日本生まれ、グランバハマル育ち。 作:痩せ型のオーク顔
その場合、私は潔く戦いの中で散ります。
「メイベルさん!……を、見せてください!」
「おお、藤宮。福丸さんはまだ来てないよ」
「……」
おじさんは「マリオとソニックのコラボしたゲーム」を探しに中古ソフト屋へと出て行ったため、いない。
福丸さんは「ネズミを捕まえるから少し遅れる」と言っていた。
奇しくも二人きりになってしまった部屋の中で、藤宮がふと、コーヒーに手を伸ばしてから口を開く。
「た……たかふみ!」
「……なにかな、藤宮さん?」
「今度、二人で一緒に……どこか出かけない?」
……少し、唐突な感じのする提案。
だが、個人的には藤宮さんと一緒に出かけられるのは嬉しい。
だけどどうしたんだろう、なんて思っていると、ベランダに一匹のプテラノドンが降り立った。
「あっ、福丸さん。藤宮と出かけたいんだけど、どこかおすすめの場所とかって……」
「なら山だね!初デートなら断然山だよ!」
「デッ……!?」
「あんまり藤宮をからかわないで、福丸さん」
半ば、反射的に拳をテーブルに叩きつけてしまう。
……しまった、と思った時には、すっかり家の中の空気は冷え切っていた。
やってしまった。
彼に悪気がない事はわかっていたのに、つい感情のままに動いてしまった。
「ごめんね……実はこう、メイベルさんと山デートした話を用意してて、二人もそうなんだって思って……舞い上がっちゃって……」
「あっ、いや……俺の方こそごめん……福丸さんは悪くないのに……」
「なんで!?なんでお前ら、デートの話題からこんな空気になるんだよ……?」
少し落ち込み気味に、それでも約束通りに記憶の精霊の力を借りる福丸さん。
心なしか画面まで少し暗い気もしたが、それでも状況がわからない、というわけではない。
──画面の中には、現実として煌々と燃え盛る、炎の龍の姿が映し出されていたのだから。
◆
「陽介!火ならダメージ通るよ!」
「なるほど……不二郎、少し抑えててくれ!」
炎を帯びた拳が、龍の体に突き刺さる。
確かに陽介は全身に魔法を纏っており、今のところ『技』しか有効打を見つけられないボクより一撃の威力は高いはずだ。
大柄なだけに頑丈な龍はボクの打撃では軽い足止めくらいにしかならない、と思われるかもしれない。
──とはいえ、ボクにも攻撃手段はある。
「……ッ⁉︎」
「投げ技なら……通るよね!」
投げ技。そして、寝技は体格差があってもある程度ダメージが保証される。
龍の関節をありとあらゆる姿勢で絡め、無理やり投げ続ける必殺技『煉獄投げ』は常にダメージを与える。
体力の続く限り、精霊の力を借りて炎を纏ったボクは常にダメージを与え続ける……
「ハァ、ハァ……ッ!」
投げられ続けた龍も、なにも無抵抗ではない。
ボクが投げ疲れた一瞬の隙を見つけて振り解き、距離を取ろうとする。
──逃げた先に、目の前の男より強い青年がいるなど想像することもしないまま。
無防備に炎を吐き、突進してゆく。
「……やっちゃえ陽介ぇ!」
「ああ。帰還への……大きな一歩!」
火を纏った男が、炎の龍を真っ二つに切り裂く。
かくして、村を永きにわたって脅かした『魔炎竜』は、二人の戦士の手で討伐されたのだった。
◆
「えっ……ドラゴンって投げ技通じるんですね……!?」
「おじさんが『直行して倒した』って言ってたのはアレだったけど普通にアクションはカッコいいな……!!」
「すごいでしょ!陽介はカッコいいんだよ!」
胸を張る福丸さん。
確かにこれもすごいと思うが、本題を忘れてはならない。
「メイベルさんと、っていうのは……」
「この後だね!」
福丸さんが、動画サイトのUIを参考にしたらしきボタンで数分の記憶をスキップする。
◆
「フク……えー、《アルヴィス》。……と、俺の二人で魔炎竜を討伐した。俺は失礼する」
「あ……はい、ありがとうございました……」
村人から、どこか暗い声でお礼を言われる。
魔炎竜を討伐した報酬を陽介と山分けにしたボクは、先を急ぐという彼と別れて村に残っていた。
「──綺麗な花だね!『マルキード山』の『ポワポワの花』!」
「…………へっ……?」
驚いたような表情を浮かべる、氷のような冷たい瞳の少女。
そっと彼女の前に傅き、彼女の手を取って起こしてから囁いた。
「メイベルさん!ボクと一緒にデートしませんか!?」
「えっ……えええっ⁉︎」
木の中を覆っていた氷が、少しずつ溶け始める。
口を開けながらこちらを見守ってくる村人に手を振ると、ボクはそのまま花を取ってきた山を目指した。
◆
「って感じだね。メイベルさんと一緒にお母さんの思い出を巡ってさ。過去とか未来とか、心の中を色々打ち明けるうちにメイベルと仲良くなって……」
指差しで映像を解説していく福丸さん。
……いや、これはツッコむべきなんだろうか、とも思っていたところで、ついに藤宮が立ち上がる。
「アンタ小1のくせに随分と肉食系だな福丸さん!?」
「うん、思った……」
小学生とは思えぬキザっぷり。
慣れた手つきでメイベルをエスコートする画面の中の福丸さんは、なんというか到底同じ人間には見えない。
おじさんと福丸さんでここまで差が、なんて風に考えていたが、そこで福丸さんが映像を止めた。
「とんでもねえ……とんでもねえマセガキだぞコイツ……」
「藤宮さん。別にボクはとんでもない事はしてないよ?」
「いや……とんでもない事……目の前で……ッ!!」
「ファイアーエムブレムをやった事はある?」
((……今関係ある?))
確かに携帯機の奴ならやった。
そう思いながら止まった俺たちに、福丸さんが両手を振って説明し始める。
「なんかさぁ、人を見ると『仲間になる感じ』ってあるよね?」
「あ、うん……」
「メイベルさんはそんな感じがしたから仲間になるまで口説いた」
……おじさんは頭がSE●Aだが、この人も大概なくらい頭が任●堂だ。
思わず頭を抱えながらデートを見ていると、今度は窓からおじさんが入ってきた。
「買ってきたが……任●堂ハードでしかプレイできないのはキツイぞ……!」
「おっ、2008年は北京でやったんだ!今年は……あれ、今年の平昌はゲーム出ないんだ?」
「ああ、来年東京でやるからそっちにいまから本腰を入れてるんじゃないかって……」
「「東京で!?」」
異世界ではライバルだったという、おじさんと福丸さん。
天然でエルフさんを口説いちゃう魔法使いのおじさんと、メイベルさん一筋の武道家な福丸さん。
……正反対の二人が今となっては仲が良さそうなのは、二人ともゲームが大好きだからなのかもしれない。
ゲームはいい、みんなを一つにしてくれるものだから。
その日は夜遅くまで4人でゲーム機を囲み、二人がいない間に日本で起こった大きな出来事なんかの話をして過ごした。
そろそろ、タンスからコートを引っ張り出す季節になる。
福丸さんが「寒いから福岡にも雪が降るかな」と呟いたときの、どこか懐かしむようなもの憂げな視線は、俺の瞳の奥に強く刻み込まれていた。