ざまあされ悪役王女の崖っぷちTS転生譚   作:サニー★

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幼少期編:2 女体化転生 帰れ下さい

 *

 

 

 

――せめて転生させるならクソバカ婚約者にしてくれればよかったんだよ。

 

いただろ王女に寝取られた(のかは知らんけど)、ヒロインの許嫁だった公爵子息がさ。悪役に転生するにしたって男ならまだよかったよ。王女はダメだ王女は、中身男の悪役令嬢(王女)に需要があるわけないだろうが。

 

 

「うおおおおい……どうすんだよォ……」

 

 なんだこの惨状。目も当てられないよ。

どうやら頭を打ち付けて階段から転がり落ちた俺は、意識どころか命まで失ってしまったようである。

 現実を認めたくない心理が、それ以上姿見の前に立つことを拒み、俺はのそのそとベッドの中にもぐった。信じられないほどふかふかな寝台に慣れず、知らず溜息が出る。

 

 

 ――『魔国聖女物語』。

 

 

その第一巻は、年子の姉が所有していたものだった。

 

『魔国聖女』は、女性向けラノベレーベルから出版されていたが、どちらかというと恋愛よりもバトルと爽快さに重きが置かれていたため、バトルもの好きな俺も見事にはまって読んだ。

それに、なんてったってヒロインとヒーローの顔がいいんだよこの作品。聖女と次期魔王のバディでありながら恋人、っていう関係性も、めちゃくちゃアツい。

 

……だから俺は、これからも続刊を追い続け、アインハード×シャルロットを推し続けようと、そう思っていたのだ。

 

(それなのに、まさかこんなことになるとは……)

 

読みながら階段を下りていたから、小説の世界に入り込んでしまったのか? それともこれは病院で昏睡する自分が見ている夢?

 

「考えても仕方ないか……」

 

 どうするんだよったって、どうしようもないのである。

 

この身体になってしまったものは、もう変えようがない。ならこのまま生きていくしかない。この世界が夢で、『俺』はまだ生きているのだ、という保証はどこにもないんだから。

 

 ――なら、特別な幸運も才能も何もない凡人なりに、原作の王女のような運命を迎えないよう、精一杯努力するしかない。

 

(俺の武器は、『魔国聖女物語』の記憶があること。未来を知ってることだ。命が助かるための第一条件は、シャルロットに敵対しないことだけど……)

 

 もちろん、真の聖女としての立場を奪うなんてもってのほかだ。最低でも身分を保証し、聖女として恭しく遇さねばならない。――シャルロットの好感度を上げることができれば、彼女はアインハードの手は無闇に取らないだろうし、そのまま二人で王国を滅ぼそうなんてことにはならない、はずだ。

 

 男主人公アインハードは冷徹無比な性格という設定だが――ヒロインに「ルネ=クロシュを潰すために手を組もう」と申し出たのは、ただルネ=クロシュを滅ぼしたかっただけではなく、彼女への仕打ちに腹を立てていたからだった。彼女をいじめなければ侵攻もない、かもしれない。

 

……まあ、今の全部希望的観測だけど。

 

「ああ~~~~あ、マジでなんでこんな目に遭うのが俺なんだよォ……」

「――姫様」

「うわッ⁉」

 

 将来設計と愚痴をぶつぶつ呟いていると、ノックの音とともにこちらに呼びかける声がした。まずい。今の声、誰のものだ?

 応えられずにいると、「入りますよ」という声とともに扉が開いた音がした。かつかつと踵が床を叩く音が近づいてきたかと思えば、すぐに天蓋の紗幕がかき分けられる。

 

「朝でございますよ。……おや、既に起きていらっしゃったのなら返事をなさいませ。そもそも、姫様はもう八歳になられるのですから、ヒルデが参るよりも先に寝台から降り、側仕えを待っておくものです」

「ヒルデ、ガルド」

「はい」

 

 顔をのぞかせたのは年配の女性だった。書籍の挿絵では、彼女の容貌を見たことがなかったが、名前は意外とすんなり出てきた。――彼女はヒルデガルド。王女の筆頭側仕え。

 

「……おはよう」

 

 しかし、いつも、彼女の前でどんな態度でいたのかはわからない。

 とりあえずは言われた通り身体を起こして寝台から降り挨拶をすると、ヒルデガルドは目を細め、「姫様がこのヒルデの言うことをお聞きなんて、珍しいこと」と言った。

 

「おはようございます、姫様。本日のご予定ですが、午前はこのヒルデとともに文字の勉強、午後にはエクラドゥール公爵令嬢とのお茶会となります。――よいですか、姫様」

「はいっ?」

 

 突然声を低めたヒルデガルドに身を固くする。

すると、ベテラン側仕えの彼女は、厳しい顔、厳しい声で俺に告げた。

 

「よろしいですか、姫様。前回お茶会での姫様の振る舞いは、大変失礼なものでした。悪気がないから、なんでもしていいわけではないのです。エウラリア様は我慢強いお方でございましたから顔には出しませんでしたが、姫様のお言葉に困惑し、お怒りでおられましたよ。その点をよくお考えになって、今日のお茶会に臨まれませ」

「…………はい」

 

 え、何? もしかして俺、転生早々ピンチ?

 

 

 

 *

 

 

 

(やべえ俺この世界で本当に生きていけるのか?)

 

 

 午後のお茶会。

 

俺は、目の前の席に座る、十三歳くらいの楚々とした美少女――公爵令嬢エウラリア・エクラドゥールの微笑みを見ながら、内心震えていた。なるほど、貴族の令嬢らしく感情を隠した笑みを浮かべているが、こちらを見るその青い瞳は冷え冷えとしている。

 

 

 ――午前、文字の勉強をしていただけでわかったが、俺にはこの世界で生きていけるだけのスキルがほとんどない。

 

 まず、文字が読めない。これはそもそも王女の勉強が遅れていたので、読み書きができなくとも、ヒルデガルドには怪しまれなかった。

一番まずいのは礼儀作法や、貴族的で迂遠な言い回しがさっぱりわからないことだ。

 王女ディアナは、教育を真面目に受けていなくとも、貴人としての振る舞いがある程度身に付いていた。――だが俺は違う。凡人男子大学生に、王女としての立ち居振る舞いができるはずがない。ただ座って文字の勉強をしているだけでも、何度ヒルデガルドに注意されたことか。

 

(世の中の悪役令嬢転生ものの転生者たちはどうやってこの難関を乗り越えたんだ……!)

 

 文字も読めない、娯楽もない、今まで生きてきた世界と常識も違えば、おまけに約束された未来も暗い。……早くも心が折れそうだ。

 

「ディアナ姫様、本日はお招きいただきありがとうございます。太陽神の寵愛篤いよい日ですわね」

「……はい、そう、ですね。エクラドゥール公爵令嬢」

 

 意に添わぬ返答だったのか、公爵令嬢の眉が軽く動いた。ひえ……なんて返せばよかったんだ? 側に控えているヒルデガルドから呆れた空気が醸成されているのが怖い。

 もしかして、今のは貴族的に決まった返しが必要な挨拶だったのか? そんなの転生一日目の俺にわかるわけなくない?

 

「よ……ようこそ、おいでくださいました公爵令嬢。あの、今日は……」

 

 ――何を言えばいい?

 これは先日『自分』が何かをやらかしたために、それに始末をつけるためのお茶会だ。だが、肝心の、何をやらかしたのかを覚えていない。ヒルデガルドにも恐ろしくて聞けなかった。

 しかし冷や汗を流しながら、青い顔で続けようとしたその時――お茶会を開いていた部屋の扉が開いた。ノックはあったが、応えを待たずに、その人物は中に入ってきた。

 

(ええ……?)

 

 さすがの俺にもわかる、これは失礼な振る舞いだ。

だが、王女と公女の茶会に、こんな無礼が許されるということは――。

 

 

「第一王子殿下!」

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