フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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21.草薙つむり と マイマイ・メモリーズ

 

【View ; Tumuri】

 

 その日の朝は、いつも通りの朝だった。

 

 目覚ましが鳴って、ベッドから降りる。

 大学やバイトがあるならモゾモゾしてたものの、今日は日曜日だ。ニチアサを見るためには飛び起きる必要があった。

 

 見終わったら、適当に家にあるものをお腹に納めて着替える。

 デフォルメされた可愛いカタツムリが描かれたトレーナーに、よれちゃいるけど結構暖かい冬の大事な味方であるブルゾン。元々はダメージ0だったはずなのに、軽度のダメージが綺麗についているジーンズ。

 お洒落なんて特に気にしちゃいないけど、お気に入りになっているカタツムリモチーフの洒落たピアスを付けて準備完了だ。

 

 いくつか文具が欲しいし、新しいネタが欲しかったので、のんびりだらだら外出だ。

 

 あまり事故を起こさない範囲で、あたしの可愛いマイマイちゃんたちに素敵なネタを集めて貰おう。

 

 そう。それが、作家・草薙つむりであり、女子大生で邑雲(ムラクモ) 白瀬(シラセ)にとっては、いつも通りの日曜日。

 

 ……そのはずだった。

 

 

 桜谷駅にある駅ビルで遅めのランチと買い物を済ませ、帰りのバスへと乗る。

 

 そしてバスが発進してしばらくしてから、コ・マイマイちゃんを呼び出して車内に放つ。

 

 あたしのでんでん虫の記憶研究室(マイマイ・メモリーズ)が集めるのは人の記憶だ。

 黒い子が一番数多く呼び出せるし使いやすいんだけど、記憶を拝借する時に、ターゲットがちょびっと前後不覚になっちまうのが玉に瑕。

 まぁ、それほど問題になるようなモンじゃあない。完全に消えちまうわけじゃないし、キッカケがありゃ一瞬で元に戻る程度だしな。

 

 ともあれ、マイマイ・メモリーズを放つところまではいつも通りだった。

 なんてことのない顔をしている乗客の中にはとんでもない秘密を抱えたりしてる奴もいて、ネタの収集には事欠かないからな。

 

 でも、今日はちょいといつもと違った。

 

 最後尾の席の両端に座っている女の子が二人。

 天井を這うコ・マイマイちゃんに気づいている子が乗っていた。

 

 マイマイ・メモリーズを見ることが出来る奴ってのは、だいたい似たような能力を持っていることが多いし、能力を持ってるってことは面白い体験をしてることが多い。

 最高のネタの宝庫が二人もいるなんて、ツイてる日だ。

 

 ところが、ポニーテールの子を狙った時、うっかり彼女の友達の肩に乗っちまったのが失敗だった。

 ポニーテールの子は、コ・マイマイちゃんを振り払った。

 

 ちょいと、痛い。

 コ・マイマイちゃんとあたしの痛覚は連動してるもんだから、はたき落とされたダメージが結構あって、頭がクラクラする。

 

 だからこそ、反応が遅れちまった。

 逆サイドに座る髪の長い子が自分の左腕を植物に変えて、コ・マイマイちゃんを捕まえちまったんだ。

 

 咄嗟に、コ・マイマイちゃんの数をわかりやすく増やして、注目させて、その死角から彼女の記憶を雑に読みとる。

 

 本格的に読みとるのではなく、彼女の意識を一瞬だけ奪うのが目的だ。

 そうして緩んだ彼女の左腕の拘束から、慌てて逃げ出させる。

 

 彼女の記憶を読みとったコ・マイマイちゃんを手元へと呼び寄せると、その背のインク壷を開けて、白紙のノートにインクを垂らした。

 

(おいおい……マジかッ!)

 

 雑に読みとっただけながら、最高のネタが見えた。

 まるで物語の主人公のような人生を歩んでいる少女だと理解する。

 

 ノートに垂らされたインクが自動で文字を作り、彼女の記憶を表記していく。

 拾い読み程度の記憶ながら――

 

 ・前世の記憶

 ・この世界をゲームとして体験済み

 ・静かに栄える植物園

 ・VSヘアー&エイリアン

 ・HEROとは絶対イチャイチャしたくない!

 ・だけどこの街は守りたい

 

 など、箇条書きされていくじゃないか!

 

 何だ、前世の記憶って!

 この世界をゲームとして体験だって?

 

 今、流行の転生モノの主人公じゃあるまいし!?

 やべぇ……もっとネタが欲しい!! この子の記憶をもっと読みとりたいッ!!!

 

 マイマイ・メモリーズ。

 黒ちゃん八体。

 白ちゃん四体。

 赤ちゃんは――まぁ一体しか使えない特別なのだから、待機かな。

 

 さてさて――彼女には悪いけど、たっぷり記憶を覗かしてもらいますよ。

 そう思った矢先、バスの中で急ブレーキの音が響き、衝撃が走り、バスが横転しやがった……!

 

 

 強い衝撃と、自分がどちらを向いているのか分からない混乱。

 そんな中でも、コ・マイマイちゃんたちを呼び寄せて、自分が何かに挟まれ圧死しないようにする。

 

 痛みはあるが、死ぬよりマシだ!

 

 そうしてあたしが目を開けると、太い枝のようなものが巻き付いていた。

 

 さっきの女の子の……!

 あの状況で、乗客全員を守ったのか……。

 

 何だ、その主人公じみた行動ッ!

 

 思わず彼女の様子を伺おうとしたものの巻き付いている枝のせいで、身動きがとれない。

 そこで、あたしはコ・マイマイちゃんを一匹出撃させる。

 

 その一匹と視界をリンクさせた。

 これやっちゃうと、自分自身の目ではまともにモノを見れなくなっちまうんだけど、ちょっとだけちょっとだけ。

 

 そして、植物使いの女の子の状態を見て、あたしは頭を殴られたような気分になった。

 ……ちょっとばっかし、浮かれ過ぎてたぜ。

 

 頭から血を流し、今にも意識を失いそうな状況で、それでも賢明に能力を維持しているんだもんな。

 しかも不安定な枝にもたれ掛かった状態でだ。

 

 あのまま落ちたりしたらケガしちまうだろッ!

 

 そう思って、あたしはコ・マイマイちゃんたちを複数出撃させる。

 

 すると、最初に目を付けていたポニーテールの子が、コ・マイマイちゃんのうちの一匹に触れた。

 

 次の瞬間――触られたコ・マイマイちゃんが一回り大きくなった上に、力が増したのを感じる。

 

 これなら、このコ・マイマイちゃん一匹でも人を一人支えられるッ!

 

 そう思った時、あたしを――あたしたちを支えていた枝が弱っていき、徐々に彼女の元へと戻っていく。

 

 意識がもう持たないのか……ッ!

 早く助けないと――そう思った時、植物使いの子の髪が不自然にうごめき、まるで髪の毛が意志を持っているかのように動いて、窓の外へと飛び出していく。

 

 どう考えたって、あの子の能力とは無関係の髪の毛の動き。

 彼女の能力名は静かに栄える植物園という名前のはずだ。

 髪の毛が動くにしろ、さっきの左腕のように植物の姿に変じなければおかしい。

 

 どうしたもんかと思っていると、ポニーテールの子が窓を目指してよじ登っていく。

 それをサポートして、窓の外まで連れていくと、しばらく悩んでから、意を決したように彼女は叫んだ。

 

「やめなッ、さぁぁぁぁぁぁぁいッ!」

 

 そうしてポニーテールの子は、バスの縁から飛び降りる。

 

「まったく、どいつもこいつも主人公しすぎだろ」

 

 思わず口から言葉が漏れる。

 子供ががんばってるのに、能力持ってて動ける大人のあたしがダラダラしてるワケにもいかねーな。

 

 あたしはコ・マイマイちゃんたちの基地にして、あたしの能力の大本であるビッグ・マイマイちゃんを傍らに呼び出す。

 そして、ビッグ・マイマイちゃんの触角を掴んだ。

 

 それを天井に向かって伸ばしつつ、別の触角で窓を開けて、バスから外へと飛び出す。

 

 同時に、ビッグ・マイマイちゃんの殻から、赤いコ・マイマイちゃんを一匹取り出すと、何故か黒服のお姉さんの足に蔦を巻き付けている植物使いちゃんに向かって投げる。

 

「……チッ。あっちのヤローに何かされてんのか」

 

 赤ちゃんだけは例外的に、ノートへインクを落とす必要がない。

 一度、読みとった相手であれば、即座にノートへ情報を書き出せる。

 

 ・状態:洗脳(ヘアー&エイリアン)

 ・髪の毛様のために。髪の毛様のために。いたい。髪の毛様のため。頭がぼーっとする。髪の毛様のために。みんな無事かな。私は何をしてるんだろう。髪の毛様のために。髪の毛様のために、髪の毛様の手入れのために、錐咬香兵に従わないと手入れ……してもらいたく……もらわないと。

 

 その書き出された内容にヘドが出る。

 抗ってる様子が伺えるけど、頭を打ってる上に、意識も失いかけてるもんだから、抵抗できてない。

 

 あの髪の毛の塊みたいなモンを操ってる能力者の影響だろうけど、さすがにこれはない。

 髪の毛至上主義化みてぇになってるじゃねぇか。そのために知り合いに能力を使うことを躊躇わないってのはないだろ。

 

 ざわり、ざわり……という感覚が全身を巡り出す。

 

 あたしは躊躇うことなくメガネを外し、眼下を睨む。

 

 まともなケンカなんざ高校ン時以来だけどさぁ……でもよォ、久っ々にガチで人をブン殴りてぇって思っちまったじゃねぇか。クソが。

 

 




【TIPS】
 草薙つむり先生はカタツムリグッズを好んで集めているものの、本物のカタツムリそのものに対してはそこまで……らしい。
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