フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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82.其は紳士ならぬ悪夢でありて

 

 9月25日(水) 想定期限(タイムリミット)まであと13日

 

【View ; Syuko】

 

 昨晩の夢のことはハッキリと記憶しています。

 私が転生者でなければ、危険だったかもしれません。

 

 しかし、正史(ゲーム)の時はこの事件どうなってたんでしょうね?

 少なくとも、引きこもり気味だった私が関わるとは思えませんし……。

 

 そういえば夢の中で前世の私が言ってましたね。

 転生者、多重人格者、ドッペルゲンガーは鳥かご男の天敵だと。

 

 ……多重人格者に心当たりはありませんが、ドッペルゲンガーにはあります。なので、正史(ゲーム)の前日譚としては、槍居先輩が活躍したのかもしれません。

 

 そして、そこに気づいた以上、この世界線であっても協力をして貰うべきだと判断します。

 

 

 

 ……とまぁそんなことを考えながら、今日一日授業を受けていたワケなんですが……。

 

 どうにも、普段以上に遠巻きにされている気がします。

 昨日の夢の感じだと、複数人をまとめて――というのは難しそうですから、集団のリーダー格の夢をハッキングして、流行の方向性を作っている……と、いった感じでしょうか?

 

 昨晩のこともあって、私に対する流言流布や、腫れ物のような空気感を作り出したいのでしょうね。

 

 ただまぁ、華燐さんからも避けられ気味なのは、ちょっと辛いです。

 

 恐らく彼女も影響を受けてしまっているのでしょう。

 華燐さんはうちのクラスの女子の中でもリーダー的存在なので、真っ先に狙われてしまった可能性もありますし……。

 

 能力者をどうにか出来た時、関係性が戻ればいいのですが……。

 

 あ、そうですね。

 関係性が戻らない場合、倉宮先輩や安芸津先輩からも嫌われたままということになるのかもしれないのですか……。

 

 …………。

 

 ……まぁ、ぼっちには、馴れてます、からね。

 あんまり……気にしないで、解決の為に、動き回ると、しましょうか。

 

 

 

 

 そうして、歩き回っていて気づきました。

 正直、これはめちゃくちゃマズい状況です。

 クラスだけでなく、学校単位で、針の(むしろ)状態ですよ、私。

 

 何となく居心地の悪さを感じたので、屋上に退避です。

 校内ならいざ知らず、帰る途中で変な人に絡まれて煽られるのも困るので、和泉山さんに迎えの車も回してもらいましょう。

 

 しかし、本当にマズいですね。

 情報収集もままなりません。

 

 どこに誰がいるか確認するのも難しい。

 

 鳥かご男の影響が女子だけだろうと思っていたんですけどね……。

 男子からの情報収集ならいけるかとも、いざやってみれば……女子の空気感を感じ取った男子も遠巻きにしてくるとは想定外。

 

 今はまだ空気が悪い――程度ですけど……。

 最悪なパターンまで行くと、これ……私が悪役令嬢モノの主人公っぽく、退学追放処分とかされませんかね、冤罪で……。

 

 こうなると、アプローチの仕方を考える必要がありそうです。

 この状況で友好的な女性はむしろ警戒するべきでしょうね。

 

 あるいは――その友好的な人には、私とは関わらないようにしてもらって、独自に動いてもらう方がいいかもしれません。

 

 具体的には、雨羽先輩とか槍居先輩とかですね。

 陽太郎くんや、栗泡先輩も遠ざけておきましょう。

 

 みなさんが私の協力者だとカン付かれると、ややこしくなりそうです

 

 男性協力者の方々には、私もすでに影響下にあると思って貰い、独自に動いてもらうべきでしょう。

 

 私自身もこの状況に対して疑心暗鬼となり、情緒不安定になりはじめている――と、鳥かご男に思って貰えた方が、尻尾を掴みやすそうです。

 

 ……では一つ、覚悟を決めて、進むとしましょう。

 ……とはいえ、傷つかないワケではありません。

 ……なので、黒幕には、今までで一番キツお灸を据えたいところです。

 

 そんな覚悟を決めた矢先に、雨羽先輩が屋上に姿を見せました。

 

「あ、鷲子ちゃん! 良かった居た!」

 

 先輩が鳥かご男の影響下にあろうがなかろうが、友好的なところ申し訳ないですけれど、ちょっと冷たく対応しましょう。

 

「ねぇ、なんか学校の雰囲気変じゃない?

 みんな伊茂下先生に対してあたりが強くなってるし、鷲子ちゃんもなんか孤立してない?」

 

 おや? 私はともかく伊茂下先生もですか。

 それは有益な情報です。お礼を言わずに去ることを許してください。

 

「先輩も私を遠ざけたいのでは?」

「え? 鷲子ちゃん?」

 

 伏し目がちに先輩に告げれば、驚いたようなショックを受けたような顔をしています。

 その顔を見るのは少々心苦しいですが、私はそのまま続けます。

 

「無理して自分に言い訳しながら、私につきあう必要はありませんよ。

 みんなと同じように、私を遠ざけてください」

「待って鷲子ちゃん、私は……!」

「先輩が、学校を支配する能力の影響を受けているかどうかの問題じゃないんです。今は……誰も信じたくありません。信じられません」

「あ……」

 

 やめてください。泣きそうな顔をしないでください。

 

「鳥かごのような姿をした能力像(ヴィジョン)は、一度その顔を殴っています。犯人は私が見つけだして解決しますので、放っておいてください」

 

 スカートの裾を握りしめている先輩の横をすり抜けて、屋上の入り口へと向かいます。

 

「待ってッ!」

 

 屋上のドアに手を掛けようとした時、先輩が大声で呼びかけてきました。

 

「私はッ、鷲子ちゃんの味方だよッ!」

「明日になれば、敵になってるかもしれない人の言葉を信じられません」

「……それが、今、鷲子ちゃんが戦っている人の能力……?」

「ええ、そうです。でもそれ以上の情報を提供する気はありません。気になるならご自分で調べてください。

 多重人格者やドッペルゲンガーでもない限り、この支配から逃れる術はなさそうなので。

 私は今、校内の女性を誰一人として信用できないんです。私自身を含めて」

「あ……」

 

 こちらに向かって手を伸ばす先輩を背に、私はそれでは――と一瞥(いちべつ)してからドアを潜ります。

 

 手を伸ばしていた先輩は泣いていました。

 本当に、お人好しです。きっと、今の私の立場を想像して辛くなってしまったんでしょう。

 

 そんな先輩だからこそ、犯人に狙われて欲しくないのです。

 そんな先輩だからこそ、私の言葉をヒントに独自に動いて欲しいのです。

 

 だから――

 

「うっ……」

 

 思ってた以上に、心にキますね、これ……。

 先輩の必死さが嬉しいのに突き放さないといけなかったのは……。

 

 ここまでやっているのですから、あの鳥かご男の本体が、どこからか眺めながら、高笑いでもしててくれると嬉しいのですけれど。

 そうやって余裕かまして油断をしてくれている方が、その足をすくいやすいですので。

 

 自分が少し涙目になっているのを自覚しながら下駄箱までやってきます。

 そこで靴を履き替えていると――

 

「あれ? 鷲子ちゃん? なに泣いてるのウケるんだけど」

 

 華燐さんが私を指さして、そんなことを口にしました。

 

 お調子者の脳筋のようで気遣いの出来る素敵な女性のはずの華燐さんが……私のこぼした涙を見て……。

 

 ああ――まずい。

 これは、非常にまずい。

 今の私にはすごい効いてしまいます。

 

 耐えないと。

 泣くなら、学校から離れてからでないと。

 

「花道さん。まさかあなたが他人の涙をバカにする方だとは思いませんでした」

 

 声が震えてないといいのですけど。

 

「なんかよそよそしいじゃん。華燐って呼んで良いって言ったのに~」

「友達ならそうでしょう。でも、今のあなたを友達とは思えませんので」

「え?」

「友の流した涙をバカにするような人が、友なワケ、ないでしょう……」

 

 これ以上は無理です。

 私は慌てて靴を履き替え、逃げ出すように足早に玄関へ向かいます。

 

「ま、待って鷲子ちゃん! あ、あたし……」

「やっぱり、一人の方が気楽ですね。辛い思いも少ないでしょうから」

 

 ちょっとだけ、本心が漏れました。

 裏切られることに、こんな胸が痛むならいっそ孤独の方がいいのでは――と、脳裏によぎらなかったといえば嘘になります。

 例え能力の影響があるといっても、やっぱり……。

 

 だけど、そんな後ろ向きな考えを肯定して実行してしまえば、あの鳥かごクソ野郎の思惑通りになってしまいます。

 

 だから、私はみんなを信じます。

 全部が終われば、また元に戻ってくれると。

 

「あ……」

 

 雨羽先輩と同じように、華燐さんも手を伸ばして――だけど、彼女はそれ以上は踏み込めなさそうで。

 呆然と開いた口から、くわえていたチュパロリップスが落ちるのも気にせず、固まっています。

 

 華燐さんは影響が薄いようですね。

 彼女なら、自力で呪いから脱せるかもしれません。

 そうしたなら、雨羽先輩たちと一緒に事件解決に向かってくれると助かりますね。

 

 私はやや小走りで校舎を後にすると、背後からガラスの割れる音がして、思わず振り返ります。

 

 ダメですよ華燐さん。イライラしたからって、玄関の窓を割ったりしたら……。

 手や足を怪我したらどうするんですか……。

 

 それでも、彼女の所へは戻らず、足早に校門へ向かいます。

 

 校門からでると、黒い乗用車が停まっていました。

 運転席には和泉山さんが乗っています。

 

 私はすぐに後部座席に乗ると、告げます。

 

「すぐに出してください。私が、我慢できているうちに……」

「お嬢様?」

 

 一瞬だけ訝しがりますが、和泉山さんは私の要望通りに出してくれました。

 そして、敢えてうちの学校の生徒たちが余り通らないルートで、車を走らせてくれています。

 

 ……和泉山さんには申し訳ありませんが、少し泣かせてもらいます……。

 

 

 

【View ; Kirika】

 

 冷たい鷲子ちゃんの言葉に、涙が出た。

 だけど、もっと辛いのは鷲子ちゃんだと気づいた時、涙よりも闘志のようなものが漏れ出したのは間違いない。

 

 ダメだよ鷲子ちゃん。

 冷たくするなら、最後まで冷たくしてくれないと。

 

 屋上のドアを潜る時、ちょっとこっち見たでしょ?

 その時は、いつもの優しい顔をしてたよ。泣きそうな目で、辛そうに唇を震わせながら。

 

 恐らく、鷲子ちゃんはこの状況を作り出した犯人に迫ってる。

 だからこそ、これ以上は迫られないように、犯人が鷲子ちゃんを困らせてるんだと思う。 

 

 そして、私が鷲子ちゃんの友達や協力者だと見なされた時、犯人の能力の影響下に置かれる可能性があるんだ。

 

 鷲子ちゃんの言葉を吟味するなら、女性であるほど影響を受けやすい。

 そのことから、新しいラクガキ事件によってラクガキ被害に遭っている人たちが影響を受けているんだと思う。

 

 それに影響を受けないのは多重人格者やドッペルゲンガーくらいみたいなことも言ってたよね。

 

 ……そんな人、この学校にいるの?

 それに、鷲子ちゃんはどうやってそれを知って、どうやって切り抜けたんだろう?

 

 まぁいいや。そこは問題じゃない。

 何らかの方法で切り抜けて、今ここに至るってのはわかってればいいかな。

 

 影響を受けている人たちも、どこまで影響を受けているのかっていうのが難しいよね。

 鷲子ちゃんに協力的じゃない人も、私には協力的なら良いんだけど……。

 

 ……って、あ!

 そうか! 鷲子ちゃんが私を遠ざけたのは、それもあるのか!

 

 鷲子ちゃんの仲間と思われたら、私も遠巻きにされるかもしれない。

 だけど、まだそうでないのであれば、情報収集もできる!

 

 ふつふつ、メラメラと、心の奥底から怒りが湧いてくる。

 ――とはいえ、私もいつ支配(ラクガキ)されて、この闘志が萎んでしまうかわからない。

 

 だからこそ、やるべきことは託すことだ。

 支配を受け(ラクガキされ)る前に、必要な情報を集めるだけ集めて、信用できる人に託しておく。

 

 ……候補としては、新堂くんかな?

 念のためにもう一人……うん、梅塔くんも、保険候補にあげておこう。

 

 申し訳ないけれど、犯人にはいろいろと覚悟をしてもらおう。

 ふだんの私であれば、どんな悪党であっても、あんまり傷ついて欲しくないなんて思ってしまうのだけれど……。

 

 でも今は――犯人を絶対見つけてブチのめすッ! って、そう思ってる。

 

 殺してやりたい――とすら思ってるかもしれない。

 

 私の大事な友達に、あんな顔をさせたんだ。

 強くて優しい子が、あんな顔をしなきゃいけないくらい追いつめられてるんだ。

 

 ……許してなんか、やるもんかッ!

 

 





【TIPS】
 鳥かご男の命令はそこまでしっかりしたモノではない。
 淫門の浸食度合いにもよるが、
「十柄鷲子を遠ざけろ」
「十柄鷲子を孤立させろ」
「十柄鷲子に嫌がらせしろ」
 ……程度のざっくりしたモノ。
 学校という閉鎖領域だったことにくわえ、集団心理や、場の空気などが綺麗に噛み合った関係で、鳥かご男の想定を上回る速度で鷲子は孤立していっている。
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