ざまあされ悪役王女の崖っぷちTS転生譚   作:サニー★

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王太女編:17 詰問

「……は、?」

 

 ――頭の先から爪先まで、一気に冷たくなる感覚がした。

 

 音を立てて血の気が引く、というのは、このことを言うんだろうか、と思う。目の前の男の薄笑みがあまりにもおぞましいものに思えて、上手く息が吸えない。

 

(なんで……、今、それを……)

 

 気づかれているだろう、ということはわかっていた。

 しかし、何故、今それを聞く――? 

 

「この言い方ではおわかりになりませんか。では、どうして聖女を『偽称』しているのかか、と聞きましょう。……国民を騙すのがお好きなのでしょうか?」

「な、にをおっしゃっているのか、わたしには……」

「わかりませんか? 本当に? 

 ――()は初めからわかっていましたよ。真の聖女は第二王女の方だと。月の神子の気配はわかりやすいので」

 

 一歩、アインハードがこちらに近づく。俺は慌てて腰掛けていた椅子から立ち上がり、後ずさった。肘が椅子の背に当たり、横倒しになる。

 

「……そんなに青ざめて、動揺を見せて、それでも何を言っているのかわからないと? どうやら、あなたは王族には向いていないようだ。どんな時でも自らの感情を見せないのが貴人のあるべき姿でしょう。そういう意味ではよほど妹君の方が狸だ」

「何を……」

「そう恐れないでください。別に俺はあなたを害そうだとか、追い詰めようだとか……断罪しようだとか、そういうことを考えているわけではありません」

 

 だったら何が目的だというのか。

 追い詰めるつもりはないと言われても、今まさに俺は追い詰められている。

 

「気になっていることがある、と言ったでしょう? 俺はずっと確認したいことがあった。だからお時間をいただくことにしたんです」

「離れなさい、イーノ。人を呼びますよ」

「ご自由に。むしろ、人を呼ばれて困るのはあなたの方だと思いますが?」

 

 ――その通りだ。俺はぐっと唇を噛む。

 

「あなたは聖女を騙り、国民を、臣下を騙している。恐らくシャルロット殿下から力を奪い、それを奉納し、聖女としての名声を得ている。それは間違いないんです。……認めますよね、殿下?」

「誰が……っ」

「往生際が悪い。

 とはいえ、聖女の魔力を体内に貯蓄するなんて芸当、そうそう可能なことではないので、その辺りのことも疑問ではあるのですが……」

(疑問? それの何を疑問に思うことがあるんだ?)

 

 他人から魔力を受け取って溜め、それを使うことが、そうそう可能なことじゃない? 

 何を言ってるんだ、こいつは。

 別に俺は魔術の天才というわけじゃないが、難しいと思ったことはないぞ。

 

「――まあ、それはいい」俺の思考を遮るように、アインハードが淡々と言った。「まずは疑問に答えてもらいましょうか」

 

 目を細めたアインハードが、さらに一歩、近づいてくる。

 ごく間近に迫ってきた魔国の太子は、腰をかがめて俺の顔を覗き込んだ。

 

「しばらくあなたを見ていて、どうにも不自然さを感じたんですよ。義妹から無理矢理力を奪い名声を自分のものとしているにしては、シャルロット殿下のあなたへの態度はあまりにもアレですし、あなたもシャルロット殿下を大切にしているようだった。……蜜蜂からあんなに必死で守ろうとするんですからね。あれは計算ではなかった」

「……っ」

「シュルツハルトの無能な騎士団長を庇った時もそう。つまり、あなたは反射で、自分よりも人の命を守ろうとする類の人間だ。……だというのに、義妹に名声と功績を返そうとするそぶりはない。あなたのしていることは、俺がこの目で見たあなたの人となりと、あまりにも噛み合わない。不思議ですね?」

 

 ――それとも全てが計算なのでしょうか。

 だとすれば見事なものだ。

 

 そう言うアインハードの笑みは、相変わらず目の奥が全く笑っていない冷たいものだ。

 

「あなたの目的はなんですか?」

 

 アインハードの手が伸びる。片手で、顎ごと頬を強く捕まれた。首を絞められてるわけではないが、顔は痛いし息は苦しい。

 

「教えてください。俺は確かめたいんです。

 シャルロット殿下を大切に思うよりも、名誉を得る方が大切だったのでしょうか? 賞賛と敬愛の念が欲しかった? それとも、次期女王としての求心力を得たかった? 

 月の神子を兼ねた女王など歴史上そういない。きっと女の王が親政をするのに、これ以上の存在はないでしょう。それとも単純に人の功績を掠め取るのが楽しいのでしょうか?」

「離せっ……」

 

 声を荒らげれば、ふ、とアインハードが目を細めた。

 そして冷ややかな声で言う。

 

 

「ああ、あなたが何も言わないのなら、シャルロット殿下に事情を聞いてみてもいいですね」

 

 

 ――なんだって?

 

「シャルロット殿下が全てを告白すれば月の神子の座は彼女のものになるのに、あえて口を噤んでいるんですから、彼女の側にも何か事情があるのでしょうか? 王女二人が共謀して皆を騙っていたとなれば、国民は一体王族をどう思うでしょうね。そのことを指摘すれば応えてくださるでしょうか」

「……!」

 

 わざわざ本人に迫るなんて行動に出るくらいだ、奴は俺が聖女でないという証拠は持っていないはず。だとすれば何も言わない方が勝ちだ。

 

 ――そう思っていたから黙って耐えるつもりだったが、最後まで聞いていられなかった。

 

 気づけば、俺は全身に巡る魔力を掌に集めていて、

 次の瞬間には思い切りアインハードを突き飛ばしていた。

 

「ッ⁉」

 

 相手が相手なら吹き飛ぶくらいの魔力を込めたつもりだったが、そこは魔国太子。奴は数歩よろめいただけだった。

 しかし、隙ができたのは事実。……俺はヒールのついた靴を投げ捨てると、地面を蹴り、拳を固めてアインハードに殴り掛かった。

 

 完全に虚を衝かれたアインハードだったが、不安定な体勢なまま、それでも拳を避けた。しかし重心は傾いていたままだったので、さらに足払いをかける。

 

 バランスを崩した奴に蹴りを叩き込もうとしたが、これも避けられた。そして追撃を仕掛けるよりも先に体勢を整えたアインハードは、俺の握った拳を顔の目の前で止めようとして――寸前で顔をのけぞらせ、ほぼ同時に俺の手首を掴んだ。

 

 

「ハッ……さすがに『判断』が早すぎやしませんか? 殿下」

 

「そのまま余裕ぶって顔面手前で受け止めてくれていたら、ありがたかったんですが」

 

 

 ――俺の固く握った拳の指の間には、白い小さなペーパーナイフが挟まっていた。

 舌打ちをする。白いオペラグローブをはめているので、刃はさぞ見えにくかっただろうに。

 

 こんなペーパーナイフでも、隙をついて、眉間に突き立てることができれば命を奪える。

 そう思ったが、魔国太子相手じゃ、やっぱり無理だったな。

 

「護衛騎士を殺したら、あなたにも不都合があるでしょうに」

「大した問題はありませんよ。王女に無体を働こうとした不埒な護衛騎士が、反撃に遭って死んだことになりますから」

 

 なるほど、とアインハードが肩を竦める。それを見て、俺は目を眇めた。

 

 そして、はっきりと告げた。

 飾らない、『俺自身』の言葉で。

 そうじゃないと伝わらないと、そう思ったから。

 

 

「――いいか。俺がやっていることは、俺だけの罪だ。

 あの子に不利益を被せようとするなら、絶対に、容赦しない」

 

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