演者の才能のない俺は動画サイトで上を目指します   作:ははもり

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ゴミ

 家賃が払えず家を追い出されかけてる女を嫌嫌ながら受け入れた俺は、曲ができるまでに居候と化した女の家のゴミを片付けた。

 目も当てられない惨状。

 文字通り山のようなゴミ。

 俺は大学の友人にゴミ屋敷掃除するから手伝って欲しいと頼むと、今度合コンで盛り上げてくれるなら、という条件で結構ガチでやっているテニサー複数人を労働力として確保した。

 肝心の居候本人は家で絶賛作曲中である。

 正直こんなゴミ屋敷作り上げるやつがいても邪魔になりそう、という理由で連れてこなかった。

 英断だと思う。

 一日では片付け切れなかったので三日かけて掃除し、あのゴミ山とは雲泥の差とも言えるくらい綺麗になった部屋をみて大家さんは泣いてた。

 …………やばかったもんな、この部屋。

 生ゴミとか変な液体とか、山程出てきたもん。

 手伝ってくれてるテニサーのやつら来たこと後悔してたもんな。

 そうして俺達が片付けている間、曲自体は頭の中で完成していたのか、俺がいない三日間のうちに作曲を完成させていた居候。

 あいも変わらずワイシャツ一枚の痴女姿で、勢い任せに俺の部屋の扉を開けてどうだと言わんばかりに曲の完成を告げてくる。

 …………こいつに羞恥心を与えなかった神様を俺は恨むよ。

 ちなみに我が家は大学から程近いマンションである。

 父親がそこそこ小金持ちであるため持ち家、というか持ち部屋を投資目的で所持している。

 これが中々いい部屋で、3LDKと一人暮らしには不必要なほど広い部屋なのだ。

 そんな部屋の一室を居候女に割り当てている。

 

 「高柳さん、その格好で俺の部屋にこないでください。欲情します」 

 

 「アッハッハ正直だね浩二くん! そんなことより聞いてくれたまえ、この私の曲を!」

 

 そんなこと、で流されたら溜まったもんじゃないんですが。

 高柳響。

 初日に俺の家に来た際に自己紹介されたのだが、家に来て早々服を脱ぎながら名前を告げられたせいで忘れたくても忘れらないレベルで脳に刻まれた。

 

 「名前呼びでいいのに。あんたがこの家の家主だろ?」

 

 「年上を名前呼びはちょっと抵抗あるんですよ」

 

 年齢22歳。

 本来なら社会人してるはずのニート女、基本的に誰かのヒモとして生計を立てており、趣味は作曲。

 いい曲を作りはするが性格と生活習慣が終わりすぎていて社会に適応できないホンモノである。

 戸波はどこでこんな色んな意味で凄い奴を見つけてきたんだと問いたいが、この際それはどうでもいい。

 

 「とりあえず曲は聞くんでお願いだから服着てくれ。集中できねえ」

 

 「えー」

 

 「えーじゃない。若いパトスが暴発しても知りませんよ。いやマジで」

 

 いやマジで。

 美人だから余計にしゃれにならん。

 はっきり言って目に毒とかそういうレベルじゃない。

 手を出してチームの不和に繋がった場合俺は絶対にヘコむ。

 一週間は家から出ない自信があるね。

 俺が頼むから服を着てくれと必死に懇願し倒すと高柳さんは「えー」と文句を言いつつも渋々承諾してくれた。

 

 「仕方ないな。まあこんないい家に住まわせてくれてるし今回は家主の言うことに従って服着ますか」

 

 「できたら毎回服着てくれませんかね………」

 

 高柳さんは仕方ないと言いながら部屋に帰っていった。

 はぁ……とため息が出る。

 この無駄にエロい状況をなんとかしたくはあるが、出て行かせる訳にもいかない。

 というか出て行かせる場所がない。

 携帯も無いので路頭に迷わせたら連絡手段もないし、ここまで無防備だとどこかで男に拐われてえげつないことになるかもしれない。

 そう考えると頭は痛いが住まわせるのが賢明な気さえしてくる。

 は! もしかしてこれがヒモの才能!? 

 

 「おーい着替えたから私の部屋に来てくれ、今から曲を流す」

 

 「分かりました。今行きます」

 

 そう言えば部屋貸してからまだ一度も入ってないなと思い出す。

 作曲の邪魔になるといけないから飯だけ作って部屋の前に置いてたからな。

 なんかニートの息子の母ちゃんみたいだな、俺。

 

 「それじゃ入りますよーお邪魔しまーす」

 

 ガチャリと部屋の扉を開くと…………そこはゴミ屋敷でした。

 というわけでもなく、ペットボトルや缶、カップメンが適当に置いてある普通の汚部屋だった。

 いや普通の汚部屋ってなんだよ!

 最近見たものがインパクトありすぎて感覚麻痺してやがる!

 こういうのが積み重なってああなったんだろうなと、あのゴミ山が幻視できる。

 

 「おう、浩二来たね。取りあえずこの曲聞いてくれよ」

 

 そう言って高柳さんはちゃんと、と言うには際どいがデニムのキワキワショートパンツにワイシャツを胸元まで開けた姿で出迎えた。

 普通にエロい。

 だがマシだ。

 俺は安心して曲を聞こうとし、とりあえずこれだけは言っておかないと、と居住まいを正す。

 

 「曲を聞く前にとりあえず言わせてくれ」

 

 「なんだよノリ悪いな」

 

 「ノリとかそういう問題じゃありません。とりあえず俺三日に一回はこの部屋掃除しにくるんで、ゴミはできるだけ一箇所にまとめて置いてください。たぶんあんたが片付けすること自体は無理だと思うんで」

 

 というか来てすぐにこの有様は間違いなく自発的に掃除するのは無理であろう。 

 悪臭問題に発展する前に俺が動かねえと俺の家でゴミ屋敷が生まれてしまう。

 というか戸波が介護代とかいってたのこういうことか!? ちょっと割りに合わない気がするんだが?

 

 「わー! ありがとー! 掃除してる最中に私の下着が出てきたら使ってくれてもいいからね!」

 

 「普通に臭そうなんで嫌です」

 

 「……普通に傷ついた」

 

 なら身の回りをもう少しちゃんとしてくれよ。

 まあ曲が完成したならこの際細かいことは気にしなけどよ。

 これでクソみたいな曲だったらキレそう。

 だけど戸波が才能はあるって言うんだ。

 期待だけはしておこう。

 

 「そう言えば戸波は呼ばなくていいのか? あいつも聴きたいだろ」

 

 「できた瞬間にメールで送ってるよ」

 

 なんとまあそこだけはしっかりしてることで。

 

 「で?あいつの感想は?」

 

 「一言だけ。『流石天才』だってさ。無駄に飾らないところ、私のこと分かってんね」 

 

 嬉しそうに頬を緩める高柳さんにあとは片付けさえできればいい女なのになと思った。

 あっ、駄目だこいつヒモだった。

 しかし流石天才か、戸波らしい。

 俺の時もそんな感じだったな。

 ……………あれ? もしやあいつそれしか褒め言葉を知らないのでは?

 俺は気づいてはいけないことに気づいてしまったかもしれない。

 

 「戸波がそこまで言うなら俺も期待していいんだな?」

 

 「もちろん、聞いてってよ」

 

 高柳さんはそう言って、俺にヘッドホンを渡す。

 俺はそれを受け取り、装着すると同時に音楽が流れ始めた。

 耳を駆け抜けるユーロビート特有の激しくもどこかムネが踊るようなメロディ。

 だが、一転、何もかもを蹴っ飛ばして我が道を行くような熱い情熱を感じる曲に変わり、そのまま駆け抜けていくような、こう言ってはなんだが、男好きするビートに、俺は音楽を聞きながら笑っていた。

 

 ……ああ、確かにこれは天才だ。

 こんな凄い曲をあっという間に作ってしまうんだ。

 しかも自信満々に。

 戸波がこの人に拘るわけだ。

 聞けば聞くほどに、気持ちの良いメロディに頭がおかしくなりそうだ。 

 

 「どうだい?」

 

 高柳さんはそう言ってにやりと笑う。

 悔しいが本物だ。

 これに文句をつけることなんて俺にはできない。

 

 「頭が痺れるほど最高だ。俺はこいつを歌いたい」

 

 「へっ、いいね。その言葉気に入ったよ! 全力で歌ってくれ! 私の曲をさ!」

 

 「おう! で、一つ聞きたいんだがこいつの歌詞は?」

 

 「もう作ってるさ! とりあえず馬鹿みたいに英語と日本語混ぜて耳心地の良さを重視した。歌詞なんて意味わかんないくらいで丁度いい。馬鹿は勝手に深読みして共感してくれるからね」

 

 「すげー聴衆を見下してんなおい」

 

 「そんなもんさね。激しい曲の歌詞に意味を込めても大衆が理解できる部分は表層だけさ。バラードとかポップな曲だと誤魔化せないけど、ロックテイストなら多少意味不明でも問題ないね」

 

 「まあそれでウケるなら問題ないけど大丈夫?」

 

 「大丈夫大丈夫。アニソンも意味不明な電波ソングがウケたりするだろ? そういうもんだって!」

 

 「そうかな? ……そうかも」

 

 俺は高柳さんの言葉にすっかり信じ込んだ。

 音楽の天才が言うんだしそうかも……という安直な理由で。

 

 「ほら、いい歌詞だろ」

 

 高柳さんがマウスをクリックするとPCに自信作だと言わんばかり映し出される歌詞。

 俺はまあこの天才が作るなら大丈夫だろう、と近くによって見てみると

 

 『ヘイヘイ! ヘイヘイ! ヘイヘイ! コンビニ行って帰って来たら泥棒が入ってた! でも家散らかってるから金目の物が見つからずに帰ったみたいだ! ヘイヘイ! あれ?これ本当に泥棒か? 実は俺が散らかしただけじゃない? いやわかんねえ! そんなことより愛車で夜を駆けようぜ! 今からナイトパーティーだ!イエイ!』

 

 俺は途中で見るのをやめた。

 信じられないくらいゴミだった。

 マジで? あの曲からこんなゴミが生まれるの?

 正気?

 お前よくこれを自信満々に出してきたな、ある意味神秘だよ。

 

 「どうよ、最高だろ」

 

 「却下」

 

 「なんでさ!?」

 

 いやー最低限って大事な言葉だな。

 名曲がネタ枠になっちまうよ。

 俺は不満そうな高柳さんに揺すられながらスマホを取り出すと連絡先にある戸波の番号をタップした。

 

 『…………どうしたんだよ先輩? あんたから電話してくるなんて珍しいな』

 

 戸波は俺からの電話に戸惑っているのか、それともある程度察しているのかどこか警戒している。

 

 「これから頻度が増えると思うから覚悟しといて」

 

 『…………馬鹿響がなにかやったのか?』

 

 察したようだ。

 そらそいつ関連だろうさ。

 もう色々やらかしてるが、それは我慢しよう。

 だが、あの歌詞は許容できねえ。

 

 「一つ聞くがあの馬鹿みたいな歌詞はガチか?」

 

 『あー…………安心しろ、歌詞は俺が書くから』

 

 それは安心したがこいつまだ俺の質問に答えてねえ。

 いやもう殆ど答えみたいなもんだけど。

 

 「ガチなんだな?」

 

 『…………その通りだ。あの最高の曲から生ゴミみたいな歌詞を書くのがそこの馬鹿だ。悲しいが事実だ。受け入れろ』

 

 「神ってのは融通効かしてくれないんだな」

 

 世の中ある意味バランスがとれてんだなと思った。

 

 

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