演者の才能のない俺は動画サイトで上を目指します 作:ははもり
人は予想だにしていない事に直面するとフリーズするということが分かった。
俺は戸波につれられ木造のオンボロ建物の奥まで連れられていくと、そこには木造建築には似合わない、テレビの声優などが収録していそうなスペースがそこにはあった。
あまりに高そうな機械がそこら中にあるせいで脳がバグったのである。
「戸波よ、この機材幾らした?」
「あ? 知らねえ。大学が昔から置いてるやつだし。百万余裕で超えてそうってことくらいはわかるけど」
「百万では到底足りんだろな……」
幾らするのか見当もつかない。
聞くに昔アニ研があったらしく、賞を取りまくっていたらしい。
それで大学側が資金を投じて作った収録スペースなのだそうだ。
今現在は3Dなどやることが増えたので映像研究サークルとして他のサークルと統合したらしい。
なんとも歴史のあるサークルだな。
ここ以上に適した収録スペースもないであろう。
とりあえず今はこの幸運に感謝して収録しよう。
「ほら、曲はセットしたからヘッドホンつけな、あとは大体分かるだろ」
「あいよ、このマイクに向かって歌えばいいんだな?」
「ああ、頼んだぜ」
俺はヘッドホンを装着し、軽く息を吸う。
喉の調子は良し、体調も悪くない。
歌詞も全部覚えているが、一応タブレットに歌詞を表示しておき譜面台のようなものに設置する。
よし、準備完了。
「いつでいいぞ」
「あいよ、全力でいきな!」
ヘッドホン流れてくるオニDの曲。
父親達の世代の古臭くもその時代の熱量を感じる名曲が気分をあげてくる。
「―――――!!」
まるで夜切り裂き激しく峠を走り回る車をイメージさせる。
疾走感というイメージを極限突き詰めたような無駄の無いその曲に身体が粟立つ。
嫌いになりそうなほど聞いた曲だというのに、いざ収録という環境になると、こうも胸が熱くなるのか。
この曲が名曲だというのもあるのだろうが、俺は意外に歌を歌うのが好きだったらしい。
三分と少し、俺はただその短い時間を汗が吹き出るほど全力で歌いきった。
「……どんなもんだ? 俺の歌」
汗が流れ出て、こめかみを伝う。
俺はそれを拭い、自信に満ちた表情で戸波を見つめる。
正直聞かなくて分かる、このタイプの曲を歌っていて、今までで一番だと胸を張れる出来だった。
だから、戸波が、俺を見て、ため息をついたのを見てビビった。
……あれ、思ったより反応が悪い。
…………もしかして自分で思ってるより酷かったのか?
自身があっただけに萎萎と心が萎んでいくのを感じる。
歌の才能実はなかったのか?
俺は不安気な顔で戸波見ると、戸波は収録用ヘッドホンを外し、こちらへと向かって来る。
「………………………先輩はやっぱ天才だな。鳥肌がでた。久しぶりに心が燃えたよ」
「だぁ! 紛らわしい!! いきなりため息つきやがって!! ビビったじゃねえか!!」
「いや、自信満々なあんたの鼻を折っておきたくて」
「いいじゃん! 伸ばそうよ!! 俺を褒めて伸ばそうよ!! 幼稚園くらいの子を褒めるかのごとく褒めそやそうよ!」
こいつ性格悪すぎねえか!?
俺だってマジにやったやつは普通に褒められてえよ!!
だが戸波はもう一度ため息をつき、俺に詰め寄ってくる。
「これかそ天才達が鎬を削ってる場所に殴り込みに行くってのにこの程度で満足してんじゃねえ! もっと俺に先輩のすげえのを聞かせてくれよ! 俺はあんたに期待してるんだ」
「お、おお……思ったより期待されてて戸惑うぜ……」
性格が悪いというかもっとできるもっとやれっていう黒●監督タイプのだったのね。
なんだろう…………この先もあまり褒められることはない気がしてきた……。
そうして俺がげんなりしていると、戸波が収録した音源をCDに焼いたのか、それをプレイヤーに挿入していた。
「とりあえず反省会だ。どこを直すべきか、どこが良かったかを聞いて今後に活かすぞ」
「ちゃんと良いところは褒めろよな。褒めないで貶すだけは勘弁してくれよな、泣くぞ」
「任せろ褒めちぎって千切り飛ばしてやる」
「褒める気ねえだろ」
結果、こいつにはそもそも人を褒めるという才能がないことが分かった。
反省点は耳が痛くなること山火事の如しだったが、ここが良いという所に限って。
「ここの伸びがこうぐいーんて感じで良い」
とか
「ここ、力がダーンってなってるのとても良い。次もこれで」
とか
「全体的には高水準だからこのままゴリゴリやってくれ」
マジで褒める才能がない!
反省点の時は打って変わって理詰めで叱ってきたのにはお前実はわざとやってんだろ!! と言いたくなった。
本人は至って真面目な表情だったので口には出せなかったが不条理感がすげえ。
「お前人を褒める才能マジで無いんだな」
「うるさい顔面の才能ゼロ」
言いすぎじゃないですかね本気で泣くぞ。