フロンティア・アクターズ~私のルートはお断りッ! ヒロインに転生した私はHEROとの恋仲ルートを避けながら町の平和を守ります~   作:北乃ゆうひ/YU-Hi

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83.怒りを糧に、意志を足に

 

 9月25日(水) 想定期限(タイムリミット)まであと13日

 

【View ; Tumuri】

 

 駅前にあるカフェチェーンの片隅。

 ノートパソコン――ではなく、それよりももっと小さい持ち運びできる(ポータブル)ワープロで原稿作業をしていると、スマホが震動をした。

 

 一応画面を確認。どうでも良い相手だったら無視するつもりだったんだが、朱ノ鳥学園高校からだった。

 

 この番号から連絡が来るということは華燐絡みかな?

 上京して一人暮らししているアイツは、保護者に連絡しても緊急対応が難しい。

 

 そこで、現地の緊急連絡先ってことで、あたしの名前を貸している。もちろん、ご両親からの許可は貰ってるよ。

 

 さておき。

 そういうことなので、電話にでないわけにもいかない。

 

「もしもし」

《恐れ入ります、花道さんの保護者である邑雲(ムラクモ) 白瀬(シラセ)さんの携帯電話でよろしいでしょうか?》

「そうです」

《私、朱ノ鳥学園の……》

「すみません。今、お店の中なので、少しだけ待ってて貰っていいですか。すぐに外に出ますので」

 

 自己紹介し掛けた先方を、あたしは遮る。

 申し訳ないけど、このまま店内で電話を続けるのは周囲に迷惑がかかる。なので、あたしは先方に一言断って外へと向かう。

 

「お待たせしました。華燐に何かありましたか?」

《あ、はい。実は――》

 

 下駄箱のところの窓が割れていて、その割れた窓の前で呆然と立っていた……ねぇ。

 様子もおかしいし、自分から帰ろうともしないので迎えに来て欲しいってことだが……。

 

 迎えに行くのはやぶさかじゃないんだが、あの華燐がねぇ……。

 

「わかりました。仕事を切り上げて迎えに行きます」

《ありがとうございます。ですがお仕事は大丈夫なのですか》

「まぁ多少の自由は利きますので」

 

 電話を終えたあたしは店に戻って片づけをする。

 マグカップに入った冷めたコーヒーを呷りながら、どこを見るわけでもなく目を(すが)めた。

 

 ただ学園に迎えに行く――だけで済めばいいけどな。

 

 あー、そだ。

 鷲子ちゃんにでも聞いてみるか。華燐に何かあったのか。

 あたしはLinker(リンカー)で鷲子ちゃんにメッセージを投げつつ、お店を後にする。

 

 まぁとりあえず、だ。

 愛沙(マナサ)大介(ダイスケ)辺りから車を借りないとな。

 

 快く車を貸してくれるだろう知人を思い浮かべながら、Linkerで二人のIDを呼び出す。

 あたし、免許は持ってるけど車は持ってねーんだよね。

 

 

 そうして、愛沙から無事に車を借りれたタイミングで届いた鷲子ちゃんからのメッセージを見、あたしの気分は最低潮になった。

 

 

鷲子

《学園内に精神支配・操作系の能力者あり。

 対象は女性。対象が狭い分、同時に複数への干渉可能と思われる。

 リーダー適正、カリスマ適正の高い女子生徒を優先的に干渉。

 能力による思考誘導された生徒たちによって、私は学園の異物扱い。

 私自身も能力を受けた感想として、多重人格者・ドッペルゲンガーなど自我を複数内包する人以外は、能力を受けてなおすり減らない強力な自我の持ち主でもなければ、大なり小なりの干渉は受ける。

 精神世界で語りかけられている時に、相手の鳥かごの中に捕らえられた自分の自我を奪い返せれば能力は撥ね除けられる。

 私に能力が通用しない為、村八分にするコトで排除したいのだと思われる。

 なおこのメッセージは信用できてかつ、能力の影響を受けない、ないし自力で無効化可能な方にのみ送っているコピペメッセージです。

 個別にメッセージを返す余力がありません。冷たい対応になって申し訳ありませんが、よろしくお願いします》

 

 

 こりゃあ、思考誘導された華燐が、鷲子ちゃんに何かやらかしたな。

 そして学校で村八分にされていることに、鷲子ちゃん相当ダメージ受けてるんだろうな。

 

 能力による影響と分かっても、仲が良かったダチが急に手の平を返されるってのは、想像しただけでも結構堪えそうだ。

 小説のネタには悪くねぇんだけどな。敵は、黒幕に操られた友達全員! みたいな展開。

 

 それはともかく、まぁ事情は理解した。

 

 華燐の精神力は並の学生より高い。

 自分の行動に矛盾を感じて、自力で精神支配から脱せたんだろう。

 

 だけど、思考誘導されている時の記憶もハッキリしているから、自己嫌悪で動けなくなってるってところか。

 

「優しくて真面目なガキどもを傷つけやがって……!」

 

 とはいえ、場所が学校となるとあたしら保護者は手を出しづらい。

 さて、どうしたもんか……。

 

 

 

 9月26日(木) 想定期限(タイムリミット)まであと12日

 

 

 

 翌日の朝、またもや学校から電話が来た。

 何でも華燐が学校に来ていないらしい。

 

「わりかりました。ちょっと華燐のアパートを覗いてきます」

 

 ちなみに、華燐が住んでいるのはあたしが住んでいる部屋のちょうど真下だ。

 

 まぁこのアパート自体が二階建てで、一階と二階に一部屋ずつしかないアパートなんだけど。つまりあたしと華燐で、この棟は満員。

 

 家賃はちょっと高め。実際、一人用ではなくファミリー向けの物件だからね。

 あたしはともかく、学生――しかも高校生である華燐には高めどころではなさそうなんだけど……。

 

 アイツ、仕送り+ストリートファイトのファイトマネーで結構な金持ちだったりするんだよな。

 ファイトマネーに関しては、両親にナイショみたいだけどよ。

 

 ともあれ、あたしは部屋を出て階段を下りていく。

 階段の裏側にある華燐の家の玄関ドアの、インタホーンを鳴らした。

 

「華燐、いるか?」

 

 少し大きめの声で呼びかけると、部屋の中からのそのそと動く気配がする。

 

 もさもさとした気配が、玄関の前まで近づいてくる。

 

「ししょー……?」

「そうだよ。どうしたんだ?」

「……あける」

 

 ガチャリと玄関のドアが開く。

 何一つセットされていないし、身だしなみも全く整ってない華燐が顔を出す。

 

「寒いっしょ? 入っていいよ」

「んじゃあ、遠慮なく」

 

 実際、今日は冷えるしな。入れてもらえるならありがたい。

 

 華燐の部屋に入るのは初めてじゃない。

 あたしのズボラ部屋と違って、結構片づいている。

 ちなみに、華燐は時々あたしの部屋の掃除に来てくれる。ありがたいのでバイト代としてお金渡してたりするけど、それはさておく。

 

 そんな片づいた部屋なんだけど、キラキラコスメや可愛らしいファッショングッズと一緒に、ダンベルや鉄アレイが置いてあるのは、何度見てもシュールだ。しかも、デコってある。

 デコアレイにデコダンベルって新しいジャンルな気がするぜ……。

 

 かさかさと動く華燐についていくと、彼女は和室に敷いてある布団に潜り込んでいった。

 頭からくるまって饅頭みたいになってやがる。

 

「いや寝るのかよ」

「がっこーいきたくないしぃ……」

「そこまでショックだったのかよ」

「だって、鷲子ちゃん、めっちゃ泣いてたんだよ……。

 必死に我慢してますって感じの顔で、ちょっとだけ涙流してて……。

 アタシはそれを指さして笑ったんだよ……サイテーじゃん。サイアクすぎるじゃん……。

 そりゃあ、もう友達なんかじゃないって言われるに決まってるじゃん。アタシとは友達なんかじゃないって言われちゃったじゃん……」

 

 鷲子ちゃんは恐らく学校の状況を踏まえ、華燐が孤立しないようにむしろ突き放したんだろうな。

 

「うっ、く……ヤだよ……。

 ガッコ行ったら、また思ってもないのに、鷲子ちゃんにヒドイコト言いそうで、ヤなんだよ……ヤなの! うわーん!! ごめんねー! 鷲子ちゃんマジゴメンンンン!!」

 

 毛布にくるまってるせいでくぐもっちゃいるが、部屋中に響くくらいの大声で華燐が泣き叫ぶ。

 

 こりゃ、今日は学校行かせるの無理だな。

 しかしこの感じ……この子、マジで自力で能力による支配から脱してる感じだな。

 

「華燐」

「……ぐすっ……なに? ししょー……?」

「ちょいと記憶のぞくぜ?」

「……どぞ」

 

 許可を貰って、鷲子ちゃんとのやりとりを見る。

 ふむ。華燐は単純だから気づいてないかもしれないが、こりゃ鷲子ちゃんは華燐が動くのを期待している感じだな。

 

「おい、華燐」

「なに?」

「今、学校であたしに近い能力を持った奴が悪さしているのに気づいているか?」

「え?」

 

 もぞもぞと布団から顔だけだして、華燐はあたしを見上げてくる。

 

「影ながら学校を支配していたそいつは、鷲子ちゃんが正体に迫ってくるのに気づいた。だから鷲子ちゃんも操ろうとしたが失敗。操れないとわかったから鷲子ちゃん以外の女子を操り始めた」

「アタシは……アタシも、能力の影響を……?」

「受けてる。そもそも学校中で鷲子ちゃんをいじめるように、思考誘導されてるっぽいな」

「……!」

 

 華燐の殺意が爆発する。

 怒りなんてレベルじゃない。馴れない奴が浴びればそれだけで心臓発作を起こしかねないほど強烈な、怒りを通り越した殺気の塊だ。

 

 涙も鼻水もそのままに、自分が誰かにそれをやらされたのだという事実に強烈な殺意を抱くほどに、華燐はキレているようだ。

 

「お前は自力で支配から脱し掛けてるみたいだから、あたしの能力で後押ししてやる」

「アタシは……どうすればいいの?」

 

 怒りを爆発させてはみたものの、どうして良いか分からないんだろう。

 迷子の子猫のような顔をして、華燐はあたしに縋るように見上げてくる。

 

「まずは泣け。好きなだけ泣いたら、今日はあたしとデートにでも行こうぜ」

「はい? ガッコは?」

「サボリたきゃサボれ。無理して行く必要なんざねぇよ。

 それに腹減ってたり気が滅入ったりしてる時に、真面目な話しても疲れるだろ?

 今の学校の状況だとか、鷲子ちゃんが何を考えているのだとか、今後お前がどう立ち回るべきなのか……みたいな話はさ、今日の最後に夕飯食べてからにしようぜ」

 

 華燐のそばに腰を下ろし、あたしはその頭を撫でる。

 

「辛かったような。嫌だったよな。あたしは泣くななんて言わねぇよ。むしろ我慢しないで泣け」

「……うん」

「泣いて泣いて泣き尽くして、そのまま倒れるようなお前じゃねぇだろ?

 転んでもタダで起きたら凡人だ。だけどクリエイターも、アスリートもファイターも、そうじゃねぇだろ。

 転んだ時に感じたモノ、得たモノ、身につけたモノ、そういうもんを血肉に変えながら立ち上がって、リベンジの道なり別の道なりへと踏み出していくもんだ」

「……うんッ!」

「だから泣いていい。ここはお前の家で、この場にはあたししかいねぇんだ」

「……うあ――――ん……!!」

 

 布団から飛び出した華燐があたしに抱きついて泣きじゃくる。

 

 この子の泣いている理由は自分が傷ついたこと以上に、鷲子ちゃんを傷つけたことだ。

 さっき布団の中で叫んでいた時もそうだけど、友達ではないと冷たく言われたことよりも、傷つけてしまったことに傷ついている。

 

 天真爛漫で天然脳筋のような華燐だが、その実、人の心の機微には敏感だ。

 だからこそ、鷲子ちゃんの傷つき弱った顔を見たことがショックだったんだろう。

 

 この子も鷲子ちゃんも優しい子だ。

 あたしみたいなひねくれた大人にゃあ眩しいくらいの、な。

 

 だからあたしは、赤マイマイちゃんを使って、泣きじゃくる華燐の魂に書き込んだ。

 

 ――その優しさと悲しみは、淫紋の支配になど負けはしない。

 ――その怒りと悔しさは何人たりとも奪えない。

 ――鳥かごの中に囚われた大切な自我を取り戻せ。

 ――お前は誰のものでもない。お前はお前、花道華燐だ。

 

 さぁ覚悟しておけよ、黒幕野郎。

 今回の件はあたしだって相当なお冠ってヤツだぜ?

 

 あたしが直接関われないっていうならさ、関われる奴らを可能な限り支援をして、テメェを完膚なきまでに叩き潰して貰うだけだからなッ!

 





【TIPS】
 草薙先生の知人、愛沙と大介は、先生&華燐の住んでいるアパートにほど近い場所にある学生向け食堂付きアパートの管理人&料理人。
 まだ結婚はしていないが、ほぼ確定していて秒読み段階らしい。
 愛沙の許可さえあればアパートの住民でなくとも食堂は使えるので、華燐もお世話になっている。
 二人にとっても、華燐は可愛い妹という扱い。
 華燐にとっては草薙先生が動けない場合は代わりに動いてくれる保護者代理でもある。
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