フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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81.想定外の紳士の乱入です

 

【View ; Syuko】

 

 突如乱入してきた全裸男性のキックを受けて、私に絡みついていた鳥かご男の鎖が解けました。

 

 私はそのまま宙に投げ出されますが、全裸男性はそんな私をキャッチ。綺麗にお姫様だっこの形に落ち着きます。

 

「えーっと……」

 

 何が起きたのかが分からず、私は目を(しばたた)きました。

 でも、鈍い頭は何の答えもリアクションも用意してくれません。

 

「能力で思考が鈍くされてる感じか。結構ピンチだったのに」

「?」

 

 とても重要なことを言っているようなのに、どうにも理解できません。

 理解しないと、いけないのに、何だかとてもどうでもよくて……。

 

「どうやって乱入してきたのか知らないが無駄だよ。

 彼女の夢の核はここに捕らえてあるからね」

「その黒いモヤか」

「その通り」

 

 黒いモヤ……夢の核?

 ダメです。なんだかすごい情報のやりとりなはずなのに、それを理解しようとか、覚えようという意識が、散っていくようで……。

 

「私に夢の核を捕らえられた者は、夢の中でまともな思考ができなくなる。加えて、私が意のままに夢の内容を書き換えられるのだ」

「ふーん」

「だからこそ分からない! お前は誰だ?」

 

 そうです。この人は誰なんでしょう??

 私を抱き抱えたままの全裸男性は、チラリと私を見ると、意味深に笑いました。

 

 普段の私ならそれだけで何かを察せたのかもしれませんが、今はまったく意味が分かりません。

 

「十柄鷲子の中には、人格あるいは自我と呼べるモノが二つ存在している」

「なに?」

「裏の自我とも呼べるそれは、表層に出るコトはないし出る気もない。

 十柄鷲子の内側にいながらも、十柄鷲子自身に察されるコトもない。

 加えて裏の自我である男性人格は、十柄鷲子の内側で何ができるというコトもない。

 その自我は、ただただ、追加の記憶装置(メモリカード)として存在しているだけだ。SDカードとかUSBメモリなんかと変わらない。

 だけどそれに別に不満があるわけでもない」

「何を言っている?」

「そもそも不満を感じる自我なんてない――が、正しいか。

 存在はしているけれど、自我も人格も肉体もあらゆる主導権の全てを十柄鷲子が担っているし、裏の自我もそれで良いと委ねている」

 

 鳥かご男が言う通り、私もこの人が何を言っているのか分かりません。

 だけど、この人は大事な人だというのが分かります。鳥かご男に好きにされるくらいなら、この人の方が良いと思えるくらいには。

 

「夢の核を閉じこめるというのは、夢の持ち主の自我を閉じこめるコトにも通ずるようだな」

「私のコトをッ、分かったような口で……ッ!」

 

 何やら怒っている鳥かご男。

 

「なら、十柄鷲子という女の自我の大半がその鳥かごに捕らえられ薄まった時、残った部分はどうなる」

「それこそ、お前が抱いている女がそうだ! 自我が薄れ、私に良いように弄ばれるだけの存在になったモノ!

 私のモノになったという記憶が意識の奥底に焼き付き、現実では紋様の形で現れる。それこそが私の女になったという証で……」

「スガスガしいほどにゲスだな。お前も、お前という能力も」

 

 やや怒りをはらんだ声で全裸男性がうめきます。

 何に、怒っているのでしょう。

 

「……いや、待て。自我が薄れる……?」

「そういうコトだ。十柄鷲子という存在が薄れた結果、本来ありえないハズの現象が起きた」

 

 聞き流してはいけないことを言っている気がする。

 だけど、ぼんやりとした感覚が、大事な言葉を全部聞き流してしまっているようで……。

 

「まさか……!」

「お察しの通り――極めて限定的ながら、主導権の逆転だ」

 

 そう言いながら、全裸男性は私を優しく下ろします。

 だけど私は何故か立つことができないので、優しく寝かしてくれました。

 

 そして、全裸男性は改めて鳥かご男に笑いかけます。

 逆に、鳥かご男はやや怯えるようなそぶりを見せていました。

 

「つまりお前は――!」

「きっと俺だけじゃないさ。転生者や多重人格者、ドッペルゲンガーには気をつけな」

「何を言っている?」

「お前の天敵の話だよ」

 

 言うなり、全裸男性は地面を蹴り、鳥かご男に迫ります。

 

()の夢の核。取り戻させてもらうぜ」

「はッ! 鳥かごの中にある核……どうやって取り出すつもりだ!」

 

 勝ち誇る鳥かご男。

 

「こうやってだよッ!」

 

 全裸男性は手を伸ばし、鳥かごの隙間から腕を突っ込みました。

 ……あ、結構ガバガバなんですねあれ。

 さすがに鈍い思考でも、びっくりしちゃいますよ。

 

「手ッ、入るのか!」

「お前も驚くのかよッ!!」

 

 目を見開く鳥かご男に、全裸男性がツッコミを入れます。

 まぁ全裸男性が鳥かご男に腕を突っ込んでいるのは間違いないんですけど。ややこしいですね。

 

「だが、簡単に核が取り出せるワケが……!」

「取り出せたぞ!」

「私のバカッ!!」

「そこは『私のガバ』って言うべきだろ」

 

 頭を抱える鳥かご男にツッコミを入れつつ、素早く退避してきた全裸男性は私の胸の上にその核を乗せました。

 

 瞬間――全身に清らかな熱が満ちる感覚が広がっていきます。

 すっきりしなかった思考は、雲一つない青空のように澄み渡っていくのを感じました。

 

 だからこそ、私を助けてくれた男性が誰であるのか、ハッキリと理解します。

 

「だ、だが! 夢の核を取り返したところで……私が夢をハッキングしているコトには変わりないッ! 夢の持ち主が現実でどれだけ武術に長けていようと、ここでは無力な女でしかないぞ……!」

 

 声を震わせながらイキがっている鳥かご男を無視して、男性は私に笑いかけます。

 

「鷲子、借りるぞ?」

「借りるもなにも、あなたも持ち主の一人ですから」

「ありがとな」

「それにしてもずいぶんと武闘派になってますね」

「鷲子の影響だろ?」

「え?」

 

 ……中肉中背で平凡なショップ店員が、暴れん坊になるくらいの影響を私が与えたんですか……??

 

「困難と強敵に立ち向かう勇気と強さは、君のモノを借りてるだけさ」

 

 そうでしょうか?

 仮にそれらを貸し与えられたのだとしても、最後(未知へ)の一歩を踏み出せるかどうかは、自分次第のはずです。

 

 だとしたら――

 

「なぜだッ! なぜお前はふつうに……!

 影響を受けてないんだ……!? 夢の改変の……ッ!!」

 

 右腕を堅そうな木で覆う男性。

 絡まりあう太い枝々に包まれて、一回りも二回りも腕が大きくなったように見えます。

 

「金属で出来たガントレットがあるように、森で出来たガントレットってのもあるらしいぜ?」

 

 あの使い方、今度私もマネしてみましょう。

 

 男性はそんなガントレットを構えて、好戦的に笑います。

 ……うーん、あんな笑い方、あまり記憶にないのですけど。

 

「まぁなんだ……とりあえず一発、殴らせろよッ!!」

 

 でも、そうですね。

 私も私で自覚をした時に、大なり小なりの影響が出たんです。彼にも出てたって不思議じゃありませんね。

 

 ただ、それでもやっぱり――

 

「くッ!」

 

 鳥かご男は鎖を振り回しますが、男性には当たらず。

 

 それらを掻い潜り、地面を蹴って大きく跳び上がると、鳥かご男に向けてガントレッドを付けた拳を構えました。

 

「反撃のッ、ドリュアドスブリッド――……ッ! てな」

 

 必殺技っぽい言葉を叫びながら、ふつうに殴ります。

 いやまぁ、威力的には必殺と言えるかもしれませんけど。

 

「ぐほっ!?」

 

 顔面を殴られ、鳥かご男は吹き飛びました。ホバリングするように浮いていた鳥かご男は、そのまま地面を転がり、ガシャガシャという音が響きわたります。

 

「おのれ……!」

 

 すぐに立ち上がり――浮き上がり?――鳥かご男は、男性を睨みます。

 でも男性の方は余裕な笑みを浮かべて、右のガントレットを見せつけるように構えました。

 

「やるって言うなら相手になるぜ? でも、お前に俺の相手ができるかな?」

 

 その言葉を聞いて、漠然と理解したことがあります。

 あの鳥かご男――能力としてみると破格の性能を誇りますが、恐らく本体はケンカなんてしたことがない人なのでしょう。

 

 鳥かご男が開拓能力で作り出された存在である以上、本体とリンクしているでしょうから、そこは間違いないはず。

 つまり、戦闘能力を有していようとも、戦い馴れという点においてはこちらに軍配が上がります。

 

 本来、こちらの男性もケンカなんてからっきしでしたが、彼は同時に私でもあるので、私の戦闘能力を利用できるのでしょう。

 

「チッ」

 

 そして、鳥かご男は舌打ちをするとゆっくりと姿を消していきました。

 

 同時に私の身体も言うことを聞くようになります。

 私はすぐに立ち上がり、彼に声を掛けようとしますが……。

 

「本体に自我が戻り、夢へのハッキングも解消されれば……まあ、俺は消えるわな」

 

 金色の光の粒子に包まれ、その姿と存在感が薄まっていく彼に、なんと声を掛ければいいのか。

 

「そんな顔しないでくれ。俺はもう君の一部だ。推しキャラの中でその行く末を見れるなんて、それはそれで悪くない。

 まぁその悪くないって思えるような自我も、君の中に溶けて消えちゃうんだけどな」

 

 明るく笑って、彼は――前世の私は告げます。

 彼が消えてしまう前に、お礼を言わないと……。

 

「私が一歩踏み出せる勇気を持てたのはあなたのおかげです!

 あなたが使っていた勇気は、私が貸したモノなんかじゃなくて、あなたの自前のモノで……むしろ、私が借りてる側だと思うんです!」

 

 あ、いえ。違う。そういう話がしたいんじゃなくて……。

 ただお礼を言おうとして、何でこんなことを……。

 

 だけど彼は、笑って返事をしてくれます。

 

「なら、どっちでもいいんじゃないかな」

「え?」

「きっと、俺たちは勇気って奴を人の半分くらいしか持ち得なかったんだろうな。だから、転生なんだか融合なんだか知らないけど、二人で一つになったから、ようやくまともな勇気を持ち得たって話だよ」

 

 想定外の言葉に、私は止まってしまいました。

 

 恐がりで臆病で、だけど、人一倍優しくて真面目で、だから損ばかりしていた、そんなオタク男性だったはずの彼は――とびきりの優しい笑顔で笑っています。

 

「草薙先生も言ってたけどさ、もうゲームのシナリオは必要以上に気にしない方がいいのは間違いないよ。

 自分だけの未知なる荒野って奴の果てにあるエンディングを目指すしかない。

 エンディングって言ってもゲームのエンディングじゃないよ。十柄鷲子という一人の人間のエンディングだ。それを、一緒に見せて欲しい」

 

 私の持つ前世の記憶が、この人で良かった。

 今、私は、本当にそう思っています。

 

「そのエンディングの為に必要なのは、ラスボス討伐でも隠しシナリオ攻略でもなく……」

 

 意味深に笑う彼。

 その先の言葉は理解できます。

 

主人公(HERO)とのイチャイチャ回避ッ!』

 

 二人で声を揃えてそう口にした時、彼の姿は完全に金の粒子だけとなり、やがてそれすらも霧散してしまいました。

 

 鳥かごの男……。

 最悪の能力かもしれませんが、前世の自分と向き合わせてくれたことに関しては、お礼を言うべきかもしれませんね。

 

 まぁそれはそれとして、懲らしめることそのものは確定ですが。

 

 




【CHECK!!】
 前世の自分 と 木星の絆 が 成立しました。


【TIPS】
 鳥かご男がガバすぎる?
 彼を擁護するなら、そもそも鳥かご能力は、反撃を受けるコトを想定しないのである。
 夢の核を捕らえて自我を鈍らせる能力で、そもそも夢の中で対象と自分が一対一になるコトのみが想定されているので、鳥かごの隙間から手を突っ込んで核を取り戻そうとする奴がいるなんて、想定外にもほどがあるのだ。
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