フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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すみません、昨日更新し忘れてました


75.あまいあやかし その後 -怪異と都市伝説-

 

《View ; Syuko》

 

 休みが明けて月曜日の放課後――

 

 すっかりいつもの……と枕に付けて良い気がする空き教室。

 そこに、私と倉宮先輩。そして槍居先輩のドッペルさんが集まっていました。

 

 ちなみに槍居先輩本人は部活です。

 

「――と、いうワケで倉宮にもお礼を言いに来たんだよ」

 

 槍居先輩のドッペルさんこと、槍居依斗(ヨリト)と名乗ることになった彼女は、倉宮先輩にそう告げます。

 

「話には聞いていた。でもこれは。確かに見分けが付かない」

 

 まじまじと依斗さんを見ていた倉宮先輩は、ふむ――と小さく息をもらしてから私を見ました。

 

「十柄。お前は怪異と都市伝説。その決定的な違いは。分かるか?」

 

 問われて少し悩むも答えが出ず、私は首を横に振ります。

 

「依斗先輩は?」

「怪異そのものの自分もよく分からないな」

 

 依斗さんも少し悩んでから、やっぱり首を横に振りました。

 

「どちらもオカルト案件ではある。

 古いオカルトと最新のオカルト。その決定的な違いは。神秘への依存度だと。ワタシは考えている」

「神秘への依存度?」

「どちらも未知がチカラそのものであるコトには変わらないのだが」

 

 私が首を傾げると、倉宮先輩はそう前置きしてから語り始めました。

 

「古きオカルト……怪異や妖怪。あるいは魔術や錬金術。それらは神秘に依存する。つまり秘匿されれば秘匿されるほど。神秘としての価値が高まるほど。チカラを増す」

 

 そう言われて――だけど、理解に至らなかったのか依斗さんは首を傾げています。

 私は何となく分かった気がするので、倉宮先輩に訊ねました。

 

「幽霊の正体、柳に見たり……というコトですか?」

「そんな感じだ。

 正体が柳の枝と判明するまで。それは間違いなく。人々を怖がらせる幽霊だったんだ」

 

 柳の下に幽霊がいる。

 それを信じるからこそ、夜闇の中にそこを見れば、幽霊がいる。

 人々の恐怖や思いこみが、そこに本物の幽霊――あるいは幽霊のようなモノかもしれませんが――を作り出していた。

 

 でもその正体が柳の枝だと明かされてしまえば、夜闇の中でそれを見ても誰も幽霊だとは思わない。

 結果として、幽霊のようなモノだろうと、本当に幽霊がいたのだろうと、誰も恐怖しなくなる。

 結果として、居ないものとして扱われてしまう。

 

 正体が分からなかった時の方が、存在感が強かった――とも言うかもしれません。

 

「アマヤカシも同じだ。人を惑わす怪異。そう呼ばれてたころは。ただただ生き物の生活力を食べるだけの存在だった。

 人々を無気力にする謎の現象。あるいはただただ相手を甘やかしてダメ人間にしてしまうコトを。自分のせいではなくアマヤカシという妖怪のせいにしたかったのかもしれない。

 だが怪異とその甘やかしが結びつき。アマヤカシという妖怪になった。

 その結果として。人を甘やかしとろけさせる女妖怪の一種と変じたワケだ。

 そして人は。今度はその女妖怪に恋をした。それに応えるようにアマヤカシに感情が芽生えたんだ。

 あるいは人間の間にアマヤカシとは感情を持った人間に似た妖怪であると。そういう話が広まったから感情が芽生えたのか」

 

 スケールは違えど、自然現象を科学で解き明かすことと同じことかもしれません。

 かつて神の御技とされた自然現象を、人々は科学によって正体を暴き、神々の存在を否定することで神秘が失われた――そんな考え方なのでしょう。

 

 一方で、解き明かしてしまったからこそ、かつては有用な手段であった雨乞いの儀式などからも、その神秘性が失われ効力を失したと考えることもできるかもしれません。

 

「ともあれだ。アマヤカシは感情の芽生えは同時に。未知の怪異や恐ろしい妖怪から。独特な生態を持つ亜人へとグレードダウンしたコトにほかなら無い」

「倉宮さ、それ想像? まるで見てきたように言うけど……マジで調べた結果?」

 

 話を聞いていた依斗さんが目を眇めながら訊ねると、倉宮先輩は肩を竦めました。

 

「半分は想像。もう半分はオカルト思考の産物かな」

「つまりオカルト的な考え方を私たちアマヤカシに当てはめての推測って感じ?」

「そう思ってくれて構わない」

 

 倉宮先輩はうなずいてから、唄うように告げます。

 

「人は未知を既知に変えていく生き物だ。自分の思いや願いを形にしようとする生き物だ。

 それはただ夢を叶える生き物というだけではなく。その意志や思いが束なり神秘を暴く。あるいはその意志や思いの束なりは神秘を作り出す。

 意志や思いが神秘を形づくるという点において。開拓能力などその典型だろう。

 例えそこに。何らかの意志介在があるのだとしても」

 

 チラリと倉宮先輩は私を見ました。

 確証はなくとも、この府中野(こうの)の地に開拓能力者が増えている原因は、人為的ないし神為的なモノであるという推測をされているのかもしれません。

 

 何ていうか倉宮先輩には謎の頼り甲斐を感じてしまいます。

 開拓能力者でもなく、モノさんとの関わりもほとんどないにも関わらず、そこまで推測できてしまうなんて。

 

「人の思いは神秘に対して裏表なんだ。

 暴こうとして暴けなければより神秘は強固になる」

「今の人間の技術で解き明かせないオカルトは、それこそ神や悪魔――そうでなくても魔法や奇跡の産物だっていう人の考え方が、存在の補強になるんですね」

「その通りだ。

 故に。古いオカルトとは神秘に依存し。認知によって衰退する存在だ。

 未知は未知であるからこそ。そこに強さを見いだす」

 

 だとしたら、それは――

 

「科学と情報化の発展によって古いオカルトは駆逐されてしまうのでは?」

「確かに。人は未知を既知にしたがる生き物なんだろ?」

 

 私と依斗さんの疑問に、倉宮先輩は僅かに微笑みながら首を振りました。

 

「古きオカルトはその古さ故に根付いているコトが多い。占いなどその筆頭だろう?」

「あー……なるほど。そう言われるとそうか」

 

 倉宮先輩の言葉に、依斗さんは納得したようにうなずきます。

 

「人は神社に願掛けをしに行き。教会で神に祈り。仏閣にて仏を見上げる。

 神秘は神秘のままであって欲しいと思う者がいる限り。古いオカルトもまたこの世界に存在し続ける。

 まぁ。先も言ったが現存する手段で解き明かせない神秘が存在している以上。まだまだ無くなったりはするまい。

 解き明かされるまで。暴こうとされ続ける限り。より強固になっていくだろうさ」

 

 オカルトに限らず、科学が発展し情報化社会になった現代でさえ、解き明かされていない未知は多くあります。

 そう思うと、未知なる神秘と既知なる科学は、延々にイタチゴッコなのかもしれません。

 

「さて。古きオカルトについてはこんなところだ。次に新しいオカルトの話をしよう」

 

 倉宮先輩、なんだか気持ちよさそうに語ってくれてますね。

 もしかしたら、こういう話を大っぴらに出来る相手を求めていたのかもしれません。

 

「言ってしまえば都市伝説だ。これは神秘が薄ければ薄いだけ。認知が広がれば広がるだけチカラを増す」

「古いオカルトと逆ってコト?」

「端的に言ってしまえばそうだ。

 考え方としては未知を中心にした点対称とでも言うべきかもしれないが」

 

 どちらも未知を中心に置きながら、その在り方が真逆だと倉宮先輩がいいます。

 

「都市伝説は。未知が未知のまま広く拡散されるほどその強さを増す。

 広まるコトでそのオカルトを未知のまま現実に定着させる。それこそが都市伝説――新しいオカルトだ」

 

 私はピンと来るものがありました。

 

「ドッペルゲンガー」

「そうだ。もう一人の自分。出会うと死んでしまうという噂が正しくなくとも。ドッペルゲンガーというもう一人の自分という未知は間違いなく現実に定着した」

「でも、私たちは別にドッペルゲンガーという言葉が定着する前から二つに別れてたはずだけど?」

「その辺りは卵が先か鶏が先かというだけだ。

 名前が付くことで定着したか。別に名前が付く前から存在していたのか。そこは古いオカルトと変わらない」

「あるいはドッペルゲンガーという言葉が日本に入ってきたコトでアマヤカシたちが大手を振って外を歩けるようになったのでは?」

 

 思わず口にしたそれに、倉宮先輩はうなずきました。

 

「それはあるかもしれないな。ドッペルゲンガーとは人の写し身。ならば人として過ごせても問題ない――そんな認知によって。アマヤカシたちは真の意味で実体を得たのだろう」

「知らない事実がどんどん暴かれていくんだけど」

 

 倉宮先輩曰く推測にすぎない――というところなんでしょうけれど。でも案外、事実な気がしてきます。

 

「未知に対して人々がそうあれと畏れを願い認知を広めるコトこそ都市伝説。新しいオカルトだ。

 未知に対して人々がそうに違いないと畏れを信じ神秘をそのまま秘したモノにするコトこそ怪異。古いオカルトだ」

 

 だからこそ倉宮先輩は裏表と言ったのでしょう。

 今の時代、秘匿された神秘を明かさぬまま畏れを願われ拡散されれば、それは怪異から都市伝説へと変じることもあるのかもしれません。

 

 まさに、依斗さんたちアマヤカシのように。

 

「生き物としてのアマヤカシと怪異としてのアマヤカシ。それらが分かれて存在していたからこその。二重存在だったのだろう。始まりは。

 しかしドッペルゲンガーあるいはそれに類似した言葉と都市伝説が生まれた。その時。アマヤカシはソレと結びついたんだ。

 怪異アマヤカシとしてのチカラが失われかけている時。アマヤカシは都市伝説ドッペルゲンガーとして再誕した。

 そして怪異アマヤカシの伝承という神秘が残っている限り。そのアマヤカシはドッペルゲンガーでありながらアマヤカシとしての能力を保ったままでもある。

 偶然生まれたのだろうが。見事なハイブリットとなったワケだ」

 

 倉宮先輩の話を聞きながら、依斗さんはじっと自分の手を見ています。

 

「そしてアマヤカシは仮面闘士リオンという都市伝説と結びついた。

 リオンは人知れず戦う孤高の戦士であり。世間を密かに脅かす怪人と戦う存在である。

 寄誓家は怪人化能力は。もしかしたら本当に現代に適応するための進化によって生じたモノかもしれないが……」

「都市伝説リオンにおける怪人と結びついたんですね」

「恐らくな。そうなると人々の認知に多く存在する対応する戦士という存在が必要となる」

「……そこに私たちが結びついたの、か」

 

 静かに噛みしめるように、依斗さんはそう口にします。

 

「元々ドッペルゲンガーも人間に近い存在になりかかってたんだろう。だからこそ開拓能力覚醒の対象となっていた可能性もありうる」

「何であれ、それらの要素が折り重なって、私は変身したワケだ」

「そうなるな」

 

 先輩はそううなずきました。

 

「しかしネットの片隅などから生まれた新しいフォークロアとは異なる。本物の怪異と都市伝説の融合……か」

 

 ただ、どうも何かを堪えているようにも見えます。

 

「うむ。あれだな。依斗には申し訳ないんだが。やっぱ喜ばせてくれ!」

「は?」

「むしろ祝いたい。というか祝え! 新たな都市伝説の誕生に立ち会えたコトを! その瞬間に近い場所に自分が入れたコトを! ワタシは喜ぶ!」

「く、倉宮?」

 

 妙に饒舌だったり、楽しそうだったりしたのはそういうことでしたか。

 堪えているつもりだったものの、もう耐えきれなくて溢れだしたんでしょうね。

 

「人を甘やかしながら喰らう怪人アマヤカシと戦う新たなる仮面闘士! 自身も怪人アマヤカシでありながら人々の為に戦う闘士! その名はドッペリオン! うむ。最高の瞬間にワタシは生きている!」

 

 高らかに歌うように喜びを表現する倉宮先輩の横で、私も思わずパチパチと拍手を送ります。

 

「十柄もなんで拍手してるんだッ!?」

「すみません。つい」

 

 その怪人アマヤカシと直接関わって戦ってなければ、もっと盛大に拍手をしたんですけどね。

 

「あ。そうだ依斗さん」

「なに?」

「これから一年間がんばってください」

「何の話?」

「私も来年一年がんばりますので」

「だから何の話?」

「重なってる半年間、私に関する事件に巻き込まないように気をつけますので、依斗さんもドッペリオンが絡む事件に私を巻き込まないようにお願いします」

「いやほんと何の話だよッ!?」

 

 結構重要な話だと思うんですよね。

 

「仮面闘士リオンって一度変身すると一年くらいは変身の絡む事件と付き合うコトになるらしいので」

「え?」

「下手したら命に関わる事件も多いと思いますが、依斗さんと槍居先輩が無事に一年間生き延びるコトを影ながら祈ってますので」

「え?」

 

 なにはともあれ、私が関わるアマヤカシ事件はこれで一段落ですね。

 

「倉宮も十柄に何かツッコミを入れてくれよ」

「うむうむ。がんばれドッペリオン!

 都市伝説としてもっと有名になれるように!」

「なりたくないよッ!!」

 





【TIPS】
 鷲子の願いが神に届いたのか、ドッペリオン絡みの事件にはほとんど巻き込まれないで済むらしい。
 鷲子たち開拓能力者たちの戦いとは別の場所にて――
 人知れず怪人アマヤカシと戦うドッペリオンの都市伝説は、やがてほかのリオン伝説と並ぶほどに広がるとか広がらないとか。


===


 倉宮先輩、あれですね。
 作者の意図しないところで、おやっさんポジとか司令官ポジ的なところに収まりだしている気がします。

 何はともあれ、予定よりも倍の長さになってしまったアマヤカシ編終了です。
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