[純白の髪に色白の肌が特徴的な一人の少年?がたった一人で、広い広い純和風の部屋で化粧机の鏡に向かって語りかけた。年の頃は、まだ幼く4,5歳くらいだろうか?
「ねぇ、どうして貴方は出てこないの?」
周囲から見ればきっと異常者だろう、まるで自分というものに対してもう一人の自分がいるかのような振る舞い。
決して正常とは言えないだろう。
裕福な家柄に相応しい50畳は下らない広すぎる部屋の中をぐるりと見渡すと、奇妙なことにまったく違う趣味のものが飾られていて、一方はまるで少女のように只管に小動物のぬいぐるみを始め可愛いものを集めている。
が、別のものを見るとこの年頃の子供が読むには難しすぎる内容が記された分厚い本と幼子には使いこなせないような最高級スペックが発揮できるように組まれたデスクトップタイプのパソコン、国内外の大きな出来事を載せた新聞の記事の切り抜きを張ったスクラップブックやとある人物に関する家族構成の資料を収めたファイル等、決して良くはないものばかりだ。
一人の人間が一つの空間で2つの物事に対して興味を示すのは別に珍しくはない、しかし部屋のレイアウトを左右で全く違うものにするなど、一貫性がまるで無い。
まさに人格が分裂しているとしか言いようがないのだ。
「僕が毎日語りかけるのに、貴方……君はまるで僕のことに興味が無いみたいだね?でも、僕は君みたいな人嫌いじゃないよ?
何かに対して情熱を持って行うことが出来る事、でも他人の身体を使ってやるなら、せめて礼儀というものがあるんじゃない?」
少年?は少し怒っていた、勝手に身体を動かされて迷惑この上ない。夜間の睡眠時間、全く見に覚えがないものを事を起こされているのだからそうもなろう。
「幸いなのは、僕に対して不利益になることはやってないってことだ。今日だってウチの教育係に
「もう私から何も教えられることがありません」
って言われたことを始めこの家の人たちに僕自身がやったわけでもないことにも関わらず
「これはもはや現当主様の再来だ!当主様があまりに有能すぎてこの世を去られた後の事が最大の懸念だったがこれで払拭された!」
「この子の御蔭でこの家の繁栄が途切れることはないと約束された!」
って突然いっぱい褒められて戸惑ったし。けれどね、情報の共有くらいしないといずれは綻びが生じるはずだけれど?」
そう言うと少年?は、徐ろにペンと一枚の紙切れを机に置き自らのベッドへと入眠した。
そして数分後…
「存外面白いものだな、この歳で気が付くとは。よろしい、少しだけだが答えてやるのも悪くは無いか。」
机に置かれた紙に何か走り書きをする、その文字は歳不相応で異様に綺麗な文章であった。]
〜sideアクア〜
私は眼の前の折り畳みスマートフォンの広がった大画面に映り込んだ母様を見ている。
〔「アハハ、そうなんですよ〜本当に疑問に思ってる事喋ってるだけなんですけどねぇ。」
天然な返答を返す、あどけない笑顔の33歳。見た目は二十代前半のそれは、まるで衰えることのない星の輝きだ。
〕
相手に望まれたことを台本通りのリアクション、そして天然っぽいキャラクターは今なお通じるらしい。
その中で時折光る突っ込みは、深堀りするのには良いのだろう。
でも外見が20代に見間違うくらいに若々しいせいで誤解されがちだが、実年齢は既に30代…流石に年齢的に大丈夫だろうか、取って替われる人材がいないのか?いや、ルビーならあるいは出来るのではないか?
歌の技量は向上してきたとはいえ、かなちゃんに代わってセンターに立つにはまだ今一つだし、それに売れてくれば写真集やドラマやバラエティの出演を始めステージで歌って踊る以外の仕事も舞い込んでくること考えると、レポーターとしての仕事は良い経験になるのではないか?レポーターなら、私やかなちゃん、MEMよりもルビーのキャラクターの方がウケが良いだろうし、帰った後で提案してみるかな?
学校の昼休み、普段閉じられている屋上階をピッキングをして開け、堂々と一人で昼寝を決行しようとして、ふと母様の新番組を見ようと思って折り畳みスマートフォンを広げた私は画面を見つめる。
業界の深い所を知るのが目的とか言う、まぁバラエティ番組と言うやつだ。
出産後のリハビリには丁度良いだろうと、母様は仕事を受けて行ったのだがこれなら確かに無理をしないだろう。
「ねぇ、何をニヤニヤしながら見ているの?」
横から声をかけられた、いや普段こんなところ開いていないのにどうしてコイツはこうも感が鋭いのか、NTのようなそんな感覚は感じないから絶対無い筈なのに。
「毎回思うけれど、アンタの勘当たり過ぎ。何?私には発信機か何か付いてるの?」
「ううん、付けてないかな?ルビーに聞いたんだよ、きっとここにいるだろうって、双子だから同じ事考えるんだね。」
ルビーめ裏切りおったか、後でお仕置きしてやる。
「それで、何を見ていたの?」
「深掘れワンちゃん、最近始まった番組。それ見てちょっと複雑な感情になってただけ。」
彼女には家の母親がアイだとは言っていない、いまいち信用出来ないというか何故だか知らないけれど、喋ってはいけない気がするのだ。悪い奴ではない少しストーカー気味だが、それでもこの不確定要素なんとかしなければ。
「貴女、星野アイのファンだったの?そう言えば名字も同じだし、もしかして娘とか?ううん、身長と髪色と胸の大きさは違うから一概には言えないけれど?顔の造りが似ているから?」
「それ…誰かに話した?……なんだよその目は。」
目を大きく見開いて、少し口角が上がったように見えた。この感情が見え辛い、不知火フリルという女。面白がっているな。
「別に…芸能人であれば誰だって何かしらの秘密はあるもの。私にも秘密はあるけれど、聞きたい?」
『姉との関係とか。』
初めて言葉に出さない物が出てきたな、それほど人に話したくない内容なのか?正直興味はあるが、だけれど。
「そんな身内ネタ聞きたくもない、家族会議でなんとかしろよ。」
「そう、秘密の共有なんて家族間で充分。だけれど貴女のその勘は、私の心を踏み躙っているんじゃないの?」
彼女が私の言葉にそう反した、良い勘してる。
「何処まで解るの?一層興味が湧いてきたわ?」
「逆になんで解ると思うの?」
疑問だ、率直に言って彼女にそれを吹き込んだ存在がいるのは確かだけれど、件の子役時代に合った女性だろうか?
「お姉さんが言っていた、いつか私と同じような人が現れるかもしれないって。」
そのお姉さんって何者だよ、会ったことすらないしそもそもそんな褐色肌の人なんて、私は知らないよ?
「その時、伝えて欲しい事があるって言ってた。
〘ごめんなさい、私は貴方方と出逢うつもりはないの。だから、探すなんて無駄なことはしないで、この生活を楽しんで〙って。見に覚えない?」
「無い、というか誰?そのインド系の人」
もう隠す必要なんて無い、知ってるんだったら早く教えてくれればいいのに。
「でも、推しとして見てたのは本当だから。私は貴方を陰ながら推していくよ?」
前言撤回、やっぱり嫌な予感がするから。
〜sideアイ〜
週一の収録も終わり、即帰宅。レギュラーであるラジオを終えて、即帰宅。即帰宅、即帰宅。
家にいる子供達と話したくて話したくて仕方がない。特に隠し通さなくて良くなってきたこの瞬間を、私は大手を振って喜びたい。
思えば私の後半生において、隠し事が無いなんてことはなかった。家族関係も例外なく、私以上に目立ってくれる存在が近くにいたから色々と無理を通せてきた。それでもいつも何時も、変装をしていかなきゃならないし、本当の自分を見せることすら無い。
二度目の妊娠がその全てを壊した、もうアイドルではない私が、隠すこともなく妊娠を宣言した日から、ネット・TV等のマスメディアはこぞって私の周辺状況を嗅ぎ回ったりもした。
それでも堂々と出来ていたのが、何より喜ばしいことで別に悪い事をしているわけでもなかったのだから、私はやりたい放題だった。
流石にやりすぎるのは良くないと、お母さんから窘められたり、アムロから喝が飛んでくることもあったけれど、成る程確かに出産後の今に。仕事という形で現れてくるものなんだ。アクアからは
「母様ばっかり翡翠を独占してズルい」
ってヤキモチやかれちゃったし……ごめんね、翡翠を可愛がりたいのはアクアも同じだったね…今度の休みの日には埋め合わせとして沢山翡翠を抱かせてあげるからあげるからそれで許してね。
ただ、私とアクアが二人揃ってると前におっぱいあげようとした時、翡翠はアクアのおっぱいの方に迷わず縋りついたからな……やっぱり翡翠も男の子なんだね…私だって体は小さいけど胸は最近追いつかれつつあるとはいえ、それでもルビーよりはまだ大きいのに。
でもアクアは母親の私でさえ思わず見とれちゃうことがあるくらいあまりにも立派に育ちすぎちゃったもんな……あの子の母親としては自慢したいくらい誇らしくもあるけど同時に女としてはどうしても悔しさが僅かに混ざっちゃってホント複雑だよ…そういうことでお相子ってことでいいよね。
翡翠を連れて現場入りすると、いつも大御所タレントの人達は翡翠を可愛がる。
年齢的にもきっと孫みたいに思っているのかもしれない、一見するとツンケンしている人達も、歳を召している人達ほど私達の事を受け入れている。特に子供が既に自立していたり、あるいは子供との関係がギクシャクしている人に多いようだ。
逆に同世代とかそう言う人達は、私のこの行動をあまり良く思っていない。だいたい視線や感情の波が私に来るのだ、妬みとか悪意だとかそういうのが…不幸中の幸いなのはそんな人達も赤ちゃんの翡翠にまでそういう感情を向けない程度には人間が出来ていたことだろう。なので教育に良くない所にまでは翡翠を連れて行かないと決意した。
そして、ルビー達と同年代以下の駆け出しのタレントから子役やジュニアアイドルといった幼くして頑張ってる下の世代の子達は、そういう感情を持つことなく私をお姉ちゃんまたはお母さんみたいに慕ってくれて、翡翠も弟のように可愛がってくれて遊んでくれたりしてくれることもある。
一方で昔の私やかなちゃんみたいに、陰で親に多大なプレッシャーやもしくは酷いものだと虐待を受けてる子がいて、その子達は心の中で助けを求めたくても口に出せないでいることをNTの力を通して感じ取った際にはかつての自分と同じ辛い境遇にある子を私はとても放っておけず、アムロや社長達を始め周囲の人の力を借りてその境遇から助け出したこともあった。
その後、そうした子達からはもうお姉ちゃんやお母さん的存在を通り越して女神や救世主みたいに感謝されて、中には私への恩義に報いようと身を挺して尽くそうとする子まで出ちゃってさ……
何もそこまでしなくてもいいのにって最初は思ったけどそれは私がアムロに救ってもらった時と同じだということが分かって、その気持ちを無碍にするのもいけないと思い考えを改めた……そうかあの時のアムロもこんな感じだったのか。そりゃ自分はそんな大層な存在じゃないってボヤきたくなるアムロの気持ちがようやくわかったよ。久しぶりに会った鏑木さんからもこうした繋がりは後で思わぬ助けに繋がるから大事にしておいた方が良いって言われたし。でも、幼い頃のアクアとルビーがアムロとギクシャクしていた頃、私はアムロのことを受け入れてもらえない苛立ちから暴走しかけちゃったこともあったから…あの子達がその時の私みたいにならないようにその辺は早い内に諭してあげておいた方がいいだろう。
そして私は今日もまた、仕事をする。家計が苦しいとかそう言うと事ではないけれど、仕事をする親を子供達の憧れとしての母親の姿を、私は今も続けている。それが子供達にとって1番良いことだと思うから。
……
「なにこれ?」
いつものように控室に行く、今日は翡翠は家にお母さんに預けてきた、離れ離れになるのは嫌だけど、これが悪意から護るには最適だと思うのだ。
そんな日、いつものように控室にファンからの花束とかが置かれていると、一つの手紙を渡された。
はじめまして、突然のお手紙に少し困惑していることでしょう。
私は、貴女の夫の事を知っています。お休みが取れましたら、貴女の夫とお祖母様以外のご家族と一緒にお会いしませんか?
お返事は下記のメールアドレスへお願いします。
怪しいと思ったのなら、お返事は結構です。
御主人に、貴方が殺した理解者が会いたがっていると言えば、納得することでしょう。
お返事待っています。
誰だろうか…アムロの理解者…ということは
「ララァ・スン…?」
「どうしましたアイさん?」
「あ、いえいえ独り言です。」
会ってはみたくはあるものの危険が無いわけじゃ無い、だって相手は何年も意識だけで生き続けることが出来るっていうアムロでさえ出来ないことを平然とやってのける程の高いNTの力を持つ、そんな相手だろうから。
〜sideあかね〜
6月に入り雨が多くなってきた、私が小さかった頃は今の時期はもう少し暑かった思い出があるのだけれど、数字としてはその通りだ。
私の撮影も今日で最後という日、安室さんは一足先に絶賛内紛中の中国という国に渡ったという。
法人の安全確保が出来ないから、渡航自粛令が出ているのにも関わらずに、政府からの可能な限りの身辺警護を添えて。
これでこのドラマがどういうドラマかなんとなく、見えてきた。国策というよりかは国際策ということだ。
国の垣根を超えて、何かを一致団結して行うことに意味があるというけれどこれもその一環ということだ。
ということはだ、私はとんでもないものに出演したことになる。
撮影が休憩になり、一息ついているとエキストラの一人が私の方へと歩いてきた。いや、見覚えがあるあれは…八洲さん?
「久し振り…というほどの間柄でもないか。どう?気分は。」
「さっきまで良かったですよ、今はあまり良くはないですね。」
どうして私ばかりに気をかけるのか、もっと目標になるような人はいるんじゃないの?
だいたい私は極々平凡な一市民、特殊な能力なんて無いしましてや人の心を覗くことなんて不可能だ。
「いやいや、君は充分に特殊だと思うよ。推理力だとか、その役に成り切るトレース。とてもじゃ無いけど一般人にしておくには勿体無い。警察か、探偵、もしくは諜報員の方が余程向いてそうだが?」
その言葉にイラッとする、当て透けもない本心だろうとも言っていいことと悪いことがあるのだ。
「気分を害したのなら謝るよ、別に君の演技が下手とかじゃなくて、そうだな。勿体無いとでも言うべきかな、時代が違えばきっと君はもっと輝けていたんじゃないかって事だよ。言葉で伝えるのは難しいね。」
「話はそれだけですか?それとも暇なんですか、仕事はどうしたんですか?」
そう言って彼から離れようとする。
「あぁ、ちょっと。あの、これを…僕の個人的なものです。仕事用でもバンド用でもない…。何かあれば連絡をくれると嬉しい。」
手渡された紙切れには、彼のメールアドレスがあった。私はそれを捨てずに、ポケットへとしまい込んだ。