ざまあされ悪役王女の崖っぷちTS転生譚   作:サニー★

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王太女編:12 シュルツハルト領

 さて。

 シュルツハルト領主は現キャロルナ公爵の親戚で、キャロルナ派の貴族である。

 

 俺にとっては対立派閥の長の関係者、警戒しなければならない存在だが、ディーデリヒとシャルロットの婚約が決まっていることで表面上は平和だ。

 それに、魔物問題は国全体で取り組むべき問題だ。砦に集まる騎士たちは、派閥関係なしに練兵に励んでいる。

 

 

「ようこそいらっしゃいました、王太女ディアナ殿下」

「出迎えご苦労さまです、シュルツハルト辺境伯。数日お世話になるわ」

 

 ぎゅっと握手を交わす。シュルツハルト家の当主は、領主というよりは武人のような体格だった。 

 彼に案内されて、さっそく領最西端の砦に向かう。

 

「あれがシュルツハルトの関塞……」

「ええ、なかなかのものでしょう。砦には捕らえた魔物の生態や、毒を研究する施設もあるのですよ」

 

 国境に聳え立つ関所の壁に圧倒される。

 派閥が違うため、シュルツハルト領にある国境門を見たことはなかったが、なるほど、大きい。分厚く、高く、横に長い。魔族であろうが魔物であろうが、これを越えるとしたら一苦労だろう。

 

(いやまあ、一番越えさせちゃいけないヤツが俺の隣にいるんだけど……)

 

 言うまでもなくアインハードのことである。

 

 

 

 練兵場に行けば、中央の騎士団とはまた違った種類の緊張感と熱気を持った騎士たちが訓練に励んでいた。領主から案内を受け継いだ騎士団長が詳しく練兵の内容を説明してくれることになったので、同行する。

 

 騎士の所属がどこであるのかはマントの色を見ればわかるのだが、シュルツハルトの所属ではなさそうな騎士もそれなりの数確認できた。恐らく、対魔物戦闘を学ぶために派遣されてきたのだろう。……ちなみに近衛部隊、つまり中央騎士団に所属しているイーノ・スターニオ――アインハードのマントは月白色だ。正直、黒と赤がイメージカラーの魔国太子様にはあんまり似合ってない。

 

「それにしても……不躾ですが、殿下の護衛騎士殿は、かのイーノ・スターニオ殿なのではありませんかな」

「ご存知なのですか?」

「ええ、もちろんですとも」騎士団長が瞳を輝かせてアインハードを見る。「我がシュルツハルト騎士団からも腕利きが出場しましたが、圧倒的であったと噂になっております」

(だからさっきから練兵中の騎士たちにチラチラ見られてたのか……)

 

 思ったより統一大会優勝者って、人気があるんだな。貴族の男、特に武官にとっては憧れの存在なんだろう。

 

 まあ、気持ちはわかる。俺だって普通にカッケ〜! とは思うし、こいつが(俺と国の)破滅の使者アインハードでなければ手放しで憧れてただろう。……当の本人は、男からキラキラした目で見られても、まったく興味なさそうだけど。

 

「スターニオ殿。普段、どういった訓練をなされているのです? 見たことのない剣術、体術で、皆大会では目を奪われましたぞ」

「私は育ちがよくないものですから……。喧嘩殺法を発展させたものにすぎません。地元で剣を教えてくれた師もいましたが、何分自由な人で、今どこにいるのか……」

「そのお師匠様にお会いしてみたいものです。荒々しさの中に、研ぎ澄まされた鋭さを感じる剣でした。……それに見たところ、貴殿は魔力も多いようだ。魔力を使ってもよい大会だったなら、あなたの強さはもっと圧倒的なものだったろう」

 

 光栄です、とアインハードが微笑む。老若男女を虜にする、艶と陰のある笑み。

 

 魔力が多い? そんな言葉でおさまるかっつうの。こいつは魔国太子で、うちのシャルロット――この国の真の聖女に匹敵する魔力の持ち主だぞ。ま、あんたは知らないだろうけど!

 

 自分を放置して進む会話を、時折心の中で突っ込みながら聞いていると、ふと騎士団長が眉尻を下げてこちらを見た。そして、申し訳ございません殿下、と言う。

 

「殿下におかれては、武のことなど、あまり面白くない話題でしたでしょう」

「そんなことはありませんよ。わたしも騎士たちの訓練に興味があります」

「そんな、ご無理をなさらず。年頃の姫君には武骨な練兵場も退屈でしょうし、もしお望みならば城に連絡いたしますが?」

「いえ、そんな……」

(……待てよ。もしかしてこれ、戦いに出ない女なんかに対魔物の戦闘訓練や日々の戦況について話したところで、何もわかんないだろ、って暗に言われてるのか?)

 

 俺は騎士団長を見る。

 ――祈りと魔力で国を守る月の神子様、次の女王様。守られるべきこの国のお姫様。そういうふうに見られている。侮辱はないが、ある意味での侮りはあった。

 

 確かにこの国では、聖女が強い必要はない。

 また、王侯貴族の姫は騎士に守られる存在であり、戦いのことはわからない者の方がよほど多かろう。

 

(だからこの人の気持ちはわからんでもないけど……)

 

 しかし俺は、凡人なりに近衛部隊で訓練を受けているし、興味もある。 

 はなからわからないだろうと決めつけられるのはいささか不本意だった。

 

「シュルツハルトの女は皆明るく、教養深いのです。領主様の城には自慢の楽団もいますし、城でゆったり女性の茶会を楽しんでいただいた方が……」

「ですから、わたしは――」

 

 

「団長! ご歓談中失礼致します! 火急の伝令です!」

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