虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第九十八話

[幼い少年は頭を抱え込む、彼の部屋にある鏡を前にして自らをその指の先から睨みつけるように、奥を覗き込む。

 

「何か大きなことをやりたいなら、一言言って欲しいって前話したと思うんだけどなぁ…。」

 

はぁ…、と溜め息をついて、彼は椅子の背もたれに身体を預け天井を見る。

 

形跡を辿っていくと、彼が何をしたかったのかそれが何となく見えてくる。自分と同じ存在を探したかったというのがその答えだろう。

全く別の世界に落とされたのなら、似たものを探したいと思うのは自然なものだろう。

 

「いくらなんでも大君家に手を出すのは拙いよ、彼処は御上並みにこの国で安易に触れちゃならない家だっていうのに。昔…雁庵お爺様が敗戦の影響で権威をほぼ失っていた隙をついて大君家に当時残されていた利権や資産とかを大半を奪いはしても、それでも家を潰すまではしなかった。でもそのせいで大君家の人達のこの家……特に雁庵お爺様に対する憎しみは凄まじいことになってる。そこに現在の大君家当主である大君清一郎による改革でかつての権勢を取り戻しつつある所にこんな真似をすればどうなるか。幸いまだ表沙汰にはなっていないから僕の裁量でなんとか揉み消せれば良いんだけれど……流石にこれはちょっと……美鈴さん達に気取られる可能性が高い」

 

(嫌われるのだけは嫌だ、お爺様は古い時代の価値観とやり方に囚われすぎてるし、お父様は逆に過激で急進的過ぎる……血族内ではお母様とかぐや姉様以外はまともに僕を見てくれない。外では四宮家の御曹司としての僕しかみない人ばかりの中、あの娘だけがありのままの僕を見てくれるのに。こんな事で嫌われたくはない。

無情なこの家を僕と姉様の力で変える為には、今はまだ目立ちたくはない。

 

それは彼に打ち明けるべきだろうか、それとも秘匿しておくものだろうか?

彼は昼間の世界をあまりにも知らないのだ。そうか、なら彼にも僕が置かれている状況を知ってもらおう。)

 

それからというもの、一日の内の数時間彼は昼寝を取り入れた。すると、次第に問題のある行動は減って行った。]

 

 


 

 

〜sideアクア〜

 

私は知っている、目の前のミヤコさんに擬態した得体のしれない存在のことを。私は覚えている、この明らかなまでに不自然な存在のことを。

今、家の中にいるのは四人だけで、ミヤコさんはそれこそNTではないから、こんな事をすることもないのに目の前の存在は、あの時の若い頃のミヤコさんにそっくりに擬態している。

 

それでも、歪みきったその顔はもはや別人であり、まったくと言っていいほど似ていないのは不幸中の幸いか?この顔ならば、何発殴ろうとも私にとっては痛くも痒くもない。その筈なのに、身近な人物の姿を模しているということが、どれ程心に来るのかと初めて実感する。これは…惑うね…。

 

「あ〜らら、見ない間に大きくなっちゃって。二人共彼女に似て可愛いねぇ、あの男に似なくて良かったよ。あんな、化け物みたいな人間にならなくて。っと、一応自己紹介と行こうかな?

私は、シラトリと便宜上名乗っているものだ以後お見知りおきを。」

 

存在が希薄?そこに居て、そこにいないようなどういう存在なんだ?

 

「お姉ちゃん、あれが…?」

 

「たぶん、だけどこんな存在だったのかな?解らない、あの時みたいな殺気がまるでないんだ。」

 

「はぁ?アンタ、コイツに会ったことがあるの?」

 

会ったんじゃない、見つけてしまっただけなんだ。見たくもない変な存在を。

 

「変な存在か…、こっちの事を何も説明されていないどころか、存在自体を無かったことにするか?

関わらせたくないんだね、実に…愛されているよ。

まったく、こんなところに来るとは?さっさと帰って、ママのおっぱいでも吸っていなさい、こっちは管理で忙しいんだ。」

 

こっちにはあまり興味がないのかな、だとすればそんなに刺激することでも。

 

「ねぇ、あなたはなんなの?私達の出生に何か関わってたりするの?」

 

余計なことは聞かないほうが良いかもしれないっていうのに、純粋ってこういこと?

それよりも、コイツの姿がさっきと違う。ずっと見ていたはずなのに、私が見たこともない人の姿になっている。御伽話のエルフ?

 

「出生には関わっていないよ、それは別の管轄だ。」

 

管轄ってなんか、公務員みたいな感じなのかな?

 

「それにしても、この風景醜いと思わないかい?あり得ない、実にありえないものだ。レコードを破損させてまで、こんなもの何の価値があるのか?こちらの仕事が増えるだけなのに。」

 

母様達のそれが醜い?こいつは何を言っているのか?

 

「くだらない?ママのこのステージが下らない!?そんなのおかしいよ、ママのママ達のこの輝きが解らないの?それは不幸者だね。」

 

「誤解を招く言い方をしてしまったようで悪かった、頭の痛い事柄を前につい感情が高ぶってしまってね。今のは彼女の輝きを馬鹿にしたわけじゃない、彼女の人としての輝きそのものは好ましいものだよ。問題はその輝きは本来有り得ないものだということだ、役目を終えた輝きはどんなに素晴らしくて人を惹きつけるモノだったとしても亡くならなければならないものなのさ。蛇足を付け足す必要は無いのに、最後の一瞬の輝きが淡く光が衰えていく燻りになっていくのは見ていて辛いものだよ。」

 

燻り?一瞬の輝き?それってまさか…?

 

「ねぇ、私の夢で変な事子供達に吹き込まないでくれるかな?」

 

「おやおや、これは失礼した。だけれどね、君とこの情景が繋がっているのは実に面白い事でもある。やはり、君は死ぬ運命だった筈なのに。」

 

声のした方には、青筋を浮かべた母様がいた。

 

「だがねぇ、これは事実であり君は死ぬ運命だったのだよ。それを変えられたせいで事をややこしくされたこちらとして、愚痴の一つでも言いたくなるものだが?」

 

「で?それだけ?  3人共こんなところから戻るよ、こんな胡散臭い奴を相手する必要無いから。もう見ちゃったなら後で説明するから。」

 

ツカツカと歩いて近付いてくる母様

 

「待てよ、一つだけアムロ・レイに伝えておいてくれ。

『どんなにお前等が努力しても、大きすぎる未来は変わらない。小さな波紋では期間が延びるだけだ』とね。」

 

奴がそう言うと、一度だけ パンッ!と手を叩き、世界が暗転した。

 

 

 

〜sideアムロ〜

 

「反応が…消えた?」

 

家まであと少しといったところで、あの嫌な空気は霧散し何事もなかったかのような、日常の空気がそこにはあった。杞憂なんてものではなかった、確実にアレが干渉していた筈なのにだ。それに今頃になってなぜ動き出したのか……あの時、奴は敗北を認めつつも完全に諦めたわけじゃないとは予測してはいたが、10年以上もの間を空けた気になる。当初の予測では数年以内に何かを仕掛けてくると思っていたが予測に反して10年以上の月日が経過しても奴が俺達に干渉してくることはなかった……そのせいで君塚翼の件があるまで奴絡みでは何事もなかったものだから、気が付けば俺達は警戒心を弛緩させてしまっていたんだが。

だからこそ、家へと急ぐべく車のアクセルを踏む。彼女達に何かあるのではとそう胸に秘めて。

 

 

……

 

到着すれば全員の気配がしっかりとあり、そして俺は安堵した。

車を降りるのと同時に、後部座席に座っていたケンゴ君が隣で眠っている四宮君を起こしにかかる。俺の方はそのまま家の扉の前へと歩むと、ゆっくりと自然にそれが開いた。

 

「お帰り、やっぱり来ると思ったよ。大丈夫、何もなかった。でも、この子達に昔のことを話さなきゃならなくなっちゃった。それでも、良いよね?」

 

「皆が無事であるなら何よりだよ。……奴は、何か言っていたかい?」

 

「アムロがやってることは無駄なことだって。」

 

いつかは起こるがだからこそ、可能な限り時間を延ばして少しでも可能性を増やすしか無いか…。

 

「ララァは?」

 

「う〜ん、アムロのこと気にしてたみたい。それに、あの赤い人のことも。でも、会いたくはないんだって。少なくとも今はまだ」

 

「そうかい?まあ、そうだろうね、今の彼女には彼女の人生がある。 そうだ、後ろの二人の事を紹介するのを忘れていたね?

一人は一応知ってるだろう?それと、アクアを呼んでほしい。

彼が来たのを知ったのなら、部屋に籠もって会おうとしないだろうから。あの娘は根に持つタイプだからな。」

 

そう言って帰宅する、そこにあるのはいつもの家と日常があった。

 

 

……

 

「で?何でコイツがいるの?私の前に顔を見せないでって言ったよね?今更、ここに来るなんておかしいじゃない。」

 

娘は会って早々に、俺の後ろにいた元フィアンセに対して怒りを露わにした。言葉にはチクチクとした棘があり、それでも未練がましいものもあるところを見るに、まだ互いに踏ん切りがついていないのだろう。

 

「俺は、君のことが心配で君のことを思って!」

 

「そんなお節介いらないんですけど!だいたい、そうやって格好つけて、」

 

夫婦喧嘩は犬も食わない、二人が言いたいことを言い終えて頭が冷えるまで放っておくのが良いだろう。こういうのは下手に口を出すと却って話がややこしくなるからな。

 

「さて、夫婦喧嘩は置いておいてだ。

ルビー、かな。それに今は、ヘルパーではなくテルミ君の方かな?話に付いてこれるかい?」

 

「ここに来る途中で既に交代の時間が迫ってたのでもう彼は僕の中で眠っています。話の方はなんとなくですが、さっき聞かされた録音と貴方のその思念である程度はと言った所になりますけど。此の世界は監視されているって事ですよね?何の為に?」

 

「なら大丈夫だ。話が早くて助かるよ。ことの発端は、今から13年前になるかな?」

 

そこから話が始まった、ルビー達が見た者。そして〘ヘルパー〙、彼が接触した者の共通項。

この世界の向かっている場所を、俺とシャアが何をしているのかを。

嫌われるんじゃないか、そう思いながら隠してきた物事を。

 

「人殺しなんて、進んで支度はないけれどそれでも、進むためにやるしか無いこともある。解ってくれとは言えない、だけど俺達がやっていることは今できる精一杯の事なんだ。」

 

理解してくれるだろうか?そう、思いを胸に秘めて

 

 

 

 

 

 

 

 

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