ざまあされ悪役王女の崖っぷちTS転生譚   作:サニー★

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王太女編:30 禁忌の研究

 ――嫌な予感が、した。

 

 こめかみを流れる冷や汗に気づかない振りをしながら、何も書かれていないページを捲っていく。

 ……すると何やら、書簡、あるいは何かの報告書のように体裁を整えた文章が並んだページを見つけた。

 

 さらにそのページの上部には、兄の字で「告発文」と書かれていた。

 

「告発文……。兄の手蹟だ」

 

 紙を持つ手が、意図せず震えた。

 これだ。……兄はきっと、これを俺に渡したかったのだ。

 

「でも……告発者の署名は違う人物のものだ」

「となると、これも写しですね。恐らく、大本の書類を、アーダルベルト殿下があえて別紙に書き写したんでしょう」

「なんのために」

「さあ。持ち出しができなかったか……あるいは、持ち出したことを万が一にも誰かに知られたくなかったか」

 

 今となってはわからないでしょう、と、アインハードがかぶりを振る。

 

「殿下。読み上げますか?」

「……、ああ、頼む」

 

 自分では目を通す勇気が持てずに、紙を渡す。

 心得たとばかりに頷いたアインハードは、そこに書かれた文章を朗々と読み上げた。

 

 

「『以下の者を学長殿の査問にかけていただきたく、これを記させていただきました。

 エクラドゥール学生、及び、シュルツハルト学生は、法にて禁じられた合成獣(キメラ)の研究をしております』」

 

 

「――と、ここまでですね」

「ありがとう。だが、査問って……。それに。合成獣(キメラ)……?」

 

 聞いたことは、ある。

 

 たしか、合成獣とは、魔物と魔物の要素を組み合わせて作り出した、新しい生物のことだ。あるいは異種の魔物同士を人工的に交雑させ、二種の魔物の特性を持った子どものこと。

 ――要は、合成獣の研究とは遺伝子操作の研究なのだが、対象が魔物であるがゆえに研究そのものが危険で、さらには倫理に悖る行為だということで、この国では研究自体が禁止されていたはずだ。

 

(……まさか)

 

 その禁忌の研究を、かつて宰相が行っていたというのか――?

 

「だとしたら、卒業名簿(ここ)に名前がないのはこの告発文で大学から除籍されたからか。

 ですがシュルツハルトの名前が消されていないということは、辺境伯は宰相に罪を押し付けて除籍を逃れたのですかね?」

 

 唇を噛みしめる。

 ……信じたくない。信じられない。

 だが、あの兄が遺したものが、まったく無意味なものであるとは思えなかった。

 

 

「……いや、恐らく宰相が罪を被ったんだ。

 辺境伯は支配地域近くには大きな影響力を持つ貴族だが、中央とは繋がりが薄いから、中央貴族が多い大学では立場が弱い。けど、次期公爵なら……」

 

 

 ――都合の悪いことは握りつぶせる。

 

 そうだ。

 あの人の立場なら、除籍も、違法な研究もなかったことにできる。大学を離れるのも、公爵の後を継ぐための自主退学だった、とすればいい。公爵家の力を持ってすれば、不祥事を揉み消すなんて朝飯前だろう。

 

 つまり――シュルツハルト辺境伯は、宰相に多大な借りがあることになる。

 当然だ。罪を揉み消してもらったのだから。

 

 と、なると。

 恐らく彼にとっては、親戚であり一族が所属する派閥の長である、キャロルナ公爵よりも、優先すべき人間に当たるはずだ。

 

 

(だが……なんだか、違和感がある。

 本当にこれが、アーダルベルトがここまでして隠したかったことなのか?)

 

 

 民に人気な宰相の秘密を知ってしまった。……なるほど確かに大問題だ。

 宰相にとっては隠しておきたいことであろうし、知られては困る事実だろう。

 

 ――だが、曲がりなりにも次期国王が、己がこのことを知ったとは、決して誰にも知られてはならぬとばかりに、必死になって隠すほどのことか? 

 それに、こんなふうに回りくどく誰かに託してまで、俺に伝えなければならないことだろうか?

 

 どうしてだ? 

 アーダルベルトはそこまで、宰相を脅威に感じていたということか?

 不祥事(スキャンダル)は不祥事(スキャンダル)だが、研究者が禁止された研究をして処罰されるというのは珍しいことではないし、死罪に当たるような大罪でもない。……言ってしまえば、放置――見て見ぬふりをしていても問題ない類のものだ。

 

(でも、アーダルベルトは実際に死んだし、遺言みたいに、俺にこれを遺した……)

 

 だとしたら、アーダルベルトを暗殺したのは――宰相閣下なんだろうか。

 このことを知ったから、アーダルベルトは口を封じられた?

 

 今の今まで気にしていなかったが、宰相は魔物の研究者。

 しかもシュルツハルト辺境伯に大きな貸しがあるのだとしたら、魔物の毒を調達するのは容易いだろう。

 ヴェスペヒフの蜂毒が、検死の際に雀蜂の蜂毒と見なされやすいことを知っていてもおかしくない。

 

(だが……これを知られたからって、即座に王太子の口を封じようと思うか? 大袈裟すぎやしないか)

 

 それとも宰相にとっては、合成獣(キメラ)の研究で処罰されたことは、それだけ隠したい罪、だったということなのか?

 それも王子を、殺さなければならないほどの――。

 

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