フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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70.あまいあやかし その4

 

《View ; Yoria》

 

「ただいまー」

 

 玄関を開けながら考えるのは、昨日のこと。

 いや、今日一日ずっと考えていたことかもしれない。

 

 果府駅前のコスモバーガーにいた梅塔、十柄さん、倉宮さんから聞いた話。

 

 一日経った今でも、なんだか信じられない話だった。

 誰かに相談したくても荒唐無稽すぎて、相談できない感じ。

 

 でも放っておくは、おじさんが危なそうだし……。

 十柄さんたちに任せておけば大丈夫な気はするけど……。

 

「おかえり、アーちゃん」

 

 悩みながら靴を脱いでいると、母が玄関に顔を出してくる。

 

 しかし……童顔で小柄な母から生まれたのに、どうして私は長身でしっかりした体つきになってしまっているのか、疑問に思うところはなくもない。

 

「お母さん、ただいま」

 

 ただ祖母は、背が高めで運動が得意な人なので、どちらかというと同じ遺伝子を持ちながら小柄な母の方が突然変異なのかもしれない。

 

 ちなみに、うちは今のご時世的にはだいぶ少なくなってきた親子三世代が暮らしている家だ。

 ちょっと古めかしい日本家屋は、見た目の印象通り結構な年代モノらしい。

 

「どうしたの難しい顔してるけど」

「えっと……」

 

 母から問われて、少し返答に困る。

 梅塔たちから聞いた話が引っかかってるだけなんだけど……。

 

 ドッペルゲンガー(もう一人の自分)が居るかもしれないなんてこと言いづらいな……。

 

「自分に身に覚えのない出来事があったんだけど、当事者たちは間違いなく私が居たっていう話に遭遇しちゃって」

「あら……?」

 

 しどろもどろに言葉を紡ぐと、母はほっぺたに手を当てて首を傾げる。

 ただその様子は――何を言っているのかしら? という感じいじゃない。

 

 仕草はいつもどおりながら、目だけは真剣で……。

 

「それ、お婆ちゃんに相談した方がいいわ。

 私は詳しく知らないのだけれど、うちって代々そういうモノ――ドッペルゲンガーみたいなモノと、縁があるらしいの」

「初耳なんだけど……」

「お母さんは関わったコトないからね。そういう話は特にしなかっただけよ。

 逆にお婆ちゃんはそういうのに詳しかったハズだから、早めに相談しなさい。

 オカルト通りのドッペルゲンガーなら出会った時点でアーちゃんが死んじゃうかもしれないし、そうでなくても自分の知らない自分が好き勝手してるのって気持ち悪いでしょう?」

「うん」

 

 母の言う通りだ。

 私は自室に荷物を放り投げると、祖母の部屋へと向かった。

 

 

 

「お婆ちゃん、いる?」

「どうしたの依愛(ヨリア)ちゃん?」

 

 襖を開けてお婆ちゃんの部屋をのぞき込む。

 祖母は読んでいた本から顔を上げて微笑んだ。

 

「相談事があってお母さんに相談したら、自分よりお婆ちゃんに相談した方が良いって言われてさ」

「あらあら。どうしたの?」

 

 こちらの言葉に何かを察したのか、祖母は老眼鏡を外すと少し真面目な顔をする。

 

 私は部屋の隅に置いてある座布団を一枚手に取ると、お婆ちゃんの近くに置いてそこに腰を落とす。

 

「実は――」

 

 そして、梅塔たちから聞いた話を祖母にそのまま話した。

 

 

 

「そう。

 よりによって寄誓(キセイ)が、遊尭(ユタカ)のところに……」

 

 どうやら祖母には色々と心当たりがあるらしい。

 

「まずは依愛ちゃんの不安を無くそうかね。

 槍居はね……槍居の血を引く女性そっくりのドッペルゲンガーが時々現れる家系なのよ。

 昔は、似影(にかげ)とか魅影(みかげ)……あるいは影生霊(かげしょうりょう)なんて呼ばれてたわ」

 

 母の言った通り、うちは代々ドッペルゲンガーが現れ易い家系だったらしい。

 ……いや、どんな家系だよ……。

 

「槍居家のドッペルゲンガーは悪さをする者の方が少ないわ

 基本的には本体に迷惑をかけないようひっそりと現れ、ひっそりと活動し、ひっそりと消えていく。

 私の母や、美依(ミヨリ)のドッペルゲンガーはそのタイプね」

 

 美依っていうのは母のことだ。

 話を聞いている限りだと、母はドッペルゲンガーと関わったことがないというよりも、出現に気づいてなかっただけみたい。

 

「そうは言っても先祖帰りで、迷惑を掛けてしまうドッペルゲンガーも出てくる時はあるし、本体とドッペルゲンガーが顔を合わせた時に同調して、悪事を働いた例もゼロではないのだけれど」

 

 にわかに信じがたい話だけど、でも間違いなく私のドッペルゲンガーは存在している。

 

 嘘だ――と断じるのはちょっと難しいかもね。

 

「影ながら本体を助けてくれるドッペルゲンガーもいるのよ。

 遅刻しそうな時、代わりにこっそりと出席してくれて、本体が到着すると姿を消したりとかね」

 

 茶目っ気たっぷりにウィンクしてくる祖母を見るに、彼女のドッペルゲンガーはそのタイプだったのかもしれない。

 あるいは、祖母はドッペルゲンガーを利用して自分は寝坊したりとかしてた可能性もある。

 

「話を聞く限り、依愛ちゃんのドッペルゲンガーも、悪さをするような子じゃなさそうだね。そこは安心して良いはずだよ」

 

 まぁ、確かに遊尭おじさんのことを助けようとして、倉宮さんに依頼をしたっぽいからなぁ……。

 

「そっか。

 ドッペルゲンガーについては理解したよ。

 でも、もう一つ気になるコトがあるんだけど……」

「遊尭と一緒にいる寄誓だね?」

「うん。あんまりお婆ちゃんも良い感情を持ってない感じだけど……」

「そうさねぇ……」

 

 私の質問に、祖母は言葉を選ぶ為か下顎を撫でながら少し悩み――

 

 ピロリン♪ ピロリン♪

 

「あ、ごめん。ちょっと電話が鳴ってる」

「いいよいいよ。確認しなさい」

 

 ポケットからスマホを取り出すと、十柄さんの名前が表示されている。

 しかも、メールやLinkerではなく直接の通話だ。

 

「電話だ。ちょっと出るね」

「ええ」

 

 祖母に一言断って、私は通話ボタンにタッチする。

 

「もしもし?」

《槍居先輩。突然電話してすみません》

「いや……いいんだけど、どうしたんだ?」

 

 訊ねると、十柄さんは――

 

《槍居家の影生霊(かげしょうりょう)について詳しい人はいませんか?》

 

 ――と訊ねてきた。

 

 タイムリーな話題だ、と驚く一方で私は少し眉を顰める。

 

「何で十柄さんはうちのドッペルゲンガーのコト知ってるの?」

 

 横で何やら祖母が不思議そうな顔をしている。

 

「十柄……?」

 

 もしかしたら、十柄さんの方の祖父母と知り合いとかだったりするのかもしれない。

 

 ともあれ、どうして十柄がうちの家系のことを知っているのかと言えば、ふつうに調べたかららしい。

 果府駅前のコスモバーガーで別れてからまだ一日しか経ってない気がするんだけど……。

 

 家の関係者や協力者を利用した人海戦術と言われても、何か納得できない速度なんだけどな……。

 

《そして調べていて気になったのが、槍居家と寄誓家の関係。そして両家に関係している成夜美園と、そこに潜む怪異アマヤカシとの関係です》

「どうしてうちと寄誓家の関係に、成夜美園のアマヤカシがでてくるんだ?」

 

 そもそも、それは全部繋がってるのか?

 何か十柄さんの方が、うちのことを詳しい感じにモヤモヤする。

 

 だけど、私が十柄さんに投げた質問に、祖母は慌てたように声を上げた。

 

「依愛ちゃん! よかったら、その電話変わってちょうだい!」

「え? ちょ、ちょっと待って……!」

 

 祖母の様子にただ事じゃないと感じて、私は十柄に訊ねる。

 

「横で聞いてた私の電話を聞いてたお婆ちゃんが、十柄さんと話をしたいみたいんなんだけど……」

《構いませんよ。もしかして一族の事情にお詳しい方ですか?》

「たぶんね。私も今、ちょうど話を聞いてたところなんだ」

 

 そうして祖母にスマホを渡すと、挨拶を交わして何やら話し込みはじめた。

 

「そうですか……かしこまりました」

 

 聞き耳を立てて見るも、内容はよくわからない。

 

 一つ気になるのは……祖母が十柄さんに対して敬語な点だ。

 どういう関係かは分からないけど、やっぱり十柄家とは知り合いなんだろうか……。

 

「ええ、ええ。ではその時間に。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。はい、失礼します」

 

 そうして、十柄さんとの話は何やらまとまったらしい。

 

「これ、どうやって通話切ればいいのかしら?」

「向こうが切れば勝手に切れるけど……」

 

 スマホを受け取り画面を確認すると、十柄さんの方が通話を切ってくれているようだ。

 

「大丈夫。切れてるよ」

「そう」

 

 ふぅ――と、祖母は大きく息を吐く。

 

「この後、七時半くらいに十柄さんが迎えにくるそうよ。

 一緒に遊尭のところへ行くわ。依愛ちゃんにも来て欲しいから、夕飯が終わったらお出かけの準備をしてね」

 

 いつものような柔和な口調だけど、有無言わさない迫力が伴っている。

 これは変に逆らわない方がよさげかな。

 

 それに、十柄さんが祖母とともにおじさんの所に行くってことは、事件を解決しにいくってことだと思う。

 

 それなら、断る理由はないかな。

 

「わかった」

「さっきの話の続きや、電話で何を話してたのかっていうのは、そのときに話すからね」

 

 同じ話を十柄さんにもする予定だそうだから、車の中で一緒にしたいらしい。

 それならそれで文句はない。

 

「そういえば、お婆ちゃんって十柄さんと知り合いだったの?」

「私は直接的な面識はないわ。でも、私のお婆ちゃんが大変お世話になったそうだし……それこそ、ご先祖様たちもちょくちょくお世話になったという話は聞くわね。

 だから、向こうのお家にも当家に関する記録とかが残ってたんじゃないかしら」

 

 そっか。だから調べがつくのが早かったのかもしれない。

 

「とりあえず、夕飯のあとってコトは了解だよ。

 私はご飯の前にシャワーでも浴びてくる」

「出かけるときは動きやすい――いえ、運動のしやすい格好がいいと思うわ。ドッペルゲンガーと対面すると色々と面倒事が起きやすいから」

「わかった」

 

 よくわからないけど、言うこと聞いておくとしよう。

 しかし、面倒事が起きやすいから動きやすい格好って――逃げるとか、戦うとかそういう話だったりする?

 

 いや、さすがにそれはイチ高校生でしかない自分には荷が重い気がするけど……。

 

 ……と、そこまで考えて苦笑する。

 マンガの読みすぎかな。実際にそんなバトルじみたイベントなんてあるわけがないよね。

 

 まぁ、ここで悩んでも仕方ない。

 とりあえず、シャワーシャワーっと。

 

 





《TIPS》
 今でこそちょっと大きめの二階建て平屋だが、槍居家の歴史も意外と古い。ご先祖様はまさにお屋敷に住んでいたらしい。
 成夜美園の観光産業の元締めをしていたとか。
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