ざまあされ悪役王女の崖っぷちTS転生譚   作:サニー★

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女王編:16 グレンロイ・ロゼーの思惑

 城に戻ると、改めて護衛としてグレンロイが俺に張り付くこととなった。召使や侍従が入れ代わり立ち代わりするので、もちろん二人きりにはならないが。

 

(しかしこいつ……気配が鬱陶しいな……)

 

 後ろに控えているのだが、悪い意味で存在感がすごい。アインハードはあのとんでも美形っぷりだというのに、護衛として影に徹していなければならない場面では空気に溶けているのかとばかりに気配を消すのだ。だからこそこいつの未熟が際立つ。

 ……まったく。側におかないでいる時も、優秀さを実感させてくる奴だな、あいつは。

 

「それにしても陛下。ずっとお聞きしたかったのですが、よろしいですか?」

「……何かしら?」

「いえね。なぜ、イーノ・スターニオを女王直属としておそばに置いておられるのかと」

 

 予想外の質問だった。思わず振り返る。

 なぜこの場にあいつがいないかではなく、なぜそばに置いているのか? なんで今、いきなりそんなことを聞くのか。

 

「あの男は一代貴族。もともとは平民でしょう。容姿は整っているようですが、所詮は田舎の庶民。陛下のおそばに侍るのに相応しくないのでは、と思いまして」

「……、ああ」

 

 そういう話か。

 いや、確かに、そういう話が今までないわけではなかった。だが王宮の人間はアインハードの洗練された振る舞いやその実力を見る機会が多いので、あまりとやかく言わないのだ。そもそも、いちゃもんをつけたくても、大体は実物を見ると圧倒されて口を閉ざす。

 

「理由は簡単。優秀だから、そして何より強いからそばに置いているのよ。あれの強さは主たるわたしがよく知っています」

「ですがその血筋は卑しいでしょう。万一のことがあれば困るではありませんか」

「万一?」

 

 ……聞き返して、すぐに意図するところに気づき、聞き返したことを後悔する。そういう意味(・・・・・・)で言っているのだ。間違いがあったらどうなるのかと。

 

(俺とあいつの間で間違い! ねえわ!)

 

 そもそも血筋も卑しくない。これについては口が裂けても言えないが。

 俺は蟀谷を押さえると、「さすがに無礼ではないかしら?」と尖った声で応じた。

 

「これは、失礼いたしました。有り得ないことを」

(失礼しましたって顔じゃないぞお前)

「しかし、そういった意味でおそばに侍っているのでないならば、私を護衛に取り立てていただけないでしょうか?」

「……は?」

 

 思わず振り返り、顔を見る。グレンロイ・ロゼ―は笑っていた。

 

「何の話を……」

「いえ、ですから。私であれば、女王の近くに侍るのに、身分も相応しいかと思いまして。きっとお役に立ちます」

「何を言っているのか……わたしは彼を、強いからそばに置いていると言ったはず」

「私も腕には覚えがあります。対峙しても田舎者の元平民に後れは取りませんよ」

「……」

 

 馬鹿か、こいつは。俺は半眼になった。

 お前がアインハードに勝てるわけないだろうが。

 そもそもこいつは俺よりも強いのか? 気配が駄々洩れな時点でダメな気がするが。

 

(さぞかし、幸せに育ってきたんだろうな)

 

 父親は高官。上級貴族の長子なら、周りがそれなりに甘やかしたはず。幸せに育って、だからこそ増長する。自分の傲慢さに気づかず。

 俺にもきっと、そういうところはあるのだろうと思う。……が、ここまで身の程知らずではないと思いたい。

 

「……、悪いけれど、護衛を変える気はないわ」

「何故です? 卑しい者よりも、私の方がお役に立ちますよ」

 

 それに、と、肩に手が載った。耳元でそっと囁かれる。

 

 

「それに、ゆくゆくは私を夫に迎えていただければ、きっと父も陛下に喜んでお力を貸すでしょう」

 

 

 ――ゾッ、と背筋に悪寒が走る。

 

 離せ! と叫んでぶん殴りたくなる衝動を、なんとか抑えた。

 ここで滅多なマネはできない。財務大臣を決定的に敵に回すことになる。俺のやりたい政策を進めるのに、財務大臣の協力は必須だ。

 

「……離しなさい。触れていいとは言っていない」

「これは、重ね重ねご無礼を」

「……」

 

 好意の欠片もない相手から触れられるのが、ここまで気味の悪いことだとは思わなかった。

 今さらながら、前世の女子の苦労が偲ばれる。相手がイケメンだろうが、ナンパでべたべた触ってくる男はキモイ、と前世の姉も言っていたが、身に沁みた。女子は相手がイケメンなら大抵のことは許すんだろと思っててすまん姉さん。キモイもんはキモイな。

 

「あなたの親族が治める土地が危機に陥っているというのに、ずいぶんと余裕なのね」

「そんなことは。ただ、私は兵を信じているだけです。……どうか真剣に考えてくださいね。そもそも、あなたがあの男をどこかへやったのは、信用がならなくなったからではないのですか?」

「頼みごとがあって外へやっただけと、城主に言ったのをあなたも聞いたはずね? この場に相応しくないことを喋っていないで、自分のやるべきことをしなさい」

「我らが陛下は厳しいお人だ」

 

 何が厳しい、だ。……清々しいまでに舐め腐られていて、頭痛がする。

 

 俺はもう一度こめかみを押すと、前を見た。

 切実に、アインハードの帰還が待たれる。

 

 

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