虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第九十三話

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年期の入った襖の和室に洋風の絨毯が敷き詰められた和洋折衷の部屋に、マホガニー製の書斎机を境に一人の眉目秀麗の男性と、10歳程の見目麗しい少女が睨み合う。

 

「父上様どうかされましたか?」

 

少女を呼び出したであろう男に、少女はそう言った。

父親であろう男は、その言葉を聞いた途端に顔を顰め目頭を抑えると言葉を紡いだ。

 

「父上様……、公的な場以外でその堅苦しい言葉遣いは辞めてくれ。こういう私的な場ではパパかお父さんと、そう呼んで欲しい。家族で堅苦しい言葉遣いは嫌だと常々言っているだろう?」

 

「いえ、大君の者がそのような事をやっていては他家への、それも(みかど)への面目が立ちません。いつもそう言われているではありませんか。」

 

「それは建前で、公務中など気心知れない人間の目が周囲にある時の場合の話だ。だからその目が無いここでは…」

 

彼は娘の目を見ること無く話す、過去に負った心の傷のせいで彼は本当は人を信じたいと願ってるにも関わらず信じるきることが出来ない、それは嘗て心を許した者でなければと。たった二人だけ彼が瞳を見て話すだろう。

娘はいつもその事に対して不信感を持っている。父より受け継いだ才と力で分かってしまうのだ…父が母親の事を愛したくても愛しきれていないと、母はそんな父を全て承知の上で陰ながら支えていることを知っているからこそ。由緒正しい名家に生まれた以上、自分も子を為して、この血筋を未来へと紡むいでいく使命もあるが、過去のトラウマに囚われて自分の家族さえ信じきれないでいる臆病な父親の姿を一人の娘として見ていられないし、やがて生まれてくる孫には未来を示せるような誇れる祖父になってもらいたい……だからこそ娘は父の目を覚まさせる為に厳しく告げる。

 

「いえ、駄目です。ここにだって目は有るはずです、それに人の目を見て話をしないということは、私を信じていらっしゃらないのでしょ?他の人達と同じように、駒としか見れていないのでしょう?こんな事を言いたくはありませんが…今のままでは父上様は夫としても親としても失格になってしまいます。」

 

その言葉を聞いて彼は娘が産まれて二度目、瞳を見る。

自分のそれとよく似た瞳、他者を信じようとする自らとは全く違う瞳。

 

そして再び目を閉じる、会話もなくそのまま二人の家族は沈黙の中別れた。]

 


 

 

〜sideアムロ〜

撮影後、夜の帳が下りる頃俺達は少し観光をすることにした。と言ってもだ、観光なんてのは建前で政府から依頼されたものを撮影しに来てる…酷いものだよ。

 

「酷い…臭いですね…ウッ…プ」ゲロゲロ

 

彼女…俺のマネージャーは見てはいけないものを見た。いや、見たくもないものだから、目に入ってしまったと言った方がいいだろう。

死臭なんてものも嗅ぎなれてはならない、一年戦争時の地球連邦軍はその自然を有する惑星上に必ず起きる生々しい事柄に対する免疫の高さという点では生物が存在できない過酷な宇宙空間とスペースコロニー内における常に人間にとって最適な居住状態を管理・維持する完全環境都市を行き来する両極端な生活に慣れすぎていたジオン軍よりも優秀で、例えどんな僻地の部隊でも最低限食い扶持や、死体置き場に困ることはなかったのだから。

 

その点、この国は…

 

「内戦や紛争なんてものはこんなものさ、嗅ぎ慣れてはならないよ、これが常態化したら人の心は荒むからな。」

 

周囲一帯には殺戮された漢人、憎悪と恍惚の入り乱れた周囲の人々はそれを見ながらも、〘ざまを見ろ〙とでも言いたげだ。

今、タクラマカンは北部軍閥を抑えた一人の族長の下にある。

彼等は自らの一族に行ったことを、この国の支配層である漢民族達に同じ事をして支配を確立している。

 

俺以外の撮影班や監督連中は皆、この現状を見て顔を青くして吐き気を抑えるのがやっとだったり、吐いていたりする。

乾燥地帯であるから、まだ腐敗が始まっていないから良いのだが、ここが雨季に入る頃には腹部にガスが溜まって悲惨な臭いを発するだろう。俺もグリプス戦役でサイコガンダムに破壊されたホンコン・シティの凄惨な光景の記憶が脳裏に過ってしまい、思わず自分の顔が歪んでいるのは分かっていても抑えきれない。

 

カメラマンは、この事態に対してカメラを回し続ける。撮影された時期を記録して、今のこの場所を紹介する為だ。

この地獄のような光景を…。

 

「俺等は…、こんなのを撮る為に来たんじゃないのに…」

 

誰かがそう呟いた、ドラマを撮影する為に周囲の紹介をする為に来たはずなのに、何故こんな事をと。一様に心を込めている。

コレは、俺とアイツがこの世界に来たというバタフライ・エフェクトの一環だ。

 

奴は大を取る為に小を切り捨てる、非情な行いをしている。そう、誰も止めるものがいない。何より奴がそれをやっているという、事実すら捻じ曲げて。権力を上手く扱う奴に、俺は無力だ。だから関係を経って、奴とはそもそも会いたくはない、孤独に戦っている姿を俺は眺めている。

 

すべての罪を一人で背負おうと、やろうとすることは昔から変わっていない。だが、昔と違うのはその信念に揺らぎがないことか…。

 

そうもの思いに耽って暫く同じ場所にいると、小さな輝きを感じた。1つどころではない、複数。孤児だ、漢人の孤児。物乞い、乞食とも言うべきか、その輝きは飢えた獣のそれだ。

 

メンバーの一人がその子供に近付こうとしていた

 

「辞めておけ、群がられて全てを毟り取られるぞ。」

 

「でも、こんなガリガリに痩せこけて…ほっておけと?」

 

非情になれないのが真っ当な感性を持つ人間としては普通だ、だからそういう人たちからすれば俺は狂ってしまっているのだろう。

 

「その気持ちは痛いほど分かるし、正直に言わせてもらえば俺だって本心は君と同じ気持ちさ。だがここで一人を助ければ、全員が来るぞ?全てを助けられる術があるのなら話は別だが、その術が今ここにない以上、俺たちに出来ることはなるべく近付かずに、無闇に希望を与えないことだ。例え善意に基づく行動であっても出来もしない事を一時の感情で後先考えずに罷り通そうとすることは単なる浅慮でしかないんだ。

それに…」

 

俺は一つの方向を指さした。

 

「時間だよ。」

 

空をバタバタと音を立てて飛ぶのは、Mi-8 輸送ヘリ。ご丁寧にドアガンまで付けて、俺達を探しに来たらしい。ホテルに姿が見えないんだ、それはそうだろう。

自分たちに都合の悪いものを流されたくない、古今東西どんな権力者だってそうだ。特にこの国の指導層は易姓革命で幾度も王朝が民衆の反乱によって倒されてきた歴史背景を持つことから、その発端の反政府勢力に成り得る新興宗教や外来思想を病的にまで恐れている。かつての連邦の権力者たちもジオニズムを掲げるジオンの残党…特にニュータイプの反乱を何よりも恐れて俺を幽閉し、ブライト達を閑職に追いやったりしてたからな。だけど残念ながら既に、衛星を介して映像は局に行っている。

 

 

……

 

 

ホテルに強制的に戻されて、丁度軟禁されている。それぞれの部屋から出るなといったところだ、権力者に逆らった場合どうなるか…想像するに難しくない。つまりは、俺達には拷問が待っているといったところか?

 

「さて、準備を始めるか。」

 

 

キャリーケースを開くと同時に、一つのボタンを押す。機材が壊れるが、命よりかはマシだろう。周囲の照明がブラック・アウトして、周囲一帯の家屋の灯りは闇へと呑まれる。

徐ろに小さな旅行カバンを手に持ち、底の方から92式を手に取る。

この近所で一番ありふれたもの、俺にだけ手渡されたそれを持って。

 

撮影に使用したシャツの上から防弾スーツを着込んでベルトホルスターに6つのマガジンがあることを確認する。

そして、一発薬室へと装弾した。

用心に越したことはない、この場所の連中はどうせ俺達を消しに来る。

後は強襲部隊が俺等を救助に来るだけだ、その前に…

 

「クルーを一箇所に集めないとな。殺しは…なるべくあまりしたくはないが…」

 

暗闇の中を俺は歩き出す、国家…国際秩序の名の下に生贄にされた仲間達を救出するために。

 

 

 

 

〜sideアイ〜

 

深夜…アムロからの定時の連絡が来ない。毎日のように送られてきたそれは、彼が海外に行っている間必ずと言って良いほどに私の方へと送られてくるはずなのに…今日はまだ一通のメールすら来ていない。

何かに巻き込まれてしまったのだろうか、何か事情があるのだろうかと物思いに耽っていると、電話が来た。

 

 

〔連絡遅れて済まない、少し現場が立て込んでいて連絡出来なかった。

機材トラブルや、現地で少々武装勢力が蜂起したらしい。

だけれども、明後日には家に帰れる筈だ。

俺の好物を作っておいてくれないかい?〕

 

バタバタという重低音が後ろから聞こえてくる、聞いたことのある音だけれどコレはなんだろうか?

 

声はいつもどおりに、焦った様子もなければ暗い雰囲気もない。だけど、武装蜂起という言葉に心の奥が暗くなる。どうして彼が、そんなところに行かなければならないのか?

やっぱり、あのシャアとか言う人が嫌いだ。自分では現場に出て何もしないくせに、こんな事に彼を巻き込んで次に会った時は何をしてくれようか?

 

「あのことに付いて少し聞かないと…」

 

「ララァ・スンと思われる人から連絡が来ました、何か心当たりある?

貴男を抜きに話をしたいみたい、会ってきても良いかな?」

 

そう打つと直ぐに帰ってきた。

 

〔ララァか、会ってきても構わない。俺とシャアがこの世界にいる時点で彼女がいない可能性も低かった。危害は加えてこないだろう、元々そういう(ヒト)だ。

ただ、気を付けてほしいのは心を必ず読んでくるということだ。彼女のそれは、俺なんかよりも遥かに強く、力の使い方も熟知してる、境遇が境遇だったのだから尚更に。〕

 

私がララァ・スンに対して知っていることは、彼の記憶から流れてきたララァの記憶、通じ合った時のそれしか無い。

精神感応だけでは到底補えない闇があってもおかしくないと、そう思うのだけれど。

 

「本当に大丈夫かな…、正直心配なんだ。

子供達にとって変な影響有るんじゃないかって。」

 

〔悪女ではないから大丈夫だよ、もっとも他人の夢に介入してくる程度には執着するだろうけれど。アクアとハマーンとは相性が悪いだろうな。〕

 

「ねぇ、今何処にいるの?」

 

〔そうだな、一概には言えないけれど空の上とでも言ったほうが良いかな?〕

 

「気をつけてね…無茶しちゃ駄目だからね。」

 

〔解っているよ…、そろそろ付くらしい。日本に到着したらまた連絡するよ、それじゃあ。〕

 

プツッと通話が切れる、バタバタという音といい空の上という言葉から、きっとヘリコプターなんだろう。

でも、今いる場所でヘリコプターなんて絶対に何かに巻き込まれているに違いない。でも、今は祈るしか無い。

 

 

 

〜sideルビー〜

 

日曜日は皆で夕御飯を必ず食べる…翡翠はママのおっぱいを飲み終わるのと同時にベビーベッドでスヤスヤと眠りについていて、パパは仕事でいないけれど。

食卓の上がカチャカチャ箸の音で溢れている、お姉ちゃんはあいも変わらず丼飯を平らげ、二杯目をお替りするべく席を立つ。

量もさることながら、早さも人以上だ。大食い選手権にでも出場する気なのだろうか?

 

先輩は対照的にその身体に見合った量を食べている、ゆっくりだし身体に良さそう。サラダ中心に据えた、身体への負担が少ない管理栄養士に指導されたらしい食べ方だそうだ。

 

身長体型性格がある意味逆の凸凹コンビを尻目に、ママはといえばなんだか食が進んでいない。時折食べながら何かを考えるような素振りをすると、首を横に振ったりしていて見ているこっちもに気になる。

気になっているのは私とお祖母ちゃんだけみたいだけれど。

 

「はぁ、あーちゃん。良い加減食べ過ぎよ、幾ら食べても太らないからって、それ以上食べたらまた胸に行くわよ?ウチのグラビア部門の人たちも未だにあーちゃんのこと諦めていない様子だからね」

 

「うっ!!うぅ…、解ったじゃあ後一杯だけ。」

 

とか言ってる、実際お姉ちゃんは役者やアイドルを始めタレントとして色々な分野に高い適性があるけど特にグラビアの適性に関しては業界内で間違いなくトップ取れる器だと思う。女としてあそこまで理想的なプロポーションとカリスマに基づく美貌を持つ人は前世の頃からママ達のB小町ようなアイドルを始め色々な女性タレント見てきた私も他に見たことないものな…お姉ちゃんにとっては気の毒だけどウチのグラビア部門の人が諦めきれない気持ちも私や先輩にもわかるくらいだもん…そんな物思いにふけりつつ黙々と目の前の食べる中、それ以上にママの様子が気になって仕方がなかった。

 

……

 

食べ終わると、ママは食器を洗うべくキッチンに備え付けてある食洗器をセットしに行く。お姉ちゃんと先輩は立ち上がって直ぐに洗面所のあるバスルームの方へと行く

 

「ねぇルビーちゃん、アイって何かあったの?」

 

「解んない、でもあんな顔のママ久し振りに見たかも。」

 

パパがハイジャック機に乗っていた時以来だ?

 

「パパに何かあったのかな?」

 

「直接聞くのも本人の気持ちに土足で踏み込むみたいなものだから、今はそっとしておきましょ。大丈夫、きっとあの人が返ってきたら戻るわよ。」

 

お祖母ちゃんはそう言って食器はママに任せ、自分は洗濯をするべくランドリールームに行った。ある意味で私以上にママの事が解るのだろうか?大人の女性って解らないなぁ。

 

 

 

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