フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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102.【閑話】謎朱鷺 - ナゾトキ - その3

 

 つむりと依斗は、帆紫の病室のある階の談話スペースにいた。

 すぐそばのエレベーターホールには自動販売機も設置されているので、そこでお茶を購入し、椅子に腰を掛けている。

 

 また、つい先ほど帆紫(ホムラ)の父である灼啓(シャッケイ)がやってきた。

 今は病室にいる医師から説明を受けていることだろう。

 

 特に灼啓を待っているワケではないのだが、帆紫を保護してからドタバタしてしまったので、ここで一息ついているところだ。

 

「草薙先生。どうするんです?」

「どうするって言われてもなぁ……」

 

 依斗に問われて、つむりは後ろ頭を掻きながら天井を見上げた。

 

「帆紫ちゃんを元に戻せる方法があるとすれば、あの怪異に奪われたモノを取り戻すしかないだろうな」

「どうやって?」

 

 当然の疑問に、つむりは口を噤む。

 思案しながらペットボトルのお茶で口の中を湿し、答える。

 

「分からん。分からんけど……気になるコトはある」

「気になるコト、ですか?」

「ああ。あのナゾトキという怪異……クイズを出す怪異としては、不可解な点が一つあるんだ」

「個人的には存在そのものが不可解ですけど……」

「それ、だいぶブーメランだぞドッペルゲンガー」

「あはははは……」

 

 つむりの言葉に、依斗は苦笑して誤魔化す。

 それを横目に、つむりは話の続きをする。

 

「謎かけをする怪異や妖怪なんてのは、古今東西それなりにはいるんだ。

 有名なところだとスフィンクスだな。スフィンクス・リドルなんてのは、有名になりすぎてネタとして使われるコトが減ってるから一周して知らん人も増えてそうだけど」

「そうなんですか? 多少のサブカル趣味があれば耳にすると思いますけど」

「ネット――というかSNSというべきか――やってると失念しそうになるんだが、自分らが常識と思っているコトって案外一般では全然常識じゃなかったりするもんだ」

「そうなんだ」

 

 意外そうな顔をする依斗につむりは片眉だけ軽く跳ねさせ、そのまま続けた。

 

「ともあれだ。神話におけるスフィンクスは、山の道を塞ぎ、通行人に謎かけをして、答えられなかったヤツを食べちまう怖い化け物だ。

 それをオイディプスって英雄が、謎かけに正解して倒すってのが大筋の話だな。

 登場人物やシチュエーションは多少の違いはあれど、根幹のストーリーはどこの謎かけ怪異もこんなもんだ」

 

 ここまでは良いか――と、依斗に訊ねると、彼女はうなずき、先を促す。

 それを確認して、つむりは話を進める。

 

「これらは、怪異の出すクイズに正解すると怪異を退治ないし追い払えるという共通点がある。

 それを踏まえた上でナゾトキに関する情報を思い出すと、やっぱ気になる点があるんだ」

 

 つむりがそこまで口にすると、依斗は少し思案してから訊ねてくる。

 

「それって、ナゾトキの対処法が『答えない』コトであるという話ですか?」

「そうだ。ナゾトキに関する情報において、『正解を答えた』場合の結末が、分からない」

 

 言われてみれば――と、依斗は眉を(ひそ)めた。

 

「正解を答えるとどうなるか分からない……? 謎かけする怪異なのに?」

「不可解だろう? 仮に正解であっても答えてはダメな怪異だったとしても、その結末くらいは噂に流れてもいいはずなのに」

 

 つむりの言う通りだ。

 依斗はその不可解さに、ますます眉間の溝を深める。

 

 そんな時だ。

 

「あ、あの――」

 

 二人の元へ、年配の女性看護師が近づいてきた。

 

「もしかしてですけど、ナゾナゾドリの話をされてます?」

 

 その問いに、依斗は首を傾げるが、つむりは大きくうなずく。

 

「以前はそう呼ばれてたらしいですね。今はナゾトキなんて呼ばれているようですけど」

 

 つむりの言葉に、看護師は顔を輝かせた。

 

「やっぱりそうでしたか。実は私も若い頃は、同じコトを疑問に思ったんです」

「妖怪やら怪異やらに興味がある身からすると、やっぱり引っかかりますもんね」

 

 どうやらナゾトキについて知っている女性のようだ。

 言動や雰囲気から、オカルト好きな人でもあるのだろう。

 

「なのでナゾナゾドリに会いに行ったコトがあるんですよ、私」

「無茶しますねぇ……」

 

 とはいえ、つむりとしても興味がある話だ。

 

「実際に遭遇しまして、ナゾナゾドリの出す問題を連続正解していったんです。

 ただ、どれだけ答えても終わりはなさそうで、面倒なので途中で間違えたんですが……」

 

 暗い顔をして、彼女は自重するような嘆息するような様子で笑った。

 

「その時を境に、友人が一人行方不明になりまして」

「え?」

 

 つむりと依斗は思わず同時に声を漏らす。

 

「思い返してみると、当時に私は異性よりも同性の方が好きだったんだと思います。

 そして行方不明になった友人に対して、私は間違いなく恋心を抱いていたんですよね」

 

 おかしいでしょう――と、女性は笑いを促すような口調で告げてくるが、つむりと依斗からすれば、笑える要素は微塵もない。

 

「しかもですね。私はその友人のコトを思い出せないんです。

 確かにいた。恋慕もあった。二人で遊んだ記憶も、ケンカした記憶もあるのに、思い出せないんですよね。彼女の顔も、名前も、声も」

 

 それどころか――と、女性は暗い笑顔で微笑んだ。

 

「そもそも実在したかどうかすらあやふやなんです。

 あの子の家族すら、彼女に関する記憶があやふやになってしまっていて」

 

 ふぅ……と、一息ついてから、女性は元の看護師らしい表情に戻る。

 

「すみません。こういう話をするつもりはなかったんですが……ええっと、その経験からして、ナゾナゾドリに対して答えを口にすると、レートが上がっていくんだという結論になりました」

「レート?」

 

 依斗が首を傾げると、女性は「はい」とうなずく。

 

「罰ゲームのレートです。

 一問目ならお小遣いやオモチャとかですみますけど、連続正解するごとに失敗した時に失うモノが大きく、重くなっていくのだと思いますよ」

「怪異としてはルール違反もいいところじゃないですか」

「わたしもそう思います」

 

 つむりの感想に、女性も同意した。

 

「しかし、モノを奪う怪異ってのは、何らかの方法で取られたモノを奪い返す方法があるもんだが、それが無いのか……というか、謎かけを出してくる怪異のクセに答えた時点でアウトってクソすぎんだろ」

 

 怪異側にリスクが無いというのは、作家・草薙つむりとしては許せない。

 

「長々とすみません。ナゾナゾドリについて話しているのを聞いてしまってつい」

「いや、こちらこそありがとうございます。

 奪われたモノを取り返す手段について考えていたところなので、参考になりました」

「……何か奪われたんですか?

「仕事仲間の娘さんがね。『時間』を奪われたようで」

「頭が良い子だったのね……」

 

『時間』と言った漠然とした言い方では何を奪われたのかまでは正確には分からないだろう。

 それでも、モノではなく『時間』という概念が奪われたという事情から、それなりにクイズに正解したのだと察したようだ。

 

「わたしの友人が無理でも、その子の時間だけは取り戻せるコトを祈ってますね」

 

 女性はそう告げると、軽く頭を下げて去って行く。

 彼女の姿が見えなくなったところで、つむりはどこからともなく、真っ白なノートを取り出した。

 

 そこに、どこからともなく取り出した黒いインク壺を傾ける。

 

「先生、お喋りしながらマイマイで記憶も読んでたんですか?」

「まぁな。最近は至近距離なら相手を前後不覚にさせるコト無く盗み見れるようになったんだよ」

「良識と良心だけは失わないでくださいよ?」

「お前はあたしを何だと思ってるんだ」

 

 垂れたインクが勝手に動いて、ノートに情報を描き出していく。

 

「なるほど。確かに思い出のあの子の姿は不明だな。顔や名前が見えないぐらい薄く描かれてる。記憶の摩耗とかによる表現とは全く違う感じだ」

「なんか切ない話ですよね」

「そうだな。だが、答えたらどうなるかが判明したのは大きい」

 

 とはいえ、対処方法が分かったわけでも、奪われたモノを取り返す方法が分かったワケでもないのだが。

 

「あ、マイマイと言えば――先生の能力で勝利条件の書き換えとかできないんですか?」

「んー……そうだなぁ……」

 

 依斗の提案に、つむりは少し考える。

 可能か不可能かも、答えるのが難しいところではあるが――

 

「あれの正体がただの鳥で、ナゾトキという開拓能力を使っているというのであれば、干渉のしようはあるな」

「本物の怪異だった場合は?」

「わからん。怪異相手に赤入れをしたコトがないしな。

 やっているコトは相手の運命への赤入れってコトみたいだから、怪異が何らかの運命を背負っているというのであれば、干渉はできるかもしれない」

「運命?」

「まぁ生まれてから死ぬまでのプロットとかネームとかそういうのが、存在しているかどうかって話だ。

 もちろん、人生という本文を描くにあたっては、プロットやネームから逸脱してくるコトも少なくはないんだが……なんであれ、一人一人あるいは生き物や物質の一つ一つに、運命という物語が存在している。

 あたしの赤マイマイちゃんにより赤入れは、そんな物語(うんめい)に干渉してるのさ……知らんけど」

「最後、急に曖昧にならないでくださいよ」

「いやそうは言ってもな……使っててそういう感覚はあるけど、実際のところはどうなのかまでは分かってねぇし」

 

 依斗はそこで、ともあれ――と一つうなずいて、不敵に笑う。

 

「先生。一つ思いついたコトがあるんですけど、協力してくれませんか?」

「内容次第だが、それは奪い返す為の作戦なんだよな?

「もちろん。まぁ先生がナゾトキに赤入れ出来るって前提のネタですけど」

「どうせ行き詰まってたところだ。話してみな?」

 

 そうして依斗の語る作戦に、つむりも不敵な笑みを浮かべて乗っかるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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