ざまあされ悪役王女の崖っぷちTS転生譚   作:サニー★

103 / 126
女王編:40 戦術

「偽王に死を!」

「革命の灯を!」

 

 

 映写の魔術から聞こえてくる声からは、士気の高さが窺えた。名家の貴族が手を組んで俺の悪評を領地で広め切れば、こんなに大きな声になるのか。

 

 シャルロット自身が浮かび上がったのか、映写の魔術で映される映像が、戦地を俯瞰するものになる。丘の上の陣地からでも見えたが、より上からだともっとよく戦地の様子がわかる。

 

「見れば見る程、ひどい戦力差ですね」

「それでも持ちこたえてもらわねばならない」

 

 その通りだ。いつ来るかもわからない援軍が来るまで。

 

(それに……革命ときたか)

 

 こちらもそうだが、反乱軍はさらなる寄せ集めだろうから、叫んでいるのは俺の排除を求める貴族だけではないだろう。中には民兵もいるはずだ。それが、ひどく堪(こた)える。

 

 彼らは俺を斃して共和制でも望んでいるのだろうか。でもそれにしては先導しているのが大貴族。

 ……なんだか歪だよな。王家乗っ取りのための反逆に思えるのに、ダンネベルク公は新王として持ち上げられていない。

 

「明確な目標がない。であるというのにこの士気の高さ。妙ですな」

「宰相もそう思われますか」

「はい。なんとも肌のざわつく、嫌な予感がします。リェミーの攻防が作戦のうちだったとすると、反乱軍はノヴァ=ゼムリヤと繋がっている。……女王を斃してこの国をノヴァ=ゼムリヤに占領させる気か?」

「それなら、占領後、彼らは重臣の地位を約束されでもしたのかもしれませんね」

 

 有り得そうな筋書きだ。それなら、反乱軍に参加した民の士気を下げるので大っぴらに『目標』を言えない。誰であっても祖国が他国に統治されるのは気に入らないはず。

 

 でもやっぱり、隙だらけのところをオプスターニスがついてくるリスクを考えていない、そういうところが引っ掛かるんだよな。何度も言うけど。

 

 

「撃てェ!」

 

 

(あ……! 始まった!)

 

 前進してきた反乱軍の前陣から、クロスボウの矢や魔術攻撃がこちらの陣営めがけて飛んでくる。どちらも中距離攻撃だ。

 

「うわっ、あれは……クロスボウか!?」

「気をつけろ! 目くらましの魔術と一緒に来るぞ」

 

 女王軍からの悲鳴が聞こえる。――クロスボウ。機械式の弓だ。

 確かに目の前にいたら恐ろしいだろう。何せクロスボウの矢であれば、重装歩兵の鎧くらい簡単に貫通させてしまう。ただ、真っ向から勝負すればの話だ。

 

「撃ち返せ!」

 

 女王軍はすぐさま陣の前に魔術防壁を展開し、ロングボウ兵が矢を打ち返す。攻撃魔術は魔術防壁に阻まれ、こちらには届かない。

 

(クロスボウ対ロングボウの射撃戦だ)

 

 ――さて、女王軍は三隊に分けて下馬させた騎士の部隊を配置し、さらにそれぞれの下馬騎兵の両翼に、緩やかな斜面にそってV字型になるようにロングボウ部隊を配置した布陣である。

 

 あまり見たことのない陣形だったようで、騎士団長や将軍らは、陣形を考える際、このように布陣したらどうかと告げてみた時、怪訝そうな顔をした。

 

 

「珍しい陣形ですが……陛下がお考えになられたのですかな」

「なぜ騎士を下馬させるのですか?」

 

 やや複雑な陣形は、あまり戦争の歴史がない我が国には珍しい。反発があるのは予想通りだった。

 

 俺も別にちょっと世界史をかじったことがあるだけで、戦術に敏いわけではない。実戦経験のある指揮官たちに強硬に反対されれば考え直すつもりでいたのだが、若い軍人に尊敬されているらしいブロシエル伯が特に反対しなかったので、渋々受け入れられた。

 

「兵を無駄に消費すると判断したら即座にやめればよろしい。丘は取っているのだし、何より陛下に考えがあるのなら、まずやってみてはいかがですかな」

 

 ――そう。考えがある。だからこうした。

この陣形はそれぞれの騎兵部隊の両翼に配置されたロングボウ部隊を、馬から下りて重装歩兵となった騎士により、魔術攻撃から守ることを容易にするためだ。

 

 実際、騎士たちはすぐに魔術での防壁を張って、弓兵を守った。

 

(それに、これは『新しい陣形』じゃない)

 

 中世ヨーロッパにて、イングランド王エドワード三世が考案した、寡兵で敵を打ち破るための専守防衛の陣――ダプリン戦術(モード・アングレ)だ。

 

 攻撃してきてもらわなければマズイというタイプの陣形だが、これは元から、女王(おれ)の首を取るまで終わらない総力戦だ。数的有利にあり、しかも俺が決戦地(シェルト)にいると知っている反乱軍は、必ず攻撃をしてくる。

 

 向こうの、大量にいる騎馬隊。その突撃に備えるための罠だって張ってある。

 

(よし、ちゃんと向こうから攻撃してきてる。これならそのうち、騎馬突撃もしてくるはず……ん?)

 

 ドン、ドン、ドン、ドン。ド、ド、ド、ド。ドドドドドドドーーと徐々にテンポが上がる太鼓の音が聞こえてくる。

 

 よく見れば、敵軍のクロスボウが発射されるのに合わせて鳴らしているようだった。重苦しい音がどんどん速くなっていくと、直接耳にしていないのに恐怖と焦りが煽られる。

 

(歩兵を混乱させて、怖がらせる作戦か……!)

 

 だがそんな小手調べ、意味ないぞ。 

 

 ――ロングボウ部隊がいっせいに弓を引く。弓梢がしなり、大きく弧を描いて矢が飛んでいく。そこで、魔術担当の騎士たちが叫ぶ。

 

 

「追い風用意!」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。