フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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38.【閑話】スプラッターハウス 3

 

【View ; Kirika】

 

 日なんてものはとうに落ちて、時刻はすでに夜。あるいは深夜にさしかかっていると言ってもいい時間帯。

 

 元々明かりが少なく、木々の深い棄てられた街の一角にあるお屋敷なものだから、当然中も暗い。

 明かりらしい明かりは、私と笠鷺さんが手にしている懐中電灯くらいのもので、それに照らされた場所以外は闇が広がるばかり。

 

 視界なんて悪くて当然で、ずいぶんと放置されているお屋敷だから、残っている調度品や絨毯なんかはすでにボロボロ。

 場所によっては床も脆くなっていて、歩くのが結構難しい。

 

 それでも一階はなんとか視て回れて、何もなかったので、今は二階を歩いている。

 一階はまだマシだったんだけど、二階はその歩きづらさが増した気がした。

 

 だけどそれ以上に――

 

「……闇が多い気がする」

「夜ですし、光源のない建物の中だからでは?」

「そういう意味じゃなくてですね」

 

 笠鷺さんにうまく説明できそうになくて、私は言葉をそこで止めた。

 やや逡巡してから、私はちょっと自信なく口にする。

 

「ライトに照らされた時に晴れる闇の量が、光に対して少ないというかなんというか……」

「闇に紛れた何かがある……と?」

「確証のようなものはないんですけど」

 

 そう言いながらうなずいた時、私の脳裏にふと過ぎることがあった。

 

「あの……幽霊とか怪奇現象とかでなく、実は誰かが隠れ家として使ってたりとかしません?」

「その可能性はゼロじゃないですね。

 こことか、廃ビルとか廃研究所とか……お誂え向きといえばお誂え向きですし」

 

 犯罪者同士の裏取引の現場として、一時的に使われている可能性もあると、笠鷺さんは付け加える。

 自分とは無縁の世界の話だと思っていたんだけど、肝試しに学生が踏み込むような場所でそういうのが行われていると思うと、日常と非日常って表裏一体なんだなぁ……と思ったりもする。

 

 そもそも、自分が幽霊を視れたり、開拓能力を使えたりする時点で、表裏一体の体現者だろと言われても不思議ではないんだけど。

 

 いやほら。

 霊感があろうが超能力が使えようが、ヤクザやマフィア、犯罪組織って、どっか遠い世界の存在って感じない?

 

「……その考え方が正しい場合、我々はこの屋敷に足を踏み入れた時点で、潜んでいる人の能力の影響下にいる可能性がありますね」

 

 笠鷺さんの顔が、いっそう難しいものになる。

 やっぱり場慣れしてるんだなぁ……。

 

 鷲子ちゃんたちと似たような顔してる気がする。

 

「肝試しに来た女の子たちは、能力の影響下におかれて動けない……という推理もできるけど……」

 

 思考をまとめるにあたってか、笠鷺さんの口から思考が声となって漏れ出ている。

 

 その場合、女の子たちはどこまで無事なのかって話になっちゃうんだよね……。

 

 錐咬の人を操る能力を思い出して、私は胸中でうめく。

 そう考えると、視界の端々に映り込む不自然な闇に対しての警戒度がより高くなっていく。

 

 そして注意しながら歩き回った結果、二階も探索を終えた。

 

「あとは……三階というか屋根裏のような場所だけですね」

 

 私がそう言うと、階段の前で笠鷺さんが難しい顔をしている。

 

「どうしました?」

「……能力者は、基本的に自身の能力の詳細を他人に語るのは悪手ですので、色々と説明を省かせてもらいますけど」

 

 笠鷺さんは言葉を選ぶようにそう前置いてから、続けた。

 

「三人の姿が見えました。

 何かから逃げるように、怯えるように、この階段を登っていったようです」

 

 ……草薙先生の能力に近い感じなのかな?

 剣の形をしてたけど、写真のフィルムみたいだったし……念写的な方法で過去を視れるとか、そういう感じ。

 

 まぁ能力の詳細は向こうが伏せたがっているので、置いておくとして、笠鷺さんの話が本当なら――

 

「最大限の警戒をしながら登らないと……ですね」

「それと最大限の覚悟を――その……」

「あー……」

 

 言葉を濁されたけど、言葉の意味は分かる。

 こちらを気遣うような視線を思うに、笠鷺さんは優しい人なんだろう。

 

 私もそれは見たくない。

 だけど、それでも――見つけられなければ、一生見つけて貰えない可能性があると思えば、踏み込む勇気にもなるというもの。

 

 パニックになったり足がすくんで動けなくなったりした時は……

 

「最悪、殴ってくれて構いません」

「……わかりました」

 

 こちらの覚悟が伝わったんだと思う。

 笠鷺さんは、意を決するように顔をあげると、ゆっくりと階段に足を掛けた。

 

 私も一歩遅れて、階段へと足を掛ける。

 

 キシキシと、階段が音を立てる。

 足音に気遣っていても、木製の階段の(きし)む音だけは、消せないみたい。

 

 やがて、一番上の部屋の入り口が見えたあたりで、声が聞こえた。

 

「灯り……誰かいるのッ?!」

 

 女の子の声だ。

 笠鷺さんが、こちらを見る。

 

「……私より探偵さんの方が、安心感があるかと」

 

 小声でそう告げると、笠鷺さんは一つうなずいた。

 

香具師羅(ヤシラ)探偵事務所の笠鷺と申します。

 親御さんからの依頼を受けて、この辺りで行方をくらましたという女の子の捜索にきました」

 

 少し大きめな声で――だけどとても優しい声色で、笠鷺さんが告げる。

 だけど、上にいる女の子からのリアクションがない。

 

「何かあって人と会うのが怖いというのでしたら、一度階段から下りますが……」

「ダメッ!!」

 

 別の女の子の声が、笠鷺さんの言葉を遮る。

 

「階段を登ってきたなら、絶対に下りちゃダメです!!」

 

 必死に、縋るように、訴えかけるように――

 慌てた様子のその言葉に、私と笠鷺さんは顔を見合わせた。

 

 下りちゃダメ?

 どういう意味だろう?

 

「……雨羽さん。彼女たちの言葉に従いましょう。

 貴女の想像が正しかった。この屋敷には何らかの能力者がいる」

「その能力の発動条件が……階段を下りるコト?」

「恐らく」

 

 緊迫感が膨れ上がる。

 

「ミイラ取りがミイラに……ですかね?」

「対策が立てられれば、何とかなりますけど……」

「対策がなければ、立ち向かうコトも逃げるコトもできませんね」

「はい」

 

 私も笠鷺さんも、能力者だ。互いに自身の能力を武器に変化させる手段も持っている。

 だけど、能力の本質はそこじゃない。

 

 笠鷺さんの能力は、階段を登る前のやりとりからして、過去を視たり、覗いたりするような能力。

 私の能力は、祈ることで傷を治したり、チカラを与えたりする能力。

 

 どちらも真正面から殴り合えるタイプの能力じゃない。

 

 だけどそれでも――私は彼女たちを助けにきた。その為に、やれることをやらないと。

 

 私と笠鷺さんはうなずき合うと、ゆっくりと階段を上がっていった。

 

 

 

 

 階段を上がりきって出てきた部屋は、まさに屋根裏部屋とでも言うような場所だった。

 

 そこの階段から一番遠い、カドに女の子が二人小さくなっている。

 

「……二人?」

栄美(エミ)なら、ここにいます……」

 

 思わず私の口から漏れた疑問に、女の子の一人が反応した。

 だけど、言葉の意味が分からず、二人の元へと近づいていくと――

 

「「……ッ!!」」

 

 私と笠鷺さんは思わず息を飲んだ。

 そこに三人目――エミさんが横たわっていたからだ。

 

 いや、横たわっているのは問題ない。

 問題は――そう、問題は……下半身が存在しないことだろう。

 

 右の(わき)辺りから袈裟懸けに左の腰辺りまでが黒いモヤのようなもので覆われている。

 だが、そのモヤより下には何もないのだ。

 

「彼女は……」

「生きてます」

 

 答えたのは、その横たわってるエミさん本人。

 

「……下半身はあります。動かしてる感触もあるんです。でも、ここにないんです……」

 

 憔悴(しょうすい)した様子で、自身の身体について説明するエミさん。

 肉体的な面よりも精神的な面でやられてしまっているのか、二人よりも顔色が悪い。

 

「私の左足も……」

 

 そうして、二人組の片方が、自身の左足を見せてきた。

 (くるぶし)の辺りがモヤに包まれていて、その先がなくなってしまっている。

 

「二人は身体がなくなっちゃったのに、わたしは無事なのが申し訳なくて……」

 

 そして、一人だけ無事な子は、二人の様子に罪悪感が積み重なって心労がひどいことになっているようだ。

 

「ところで……その探偵さんの横にいるのは……」

 

 三人の視線が、私に向かう。

 まぁ、確かに謎だよね。私の存在って。しかも学校の制服のままだし。

 

「どうも、私は1-Cの雨羽 霧香。

 三人の噂を聞いて、ちょっと一人で探し回ってたところに、笠鷺さんと出会ったので、一緒に探してたんだ」

 

 三人の緊張を解すように、少しだけ明るく、軽い調子で告げる。

 次の瞬間、左足を失っていた子が、私に飛びついてきた。

 

「え? え?」

 

 こういうのって大人のお姉さんである笠鷺さんとかに飛びつくもんじゃないの……ッ?!

 

 だけどそのまま嗚咽を漏らし始めた彼女に、私は何も言えなくなってしまった。

 

「制服は学生にとっての日常の象徴です。

 こんな状態で数日間ここにいた彼女たちにとっては、貴女は日常を持ってきてくれた女神に見えるんじゃないですか?」

 

 見知らぬ大人よりも、見知った顔ではないけれど見知った日常を象徴する存在――として私を見ているのだとか。

 

 それを聞いたら邪険にできない。

 私は、私に抱きついて泣いてる子を抱きしめ返し、彼女が落ち着くまで頭を撫でてあげることにした。

 

 他の子たちも、笠鷺さんが話しかけたら緊張の糸が解けたんだと思う。

 二人とも泣き出してしまった。

 

 でもまぁメンタルケアって大事だよね。うん。

 三人が落ち着いたら、脱出方法を考えることにしましょうか。

 

 

 

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