ざまあされ悪役王女の崖っぷちTS転生譚   作:サニー★

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女王編:15 交戦準備

 朝イチでの俺の仕事はまず、拡声の魔術で避難勧告をすることだった。城主だけでなく、女王である俺の声を使った方が、恐らく民には通りがいい。

 あまり民に混乱をもたらしたくはなかったが、こうなってしまってはもう仕方がない。

 

「子爵、避難は進んでいますか。それから、『外』に動きは」

「早朝であるからか、そちらの方の動きはないようです。といっても、城壁攻めの準備をしているのでしょうが……。避難もあまり。民は未だ現実感が薄いようで」

「無理もないわね……。いいわ、やはりわたしが城から姿を見せましょう。その方が、きっと民も事態の重さを察してくれるはずです」

 

 危険です、と子爵は言うが、あくまで姿を見せるのは城からだ。リェミーの城は土地の中央にある。敵のいる国門の外からは距離がある。問題はないだろう。

 

 平和は尊い。しかし、危険に鈍くなる。それが悪いこととは決して思わないが、危機感を薄れさせてはならないとも思う。日本でだって、災害が起きた時、他人事にように感じて危機感を抱かない人間から危険に晒されてしまっていたものだ。

 

「ですが……。そも、護衛のスターニオ殿はいずこに」

「少し頼みごとをしていて、席を外しているの。……道を開けて頂戴、バルコニーに出るわ」

「陛下……」

 

「――ならば護衛の代理は私がしましょう。それでよいですね子爵」

 

 傍らに来たのはグレンロイだった。整った顔に賢しらな笑みを浮かべているのがやや癪に障ったが、お願いするわと告げてバルコニーに向かう。

 バルコニーからは城下の様子がよく見えた。早朝から、思いも寄らない報せがあって、皆、戸惑っているのだろう。避難せよと言われた区画にも、まだそれなりに人がいるようだ。

 

「女王様」

「あれは……女王様か」

 

 ざわめく人々に視線を落としながら、拡声の魔術で声を広げ、届かせる。

 

「――皆、よく聞いてください。今朝の報、あれは真実です」

 

 目的不明。しかし、東の国がルネ=クロシュ東部の都市を攻撃せんと、確かに隣国から敵勢力が攻めてきている。それを静かに告げる。昨日の轟音、あれは、攻撃だったのだと。

 女王自らの言葉にどよめく人々に、さらに言葉を重ねた。

 

「速やかに避難を始めなさい。自分の命を守るために」

 

「女王陛下……そんな……っ」

「我らの……我らの町は、どうなるのですか!」

 

 聴こえてきた悲哀の声。それは当然の懸念だった。

 

「――わたしは自分が不甲斐ない。このような事態を招いたのも、わたしの治世が未熟だからなのかもしれません」

 

「陛下……」

「けれど安心しなさい。リェミーの守りは堅い。門は高く、敵を寄せ付けない。何より、わたしがいます。この美しい海辺の町は、わたしが女王の名に懸けて、守ります――月の女神ディアテミスが、この地におられる限り。約束します」

 

 聖女の名に懸けて、と言わなかったのは、これ以上偽りたくないというなけなしの誇りからだった。

 俺は民も臣下も欺いて王位に就いている。――だからこそ、女王(おれ)としての言葉にしたかった。兵力の差という懸念を言葉にできない状況であるからこそ。

 

「けれど、物事に絶対はない。万が一に備え、避難をしてください。皆、自分のために命を守ってください。この地の守りは、わたしに託して」

 

 強く在らねばならないと言い聞かせ、腹に力を込める。

 そのための一歩を、危機迫るここでこそ踏み出さねばと。

 

 

 

 ――言葉を終えると、なんとか、民は動き出してくれた。少しは感銘を受けてくれたのかもしれないと思うと、安堵した。

 これで避難の方はなんとかなりそうだ。ほっと息をつき、戻ったところで、子爵が出迎えてくれた。――表情が堅い。

 

「陛下。敵方に動きがありました。正規軍の姿はありませんが、国境警備隊と、国境近隣の都市から集めたであろう兵、併せて一万。こちらに攻撃を開始しました」

「……そう……」

 

 やはり、妙だ。

 宣戦布告――のような文が魔術で送られてきて、ほぼ間を置かずに攻撃が始まった。こちらの返答を待たずに、勝手に。こういうものは、もう少し交渉や、調略といった前段階があって、交戦に至るもののはずだが。

 

「敵軍魔導師の数は?」

 

 俺は城内、執務室に移動しながら尋ねる。

 魔導師とは基本、軍に所属し、攻撃魔法を主に戦う特殊兵のことだ。……この国では騎士と呼ぶことが多いが、騎士以外も魔術を使わないわけではない。

 

「五十、といったところでしょうか」

 

 なるほど、多くない。貴族のほとんどが魔術を、そして平民でも簡単な魔術を使うことができるルネ=クロシュとは違い、ノヴァ=ゼムリヤは魔術を使う者が少ないと聞いたことがあるので、そのせいか。あるいは、国境警備隊という、正規軍でないからこその数か。

 とはいえ、五十。力を合わせれば、城壁を壊す魔術攻撃も可能だろう。

 

「すぐにこちらでも城壁を守る結界を展開しなければならないわね」

「もう既に展開しています。ただ、こちらも常駐の騎士は少なく、守りの魔術を使う者もあまりいない状況です。いつまで保つかは……」

 

 定かではない、か。

 

「そう、じゃあ万一に備えて、既に兵を城壁の上に上げておいた方がよさそうね」

「おや。陛下は、結界が破られると?」グレンロイがまぜっかえす。「皇国ごときの魔術で、我が国の魔術が破られるとは思えませんが。いたずらに兵を疲れさせるだけでは?」

「いざという時に対応できない方がまずいでしょう」

 

 ノヴァ=ゼムリヤは魔術があまり発展していない代わりに技術が発展しているという。

 俺も詳しくないのではっきりしないが、この世界では、兵器の開発が遅れているように思う。普段の生活は、体感で一八から一九世紀くらいの空気感だが、兵器となると途端に中世のものが出てくる。恐らく、人の手で作った兵器よりも、攻撃魔術の方が殺傷能力が高く、汎用性が高いからだろう。特に我が国では、魔術教育が発展しているので、人を育てるのに労力と費用(コスト)があまりかからない。

 

 一方ノヴァ=ゼムリヤは違う。兵器と言う点において、おそらく一世紀か二世紀は先を行かれているはず。何が出てくるかわかったものじゃない。

 

「もし結界が破られて魔術が飛んできたとしても、数人がかりで撃ち落とせばいいわ」

 

 それでも本当に無理になったら、俺が出る。

 さすがに数日でそんなことにはならないと思うが――それこそ、万が一の時があったら、だ。まあ今の俺には、潤沢な魔力があるわけだしな。

 

「そして子爵。わたしとしても、ずっと城で引きこもっているつもりもありません。兵たちの待機所や負傷兵の治療場所があるでしょう? そのあたりを案内してほしいの。わたしでも、兵たちを励ましたり、傷の手当ても魔術でできます」

「そんな、陛下が直々に? それはありがたいことではありますが……」

「少しでも早く兵を撃退するためです。わたしとてやれることはやらなくては」

 

 今は国境警備隊だけだが、正規軍が出て来たら本当にまずい。

 

「かしこまりました。ただ、今は我が兵にも損耗はありません。それこそ万が一のことが起こってはいけませんので、陛下は城でお待ちください」

「……ええ、わかりました」

「グレンロイ、陛下を頼む」

 

「了解しました、従兄弟叔父殿」

 

 グレンロイ・ロゼーがにこりと微笑む。

 やはり、まるで狐のような笑みだと思った。

 

 

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