ざまあされ悪役王女の崖っぷちTS転生譚   作:サニー★

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女王編:6 理想

「ありえませんね。笑えない冗談はおやめください」

「だよな、わかってる。……悪い、ちょっと疲れててな」

「ディアナ様……」

 

 冗談にしては不謹慎だったな。俺は少し反省しながら座席の背にもたれた。

 

 まあ確かに、アインハードほどのレベルの魔術使いになると、瞬間移動(テレポート)も可能であるからアリバイはあまり意味がない。次期魔王となれば痕跡を全く残さず『陰』を葬ることもできるだろうから、感情を抜きにすれば確かにアインハードは怪しい。内ゲバを狙って弱くなったところを突けば魔国の得にもなる。――とはいえ。

 

「お前には俺を生かす理由があるもんな。魔国をお前の下に統一するために、月の神子であるシャルロットと、王の下に一丸となっているルネ=クロシュの力が要る」

 

 俺の信を得て、将来の同盟を内定させるために従属の契約まで交わしたんだ。今さらそれをふいにするような軽挙はしないだろう。

 

「だから、今さらそこを疑う気はないよ…………なんだその不服そうな顔は」

「……いえ、別に……」

「別にって顔じゃないぞ」

 

「――いいです、もうわかっていますから」アインハードが、じっとりとした視線でこちらを睨めつけたまま言った。「全部口に出してはっきり言えない俺たちが悪いんです」

「はあ……?」

 

 なんで拗ねてるんだこいつ。もうわかってるって、こっちは何もわかってないぞ。

 

「あなたが鈍いというのもあるのでしょうが……そもそも、()()()()()()が起きるとは微塵も考えていないのが原因でしょうね。周囲の人間関係に自分を勘定に入れないというか……どういう思考回路でそう頑ななのかはわかりませんが……」

「そういうこと? ってなんだ?」

「言いません」

 

 ふいとアインハードがわざとらしくそっぽを向く。えええ……。

 

(……まあ、こういう訳の分からんところも、ちょっとは年下らしいというか、少年らしいところを見れた気がして元オタクとしては嬉しいんだけど)

 

 普段はこいつ、十九歳とは思えない色気だもんな。最近なんて美貌にさらに磨きがかかり、剣を佩いて歩いているだけで、男に耐性のない侍女が失神するほどになってきた。

 まあそれの逆はシャルロットにも言えるが。シャルロットも舞踏会なんかに出ると、男どもは婚約者や恋人そっちぬけでシャルロットにくぎ付けだ。そして体を(どことまでは言わないが)熱くさせている…………ウッだめだこの話終わり。回想だけで殺意が沸いてきた。

 

 はあとため息を吐く。

 最近、ディーデリヒという防波堤(こんやくしゃ)がいなくなったことで、よくない虫が湧き始めてるんだよな……。まったく、かわいい義妹にきたねえ下心を向けるなぞ許せん(ただしアインハードは除く。男主人公の下心はイケメン補正で汚くないのだ)。

 

 ――そんなくだらないことを考えながらぼうっとアインハードの顔を見つめていると、そっぽを向いていたアインハードが尖った声で「なんですか。俺の顔になにかついていますか」と聞いてきた。だからなんで喧嘩腰なんだよ、お前は。

 

「……別に。睫毛が長いなあと思って見てた」

「は……?」

「お前、本当に奇麗な顔してるよな。理想の顔立ちだ」

「え」

 

 理想の、と、どこか呆然とこちらを見るアインハード。

 そうだよ。俺はできるならお前みたいな顔に生まれたかったんです。男らしい華やかさもありながら、どこか女性的な妖艶さも兼ね備えた美。端的に言って女の子にもてそうな顔で羨ましい限りである。

 

「……初耳です」

「まあ別に改めて言う機会もないからな」

「陛下の理想というのは、シャルロット殿下のような容貌なのかと。よくお褒めになるでしょう」

「理想……理想か。まあシャルロットが可愛いのは当然だから褒めるのは当たり前なんだが……」

 

 シャルロットは確かに、アインハードとは別の意味で理想かもしれない。

 でもなんというか、美少女すぎて理想かと言われると困るな。理想を遥か超えた、自分でもありえないとわかっている童貞丸出しの妄想の中の美少女みたいな。

 

 それに義妹をそういう目で見るのは(いやぶっちゃけ見てるけど)良心と倫理観が痛むし、慎むようにしてるからなあ。

 

「お前は格好いいからな。文句なしで一級品の見た目だ」

「かっ…………、そうですか。ありがたいですが、お奇麗なのはあなたもでしょう」

「ああ、まあ、見た目が整っていることは自覚してる。基本的に王族というのは顔が整っているらしいからな。他国の王族にも美形が多い」

 

 この世界はそれぞれの国がそれぞれの神の祝福を受けている。だからこそ神の血を引くとされる王族はだいたい顔がいい。

 

「……それにしても、他国の王族か。王族の婚姻で他国と友誼を結べれば、支持基盤の強化に繋がるかな」

「王族の婚姻……」

「ああ」

(……いや、国内の支持基盤の強化なら、俺かシャルロットが諸侯の子を婿にするべきなのか? でも難しいんだよなあ。何せシャルロットは公子と破談になっちゃったし)

 

 シャルロットが公子となれば女王はそれ以上の身分の男子を婿にしなければいけないが、公子以上となるとなかなかいない。

 シャルロットの方には、アインハードが東西魔国を統一し魔王となった暁に、魔王妃として嫁いでもらい、魔国と友誼を結ぶというビジョンはあるけど……それもあくまで「理想」の話だし。婚姻での政治を本格的に考えたことはない。

 

「……ディアナ様にもご婚約の話が出ているのですか?」

「そりゃあな。女王と王女は独身で、しかもどちらも適齢期。婿入りという形にはなるが王位継承権のない王子たちからの求婚はそれなりにあるし、諸侯からも息子を貰ってくれといった上奏もある。当然だろ」

「ですが、まさか話が進んだりなどは」

「それはない。シャルロットも、キャロルナ公子との婚約破棄以降特にないな」

 

 俺としても野郎との婚約話からは逃げ回ってばかりだ。

 

「……とはいえまあ、そろそろ腹をくくる時期だろうな」

「……」

 

 これからの治世に必要ならさっさと政略結婚することも考えなければ。嫌になるが。

 

「……ん? そういえば、お前はそういった話はないのか。魔国なら他国の姫を迎えるというのはあまりないかもしれないが、上級魔族の中には妃候補もいそうなもんだが」

 

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