フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
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――4月9日。金曜日。放課後。
元端さんに会えるかと思って図書室の周囲の様子を伺ってましたが、来ませんでしたね。
これは別の機会にした方が良さそうです。
さて、そうなると――図書室で何か借りて帰りましょうか?
……あー、いや。図書室に入ったらメイズに迷い込むとかになったら嫌ですね。
脱出先が濡那原神社となると、荷物を学校に置いたまま迷い込むのは、ちょっと面倒です。
素直に帰りましょうか。
私は小さく息を吐くと、
そして教室までの道中――
階段の踊り場で完全に想定外の事態が発生です!
「あ、あの……!」
「はい?」
完全に偶然でしかないのですが、嘉藤さんとすれ違ってしまいました。
まぁ気にせず通り過ぎればいいかな――などと思っていたのですが、まさかの声かけ発生です。
HEROがこのタイミングで私に声を掛けてくる理由ってあります? ありませんよね!?
内心は完全にテンパっていますが、そのあたりはお嬢様教育の賜物を発動。
表面上だけでも務めて冷静に取り繕って返事をします。
「その、この間……カードショップの『サム・スタァ』にいたよね?」
「え?」
……あ。
嘉藤さんが声かけてくる理由が充分あったじゃないですか!!
ミステリアスヒロインムーブしちゃった結果がこれですよ!?
あー……どうしましょう。
変に冷めた反応をするのも違う気がしますし、ここで肯定するとどういうフラグになるかもわかりませんし……。
このまま嘉藤さんに対するミステリアスヒロインムーブを貫くのが一番の安パイな気がしてきましたね。
……ところで、ここから出来るミステリアスヒロインムーブって何ですかね!? わかりません! どうしましょう!?
こちらが平静を装ったままテンパっていると、嘉藤さんは慌てた様子で言ってきます。
「ああ、えっと! ナンパとかじゃなくて……その、えーっと」
完全にナンパなカンジもしますが、こちらとしては何を言って良いのか分からないので、勝手に喋ってくれるのは大変助かります。
「もし良かったら、俺と……対戦! してくれないか?」
対戦?
「ストリートファイトの申し出でしょうか?」
「ストリートファイト!?」
あら? 違いました?
「対戦っていうのは、
「……ああ!」
完全に頭が華燐さんになってましたね。
そりゃあ一般的な高校生男子なら、そういう方向です。むしろこっちの方が健全です。
作中世界において、様々な並行世界を渡り歩く
つまり、単純にスターランドマジシャンズで対戦したいというお誘いなのでしょう。
……これはこれで、なんか妙なフラグが立ってる気もしますが。
「ストリートファイトとか、してるの?」
「…………完全な否定はできませんね」
変な墓穴を掘った気がします。
とりあえず、話をストリートファイトから少し逸らしましょうか。
「ところで、どうして私をお誘いに?」
「その、この学校……あまり、スタマジやってる人がいないっぽくて」
「ああ」
HEROこと嘉藤さんは、家の事情で引っ越しが多いので、友人を作るのが得意ではないという設定がありましたね。
いつか別れるかも知れないから、線引きをしてしまう――的な。
スタマジで軽く遊ぶだけの一時的な関係なら、後腐れ無く別れられる……みたいに考えているところが、あるのでしたっけ?
チラリと顔を伺うと、かなり真面目な表情をしています。
この世界のHEROはスタマジのガチ勢なのでしょうか?
本来の絆の結び方とは異なってしまう気がしますが、人と多くの友誼を結ぶと強くなるのが、HEROの能力だったはず。
そして正史通りであれば、嘉藤さんは今日これから大杉さんと図書室メイズへともう一度侵入し、今度は大杉さんが覚醒するタイミング。
この後に対戦するのは得策ではないでしょう。
となると、土日となる明日か明後日。
明日、明後日は
現実となっているこの世界で自由時間のチュートリアルも何もない気はしますが……。
そうなると――ふむ。
HEROのシナリオや成長を邪魔せず、それでいて誘いに乗れるタイミングがあるとすれば、明日の午前中でしょうか。
「どうしても、というのでしたら明日の午前中。サム・スタァでどうですか?」
「え? いいの?」
パァと顔を輝かせる感じは、何ともワンコを思い出す可愛さがありますね。
……ハッ!? いけません。HERO補正のような影響を受けてどうするのですか、私!
「午後は用がありますので、午前中くらいしかお相手できませんが」
「いや、充分! 急に変なコト言ったのに、受けてくれて嬉しい」
「まぁ私も時々は対戦相手が欲しくなる時がありますので、気持ちはわかりますから」
とはいえまぁ、まぁ現実となってるこの世界では、チュートリアルも何もないでしょうからね。
「では、明日。サム・スタァで」
「ああ!」
頭を下げてその場を後にすると、嘉藤さんは嬉しそうに手を振ってきます。
……なんでしょう。雨に濡れた犬に懐かれた気分がします。
あと、本当にこれで良かったのかも分かりません。
テンパって判断ミスったかもしれませんが、あとの祭りってやつです。
でもこれ――HEROとの恋人ルート回避どころか、ちょっと一歩踏み込んじゃったりしてませんかね??
【TIPS】
スターランドマジシャンズは、フロアク世界では人気のカードゲーム。世界中にプレイヤーがおり、世界規模のプロツアーまで存在している。
とはいえ、ホビーモノ世界ではないので、カードゲームが世界を牛耳ってたりはしないし、一般教養とかになっているワケでもなく、ふつうのカードゲームである。
なので、人気とはいえ知らない人や触らない人からしたら、何ソレ扱い。
女性プレイヤーはあまり多くないのもあって、本人の知らないところで鷲子はサム・スタァのアイドル扱いされていたりする。