演者の才能のない俺は動画サイトで上を目指します   作:ははもり

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 俺、南浩二は子供のころテレビ俳優に憧れていた。

 そこに映る主人公は煌びやかで人気者。

 俺は子供ながらにあの舞台で輝きたいと、親に強請って劇団に無理やり入れてもらったのだ。

 そこでいつかデカい舞台で輝こうと約束した女の子との出会いがあった。

 そいつはなんというか、『生まれながらの生徒会長』という言葉が似合うお堅い女で、まだ小学生だというのに俺が炭酸だの辛いものだのと喉に負担がかかりそうなものを食べてるとよく怒られたものだ。

 『君はそんなものを食べて私と同じ舞台で本当に輝く気があるのかい? もしあるのならこれから私が食生活を管理してやろう』だなんてよく怒られては隠れて食って怒られたものだ。

 そんなあいつも中学に上がる頃にはオーディションで小さいな役を沢山貰うようになった。

 当然俺との接触の機会も減り、俺は舞台で輝くあいつを見て焦り、人一倍稽古に打ち込んではこの程度では追いつけないと絶望していた。

 あいつと本格的に出会う機会が減った高校三年生の時、俺はたまたま口の悪いオーディションの担当官と出会い、そこで現実を知った。

 『君の演技は悪くはないが顔がパッとしない良くて中の中、ハッキリ言って中の下、主人公とか高望みせずに相応の役を目指したほうがいいと思うよ』

 『君にはそういうメインどころはこの先来ないと思うから。金になる顔じゃない』

 なんて現実をたたきつけられた。

 正直、そんな気はしていたのだ。

 ドラマに舞台、ミュージカル、全てのオーディションに参加してはどの役もイケメンが主役を持っていく。

 俺に周ってくる役なんて大概がモブだ。

 そんな現実を自覚した瞬間、俺はなんだか全てがどうでもよくなり、あの子との約束も忘れて腐ってしまった。

 もはや堕落したと言ってもいい。

 劇団も抜けて友人とカラオケ三昧。

 ミュージカルで鍛えた歌唱力は受けが良かったので女の子にモテるために歌三昧と馬鹿みたいに歌い。

 歌だけはプロ並みと友人に揶揄されるくらいには上手くなっていた自覚はある。

 ただ遊び三昧のせいで勉強は赤点回避ギリギリの低空飛行で、親に迷惑をかけていたのは申し訳なく思う。

 そんな俺も大学生になり、鍛えた歌声で合コンカラオケ三昧の日々を送っていた。

 大学でできた友人と連日合コンに行き、女の子を歌で酔わせてお持ち帰りするなんてクソみたいな――いやある意味充実した――大学生活送っていた俺は、どこか心にザラついた黒いものが溜まっていくのを感じながら日々を送っていた。

 夢を目指して夢破れてはあの日の女の子との約束も守らず遊び惚けた半端者、という針のようなものがずっとどこかに刺さっていて抜けない感覚。

 俺は結局どうなりたいんだろうかと自問自答してはイラつきを歌にして逃げ回っている気持ち悪さ。

 どこかで爆発しそうなイラつきから目を背け続けていた俺はふと大学の喫茶店でテレビをみた。

 あの時の少女がテレビでインタビューを受けていた。

 テレビのテロップに現代のシンデレラ、百年に一人の美女とまで書かれており、彼女はそこでメインヒロインとして壇上にたっていた。

 ああ、あの時の彼女はもうあんな大舞台にたっているのかと俺は自嘲気味に笑い、俺は支払いを済ませて逃げるように喫茶店を出た。

 あの時の彼女は約束を守ったんだなと泣きそうになりながら俺は泣きだしそうな感情を振り払うように走り出した。

 そんな大学時代から俺の再起は始まる。

 

 

 

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 遊び惚けていた俺も、なんやかんや根がまじめだったのか留年することなく順調に学年もあがり、後輩ができた。

 季節は7月、熱波が脳を溶かしに来てるかのようなクソ苛つく季節。

 俺は避難がてらに大学の喫茶店でコーヒーを飲みながら最新の曲をイヤホンをしながら聞いていると、そいつは俺に話しかけてきた。

 後輩の名前は湊戸波(みなととなみ)という髪を青く染めた長髪の、見た目だけなら小学生か中学生とも言える可愛い系な女の子だった。

 服装が春先だというのに黒いコートだったのでえらいロックな女の子来たもんだと思ったものだが彼女は映像系サークルで映像作品を作っているという。

 なんというか見栄えだけならロックバンド所属ですと言われたほうが腑に落ちる見た目だが、映像サークル所属と言われて驚いたものだ。

 そいつはどうも俺を知っているようで、俺が高校生の頃ミュージカルで端役として出ていた時に直接俺を見たことがあるらしい。

 

 「先輩の歌声は忘れたくても忘れられないくらいには凄かった。そんな先輩と知り合いになりたかったんだ」

 

 どうにも俺の演技と言うか歌唱力を評価をしているらしく、なんだか元演者として若干落ち込んだものの、評価はされているんだと無理やり気を持ち直した。

 

 「それはどうも、というかそんな理由で声をかけてきたのはお前が初めてだよ。大概はカラオケ要員で呼ばれてたし」

 

 小さな自慢ではあるが俺の歌が聞けるならカラオケ合コンに行くという女の子が意外に多いのが俺だ。

 俺もそれで良い目を見たことがあるので自慢にもならないというと間違いなく嘘になるので小さな自慢といったところだ。

 

 「そうだろうね。なんせ先輩は端役だったし知名度もないし、あの場で劇を見ていた人しか印象には残ってないとおもうよ?」

 

 「……お前友達いねえだろ。お前の言葉には殺傷能力しかねえ……」

 

 なんだろうこの後輩ドSなんだろうか。

 端役だの知名度が無いだのズバズバと自覚はしてるが言って欲しくないことを……。

 俺をイジメて楽しいか? おい。

 あんな担当官の言葉一つで演劇やめる程度のメンタルしか持ってない俺のメンタルが強いと思うなよコラ!

 

 「確かに俺は口が悪いから友達は少ないね。でも俺は先輩の歌声に可能性をみたんだ。だから先輩、動画配信者しない?」

 

 こいつ一人称俺だったのか、ますますロックバンドっぽいなそれとも今流行りのジャンダーとかかいやジェンダーだっけ?

 いやそんなことよりこいつは何を言ってるんだろう。

 動画配信者? 出会ってまだ三十分もたってないのだが、いきなり何を言ってるんだこいつ。

 

 「……動画配信者ってyo!tubeとかの動画配信サイトでよく見る歌ってみたとかのやつか? あんなの俺がやっても大して伸びねえだろ。知名度もなけりゃ機材もないし」

 

 「そりゃこっちで用意する。こう見えて映像関係は専門だ。俺は絵もかけるし既にあんたの立ち絵も用意してる。機材もサークルのやつを勝手に使う。 そんで知名度は金で解決する。とりあえず宣伝だyo!tubeの広告機能を使う」

 

 「……なんでいきなりそんな本気なんだよ……正直怖いわ、いきなり壺とか買わされそう」

 

 そもそもこいつは俺にいったいなんの希望を抱いてるんだ。

 ただ単に歌がそこそこ上手いだけの夢破れた敗北者だぞ。

 今だってカラオケで女の子お持ち帰りしたいとか思ってるクソダサい人生を送ってる半端者だ。

 だってのに俺はいったいお前にどんな希望を抱かせたっていうんだ。

 正直イラついた。

 半端者の自覚はある。

 遊び人の自覚もある。

 だというのにそんな俺に何を求めているんだ。

 

 「あんたの歌は天性のものだ。努力だけでなんとかなるものじゃない。あんたの歌は金になる。だから協力しろ。俺と金を稼ごう」

 

 「凄いな……今まで聞いてきた口説き文句の中で断トツ最下位だ」

 

 いやもう、流石に驚いたね。

 金になるから協力しろって言われたのは初めてだ。

 いや今まで俺をカラオケに連れて行こうとした野郎共も「可愛い子集めたから行こうぜ!」とかいうアレな感じだからどっこいかもしれんが。

 だからといってこれは無いだろう。

 なにをどうしたらそんな口説き文句になる。

 お前は一度社交性というものを一から身に着けてこい。

 

 「社交性よりメリットが大事だろ? こういうことに夢だけを提示する胡散臭い奴は信用できない」

 

 「なんでさらっと俺の心を読んでるんだ」

 

 「顔に出すぎ本当に元演者?」

 

 やっぱ俺って演者は向いてないんだな……と若干へこむが、そもそもだ。

 

 「それこそ歌がうまい天才なんて星の数ほどいるだろ。なんで俺なんだよ」

 

 そこだ。

 それこそ歌がうまい天才なんて星の数ほどいるわざわざ俺を選ぶ必要なんてない。

 そもそもなんで俺なんだ。

 なんて俺じゃないくてもいい理由を探すようかのように俺は視線を右往左往させながら視線を喫茶店のテレビへと逃がす。

 するとテレビにはあの時の彼女がいた。

 胸にザラついたものが流れる感覚がする。

 黒い感情。

 認められたかった。

 あの舞台で承認欲求を満たされたかった。

 なんてあさましい感情が溢れてくる。

 なんというか本当に浅ましい、みっともない、情けない。

 俺はそんな感情から目を逸らすように視線を逃がし、後輩へと視線を戻すと、後輩はどこか俺と似たように視線を右往左往させて、何故か俺のすねを蹴った。

 

 「痛っあ!!! お前いきなり何すんだよ!!」

 

 「感動したんだよ!!」

 

 「は、はぁ? いきなりなんだんだよ?」

 

 お前は俺の脛を蹴って感動する趣味でもあるのかとツッコミそうになったが、こいつは意を決したのか指を俺に向けると大声で叫んだ。

 

 「あんたの歌声が刺さったんだよ! あの時あんたの必死で、俺を見てくれって! そんな歌声にあんときの俺は感動したんだよ! だからあんたがいいんだ! それじゃダメか!」

 

 顔は真っ赤で指先は震えている。

 そんでもって声を音量をミスっているのかデカすぎて衆目の目を集めている。

 恥ずかしいのか唇をかみしめている姿に、なぜだか不覚にも泣きそうになる。

 

 「あ、いや、あの、その、問題ないです……」

 

 なんだか認められた気がして嬉しかった。

 ざらついていた心がどこか軽くなった気がしてまた泣きそうになる。

 自分でも思うが、なんともちょろい男である。 

 

 

 

 

 

 

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 とある部屋で、爆発音がする。

 爆発音と言っても所謂ゲームで爆弾がさく裂する音だ。

 

 「ちょっ、先輩、なんでこんなところに爆弾投げてんだよ! 俺を巻き込んでる!」

 

 「いや、お前が前に出すぎなんだよ! もう少し後ろで撃ち合え! 漁夫がくるだろうが!」

 

 「そんなポイント美味しくないでしょ! 敵は轢き殺すに限る!」

 

 「そんな考え無しで動けるか!!」

 

 そんなこんなで俺は後輩の話に乗り、yo!tubeで歌を投稿する配信者になるとある意味流されるように約束をしたものの、何故俺は後輩の部屋で二台のPCを使って三人パーティーのFPSゲームなんてしているのだろうか。

 俺はてっきりいきなり収録して編集からの投稿でもするのかと思っていたのだが何故だかこの始末である。

 

 「そもそもいきなり先輩が釣れるなんて思ってなかったんだよ! まだ作詞も作曲もできてない!」

 

 「お前よくそれで俺を勧誘したな!?」

 

 「いや宛はあるんだよ、ただまだ完成してないだけで」

 

 なるほど、依頼は済ませているけど俺が想定外にあっさり陥落したから制作期間が間に合ってないと……。

 なんだか恥ずかしくなってきた……どんだけ俺はちょろいんだ。

 いやそもそも……。

 

 「そもそも歌ってみたとかなら許諾さえ取れれば即日収録できるだろ」

 

 そう、そもそもネットでよく見る歌ってみたならカラオケ音源を使えばすぐに収録できる。

 その手軽さゆえにネット上であんだけ歌ってみたが氾濫しているんだ。

 オリジナルの曲より知名度だけを目的とするなら数を打って視聴者稼ぎしたほうが手っ取り早そうなものだが。

 そも音楽関連の専門がいるなら余計に調整が早そうだし。

 などと思っていると、戸波はばつが悪そうに頬を掻いた。

 

 「あーそのな、俺が作曲を頼んでる奴がさ、諸一発はオリジナルじゃないと二度と依頼は受けないって言うんだよ。あいつ知名度はないけど凄い曲作るからさ、それは困る」

 

 「なるほど、ドラマとかでよくいる気難しい天才タイプか」

 

 「そう、それ」

 

 しかしこいつの人脈はどうなってんだろうか、こいつ自身の映像スキルも凄いんだろうけど作曲手掛けてる奴とかどうやってみつけてくるんだ。

 それにこいつん家、なんか高そうなPCが目につくだけで三台はある。

 これの金の出どころとか一介の大学生には払えないだろうとか色々思うがそんなことより気になることがある。

 というか気になりすぎてそわそわする落ち着かない。

 そもそもだ。

 

 (なんで俺が隣にいるのにこいつはタンクトップなんだ? しかもなんか洗濯のし過ぎで結構伸びてるのかビロビロだし……色々見えそう……)

 

 俺は意識的に見ないようにしているが俺が童貞だったら襲っていたかもしれない。

 明らかに誘ってんだろ……と言いたくなるが恐らくこいつのこれは素である。

 圧倒的に女を捨てている。

 胸はまな板だが男にとってそんなことはどうでもいいのである。

 可愛い女の子のそれが露になりそうなら自然と目で追う悲しき習性があるのだ。

 というかムラムラするから辞めてほしい。

 チーム結成からいきなり性犯罪者の発生でチーム瓦解とか笑えない。

 犯罪者は俺であるので余計に笑えない。

 俺は荒ぶる俺の魂を鎮めるため目の前のゲームに集中し、普段よりキルスコアを稼ぐことができたが、異常に疲れた。

 

 「先輩意外にゲーム上手いな。普段からやってんの?」

 

 「まあカラオケかゲームかの二択だったしな。一般人よりうまい自覚はある」

 

 「いや上手いというか達人クラスくらいの実力はあったよ? 時間があれば修羅クラスにまで行きそうな実力」

 

 達人クラスとか修羅クラスとはゲーム内ランクのことで達人は上から二番目に凄くて修羅はゲーム内上位500人の奴をさす。

 まああんま気にしたことないけど。

 いや、ゲームのことはいいんだよ。

 そんなことより聞き忘れていたことがある。

 

 「結局俺はどんな曲を歌うんだ? それがわかりゃある程度同ジャンルを聞きこんでおくけど」

 

 「あー……その……」

 

 「なんでそんな歯切れが悪いんだよ……」

 

 なんだ、何を俺に歌わせようとしてやがる。

 演歌とか女性用のアニソンみたいのなら俺は断固拒否するぞ。

 完全にそっち方面専門かネタ枠になっちまう。

 

 「そのな、そいつの趣味で五曲に一曲は趣味を入れさせて欲しいって言われてさ」

 

 「バリバリの女の子向けとか演歌とかはやめろよな、諸一発で出す曲じゃないだろ」

 

 「いやーまあ……その……ユーロビートなんだ……」

 

 なるほど……ユーロビートか……お前なんて曲に手を出してんだ……。

 

 「お前……ユーロビートには確かにいい曲が多いが今時の若者って感じの曲とは違くねえか? そもそも若い奴に向けてであってもネット見るやつ音楽層が違うだろ」

 

 「いやー実はあいつ最近アニメでオニD見たらしくてな……それで妙に創作意欲がわいたとか言うんだよ……」

 

 オニD正式名称オニデコレーションドライブ。

 デコトラが峠でドリフトしたりするほぼファンタジー車アニメである。

 そこで流れる劇中曲は車乗りに悪乗りさせる程度には中毒性のある一時代を築いた伝説的アニメである。

 しかし……いかんせん古い……。

 いや、古いのが悪いことではないし、そういう層を引き込むと考えれば悪い一手とも言えないが……。

 そもそも若い層には受けないのでは?

 

 「それ一発目でいいのか?」

 

 「仕方ねえだろ!? あいつの作る曲はマジで最高なんだよ! でもいかんせん趣味が入ると暴走しやがるんだ! 俺だって一発目は流行りに迎合してえよ!」

 

 「なんか苦労してんだなお前」

 

 「先輩もこれから苦労するんだよ! 好きな曲を歌いてえならな!」

 

 マジか。

 そんな気難しい奴なの? 

 

 「だからこちとら映像編集とか諸々は車の素材を使ったりエンジン音を入れたりとか色々考えてんだよ。まあエンジン音はあいつが勝手に入れるんだろうけどさ」

 

 「なんかどんなやつか気になってきたな。曲の趣味といい、そに偏屈さといい、絶対髭面のおっさんだろそいつ」

 

 「絶対にあいつにそんなこというなよ? 一発でへそ曲げるから」

 

 「面倒くせぇ……」

 

 「それはマジでそう」

 

 俺はこの先に不安を覚えた。  

 

 

 

 

 

               ★

 

 

 

 yo!tubeでユーロビートで検索すると、上位に出てくるのは大体オニDかスロットの曲であり、どこかおっさん臭さが抜けないラインナップが勢揃いしてくる。

 曲自体が素晴らしいといことは理解できるが今時の若者に受け入れられるのか不安が残る。

 そもそもこの系統の曲を歌ったことが無いので練習は重ねるものの本当にこれで合っているのかどこか一抹の不安が残る。

 後輩が言うには初めて歌うジャンルの癖に異常に上手い、らしいが果たし本職の人に比べて俺はどの程度のものなのか今一判断しづらい。

 そもそもカラオケで流行りの曲を歌うか演技に力を入れていた時にミュージカルを歌うかしかやったことない俺に判断しろってのも難しい話だろう。

 ということで俺は後輩に直談判した。

 

 「機材を貸してくれ、収録して自分の耳で確かめる」

 

 こういう時は自分の耳で判断するのがいいだろう。

 スマホに録音して確かめるという手もあるにはあるがどうせなら本番の収録環境で聞くのが一番いいだろうということで俺は後輩に頼み機材を貸して貰うことにした。

 後輩はならあそこに行こうと俺を連れて大学内にあるとある場所に連れて行く。

 そこはオンボロとも言える木造の建物で明らかに大学キャンパス内では不釣り合い、というかこんな所あったのかと言いたくなるくらいには昭和の香りを残した建物だった。

 床も勿論木造で、歩くたびに鴬張りの廊下なのかと言いたくなるほどの音を立てておりいつ床が抜けてもおかしくない。

 建物の奥進むと、この建物には明らかに不釣り合いな西洋式のドアが出現し、後輩は躊躇なくドアを開けて入る。

 俺も続けて中に入れば、そこは……なんというか死屍累々という言葉が似合うゾンビのような連中がPCを動かし続けていた。

 

 「えっと……戸波……ここは一体……いやまあなんとなく分かるけど……」

 

 「見てわかると思うけど映像研究サークルだ。こいつらコンクールの期限が近いからゾンビモードなんだよ。あんま不用意に話しかけんなよ、パシリにされるぞ主に映像素材とか音声素材収集で」

 

 「……鬼気迫ってんな。全員目に隈作ってやがる」

 

 「まあコンクールで賞でも取れれば就職に有利だし。スカウトももしかしたらって考えたらこうもなるだろ」

 

 「お前はそうでもないんだな」

 

 「俺は先輩を使った独立を考えてたんだよ。先輩が俺のスカウトに乗ってくんなきゃ来年にはこれの仲間入りしてたかもしんねーけどな」

 

 「お前も結構博打思考なんだな」

 

 「動画サイトで一発当てようなんて考えるやつが博打思考じゃないわけねーだろ」

 

 「そりゃそうだ」

 

 どれだけ才能が溢れていようが知名度が無ければ埋もれていくのが世の常。

 特に才能のある奴らが挙って動画配信サービスに殴り込みをかけている今現在、戦国時代も生温い五胡十六国時代とも言える今の環境で一旗揚げるともなれば博打で大きな山を当てるレベルの覚悟が必要であろう。

 そう考えればyo!tubeで広告を出すだけでは足りはしない気もする。

 

 「だから馬鹿みたいに歌のうまい先輩に声をかけてんだ。運の要素を実力でできるだけ小さくする。あとはもうこっちの仕事だ。見栄のいい動画と、出来のいい曲。そんで広告。人の目につきやすくする作業が必要なんだよ。まあ先輩の顔が死ぬほど不細工だったり格好良けりゃ顔出しである程度人を引っ張れるんだろうけど期待できないし、そこは立ち絵で代用だな。後々VTubeとして3Dモデルも用意してやる」

 

 

 ……悪かったなイケメンでもなくて不細工過ぎるわけでもない影の薄い顔で。

 

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