フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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29.第一メイズ:髪河物語

 

 スタッフオンリーの札の掛かった扉をあけると、そこは文字通りの桃源郷のような場所でした。

 

 緑豊かで、穏やかな風が吹き、満開の桜の木々が立ち並ぶ田園のような風景。

 そこだけなら間違いなく桃源郷と言えるでしょう。

 

 ただ――

 

「この風景で流れる小川の中で、水草や海草のように揺蕩(たゆた)ってんのが髪の毛ってのはシュールだな」

「そっちは川の中だからまだマシですよ。あっちの桃の木。

 花に紛れて実ってるやつ……桃じゃなくて桃の形に束ねられた髪の毛ですよ……」

「風に揺られ穂波を立ててる小麦畑が黄金と黒の二色が交互になっているようだが……黒い畑は髪の毛のようだぞ」

 

 とまぁ、そんなノリの場所なワケで……。

 

 草薙先生の言う通り、かなりシュールな場所なのです。

 

「質の良い髪の毛に触れたり吸ったりすると心が落ち着くと、以前言っていましたから、ここはそういう心情が迷宮化した部分なのでしょう」

「……それってさ、ここに生えてる髪の毛、全部が鷲子ちゃんのモノなんじゃ……」

 

 ぼそりと呟く草薙先生。

 私は思わず顔をひきつらせます。

 

「……考えたくありませんので聞かなかったコトにします」

「おう。そうしてくれ」

 

 自分で口にしていながらも、何とも言えない顔になっている草薙先生と共に嘆息しました。

 

 

 

 それからしばらく、幅の広い畦道(あぜみち)のような場所を歩いていると、茂みの中から影が飛び出してきます。

 

 その数、三体。

 全部、同じ敵ですね。

 

「どうやら、お嬢様の言うピースなるモンスターが来たようだ」

 

 出てきたのはいわゆるキユーピー人形のようなピースです。

 背中の羽は大きく、弓矢を携えていて、キユーピーというよりもキューピットの人形が動いていると言った方が正しいかもしれません。

 

「クピードー型のピースのようですね。

 メイズの影響を受けやすく、その場所によって姿や攻撃方法が変化するピースです」

 

 私自身がみんなに説明する通り、ゲームの時はクピードー型と呼ばれていたピースです。

 ピースは、メイズにあわせて、その姿や格好、そして戦闘力に変化するのですが、このクピードー型は特にそれが顕著なタイプだったはずです。

 

 この桃源郷のクピードー型は、背中の羽は黒く、質感や雰囲気は完全に髪の毛なのが何とも言えない気分になりますが。

 

「そんじゃあ、まぁ――初バトルと行きますかッ!」

 

 草薙先生は楽しそうに声を上げると、マイマイ・メモリーズのビジョンを呼び出します。

 先ほど私がしたアドバイスの通り、ビッグ・マイマイを人型で使うようですね。

 

 私も家から持ってきた、本物の小太刀を抜き放ちます。

 

「では、参りましょうか」

 

 ゲーム中では、弓がメインでサブが刀剣だった私ですけど、ゲームと違って戦闘中にあれこれ持ち変えるのが難しいので、メイズに持ち込むのはどっちかだけにしようかな、と。

 

 ともあれ、私が構えると、クピードーたちが一斉に手にした弓を構えます。

 

 それを見据えながら、私は姿勢を低くして地面を駆けて、踏み込みからの切り上げ一閃。

 一番左のクピードーは、私の小太刀に切り裂かれ大きな傷が刻まれます。

 

 それでも、クピードーはこちらに向けて弓を構えます。

 よく見ればつぶらな瞳は血走っていて、狂気に満ちているようで――

 

(錐咬の心象の影響を受けるとなると、狂いもしますか)

 

 だからといって手を抜く気はないので、私は続けて横一文字にクピードーを切りつけました。

 

 十字を刻まれたクピードーは錐揉みしながら吹き飛んでいき、地面に落ちるとガラスが砕けるように光のカケラになって消えていきます。

 

「まずは一体」

 

 私がそれを口にすると、残る二匹のクピードーが同時にこちらへと矢を向けました。

 でも、それが致命傷。

 

「おいおい、あたしとのデート中に別の女を見るんじゃねぇよ」

 

 わざとらしい口調でそう告げると、草薙先生のビッグマイマイは頭上で拳を二つ合わせにしたスレッジハンマーを振り下ろします。

 地面に叩きつけられたクピードーは目を回しているかのように、グッタリと横たわりました。

 

 私の攻撃によって倒されたピースは光のカケラになって砕けると理解したであろう草薙先生は、倒し切れてないと判断したのでしょう。

 軽く跳び上がると、クピードーの頭部へ向けて、全体重をかけたカカトによるストンピングを繰り出しました。

 

 頭部が踏み砕かれると、一瞬遅れて身体も砕け散り――その様子を見ながら、先生はヨシっと小さく笑みを浮かべます。

 

 ラストにもう一体――と、そちらへと意識を向けると、残った一体は地面に仰向けに倒されており、その腹部に和泉山さんは足を乗せて押さえ込んでいました。

 

「霧香。この銃に祈りを付与できるか?」

「やってみます」

 

 言われた通り、雨羽先輩はストールで和泉山さんのオートマチック銃に触れます。

 直後に、銃が淡い光に包まれるのを見て、和泉山さんは満足そうにうなずきました。

 

「ふむ。これならどうだ?」

 

 そう呟くと、地面に押さえつけていたクピードーへ向けて二発連続で打ち込みます。

 頭部に二発の穴が開いたクピードーは、僅かな間のあとで、光のカケラとなって消えていくのでした。

 

「霧香の協力があれば、わたしもメイズ内で充分戦えそうですね」

 

 そう嬉しそうに報告する和泉山さんの顔は――なんといいますか、どこかバトルジャンキーを思わせるようなものだったことを、記しておきます。

 

 

 





【TIPS】
 ゲームでは、ピースを倒すと、アイテムをドロップする。
 その多くは換金アイテムで、変わり者の芸術家が買い取ってくれるので、それでお金を稼ぐのが基本スタイルとなる。
 現実となっているこの世界で、そのような存在がいるかは不明。


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 本作と似たような世界観でJDが主役のモノも書いております
 本作よりもアクション控えめでエログロホラー方面へやや寄った作品です
 ご興味ありましたら、よろしくして頂ければ幸いです

 コミック・サウンド・スクアリー
 https://syosetu.org/novel/316176/

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