フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
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――4月11日。日曜日。
今日は、ゲーム上だと武器や防具の調達先になる玩具屋さんに会う日ですね。
ゲーム通りであれば、一昨日の夜に覚醒を果たした大杉さんが、主人公である嘉藤さんを誘って遊びに出掛けた先で見つけるお店だったはず。
あとあとで判明するのですが、個人経営の怪しい玩具屋さんの店長さんは自作で色んなモノを造るのが好きな方で、実は現時点で開拓能力に覚醒しているんです。
その能力を使って、ピースを倒した時にドロップする素材や、メイズの中で手に入る素材などを融合して武具に換えているそうです。
まぁだからってなんで、ノリと勢いで武具を作ってくれてるんだ? という疑問は一定数ありますが、たぶん作るのが楽しいんだと思います。
そのうち、エクスカリバーとかムラマサとか、ゲイ・ボルグという名称の武器まで作り出しますが、あくまで店長さんがそう名付けただけのアイテムであって欲しいところ。
さておき。
嘉藤さんたちは、玩具屋の帰りに
ディオナさんの能力の影響で前後不覚になっているのを見つけ、彼女を家に送り届けるというイベントがあるワケです。
これに関しては特に、私が介入する必要のないイベントですし、のんびりとした休日を過ごせそうです。
学校内で出回っている以外に情報のない謎のアプリの調査に関しては、休日にできることが少ないですしね。
――4月12日。月曜日。
昨日は久々に、勉強と鍛錬、それから自由時間を満喫した気がします。
自宅でちゃんとのんびりする……というのも良いですよね。
前世の、仕事と仕事の合間に泥のように眠って休日が終わるような日と比べると充実感が違います。
さて、今日も私が介入してどうこうというイベントはありませんから、放課後に軽く様子見するくらいでいいでしょう。
むしろ謎のアプリの方の調査を進めたいところですが……。
そんなことを考えながら、今日の授業は終わりました。
めいめい放課後へ向けて動き出すクラスメイトたちと同様に、私も帰りの支度をしていきます。
「シューコちゃん、ちょい良き?」
「華燐さん? どうしました?」
教科書やノートをカバンへしまったところで、華燐さんが声をかけてきました。
「いやさ、ちょいと確認したいんだけど」
「?」
私が首を傾げていると、華燐さんは少し踏み込んだ距離まで近づいてきて、耳打ちするように訊ねてきました。
「最近、ガッコだけでなく近隣の町で前後不覚になってる人が結構いるっぽいんだけど。これ、放置でよさげ?」
「む」
順調に物語は進んでいるものの、それで落ち着けているのは私が事前にネタバレをしっているからにすぎません。
華燐さんからすれば不穏なものを感じていることでしょう。
さて、どう答えるべきか……。
「とりあえず、ですけど――アプリの方の影響とは異なる気がします。学生以外にも被害者が出てるなら」
「じゃあ、図書室関連?」
「そうではないかな、と」
小さな声でそうやりとりしたあとで、これはちょうど良いタイミングだと気がついて、私はいつもの声量に切り替えます。
「あ。謎のアプリなんですけど、やっぱりあれちょっと怪しいですね」
私が、ナイショ話の声量ではなくふつうの声量で口にしたので、華燐さんは距離を戻しました。
むしろ、こちらの意図を察したのか話を合わせてくれるようです。
「そうなん? いやまぁ勝手にスマホの中に入っているなんて、怪しい以外のなんでもないんだけどさ!」
それどころか、敢えて注目させるようにやや声を大きめにして反応してくれました。
おかげで、まだ教室に残っている人たちからは注目されています。
「まだ確定ではないですけど、ウィルスみたいな端末をどうこうするようなモノではなく、サブリミナルとか電子ドラッグのような、光と音などを用いて利用者になんらかの作用をもたらすモノが仕込まれている可能性もありそうですよ」
私も華燐さんに合わせて、少し声を大きくします。
これ以上、大きくするのはさすがにわざとすぎる程度のモノですが。
その辺りは、華燐さんが自分のキャラを利用して声を大きくしてくれてるので助かります。
「んじゃあ、やっぱり起動しないのが正解っぽいねぇ……ウィルスだって仕込まれてないと断定はできてないっしょ?」
いそいそとスマホを操作しはじめる人たちが増えてきました。
「はい。なんならウィルス的なプログラムを用いて、謎のアプリを起動しなくてもログインした時点で端末全体に、サブリミナル効果のような無意識下に働きかける、人間が知覚できない音や光を放つようなモノを常時発するよう書き換えられてしまう可能性だってありますしね」
「なら、勝手にインストールされているのに気づいたらとっとと消すのが正解?」
「それでいいと思います。インストールされるのはあくまでも、本命のSNSをダウンロードする為のツールのようですので」
「下手したら、情報取られてそーゆーサブリミナル的なの押しつけられて、やられたい放題もありえるよね?」
「もちろん」
これで、噂が広まって被害が小さくなればいいんですが……まぁ期待薄でしょう。
「もしかして、起動しました?」
「してないしてない! あんな勝手に入り込んでくる怪しいアプリなんて起動するバカいないっしょ!」
ケラケラと笑ってますけど、先日のやりとり――私は覚えてますからね。
なんであれ、この場ではそのリアクションがありがたいのは間違いありません。
「あ、そだ。シューコちゃんも、もう帰るっしょ? 一緒しない?」
「構いませんけど、先に図書室に行っても?」
そう答えると、華燐さんは目を眇めて声を小さくしました。
「懲らしめに?」
「いえ、純粋に本が借りたくて」
「そっかそっか。じゃああたしはちょっと購買行ってお菓子買ってくるから、終わったら連絡よろ~」
「了解です。あ、連絡なかったらメイズに飲み込まれた可能性が高いので、適当なタイミングで帰ってくれてOKです」
「それって避けれるやつ?」
「どうなんでしょう……能力者が全員、図書室メイズに飲まれるワケではなさそうですしねぇ……」
「能力者でなくても飲まれるよね?」
「それはまぁ、ハイ」
「拠点にしている場所が迷惑すぎない?」
「否定はしませんが、本人の思い入れや感情によって拠点が決まるので、不可抗力ではないかと」
そんなやりとりをしながら私はカバンを手にしました。
「それでは華燐さん、またあとで」
「は~い。またあとでね~」
華燐さんと別れて図書室へと向かうと、その入り口の前で男子生徒の背中から本を取り出している
そして、その男子生徒は急にぼーっとしたと思ったら、即座に正気に戻ります。
しかし何が起きたのか分かっていないのか、キョロキョロとした様子。
草薙先生のマイマイに記憶を取られた時の感じに似てますね。
前後不覚というのは、やはり彼女が原因で間違いないでしょう。
学校だけでなく町でもそういう話があるというのであれば、彼女の興味を引いた人は、記憶の本を抜き取られているので間違いなさそうです。
……町の方の何件かは、草薙先生のマイマイによる仕業な気もしますが、ここは敢えて触れないでおきます。
さておき。
本来は霧香先輩の仕事だったはずですし、場所もここではなかったと思いますが――まぁ見つけてしまったのは仕方がありません。
廊下の向こうに嘉藤さんの姿も見えますしね。
私がやっておくべきでしょう。
小さく息を吐いてから、私は彼女に声を掛けました。
「元端さん」
「あら? 十柄さん?」
「先ほどの男子に何をされたんですか?」
「何の話かしら?」
あくまでとぼけるようですが、さすがに誤魔化すのは難しいと思います。
「元端さんが彼の背中に手を伸ばしたあと、彼の様子がおかしくなっていました。
さすがに元端さんが何かをしたようにしか思えないのですが?」
「…………」
彼女の目が細く眇まり、不機嫌そうな眼差しをこちらへと向け始めました。
「最近、校内で増えているという前後不覚事件……もしかして元端さんに関係あるんですか?」
「…………」
元々、本以外のことにあまり興味がないのが彼女です。
ビブリオフォビアとでも言うのでしょうか。
前世で見た設定資料集によれば、本を読む以外にも本を愛でることが好きだそうです。
故に、本に関連する事柄を邪魔されると非常に強い怒りと嫌悪を見せるというそうですが――なんとなく、実感しています。
「すごいのね、十柄さんって。
たったあれだけの動作から、不自然さを見抜くなんて。しかも、推測の部分に超能力が存在している可能性を廃さずにいる。
まるで、オカルト要素の強い伝奇系ミステリの主人公みたい」
「その言い回し、自白と見ていいですか?」
主人公は私ではないんですけどね。
オカルト要素の強い伝奇系ストーリーという点については、まぁ間違ってもいません。
「でも、気をつけた方がいいわよ? その好奇心。猫を殺しちゃうかもしれないから」
「その程度の脅しに怯むとでも? 殴る蹴るの純粋な暴力なら、得意ですから。本当に貴女に異能があるのだとしても、見た限りは相手に直接触れる必要があるのでしょう?
触られないように立ち回って殴ればこちらの勝ちです」
これは事実です。
この場で叩きのめして解決しないのは、ストーリーの破綻を防ぐためと、ラスボス等のやばい相手への勝ち筋を増やすためでしかないワケですしね。
それでも、能力の暴走の影響か強気に危険な言葉を口にしました。
「鬱陶しいわね。貴女の記憶の全てを全部本棚にしまってやろうかしら? 前後不覚なんてレベルじゃない。やろうと思えば貴女程度廃人にしてやれるのよ?」
そのセリフを待ってました。
多少違いはありますが、ゲーム上で霧香先輩に言った言葉ですね。
そして、私たちの言い争いを少し離れた場所で様子見している嘉藤さんに目撃されている――と。
でも言われっぱなしもシャクなので、ちゃんと反論しておきます。
「その異能不必要に人へ振るい続けるのであれば、こちらも相応に対処しますよ?」
宣言とともに、私は自分の髪の毛の中に
彼女にだけ見えるように伸ばした荊のツルに、赤いバラをいくつか咲かせ、こちらも異能者であることをアピールです。
そして、その気になれば元端さんに巻き付けたり、たたき付けたりできるのだとアピールするように、少しウネウネさせました。
「あなた……」
「忠告はしました。元端さんが懸命な判断をするコトを祈っておきます」
荊を髪の中に戻すように消すと、背を向けて、私はそのまま階段を降りていきます。
「…………」
背後では立ち尽くすようにこちらを睨んでいる元端さん。
やるだけのことはやったので、ヨシとしましょうか。
肝心の本は借りれませんでしたけど、この状態で図書館に入って本を借りるのも何かカッコ悪い気がしますので、素直に帰るとしましょう。
とりあえず、華燐さんにメッセージを飛ばさないと、ですね。
【TIPS】
実は元端ちゃん、髪の毛の中からバラが出てきたことに割とビビってた。
能力者に覚醒した上、暴走兆しで気が大きくなり尊大になっていたところで、根っこは暴力無縁の図書委員系文学少女だったので。
でも、彼女は止まらない。
本になった人の記憶に触れてしまったから。人の記憶を本で読むという楽しさを知ってしまったから。
記憶の先、魂そのものを本に変えて読んで、本棚にしまい込みたいと思うのは必然だった。
とても大切な幼なじみである彼も、魂を本に変えて本棚にしまってしまえば、いつまでもずっと一緒にいられるでしょう?