ざまあされ悪役王女の崖っぷちTS転生譚   作:サニー★

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女王編:42 一日目の終わり

 後ろは落とし穴、前は杭。

 

 穴を乗り越えて出てきながらも、立ち往生することになった敵を、今度は側面から弓と魔術で攻撃する。そのために、ロングボウ部隊をV字に配置したのだ。

 

 重装歩兵に迫る敵がいたら、その両翼にV字に突出した形で配備されているロングボウ部隊が挟撃するような形になるように。

 

「ぎゃあああ!」

 

 両側から矢を受けた敵が、倒れていく。それでも倒れない騎兵は、正面の重装歩兵が馬から引きずり落して殺す。

 

 

 待ちに強く、幾重にも罠が張られる。

 それが、専守防衛の陣モード・アングレだ。

 

 

「引けっ、引け!」

「!」

 

 映写の魔術に、泡を食って本陣へと撤退する騎兵たちの姿が映る。突撃していたのは第一陣の騎兵たちだけではない。総攻撃とはいかないが、後続の騎兵たちも続々と突進してきていたのだ。 ――それが逃げている。

 

 中央の兵を指揮していた騎士団長の声が轟く。

 

「敵が逃げるぞ! 騎馬千、馬ごと落とし穴の上を飛んでついてこい! 逃げていく敵の背を撃つぞ!」

「オオ!」

 

 馬にも自分にも浮遊魔術を掛けることができる手練れの騎兵が馬に乗り、逃げていく反乱軍の騎馬隊の背中に攻撃を仕掛ける。

 世界史では待つばかりで、攻撃してもらわなくては何もできないダブリン戦術だったが、この世界では魔術があるだけ、少しだけなら自ら打って出ることもできるのである。

 

(ただ……さすがにもう、向こうさんも考えナシに突撃はしてこないか)

 

 クロスボウ部隊の壊滅とこの突撃で、反乱軍はかなりの数の兵を失った。

 

 ただ、百年戦争で、三万のフランス兵を一万二千のイングランド兵がダブリン戦術を用いて打ち破ったクレシーの戦いでは、異常に高い士気のもとこの『待ち最強』の布陣に、フランス騎兵が何度も何度も何度も突撃したからこそ、イングランドは勝利した。

 

 けれど今のように反乱軍すぐさま撤退して、無駄な突撃をしてこなくなるなら――。

 

(やっぱり……難しい戦いになるかもな)

 

 蟀谷から一筋、汗が垂れる。

 

 

 

 *

 

 

 

「素晴らしい戦果です。こちらの損耗が少ないのに対して、ずいぶん敵兵の数を削りました」

 

 

 夜。

 

 敵軍が退き、戦闘が止んだため、騎士団長と将軍ら、ブロシエル伯、それからシャルロットが城に戻ってきた。シャルロットの魔術でまとめて瞬間移動したので、敵にシェルト城への移動を見られてはいないだろう。

 

「さすがは女王陛下です。まさかここまで戦術に通じておられるとは……」

「わたしのおかげではありません。兵の奮戦と、シャルロットの魔術ありきです」

 

 実際、戦術だって、前世の知識を応用しただけだし。それに、さっそく手詰まりになろうとしているんだから、褒められるようなことでもない。

 

「確かに殿下の魔術は素晴らしい。映写の魔術と通信の魔術の長時間展開をした後でなお、五人を瞬間移動させる余力まで残しておいでとは」

「我々高位貴族でも、瞬間移動の魔術を発動することさえ容易でないというのに」

「お褒めの言葉、ありがとう存じます。しかしわたしは先代国王陛下に、聖女候補として養女に迎えていただき、聖女でないとわかった今も、こうして王女の身分を与えていただいている身。この程度のことは、当然です」

「なんと気高い」

 

 養女とは思えぬ、まさしく王家の威厳よ、と将軍たちが手放しでシャルロットを褒める。彼らの言葉には多少おべっかも入ってそうだが、まったくもってその通りだ。うちの義妹の優秀さと可憐さに全人類は跪くべきである。

 

 俺が後方親父面をさらしていたところで、キャロルナ公の一言。

 

「しかし向こうも馬鹿ではない。今回の陣は『待つ』ためのものでした。罠を張り、高低を活かし、誘い出して自滅させ、あるいは囲んで袋叩きにする。しかしそれは向こうが突撃してくれたらの話。明日はそうはいかないでしょう」

 

(その通りだ)

 

 さすがはキャロルナ公爵。

 

 明日から、敵が突っ込んで来てくれるか。そこが危うい。

 ただ突っ込んでこなくなる、だけならむしろ時間稼ぎがしたい女王軍にはありがたい。しかし策を練った上でこちらを崩してくる可能性は大いにある。向こうは今日でだいたい、こちらの手の内を察しただろうから。

 

「ですが宰相閣下。反乱軍は短期決戦を望んでいるはず。敵が策を練ってくるかもしれないからと、このまま、待ちに有利な陣形を崩していいのでしょうか」

 

 騎士団長が言う。……確かにそれもそうだ。

 

 向こうはさっさと俺の首を取りたいだろう。なにせ兵を養うにも、士気を保たせるにも食べ物がいる。五万の軍勢ならば尚更で、だが反乱軍は補給線が心もとない。だから短期決戦がしたいはずというのはその通りだと思う。

 ――なぜなら王都周辺には日和見の貴族ばかりだからだ。

 日和見ということは女王軍の味方もしないが、反乱軍の味方もしないということなので食料も出してくれない。さらに両軍とも、なんとか味方はほしいので、このあたりの領土で略奪はできない。それをした瞬間、敵方に付かれることが決定するからだ。

 

 だとすれば、反乱軍の取る選択として、手っ取り早く攻撃して、ごり押しでどうにか俺の首を取ろうとしてくる、というのもあり得る。

 

 

(敵指揮官……ダンネベルク公がどう出るかだが)

 

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