フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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74.あまいあやかし その8

 

《View ; Syuko》

 

 槍居先輩のドッペルさんが変身したのを見た瞬間――今後一年、先輩の戦いに巻き込まれませんように……と祈ってしまいました。

 

 ただでさえ、来年の春からは私自身が関わる事件と一年間関わるっていうのに、仮面闘士案件とか付き合っていられません。

 ……まぁ劇場版とかファンクラブ版とかの短編系の事件なら多少は……と思いますけれど。

 

 それにしてもウッドホッパー……木のバッタですか。

 お札を使って変身していることから、たぶん五行思想モチーフなんですかね?

 

 五行思想+昆虫とか、そんな感じでしょうか?

 

 ともあれ――

 

「ふぅ……」

 

 大きく息を吐いて、身体を軽くほぐしていきます。

 意識を吸われた影響か、少しダルさはありますが、動く分には問題なさそうですね。

 

「十柄さん、大丈夫?」

「ご心配おかけしました。問題ありません」

「そっか。良かった」

「とはいえ、やられた借りくらいは返したいところです」

「そういうところ、結構過激なんだな……」

「そうですか?」

 

 やられっぱなしは性に合わないだけなんですけど。

 そんなワケで、私からも何か一撃を――と、ドッペル同士の戦いに視線を向けます。

 

「こんな……こんなはずじゃ……!」

 

 ちょうどそのタイミングで、小依子が槍居先輩のドッペルさんに蹴り飛ばされたところでした。

 

「ドッペルゲンガーが変身したリオンだからドッペリオン……ですかね?」

「リオン?」

「先輩は都市伝説的なお話とか知りません?

 仮面闘士リオンで検索すると、ネットでもいくつか引っかかるんですよ。実在するかもしれない特撮ヒーローっぽい戦士みたいなんですけど」

 

 軽く説明すると、槍居先輩は遠い目をしました。

 

「……私、都市伝説の仲間入りかぁ……」

「そもそもが、怪異の家系じゃないですか」

「そういえばそうだった」

 

 遠い目をしていた先輩は私のツッコミで即座に正気に戻ったようです。

 正確には全然違いますけど、オカルトという括りをしちゃえば、怪異も都市伝説もたぶん大差ありません。

 

 そんな雑談じみたやりとりをしていると、二人のドッペルゲンガーの戦いは終わりに近づいているようでした。

 

「クソッ!」

「あ、待ってッ! 逃げるなッ!!」

 

 異形化した小依子はその場から逃げ出しました

 ドッペリオンもそれを追いかけ――

 

「お嬢様、追いますッ!」

「私も行きますッ! でも、先輩と……」

「事前に同僚へ連絡をしているので、依愛さんとご祖母様の保護や情報処理を担当する者たちはすぐに来ますッ!」

「わかりました。では……」

「はいッ!」

 

 私も和泉山さんと共に、追いかけます。

 

「十柄さんッ、私のドッペルをよろしくッ!」

 

 そんな私たちの背中に投げられた、槍居先輩の声に軽く手を挙げて応えつつ、走る速度を上げました。

 

「そういえば和泉山さん、車はそのままでいいんですか?」

「同僚たちが来るので大丈夫でしょう」

 

 和泉山さんが問題にしてないなら、大丈夫でしょう。

 

「ところで、どこに向かってるんですか?」

「わかりません。一応、気配は追えてるので、それを追いかけている感じですが……」

 

 初夏とはいえだいぶ暗くなってきてますしね。街頭や町の灯り以外の明かりが乏し上に、それなりの人通りのある中でどうやって二人の気配だけを探っているのか、謎ですが――まぁ和泉山さんですからね。

 

 しばらく走っていると、空き地のような場所で戦闘の気配があります。

 

「逃がさないって言ってるでしょッ!」

「しつこい……ッ!!」

 

 小依子も逃げるのを諦めたのか応戦しているようですが、戦闘としては一方的ですね。

 

 ドッペリオン――というか槍居先輩はそもそも運動神経が良いですから。

 他人の能力の寄せ集めで強くなった気でいるだけの小依子とは比べものにならないのでしょう。

 

 どれだけ技術があろうと、それを使いこなせるかどうかは別問題。

 大道芸のようなことならいざしらず、実戦となると、身体を動かすことに馴れている方に軍配があがるのでしょう。

 

「そろそろ決着が付きそうですね。

 やはり、トドメはジャンプキックなんでしょうか?」

「確かにリオンたちはキックを決め技にしている者が多いですね」

「……和泉山さん、リオンをご存じで?」

「何度か共闘したコトがありますよ?」

「そうですか」

 

 ……共闘って……ほんと、この人も謎が多いですよね。

 

 一方で、ドッペリオンの戦いは……いえ、もう戦いとも言えなくなってきてます。

 

「クソ! クソ! このォォォ!!」

 

 小依子が闇雲に腕を振り回し、それをドッペリオンが避けながら回し蹴りをキメました。

 完全に、勝負はついています。

 

「……最悪よ……まったく」

 

 吹き飛ばされ、地面を転がっていた小依子は、少しだけ冷静になったのか、立ち上がりながら毒づきました。

 

「……あー……もうッ!

 本当はあまりやりたくなかったけど……一度、本体に帰るしかないわね……」

「帰すかッ! 叔父さんの生活力を返せッ!」

「誰が帰すもんですかッ! そのまま野垂れ死ぬ様を楽しみなさいなッ!」

 

 そして、小依子は両手を掲げて――

 

「あれ?」

 

 しかし、なにも起きませんでした。

 

「どうなっているの……?」

 

 戸惑う小依子に、私は一歩踏み出しながら声をかけます。

 

「ドッペルゲンガーと対峙すると分かっているのに、本体を押さえないワケがないじゃないですか」

 

 ポケットからスマホを取り出して見れば、Linkerに草薙先生からメッセージが届いています。

 

 

草薙つむり

《寄誓小依子の本体からドッペルゲンガーの記憶と関連能力の一部を消すのに成功。まぁ向こうも特殊なチカラがあるからか、一時的なモンだ。途中で効果が無くなるだろうから、ケリつけるなら今日中だぜ。

 それにしてもいい気晴らしと取材になった。報酬の資料も期待してるからね》

 

 

「貴方の本体から、貴方に関する記憶と能力を一時的に消させていただきました。さぁ、どうやって本体へ帰還しますか?」

「……何を言って……」

「開拓能力――いえ、貴方にはソウルオーバーと言った方が通じますか? 記憶の操作をできる人に頼んだんですよ」

「あ……」

 

 それだけで、彼女は理解が及んだのでしょう。

 本体はドッペルゲンガーを認知していない上に、関連した能力の一部が消えているようです。それによって帰還しようとするドッペルゲンガーを受け入れる準備がされないのではないでしょうか?

 

 つまり、本体が記憶と能力を取り戻すまで、本体に帰ることができません。

 それどころか、本体と共有する能力も使えなくなっている可能性も高いです。

 

「チェックメイト……というやつですよ」

「いや……」

 

 それでもこの場から逃げようとする小依子に、ドッペリオンは一歩前にでました。

 

「ドッペルゲンガーは死んでも本体の中に戻るだけだ。

 もっとも外へと出てこれるようになるには、時間はかかるだろうけどね」

 

 言いながら、ドッペリオンはバックルを撫でます。

 ソワカソワカとハイテンションなお経が流れる中で、ドッペリオンは一度お札を引き抜きます。

 

 右側のスリットに挿さっていたそれを、左側のスリットに挿し直し、バックルの頭頂部のスイッチを押しました。

 

 ヒッサツ・ニョリツリョウ

 

「これは! キックですねキック!」

「さてはお嬢様、リオンたちのファンですね?」

 

 私がちょっと前のめりになったところで、ドッペリオンの右足に、木の根を思わせるオーラが絡みつき――

 

「や、やめて……!」

「お前が喰らってきた人たちは……そんな懇願の仕方すら忘れてしまったんだッ! 今更ッ、お前がッ、そんな懇願をッ、するんじゃない……ッ!!」

 

 そして、ドッペリオンは大きく地面を踏みしめ飛び上がると、お約束のジャンプキックを繰り出しました。

 

 伸ばした足から、木の根のオーラが伸びて、逃げ道をなくすように地面に突き刺さり――

 

「あ……」

 

 動きを止めた小依子の胸に吸い込まれるかのようにドッペリオンは急降下。その足で見事に敵を貫くのでした。

 

「……もっと、もっと食べて……強く、すごく……稼ぎたかった、のに……」

 

 貫かれた小依子は、グラリと傾くと両膝を付き、そのままうつ伏せに倒れてから爆発。

 

「爆発までのお約束セットをリアルで見れるなんて!」

「お嬢様、変なところミーハーですね?」

 

 何はともあれ、これで一件落着でしょうか?

 

「ふー……何とかなったー……」

 

 ドッペリオンは変身を解くと、こちらを見ます。

 

「十柄さん、根回しというか手回しというか、良すぎない?」

「戦いなんて、事前の準備で勝率が大きく変わりますので」

 

 実際、それで勝てたでしょう? と言えば、彼女も大きくうなずきました。

 

「確かにね。おかげで助かったけどさ」

「これで、彼女に食われていた人は元に戻るのか?」

「たぶんね。

 もちろん、死んじゃった人はどうにもならないけどさ……」

 

 そればかりはどうしようもありません。

 闇に蠢く悪事に気づけても、開拓能力者として覚醒しても、変身ヒーローになることができても……。

 

 後手に回ってしまっている時点で、事件を解決したところで、事件前の状態まで完全に戻せるわけではないのですから。

 

「何はともあれ、お疲れさまでした」

「そうだね。お疲れさま。十柄もありがとう」

 

 だけどそれでも、それによって助かる人がいるのだから、やらない理由にはなりません。

 

「和泉山さん……車、回せます?」

「ちょっと連絡してみます」

 

 最初の依頼からだいぶ事件の様相が変わってしまった気がしますが――

 

「これで依頼完遂――で、いいですか?」

「そうだね。そういう意味でもありがとう。十柄。

 今度学校で、倉宮にもお礼を言わないとね」

 

 ――というワケで、これにて事件解決。依頼完遂です。

 

 あとは、家に帰れば完全終了ですね。

 草薙先生にもお礼の連絡をしておきましょうか。

 

 




【TIPS】
 小依子の本体は、原因不明の不調により仕事も動画配信もうまくいかなくなってしまったようだ。
 ドッペルゲンガーからのフィードバックがなくなったことで、マイマイメモリーズへの耐性もかなり落ちてしまい、封印された記憶と能力が戻っていないようである。
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