにいけなかった」

 

(恐ろしく間が悪い……!!)

 

運も実力のうち、なんて言葉を思い出す。

いくら実力が高くても、どうやら異世界はそれだけでは生き抜けそうにない。

 

「時間も遅いし、女の子を深夜に帰らすわけにもいかないから今日はここまでだね。エルフさんとの話はまた明日……」

「あっ、はい。わかりました!楽しみにしてます!」

 

その日、俺たちは藤宮を送り届ける途中でラーメンを食べながら、今と昔のゲームの話なんかで盛り上がった。

 

「ファイアーエムブレムもすっかり大人気になったなぁ」「ソニックもマリオと仲良くやる時代か」なんて言いながら麺を啜って笑う二人の姿は、どことなく早く過ぎ去っていった古い時代の哀愁のようなものを宿しているように感じられた。

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