ざまあされ悪役王女の崖っぷちTS転生譚   作:サニー★

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女王編:9 神事の始

「……調達というのは出店でということですか」

「ええ。少しやってみたいことがあって……あら。すごい熱気ね」

 

 新市街に出れば、実行委員長たちの言うように、多くの出店があった。串焼きに揚げ物、酒、おやきのようなもの、練り菓子や焼き菓子、飴……。日本の屋台とは少し違うが、なんだか急に懐かしくなる。

 

「変装もこんな簡素に……一体何をお考えなのです」

「ふふ」

 

 軽食の調()()にあたり、確かに変装は簡素なものにした。初めに俺が考えていたように、完璧に正体を偽る変装をするのではなく、ぱっとみて女王と護衛騎士だとわからなければいい程度のものにしたのだ。

 

 髪は色を変える代わりに帽子で隠し、ドレスは動きやすい外出用のものに変え、その上からマントを羽織る。アインハードは剣を隠す。俺も口調は女王としてのもの。

 

「あなたにはくだらないと言われそうだけど、考えがあるのよ。別に大したことではないから気にしないでいいわ。……あら、あれ、おいしそう」

 

 海の幸を料理して出している店のようだ。魚の切り身を揚げたものに……イカ焼き。おお、タコ足の揚げ物もある。

 

「イカ焼きとタコ足の揚げ物をいただけるかしら。いくつかは包んでいただきたいわ」

「おお、これは奇麗な嬢ちゃん。どこから来たんだ?」

「西の方から参りました」

「となると王都の方か。珍しいな、お嬢様がこんなものを欲しがるとは。他所のお貴族様はゲテモノと言って気味悪がるぞ」

「あら、見慣れない見た目で味を判断するなんてもったいないことをする方もいらっしゃるのね」

 

 うおー、イカ焼き、うまっ。なんだこのタレ、醤油みたいな味する。感動。海辺の町なら魚醤か? いや食べたことないからわからんが。生姜もきいてて最高だ。

 屋台飯ってなんでこんなにうまく感じるんだろうな。祭マジック?

 

「……()()()

 

 アインハードがしかめっ面で俺を呼ぶ。毒味をする前に食うなということだろう。こんな売る相手が定まってない屋台で毒を盛るやつがいるか。いたとしても俺はアーダルベルトの死以降、大抵の毒には耐性をつけたから問題ない。

 

「次のお店に行きましょう、まだ時間まで余裕があるわ」

「またなあ嬢ちゃん!」

「ええ!」

 

 俺は手を振ってくれる店主に手を振り返す。手首につけた銀の腕輪がしゃらりと鳴った。

 

 

 

  *

 

 

 

 出店での「調達」を終え、俺たちは「女王」と「女王直属護衛騎士」の恰好に戻る。

 

 奉納剣舞はそれまで舞台で行われていた見世物とは毛色が異なるので、その前の見世者だった手品が終わって、少し時間を空けてから行われる。観客はそこである程度入れ替わるので、そのタイミングで席に向かうのだ。

 

(おお……)

 

 子爵に先導され、舞台がよく見える席に向かう。特別に設えたというだけあって、用意されていた「見物席」はすごかった。俺がよく着ているエメラルド色のドレスと同じ色の絹の天幕、その中に天鵞絨(ビロード)のソファ。すげえ。あそこほんと野外席か?

 

 

「すげえ席だな……城主様か、舞い手を務めるグレンロイ様の御父君の席か?」

「そういえば王都から女王様がいらしてるって聞いた。女王様の席なんじゃないのか」

「うちの奉納剣舞、女王様が見に来るのか⁉ おおお、すごいなそりゃ……」

「いやでも、前も王子様がいらしたことがあったらしいし……あっ、人が来たぞ! あれじゃないか、女王様って」

 

 

 気まず。

 ざわざわと噂される中、俺はちょっと恥ずかしい思いをしながら席に向かう。

 

 

「うわ……あれが女王様か。奇麗な方だな……白金の髪が光に透けて……」

「天使様みたい」

「後ろにいる人は騎士様? 素敵……」

「女王様~!」

「こらっ、やめなさいっ」

 

 

 子どもに手を振ってもらったので、振り返す。わあ、という歓声が起き、ちょっとだけ元気が出た。ずっと小娘扱いされてたから、心が洗われる反応……。

 

 席に座れば、やや日が傾き始めていた。この席からは舞台の向こうに海が見えるので、剣舞が終わった頃には舞台の背後に、水平線に沈む海が見えることになるだろう。

 

(いい景色だ……)

 

 潮風が気持ちいい。夕日に輝く海をバックに見る舞は、きっと奇麗だろう。

 祭の締めとなる奉納舞は、グレンロイ・ロゼーとその相手役の舞い手が舞う剣舞だけではない。少女たちが海神の眷属の精霊になり切って踊る「精霊姫」なる演目もある。今は一応祭の出し物ということにはなっているが、もともとは神事に舞うものだったそうだ。

 

 待っていると、白い薄絹のドレスを纏った少女たちが現れ、舞を披露する。はっとするほど美しい舞は、まるで本当に海の精霊が踊っているかのようだ。奏でられる音楽も耳に心地よい。

 

(神事として伝統と格式があり、民の娯楽でもある儀式か。ここの舞い手になるってことは、俺の感覚で言うと葵祭の斎王代に選ばれるようなもの、か?)

 

 少女たちが妙齢の女性に入れ替わり、女性たちはそれぞれ剣を以て舞う。

へえ、女性の剣舞か、かっこいいな。巫女舞みたいなものだろうか? 曲調は明るく華やかになり、見物客も軽食や酒を片手に盛り上がる。

 

 

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