フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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7.ヘアー&エイリアン その1

 

 参拝客が来た――とモノさんが言っていましたが、どうしましょうか?

 

 私も参拝客と言えば参拝客ですので、ここにいることに問題はないと思うのですが――でもまぁ、それならそれらしく一応の参拝をしておきましょう。

 

 お賽銭箱に五円玉を投げ入れて、二礼二拍手一礼を。

 

 モノさんにお願いしても――と思わなくはないですが、ともあれ、主人公(HERO)とのイチャラブルートが避けられますように……とお願いしておきましょう。

 

 そうして私が最後の一礼をした時です。

 

   サワサワ……

     サワサワ……

 

 そんなような音が、背後から聞こえて来たような気がして、顔をあげました。

 

「……?」

 

 おかしいですね。

 周囲を見渡し、後ろに振り返ってみますが、特にこれといって何かあるわけではありません。

 

   サワサワ……

     サワサワ……

 

 ですが、間違いなくすぐそばで、何かが音を発しているのです。

 

 訝しみながら周囲を見渡していると、スーツを着た中年男性――服の上からでもちょっとお腹が出てているのがわかります――が、声を掛けてきました。

 どうやら、ここへとやってきた参拝客とは彼のようです。

 

「あー……君」

「はい?」

「これはその……あー……最近は声を掛けるだけでセクハラ扱いされるし、これから言う言葉もそう聞こえてしまうかもしれないんだがね……」

 

 何かを言いたいことがあるようなのですが、セクハラ扱いされることを警戒されているようで、すごい勢いで保険を掛けてきます。

 

「あー……うん。君の髪なのだけど……セクハラじゃないからね?」

「私の髪がどうしましたか?」

「そういうのは流行なのかね? 何かこう……綺麗な髪が勿体ないというか、ボリュームたっぷりというか……ちょっと怪獣盛りというか……うらやましいくらい髪があるというか……なんだ、生き物みたいに動いているんだが……風じゃそうならないよね?」

「……え?」

 

 思わず後頭部を左手で触れると――その瞬間、自分でもハッキリと髪の毛が勝手に動いているという実感しました。

 

 同時に――

 

「髪が……私の髪の毛が……ッ!」

 

 突然膨れ上がるように増えると、後頭部を触れた左手に絡みついてきます。

 後頭部を触っている状態で固定されるどころか、そのまま腕を締め付けられ捻り上げられて……!?

 

「痛っ……ッ!」

 

 ギリギリと関節をキメられて、じわじわと追いつめられていきます。

 

「お、お嬢さんッ!?」

 

 余り人前で力は使いたくありませんが、背は腹に帰られません。

 このまま左腕を壊される前に、脱出しないと……!

 

「やーっと、追いついた」

 

 自分の腕を蔦に変えて脱出を計ろうと思った時、中年男性とは別にもう一人の男性が、曲がり角を越えてこちらへと向かってきました。

 

「……先ほどの……?」

「そうそう。せっかく良い髪を持った子に会えたのに、君ってば逃げるんだもの」

 

 その人は――先ほど、馴れ馴れしく私の髪に触ってきた、美容師を名乗る人。

 

「では、この髪はあなたが……?」

「ヘアー&エイリアン――と、オレは呼んでるんだ。

 この街でお店を出し始めてからさ、なんだか使えるようになった超能力? みたいなの。すげーっしょ?

 触った髪の毛を操れるっつーの? 俺のモノにできるっつーか、俺好みのエイリアンにできるとかさ。そんなカンジ?」

 

 喋っている間にも腕は締め上げられ、勝手に伸び始めた髪の毛は私の首に向かってきます。

 

 私が美容師の男性を睨んでいると、サラリーマンさんが声を上げました。

 

「超能力だか何だか知らないがね、何を考えているんだ。今すぐ彼女を解放しなさいッ!」

「おっさんは黙っててよ。髪の毛少ないし、髪質も悪そうな男って興味ないからさ。

 あんたみたいなやつの髪は、ロクなエイリアンになってくれないんだよ」

「好きで薄くなったんじゃないッ! 傷つくコト言わないでほしいッ!」

 

 面倒くさそうに、手をしっしっと動かす美容師の男性を横目に、私は髪の毛に押さえられた腕を蔦に変えて素早く引き抜きました。

 

 即座に腕を元に戻し、右手の人差し指と中指を平たく堅い木の枝にし、ハサミの要領で髪の毛を首もとからバッサリと切り落とします。

 

 刃物ではないので、かなり引っかかって痛いですし、髪が間違いなく傷つきましたが、そんなものは今はどうでもいいとしましょう。

 

「ちょっちょっちょッ!? 君まじッ!? 刃物でも隠し持ってた!?

 ってか、大胆にバッサリ行き過ぎでしょ!? 恋人と上手く言ってないのッ!?」

 

 驚いて喚いている美容師の男性の言葉を無視して、素早く踏み込むと、拳を振り上げ、男の頬へと叩き込みました。

 

「ぶべらっ!?」

 

「……大人しそうな顔して、すごいね、君……」

 

 私の拳で軽く宙を舞い、地面へと転がる美容師の男性。

 それを見ていたスーツのおじさんが、何やら呻いていますが、特に気にする必要はないでしょう。

 

「痛ってェな……クッソ」

「失敗しましたね。意識だけ刈り取れればと思いましたが……」

「お前、髪質良いからって調子乗ってんなよ……」

「口調が乱れてますよ。痛みで被ってた猫でも剥がれましたか?」

 

 ギリリと音が聞こえるほど歯を噛みしめた美容師の男性が、こちらを指さしながら叫びます。

 

「やれッ! ヘアー&エイリアンッ!」

 

 同時に背後からサワサワというあの音が聞こえてきます……が――

 私は躊躇うことなく、正面にいる美容師の男性に向けて走り出しました。

 

「え?」

 

 何を驚いているのかはわかりませんが、開拓(フロンティア)能力を使って相手に攻撃を仕掛けてきておいて、何で反撃されないと思っているのか解りかねますね。

 

 走る勢いを殺さないように身体を小さく丸め、右肘を突き出し相手の鳩尾に突き刺します。

 

「が……!?」

 

 身体をくの字に曲げた相手の胸元を掴み、背負い投げの要領で背後へ向かって放り投げました。

 

「うわぁぁぁ……ッ!」

 

 そのまま私に向かってくる、ヘアー&エイリアンと文字通りに絡みあって、地面に転がりました。

 

「お嬢ちゃん……格闘技とかやってるの?」

「はい。我が家の家訓に『文武は両道であってこそ』というものがありまして」

 

 恐る恐るといった様子で訊ねてくるおじさんに、私はそう答えます。

 それから――

 

「さらに言うなら、こういう家訓もあるのです。

 『他人を傷つけねば進めない時は必ずある。そういう時は傷つける相手から傷つけ返される覚悟を必ず抱いてから(こと)を起こすこと』――と」

「おじさん、君の家がちょっと怖くなってきちゃったかな」

「そうですか? よくあるふつうのご家庭だと思うんですが」

「ふつうじゃないと思うな、おじさん……」

 

 おじさんとそんなやりとりをしていると、倒れている美容師の男性から、奇妙な音が聞こえてきました。

 

 スー……ハー……

  スー……ハー……

 

 たぶん、深呼吸をしているのだと思いますが、どうにも背筋によろしくないものが走ります。

 

「……今ので気絶していれば、それに越したコトはなかったんですけれど……」

 

 美容師の男性の深呼吸の音を聞きながら、私は彼の方へと意識を改めて向けました。

 

 




【TIPS】
ヘアー&エイリアンの本体である美容師は、界隈じゃ結構有名な美容師らしい。
どういう意味で有名かなのまでは不明。
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