フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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109.Awaken! WiLL Power!

 

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 放課後。

 

 大杉に案内されて図書室へと入った。

 ……はずなんだけど……。

 

 入ってみると、中は古い図書館のような様相(ようそう)(てい)していた。

 なかなか贅沢な学校のようだ。

 

 今居るのは二階のようで、眼下にはエントランスが広がっている。

 

「この学校の図書室って世界とか古代とかの図書館といった(おもむ)きなんだな」

「ちげーよ!」

「だけど、チェーンドライブラリとかあるし。ここに立ってるだけでも、古代図書館とか、そうでなくとも海外の綺麗な図書館的なの思い出すんだけど」

「気持ちはオレも同じだけどちげーんだよ!」

「ポルトガル文学館……行ってみたいとは思ってたから、疑似体験できるのは助かるな」

「いいから正気に戻れッ、嘉藤ッ! 現実逃避すんなッ!」

 

 大杉に叱られてしまった。

 仕方が無い。ちゃんと真面目にやるか。

 

「それで大杉。ここって何?」

「オレにもわかんねーよ。少なくともうちの学校の図書室じゃねーのは確かだ」

「……学校の図書室に入ったのに?」

「そうなんだけどよ……」

 

 まぁ、大杉を責める理由はないか。

 

「とりあえず出よう。入ってこれたんだから、背後の扉を開ければ出れるだろ」

「そうだな。意味わかんねーし、とっとと出た方が良さげだわ」

 

 そうして俺たちは後ろへと振り向き、入ってきた扉を開いた。

 これも横開きのスライドドアではなく、重々しい重厚な扉だった。

 

「……大杉、学校は?」

「いやぁ、オレに聞かれてもな……」

 

 そこには廊下があった。

 学校の――ではなく、明らかにこの図書館の廊下だ。

 

 壁にも天井にも所狭しと本が収められた図書館の廊下である。

 

「天井の本……落ちて来ないのか?」

「確かに気になるけど、今はそれどころじゃねーだろ!」

 

 大杉のツッコミはもっともなんだけど、気になるものは気になるのだから仕方が無い。

 

「どうする嘉藤?」

 

 問われて、少し考える。

 少なくとも、先ほど眼下に見たエントランスには大きな蝶番の扉があった。

 

「エントランスを目指そう。大きい扉があったんだ。

 ここがどこか分からずとも、あれは玄関だと思うんだ」

「なら、まずは階段だな。最悪はさっきの場所から飛び降りるか?」

「最終手段だな、それ」

 

 そうして、俺たちはこの奇妙な図書館から抜け出す為に、動き出すのだった。

 

 

 

 しばらく歩いた頃――

 

「…………!!」

 

 奇妙な図書館を探索していた俺たちは慌てて、手近にあったドアを開けて小部屋に飛び込む。

 転がるようにして、小部屋の本棚の影に身体を滑り込ませると、壁を背にして座り込んだ。

 

「な、なんだったんだ……今の……」

 

 二人して肩で息をしているので、まずは呼吸を整える。

 

「分からない……警備員や司書、ではなさそうだけど……」

「だよな。マジで意味わかんねーし!」

 

 俺たちが遭遇したのは、本で出来たようなドレスを来た――黒いマネキンらしき女だ。

 てっきり図書館の関係者かと思って声を掛けたら、無言のままに追いかけてきた。

 

「漫画やゲームじゃないけど……化け物たちが利用する図書館とかに迷い込んだ?」

 

 ふと、思いついたことを口にする。

 大杉は一瞬だけ何を言ってるんだ? という顔をしたあと納得したような顔をした。

 

「……ありえねー! って言いたいけど、現状だと一番説得力あるなそれ!」

「その場合、人間に有効的な化け物たちであれば良かったけど……」

「初遭遇がこれだとな……見つからないように進んでくしかねーんじゃね?」

 

 それは大杉の言う通りだと思う。

 あのマネキンを思うと、見つかったら間違いなく襲われることだろう。

 

「出来れば地図も欲しいな。持ち運べなくとも、地図があるなら見ておきたいところだ」

「お前が冷静で助かるよ。オレだけだったらひたすらパニクってたぜ」

「それはお互い様だ。横に誰かいるから、冷静になれてるだけだし」

 

 俺たちはそう言って笑いあうと、呼吸を整え終えたので立ち上がる。

 

「頼りにしてるぜ嘉藤。生きて帰ろうぜ」

「ああ。こっちも頼りにしてるよ大杉」

 

 

 

 そうして――

 俺と大杉はなんとか一階のエントランスまでやってきた。

 

「ようやく着いたな」

「ああ」

 

 お互いに苦笑し合いながら、大きな蝶番の扉に手を掛ける。

 

「大変だったが、思い返せば良い想い出ってか」

「まだ脱出できてないのに気が早いな、大杉」

 

 ドアノブを回す。

 ちゃんと動く。これなら、扉を開けられるか?

 

「…………」

「嘉藤。そろそろ開けてくれよ」

「…………」

「うそだろ。おい……」

 

 だが、押せども引けども動く気配がない。

 

「ここへ来てカギとか解錠ギミックとか必要だったりすんのか?」

「……充分あり得るな」

「マジかよ」

 

 うんざりしたようにうめく大杉だけど、それは俺も同じだ。

 化け物たちから逃げ回りながら、ようやく辿り着いた入り口らしき場所。

 

 それが、単純には開けられないなんて思わなかった。

 

 ドアノブを調べてみたけど、これに問題はなさそうだ。

 

 鍵穴はない。

 そうなると、やはりゲームのような解錠ギミックが必要なのかもしれない。

 

 ここに来るまでにそういう仕掛けのようなモノも多少はあった。

 でも、どれも見ればすぐ分かるようなモノばかりだったから、油断してたな。

 

 そうやって俺が扉と睨めっこしていると、突然背後から大杉の悲鳴があがった。

 

「う、うわああああああ……!」

「大杉!」

 

 慌てて振り向く。

 

 すると、赤ん坊くらいのサイズの天使のような化け物が三匹。宙に浮きながら大杉を囲んでいる。

 

 本が羽にはったキューピッドのようなそいつらは、手に持っている玩具の弓矢のようなモノで、大杉に狙いを付けているようだ。

 

「やめろ!」

 

 思わずそう声を上げながら、そいつらの一匹に殴りかかる。

 

 背後からの不意打ち。

 ケンカはそこまで得意じゃないけど、間違いなく殴った感触があった。

 

 だけど、キューピッドは一度地面を転がりつつも素早く立て直すと、浮かび上がった。

 

 二匹は相変わらず大杉を、そして俺が殴った一匹は俺を見る。

 

 どうする?

 どうする?

 

 どうすれば大杉を助けられる?

 どうすればこの局面を切り抜けられる?

 

 必死に頭を巡らせていると、唐突にいつか見た夢の光景が脳裏に過る。

 

 ――現代(いま)を生きながらにして開拓者精神を持つ者よ

 ――苦楽を糧にし、困難に学び合う、隣人を救わんとする者よ

 

 心臓の鼓動が高鳴る。

 思わず、右手で心臓のあたりの胸を握る。

 

 熱い。苦しい。

 

 ――未知なる道に踏み入る勇気はあるか?

 ――この先、今より困難なる未開拓の地と出会う覚悟はあるか?

 

 脳裏に響くこの声は何だ?

 

 ――この場を切り抜けるチカラを欲するか?

 ――欲すればより深き困難と出会う運命を背負うだろう

 

 ……その深き困難ってやつと立ち向かってやる――そう言えば、この場を切り抜けるチカラが手に入るのか?

 

 ――チカラはチカラ

 ――得たチカラをどう使うかは汝しだいである

 

 詐欺みたいな言い回しだな。

 だけど、このまま大人しくやられてしまうのは性に合わない。

 

 ――承った

 ――己の心に 瞼の裏に浮かぶ チカラの形を口にせよ

 

 チカラの形?

 なんかよく分からないけど、剣とかそういうのか?

 

 ――これにて契約は成立した

 ――その(チカラ)、汝の心のままに振るうがよかろう

 ――さぁ、チカラに名を付けてやるが良い

 

 瞬間、明確に脳裏に過るものがある。

 頭の中に閃いたのは、七振りの剣。

 

 それぞれ色や形は違うけれど、七つで一つの剣だというのは分かる。

 

咎宿せし(セブンス・)……七剣(ソード)!」

 

 心臓から、剣が生える。

 俺はそれを引き抜く。

 

 憤怒に染まる真っ赤な剣が、俺の手の中にある。

 

 よく分からないけど……とにもかくにも、こいつで……!

 

 俺は目の前にいるキューピッドへ向けて、憤怒の剣を振り下ろす。

 

 剣はやすやすとキューピッドを切り裂いて両断した。

 血を流すこと無く地面に落ちたキューピッドは、そのまま黒いモヤに包まれて霧散していく。

 

「おお、かっけー……」

 

 大杉が何やらズレたことを言っているが、無視だ。

 

 仲間をやられたからか、大杉を見ていた二匹が明確な敵意を持って俺の方へと向き直る。

 

 好都合だ。

 ヘイトが俺に向いてくれるなら、大杉を守りながら戦う必要がない。

 

 ワイシャツの第二と第三のボタンを外し、目を覆うくらいには伸びている前髪をかき上げる。

 

「こんなところで意味も分からないまま死んでられるかッ! 来いッ、化け物ども!」

 

 剣道とか剣術とか、そんなものの経験はない。

 だけど、何となく剣が使い方を教えてくれている気がする。

 

 俺から見て右のキューピッドが体当たりをうるように近づいてくる。

 それを見据えて、俺は剣を横に振るう。

 

 あっさりとキューピッドを捉え、首を刎ねた。

 

 よし。

 小さくガッツポーズを取ると、残ったキューピッドが玩具のような弓矢を構えている。

 

「……っ!」

 

 矢は、放たれると同時に、ピンク色のオーラとハートを纏う。

 明らかに当たるのはまずい雰囲気に、俺は慌てて横へ跳ぶ。

 

 心臓が高鳴る。

 セブンスソードが使えるようになった時の熱のある鼓動じゃない。

 

 戦う術があっても、ここは命の危機ある場面だと実感したことによる恐怖によるもの。

 

 でも、ここで立ちすくんでなどいられない。

 俺がここで倒れたら、大杉だってやられてしまうんだ。

 

 この学校へ転校してきて、最初に声を掛けてくれて、色々と気に掛けてくれる――そんな良いヤツが、こんな意味不明なところで殺されてたまるかッ!

 

「おおおおお――……ッ!」

 

 自分でも無意識に声を上げる。

 キューピッドが弓矢を構える。

 

「うああああああ――……!」

 

 二発目は撃たせない!

 無我夢中のままに、俺はキューピッドに駆け寄ると、剣を振り下ろした。

 

 縦に切り裂かれたキューピッドは、黒いモヤに包まれて霧散しながら、地面に落ちる。

 

 地面に転がったモヤが完全に霧散すると、周囲が沈黙に包まれた。

 そして、その沈黙を破ったのは大杉だ。

 

「すげぇ! お前すげぇな!」

「いや俺も無我夢中で」

「その剣なに?」

「俺にもよくわからない」

「そっかー! でも助かった! カッコ良かったぜー!」

 

 明るい大杉のノリに、ようやく終わったという実感が湧いてくる。

 

「……大杉が無事で良かった」

 

 俺がそう告げると、大杉は嬉しいような困ったような顔をした。

 

「最初はオレだけが狙われたじゃん? お前、オレを見捨てて逃げれば助かったかもよ?」

「そうかもしれないけど、それは……なんかカッコ悪い」

「そっか。そっか!」

 

 何やら上機嫌に、大杉が俺の肩を叩きまくる。痛い。

 

 とはいえ、気持ちはひと段落だ。

 そうして気が抜けた途端、手の中の剣が消えていった。

 

「消えちまったのか?」

 

 大杉の問いに、うなずきかけて目を眇める。

 

「いや……上手く説明できないけど、心臓のところにまだある気がする……」

「心臓が鞘的な?」

「……たぶん?」

「最低限まだ戦えそうなのは良かったかもだけど、あんま無茶して欲しくはねーな」

「それはお互い様だろ?」

「そうかもな」

 

 俺たちは無事を喜び合い、安堵しあう。

 脱出する方法はまだ分からないにしろ、化け物と戦う為の最低限の手段が得られたのは大きい。

 

「あ、見つけたー!」

 

 そこへ、場違いに明るい女の子の声が聞こえてくる。

 

 エントランスにあるいくつかの扉の一つから、うちの学校の制服を着た小柄な女子生徒が軽い足取りでやってきた。

 

「うちの生徒じゃん! やった! ここってどこか分かる? 帰り道とか聞いていい?」

「いや少しは警戒しよう大杉。なんで生徒がいるんだ、とか」

 

 思わずそうツッコミを入れると、小柄な女子生徒は、あははははと苦笑する。

 

「そっちの人の言う通りだね。こんな化け物だらけの図書館なら、まずは警戒した方がいいよ?」

「でも先輩は化け物じゃないっしょ?」

「まぁね」

 

 先輩だったのか。

 転入してきたばかりの俺には分からないけど、何か目印でもあるのかもしれない。

 

「私が出てきた扉。あそこから伸びる廊下の突き当たり左側の部屋の中に、脱出ポイントあるから。帰るならそこからどうぞ」

「マジで!」

 

 大杉は喜んでいるけど、俺は少し疑問がある。

 

「先輩は?」

「私はちょっとここの調査をしてくかな」

「調査? 化け物がうろついているのに?」

 

 俺が首を傾げたタイミングで、エントランスに再びキューピッドたちが現れる。

 

「うえええ、また出た!」

 

 大杉は慌てた様子を見せるけど――

 

「本で出来た翼のクピードー……図書館だし、司書型とでも呼べばいいかな?」

 

 ――先輩は、彼らを見ても、特に慌てて様子はない。

 むしろ、精査するように観察しているようにも見える。

 

 ……調査、か。本当にそうっぽいな。

 

「おいで、祈りのストール」

 

 先輩がそう口にすると、天女の持ち物を思わせるストールが彼女の首元に現れた。

 

「行って!」

 

 続けて、先輩が手を掲げると、それに応じてストールが伸びていく。

 ストールはするすると伸びていくと、先輩が司書型クピードーと呼んだ化け物の額を貫き、黒いモヤへと変じさせた。

 

「おおお! 先輩すげーな!」

「ああ」

 

 事もなげに倒してしまった。

 気負いのようなものもない。怯えたり、怖がったりというのもない。

 

 ごく自然に、倒すべきものを倒した――とでも言うように。

 

「おっと。思ってた以上に弱いや。これなら、レベル1と言ってもいいくらいかも」

 

 レベル1。

 恐らくは、このクピードーという奴らの強さ……だろうか。

 

 これらを先輩がそう呼ぶということは、本当にこういうところに馴れているのだろう。

 

「大杉、行こう。これ以上ここに留まったら先輩の邪魔になる」

「それはそうだけど……先輩! 何か色々教えてくれません?」

 

 大杉がそう声を掛けると、伸ばして剣のように固めたストールで司書型クピードーをまとめて切り裂き終えた先輩がこちらに振り向く。

 

「脱出口はとある神社に通じてるから、そこの神主のモノさんに聞いてみて。

 モノさんが、あなたたちに対して語るに値すると思ったのなら、教えてくれるよ」

「いや先輩は教えてくれないんすか?」

 

 教えてくれない――というか、恐らくは教えている暇がな……が、正しい気がする。

 

「大杉いこう。そのモノさんって人に教えてもらえるなら教えて貰えば良いし、ダメなら改めて学校で先輩に聞こう」

「……そっか。そうだな」

 

 俺の言葉に、大杉はうなずいた。

 

「先輩! さんきゅーでした! オレらは行きます!」

「うん! 二人とも最後まで油断しないでね! そこの廊下にもピースたちは出てくるから!」

 

 ピース――というのは、化け物たちのことだろう。

 

「わかりました。先輩も気をつけて!」

 

 そうして俺たちはエントランスから脱し、先輩に教えてもらった部屋へと辿り着くと――

 

「こんなお洒落なカフェみたいな部屋に、なんで鳥居があるんですかねぇ……」

「分かりやすくていい」

「確かに。明らかに異物って感じだしな」

「行くだろ?」

「もちろん」

 

 俺と大杉はうなずきあうと、その鳥居を一緒にくぐった。

 

 光に包まれ、視界が開けると――そこは、どこかの神社の雑木林の中だった。

 

 





【TIPS】
 正史(ゲーム)では先輩の乱入はなく、戦闘後にクピードーのおかわりが群れできたので、唯一カギの空いていた扉から廊下に出て逃げる途中、鳥居のある小部屋を見つける流れになる。
 ……というのは鷲子が前世でやりこんでいた無印版の話。

 ゴールドラッシュ版では、今回のように雨羽 霧香が脱出ポイントを教えてくれるイベントが追加されている。

 ゴールドラッシュ版の存在を知らない鷲子は、当然知り得ない話である。

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