[「君が知りたいこと、資料とか諸々手をつくして見たんだけれどどうだろう?見てくれたよね?僕には専門的な分野とか解らないから、君くらいしか見ないようなことだけれど。
後で筆談で教えてよ、ここに色々置いて置くからさ。」
アルマーニの制服を纏った純白のロングヘア―の少年は、そう言うと1錠何やら薬を服用した。
そこから少しの時間、少年は読書をする。30分程すると自らのワイドキングサイズのウォーターベッドへと身体を預け、就寝する。
寝息が聞こえてくる事、20分。ムクリと少年が起き上がるとヘッドボードに備え付けてある愛用のヘアバンドを着用して先程よりもシャッキリとした、等間隔で歩く特殊な歩き方をし始めた。
テーブルに着くと、紙束に目を通し始める。
「この子供は良い仕事をする。やはり間違いない、コレはミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉だ。誰が設計したのか、私の持ち時間の6時間から8時間では詳細を調べ上げるには時間が少なすぎたが。私の持ち時間をせめて約12時間は確保できるようになるのと筆談ではない直接かつ効率的なコミュニケーション方法の獲得できる手段を早く確立しなくては限界がある。
安室 嶺 名前がかの白い流星アムロ・レイと同じとは…、彼はアムロ・レイ本人で間違いはないだろう。やはり、天才はどの時間帯にいたとしても天才ということか…。正しく世界を動かすのは凡人等ではない、アレに見せられた宇宙世紀の未来に待ち受ける人類の顛末を併せて私の自論がこれで証明されたと言っていいな。しかし、私と彼がこうして同じ時代にいるということはおそらくいや、十中八九シャアとハマーンもこの時代の何処かにいる可能性が高い。この二人を始め他の転生者に先手を取られる前にまずはこちらの基盤を整えなければいかん」
そう独りごちる、自己と世界とを相手取って生きる哲学者のような佇まいのその姿は眠る前の聡明ながらも年相応のあどけなさのある幼子の姿とはかけ離れており、時折眉をなぞるように指を動かし思考すると、何やら紙に書き始める。
「彼の特許……それを一つ一つ集めるとは……子供の癖に気の利く奴だ…しかし指示する内容が増えてきた今、もはや直筆では互いに複雑な指示の下にやりとりする際に時間と手間が掛かりすぎる。保有しているデスクトップのPCはネットワークに繋げている以上、データは万一何かの拍子で外に漏洩しても問題ない物の保存に限定しているから、このやりとりを始め漏れては困るような秘密の目的に使うのは可能な限り避けたい。ならば、専用の端末としてそろそろデジタルメモやオフライン用のPCを用意させておくか」
紙という、破壊されればそれで終わる記録媒体、それは意図したものか?トレーシングペーパーで纏められていた。
「だが、これの用途迄はまだ知らないようだな。いや、普通は知らぬか?」
類似した部分を重ね合わせ、それを床に並べ時には重ねていくと、何やら形が見え始める。
それらが全て形を為したとき、彼は感嘆の溜息をついた。
数十ものそれらを並べた時、そこにあったものはある意味未来に生きた彼ならではのものであり、彼の知っているそれよりも遥かに小さい。
「この大きさならば、最大で8m級か…?」
腕だけであるものの、確かにそこには人の腕の形をした鉄の塊の設計図がそこにはあった。]
〜sideアムロ〜
俺はカウンターから彼等のいる席へと移り、真正面から彼等の事を見ていた。幼い顔立ちからは考えられない程の威圧感が、その少年から溢れ出し、身体に似合わぬ雰囲気にこの少年に違和感を持たせた。
「まだ未成年の子供がこんな所に来るなんて、駄目だと思うんだが君たちはそれを自覚しているのかな?」
「真っ昼間からお酒を飲もうとする大人も大概駄目だと思いますけれど?
それに、僕たちはそこのマスターに酒類を注文しない事や深夜帯は出入りしないこと等を条件に特別に許可を貰って入っていますし、ここ最近では会員証を発行してもらうのと引き換えにここで曲を披露していたりもしますので、貴方が来るのが珍しすぎるんですよ。」
「確かに、俺がここに来るのは半年ぶりとも言える。何より朝から酒を飲むのは、駄目だな。すまないね。
では改めて、俺は安室 嶺。君達は誰だい?」
そうして言うと、二人の内のもう一人。娘が話をしてくれていた、元彼。彼が、改まった感じに自己紹介をした。誠実な若者だと内心思い、娘と別れた理由に関して言えば色々と事情があるのだろう。鏑木を招待したクラブはあいつと敵対あるいはそうなる可能性のある人間の情報を収集して弱みを握ったり、あるいは懐柔してこちら側に引き込むための場所なら、ここのライブバーは俺を始め政・財・官とあいつの派閥に属する大物権力者が密談をする為に存在する曰く付きの場所だ。そんな場所に条件付きとはいえよく会員になれたものだなと疑問に思って訪ねると、八洲君の伝手と四谷君こと四宮君の影響力の御蔭らしい。八洲君がこの国の食糧事情の改善を促す新種の麦を用いた植物工場を建てる資金提供と販売ルートの確立といった援助を政府に取り付けてもらった際にこの店を始め利用する施設を紹介してもらったのだそうだ。そして、八洲君に紹介される形で他のメンバーも店を訪れたが、あいつから直接推薦された八洲君の紹介とはいえ、未成年を会員にするのは器の大きいここのマスターも流石に最初は渋ったが、素性を明かした四宮君がバックアップしたことで先程も言ったような条件付きでどうにか認めてもらえたとのことだ。
「それで、君は?自己紹介しなくて良いのかい?それとも、本来の君ではないんだろう?と言ったほうが良いのかな?」
そう言うと、ケンゴ君が俺の言葉に疑問を持ったように、俺の顔を見た。彼にとっての相棒は、今の状態が本質のように思っているのだろう。
「……そうですね、私としては今の私と宿主の関係性をあまり話たくはないのだが、君の勘は私の予想よりも遥かに良いようだ。だが、今の私が何かと言われれば形容し難い、最早私というものは寄生虫のようにこの宿主に生かされている他無いのだから。
だから、好きに呼び給え。」
「じゃあ、ヘルパーとでも呼ぼう。どうやら君は俺のことを知っているみたいだが、俺自身は君のことを1ミリも知らない。いや、知っているのだろうが直接会ったことは無いのかもな。」
俺達の言葉にケンゴ君はついて行けていない、彼はこの世界の記憶しかないのか。良いこと何だろう、こんな無駄なしがらみに今も尚蝕まれている俺達とは違って、未来に希望を持って前に進んでいける。こういう若者こそ、未来を作るべきだ。だからこそ、俺達は…
「自己犠牲とは甚だ笑える、それ程までに愚民を導きたいのか?」
「愚民とは言うが、そんな彼等がいるからこそ世界が回る力を伝える事ができる。心臓だけで、世界が回るわけじゃない。歯車が壊れれば容易く世界は崩壊する、それが世界の真理だと俺は思うよ。」
「そのくせに、君はあんなものを作るのか?それこそ、信頼していないとは思わないのか?それはつまり君は自分が亡き後の宇宙世紀が愚民共のせいでどんな結末を迎えるかを知ってしまったからじゃないか。」
今日は長くなるかもしれないな、隠しても仕方がない事だ。
横目にカウンターを見れば、マスターの姿は消えている、彼らしい気の使い方だ。
「信頼はしているさ、だけど期待し過ぎも出来ないことだって俺も理解しているさ。」
だからこそ、色々と託したくなるじゃないか。
〜sideあかね〜
「今日は付き合ってくれてありがとう、非常に有意義な時間だったよ。僕はスポンサーとして、君からのアドバイスは極力受けようと思う。演技は君のほうが遥かに上手いし、脚本家とかもそれを考慮してもらえるようやってみる。」
「こちらこそ…本当にスポンサーとして来たんですね…。貴方にとっての彼等の事も聞けた、じゃあ今の貴方を作っているものはそれなんですね。」
「あぁ、そうさ。だけどね、一つ言わせてもらうよ。こんな事は今の時代じゃないかも知れないけれど、死人を追いかけるように生きるのは良くないってことさ。本当に身の破滅を呼ぶことになるからね、だから探偵ごっこはおすすめしないよ?」
探偵ごっこ…確かにそうかもしれない。他人の事を調べ上げようとする、小説とか台本上ならそういう事も悪いことじゃないけれど、今の彼等の生き方を否定するようでそれはよろしいことじゃない。それでも…
「彼のことを知らなきゃならない、彼は家族にすら何かを隠している。それが破滅に行く道だったのなら、私はそれを子供の友人として止める事は悪いことじゃないと思う。中途半端な所で止めて、もし彼に何かあって友人たちが悲しみに暮れるようなことがあれば私は一生後悔することになるから」
「彼等がやろうとしている事か……。僕自身はまだよく知らないけれど、それでも予想くらいは出来る。
ギガフロートって知ってるかい?今港区の東京港に東京湾近辺の本体から分離した区画の部分が停泊してる。もし良ければだけれど、これから一緒に見に行かないかなと思ってね。それが…」
「彼等の目的に繋がる。」
彼は首を縦に動かすと私に選択を迫った。八洲さんの言うギガフロート……通称「ミライ」のことは開発当時ニュースでも話題だったから簡単な知識は私も持っている。複数のメガフロートで構成された国家戦略特別区域に指定され、現代日本の科学の最先端を行く研究機関が集められた科学技術都市にして海上施設でもあるそれは、「海のつくば市」「第二のシリコンアイランド」「日本のエリア51」とも称されている。しかし、そんな国家機密の技術が揃った設備が詰め込まれている以上、情報漏洩を防ぐ為のネットの使用が制限されていることを始め徹底した秘密主義や他国の襲撃に備え海上自衛隊によって厳重に艦隊で護衛されている程で、技術を盗もうとする産業スパイ等の潜入を阻止する目的から人の出入りには厳しい審査をされると聞いている。しかし、定期的に「ミライ」で働く人々の住まう居住区画のメガフロートが本体のギガフロートより分離して海上自衛隊の護衛の下に東京港を訪れて停泊することで本土と行き来しており、今日がその最中だと彼は言っているのだ。居住区画とはいえ、高級住宅街はおろか下手な政府関連施設を上回る厳重なセキュリティが敷かれているというし、そこに出入りを許されるのは国内でも限られたVIPの人達だ……そのせいで陰謀論めいた噂が蔓延っており、些細なトラブルでも場合によっては拘束されるという噂も流れている。そんな危うさも秘めた場所に行くのか行かないのか……彼は私にその覚悟を問うている。
私はその言葉に対してこう答えた。
「行きます。ただし、芸能人が金持ち御曹司と一緒に出たら完全に玉の輿狙い。スキャンダルネタですので。」
「解ってるさでも安心してくれ、僕は裏から出るから。」
そうして私は店を出た、今度は割り勘で。お金を出してもらうのは、なんだか癪に触ったから。でも……
「やっぱり高いなぁ…事務所に交渉持ちかけて見ようかなぁ。」
財布事情は心許ない。後で銀行かコンビニに寄らないとなぁ……
〜sideかな〜
「アイさん、知っていることを教えてください。あの〘らら〙さんが言っていたことは、本当なんですか?」
私は、先輩であり目上の上司であり義母でもあり、同じ人を好きになった人に対してそう言った。
アクアもルビーも、私のその言葉と同じように彼女を見つめて、なんで『教えてくれないの?』と言わんばかりだ…、いや言っているのかもしれない。
「……、……。」
それを聞いてもなお、彼女は口を噤んで頑なに喋ろうとしない。いったい何を隠しているのか、私には解らないけれどもしかすると、非常にまずいことなのだろうか?
嶺さんが、相当に不味いことをやっているのか?
[ウイグルの武装勢力、〘月の預言者〙の主犯が何者かに暗殺されたとのことですが……]
タイマーで丁度ついたTVから、そんなニュースが耳に入る。それと同時に、アイさんの瞳が僅かではあるけれど動揺したのが見て取れた。
「今のニュースが何かあるんですか?」
いつも通りの飄々とした態度とは裏腹に、彼女は瞳を私達から逸らした。どうやらそうらしい。
「教えてください、私達は知りたいんです。あの人が、何を隠していて貴女が何を動揺しているのかを。私達は、知らなきゃならないんです。だって、家族なんですから。」
家族で秘密を共有する、それすら拒否するのだから余程のことに違いはない。だけど、二人で抱えるよりも私達皆で抱えるほうが、二人の為じゃないだろうか、今にも落ちそうな吊橋を二人で歩く必要はないんだ。
「あ〜ぁ、えっとね…見えちゃった。これは確かに言いたいものじゃないよねぇ、あの人のやり方見てたらなんか出来ちゃったけど…言ったほうが良いかな?」
ルビーがそう言うと同時に
「駄目!!」
と、そうアイさんが言った。
「でも、私は見えちゃったから今更じゃないかなぁって……ママ、目がすごく怖いよ…?」
「ねぇ、ルビー?今すぐ忘れて…それは、知っちゃ駄目な事なの、誰にも言っちゃ駄目な事なの解ってる?」
「母様、ルビーは見えちゃったんです。だから、もう観念して下さい、じゃないとルビーを護れなくなっちゃうかも知れないよ?」
危険なことを知ったのだから、それこそ私達も知らないと不公平だし、何よりその方が互いに守り合えるから安心ではないか?
「お願いしますアイさん…。星野アイ、嶺さんを想うのならお願いします…。」
私は深々と頭を下げた。