フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

3 / 112
パパ視点のお話です


3.俺の娘

 

【View ; Kensei】

 

 鷲子が突然倒れたと聞いて、心臓が竦む思いだった。

 

 妻である美鳩は、五年前の事故で先立っている。

 その事故の原因をずっと自分のせいだと責め続けているのか、鷲子はそれ以降、内気で暗めで、やや引きこもり気味の子になってしまったのだ。

 

 だが、それでも、鷲子は生きていてくれたことを、俺は嬉しく思っている。

 

 どんな子に育っても良い。

 生きていれば――いつか自分を許せる日が来るだろう。

 

 そのいつかを切実に願い、そして今日を生きていてくれることに無情の喜びを得る。

 例え言葉を交わすことが出来ない日があろうと、そう願い続けることこそが、俺の生き甲斐でもあった。

 

 鷲子に必要のない苦難は、可能な限り俺が退ける。

 常日頃、そう思っている俺の元へと届く、鷲子が倒れたという連絡。

 

 余りにも気が気でなくて、それが仕事をする姿にも現れていたのだろう。

 秘書の熊谷(クマガイ)が、こちらを気遣うように微笑んだ。

 

「会長。後のコトは引き受けます。様子を見に行かれてください」

「すまない。可能な限り早めに戻る」

 

 

 そうして慌てて自宅へと戻り、迎えてくれたお手伝いの藤枝(フジエダ)に、様子を訊ねる。

 

「お呼びしたお医者様の診断では、疲労とストレスによる一時的なものだと」

「そうか……」

 

 俺がうなずくと、藤枝も不安げな顔をする。

 ストレス――その要因が、何となく見当がついているのだろう。

 

「少し、鷲子の様子を見てくる」

「はい」

 

 手荷物を藤枝に手渡し、俺は家の二階にある鷲子の部屋へと向かった。

 

 ノックをすると、返事が返ってくる。

 どうやら、目を覚ましているようだ。

 

 鷲子と交わす言葉は、いつも通り、淡々とした最低限のもの。

 それでも、普段あまり言葉を交わせない故に、個人的には充足に満ちた時間だった。

 

 そうして、もう一眠りするという鷲子を邪魔にならぬよう、部屋を出ようとドアノブに手を掛ける。

 

 その時だ――

 

「……お仕事はどうされたのですか?」

 

 鷲子がそんなことを聞いてきた。

 あまりにも嬉しくて、俺は目を輝かせながら振り返ってしまった。

 

 我ながら少し勢いが良すぎた気がするので、努めて冷静に、いつも通りの雰囲気を取り戻すように答える。

 

「仕事も……会社も……確かに大事だ」

 

 こんな風に聞かれてしまうくらいには、俺は仕事人間だと思われているらしい。それは何も間違ってはいない。

 娘に、そういう風に見られてしまっていることは、些か寂しくはあるのだが。

 

「だがな――家族は、もっと大事だ。俺が言っても説得力はないかもしれないがな」

 

 だからこそ、本音を口にする。

 少しでも、鷲子の心にこの言葉が届いて欲しくて。

 

「何よりな、美鳩に――お前の母親に先立たれ、お前にまで先立たれて、俺だけ残ってしまったら……そう思うと怖くてな」

 

 だから、お前には生きていて欲しい。

 父親として、そう願う――そんな思いを乗せた言葉を口にしたことが急に恥ずかしくなって、頭を振る。

 

「詰まらぬ弱音だったな。忘れてくれ。

 だが、お前が大事なのは嘘ではない。養生してくれ。

 体調が整わないなら、明日は学校を休んで構わん」

 

 それを誤魔化すように、鷲子へとそう告げて部屋を出ていく。

 

「はい。ありがとうございます」

 

 鷲子のそれに応じる言葉に、俺の口元は自然と綻んだ。

 

 

 

「旦那様、お嬢様は……」

「ああ。もう一眠りするそうだ。休ませてやってくれ」

「かしこまりました」

 

 そうして、藤枝とともに一階へと戻る。

 階段を降りきった辺りで、俺はもう我慢ができなくなっていた。

 

「藤枝」

「はい」

「鷲子とかなり長い会話ができたッ!」

「おめでとうございます。ですが、前々から言っておりますが、お二人とも歩み寄りたがっているのですから、もっと互いに踏み込んでいけば良いのではないでしょうか?」

「確かにそうかもしれないが……踏み込み方を間違えて、鷲子から嫌われてしまうのは怖いじゃないか。嫌われるくらいならこのままでも」

「学生の初恋ではないのですから……」

 

 藤枝が苦笑するが、俺にとっては非常に重要なことなのだ。

 




準備が出来次第、さらにもう1話公開します٩( 'ω' )و
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。