第九十九話
〜sideルビー〜
あの小難しい一日が終って、お祖母ちゃんも揃って家族で家にいる日が幾日か続いた。
パパは海外での仕事に節目が付いたと言って、最近では結構家にいることが多くなって、撮影での疲れと様々な事への疲れを癒やしている。
時折家のテレビの世界情勢と大君元総理ことシャアという人絡みのニュースを見ては、冷やかな目をしてその映像を眺め何かを考え込んでいたりする。そして、書斎に行っては何やら書いていたりする。正直、パパの目は怖い諦めとは違うけれどそれは、人を射殺すようなものだから。
そんな時、ママはすかさず現れてパパに寄り添う。きっと、私達が知らないだけでこの夫婦はずっと、こういう感じで支え合ってきたんだろう。
私はといえば、日々アイドルとしての仕事をやりながら、必死に勉強をして学校の授業に遅れまいと食らいつく日々だ。
お姉ちゃんが撮影でいない日も、パパが家にいるからその分教師のように私に特に苦手な物理に対して教えてくれている。
芸能科で、しかも偏差値がそれ程高くない学校だからといって、真面目に授業を受けなければ、私は油断していると危ないのだから、日々真剣勝負だ。
そんな時、遂に私達は日の目を見る。
「オリコン3位だって、中々私達も行けるものね?」
先輩がそう言った、それを知って私は喜んだ。歌はまだまだ粗さがある私だけれど、それを乗り越えて私は遂にママ達の頂の足元へと辿り着いたんだと。
「チャンネル登録者数も、遂に私単独のそれも抜かされちゃったし、もう私の役目も終わりかな?」
「ううん、MEMちょの編集技術が私達を押し上げてくれなきゃここまで来れなかったよ。それに、一番秘密を隠し通してきてるのはMEMちょなんだよ?正に正統派アイドルって感じじゃん!」
私達の先行きは結構明るいと思う。
特に先輩は、役者をやりながらアイドルをするっていう大変な事をしているのだけれど、それでも破綻することなく仕事が回ってるのは私達を管理するマネージャー。ミヤコさんと社長のスケジュール管理能力が凄いのも大きいだろう、それにしたって先輩のポテンシャルは計り知れない。
対するお姉ちゃんの先行きは五里霧中?とでも言えば良いんだろうか?
あの日、元カレがお姉ちゃんとよりを戻そうと只管に謝り、拗れた関係は、友達?レベルにまで修復できたと思う。
偶に会ったりデートしたりしているらしいけれど、帰ってくると文句を言ったりする。特に、女としての扱い方とか彼のお姉ちゃんに対する接し方が、腫れ物に触るみたいに何処か慎重なのだという。
そういうのを聞くけれど、要は惚気話だ。
それ以外ならいつも通りに成績は進級への必須科目の単位は既に取りきってるくらい優秀だし、クイズ番組に出た時なんかはそれはそれは、高校生とは思えないほどの知識量で大学生達を翻弄していた。最近の仕事のストレスや元カレに対する不満を翡翠の世話で癒しているらしく、ママが少し忙しくなったのもあってお姉ちゃんが率先して翡翠の世話を買って出ている。
私達の家族の平穏は何事も無かった様に取り戻されている。
ただ1点を除いて。
「ねぇ、先輩はさ。大学どうするの?」
「勿論行くわよ?嶺さんにも言われたわ、見聞を広げる為には言っておいた方が良いって。特に語学に関して、役者をやるんなら生の原文を読める物を増やした方が世界を見据えるならってね。」
ほら来た。最近、何かとパパの名前を呼んでいる時、口元が緩むのだ。これは確実にアレだ、思い想いに恋い焦がれて意識しないで出てきちゃってるやつだ。それと、一昨日何故か歩き辛そうにしながら歩いてるのも見た。聞いたら
[股擦れよ……]
なんて言ってたけれど、たぶん……。
アカネちゃんに、報告しなくちゃ。先輩に男が出来たぞと。
スキャンダルにならなきゃ良いんだけど。お姉ちゃんが今度会いに行くらしいから、聞いてきてもらおうかな?
〜sideアクア〜
久しぶりにあかねちゃんに会いに行く、二人だけでカフェへと。所謂デート?と言うやつなのかもしれないけれど、同性同士共にノーマル(二人共異性が好き)な付き合いをしている。
二人で互いにオススメの品を注文しあい、味の感想や好みを聞き合う。二人でいる時は特に、こういう感じだ。ルビーやかなちゃん、MEMは今が大事な時で忙しいせいもあって、どうしても互いに仕事の話題が絡んじゃうし、ゆきもノブユキ君と相変わらずよろしくやってるから、今の私が会えばケンゴ君絡みの愚痴をぶつけちゃいそうで怖いから最近は会っていない。そういうわけでこういう一人の女子としての会話はあかねちゃんと君ちゃんとみなみちゃんとしか今はできないしなぁ。
「あかねちゃんもやっぱり、〇〇大学を受験するんだ。」
「うん。芸能活動にも理解があって学業にもしっかりと力を入れている大学は都内ではそこ以上のものはないし。演劇をもっと本格的に勉強したいからね、色々な本とか実際に触れて幅を増やさないと…、それに対人関係がちょっと苦手だから人見知りだし、メソッドだけじゃ乗り越えられないものだってあるでしょ?」
確かに学業と芸能を高いレベルで両立したいならあの大学以外の選択肢はないだろうし、あかねちゃんの学力と演技の才能が合わされば特待生として学費も免除してもらえるに違いない。問題はあかねちゃんが誤って変なサークルに入って如何わしい者にナニカされないか、私は今から心配だ。
意外とそういうところが抜けているから…、そう言えば私達以外の友達の話を聞いたことがない、もしかするともしかしてしまう。かなちゃんの仕事が落ち着くのは後数か月は掛かるし、それまでは私があかねちゃんをろくでもない人間の毒牙から守りぬくつもりだが、あかねちゃんが大学に進学してしまうと、年が一つ下の私は高校を卒業するまで学内で側に付いてあげられなくなってしまう。だからこそ……
「〇〇大学といえば、かなちゃんも受験するみたいだよ?なんでも、海外研修を受けて見聞を広げるんだぁとか、世界を目指すなら最低このくらいは乗り越えなければとか、意気込んでた。」
「本当に?もし合格出来れば、同期生か…。なら、負けないようにしなきゃね。」
張り切ってるね、なんだかんだ言ってあかねちゃんもかなちゃんのことが大好きなんだな。海外研修は2年生からのはずだから、私がその大学に入学してくるまでの1年間はかなちゃんがあかねちゃん側に付いていてあげられるから安心もできるしね。そして、こういう話をする時は朗報からしたほうが落差があって、たぶん面白いリアクションが見れる筈。
「?どうしたのそんな面白い事見つけた、何て顔して何か隠してるのかな?」
「うん?解る?そうだね、1つ効きたいんだけどさ、自分の推しているアイドルにスキャンダル、しかも異性関係の話が出てきたらどう思う?」
「たぶん最初は錯乱状態になって、その男を殺したいなぁ何て思うかも……、ねぇ。そう言えばさ、マリンは、かなちゃんと一緒に住んでるんだよね?で、この話が出てきた…ハァ…ハァ…まさかと思うけれど…?」
私はにこやかに笑みを返した。
するとどうだろうか、彼女の瞳から光が消え身体の端々から何やら薄暗い靄が立ち上っているのが見える、そして何より恐ろしいのが、その虚ろな瞳だ。
思考を放棄してまるで現実逃避するかの如くで……しまった!失言だったか!!ごめんあかねちゃん、私が悪かった!だから、戻ってきて!!
〜sideあかね〜
ハッ、と私は目を覚ます。どうやら自室の椅子に座っている様だ。目の前のパソコンには〘推しの結婚 辞めさせ方〙とか打たれていて、無意識の内に私がタイピングしたのは言うまでもない。だって、メモ帳に〘有馬かな〙から連なる語句が対応表のように書き綴られ、かなちゃんの心理を読み解こうとするように、人間関係の相関図まで置かれている。
きっと、相手を探そうとしたのかもしれない。
家に帰った記憶もなく、マリンちゃんが笑みを浮かべていたところから、全くと言って良い程記憶が無いのはたぶんおそらく、私が現実逃避したのだということが解る。
相手は誰なのか、だとかいつ知ったのか、だとかそういうのを聞くこともできずに、私は黙々とプロファイリングしていたのだろう。
「今何時だろ?」
スマホの時間を見てみれば午前1時、どんだけヤバいね思考してたんだろ、これは末期だよ。たぶんトランスしてたみたいなものだから、衝動的に相手を刺してたかも。
そう思うと一瞬身震いする、相手だとかまだ憶測の段階だけれどそれでも、かなちゃんと面と向かって話せば解る話だから……。
果たして私にそんな勇気があるのだろうか?私が彼女のファンであると、そう公言するようなものだというのに。昔既に解っているだろう、それでも私は恥ずかしい。堂々と推しにそう公言するのは、私にだって恥はあるのだ。
ただ、これを相談出来そうな相手というのがこれまた難解で、受験で忙しい高校3年生という立場と、交友関係が仕事に割り振られる私ではこれも難しいのだ。
「思い返してみれば普通の友達って、そう言えば私あまりいなかったなぁ。」
仕事仕事と言って、深い交友を持たなかった事が裏目に出る。プライベートと仕事の割り切り、仕事以外の交友も大切にすればよかったという後の祭り。だとするならば、互いにスキャンダルにあいたくもない相手で、それなりに思慮出来て尚且つ秘密を隠してくれそうな人…。
「彼に電話をするか……?」
まさか私から連絡を取ろうとするなんて、正直言って思いもよらなかった。
〜sideアイ〜
事務所のソファに座り、タブレットを手で弄くる。スケジュール管理アプリは、私はもちろんアムロ、アクアとルビーにかなちゃんもそれぞれ所有しているのスマホとタブレットに入れており、芸能界に身を置く私達の仕事にとっては欠かせない。俳優だけでなく学者及び技術者をやっているアムロは特にそうだ。
「アイ、アイツの調子どうだ?長めの休暇なんだが、そろそろ仕事をしてもらいたいんだが。」
「う〜ん?う〜ん、疲れも取れてきたみたいだよ?世界中を短時間で駆けずり回ってたから、それなりに気疲れしてたみたいだけど。家でハロのチューンナップが終わったからって、昨日はニコニコしてたし。」
斎藤さんは彼のことを気にかける、子供の頃からの付き合いだからか、今の彼の状況が今まで無かっただけにかなり心配しているようだ。
「だけどね?そろそろ40でしょ?体力的な部分の衰えもあると思うから、仕事は程々にしてね?」
「解ってるよ。どんなに頭が良くて、体力おばけなアイツでも加齢には勝てないって分かっただけで安心さ。
でだな、話は変わるが。お前のレギュラーのワンちゃんあるだろ?アレにな、家のルビーを別枠で入れようって話があってな?親として、共演することに抵抗とか無いか?と思ってな。」
へぇ、そうなんだ。まあ、いつかはあるとは思ったけれど、同接するべきかな?やっぱり先輩として厳しく行く?
「別に抵抗はないけど、甘やかしたりしないようにするよ。現場のことは任せてね〜。」
ルビーにとっては初めて?のタレントとしての仕事だからね、天狗になってると最悪一昔前のかなちゃんみたく干されちゃうから徹底しなきゃね。
「そう言えば、アムロへの仕事って何?」
「あ?民放の教育番組だな、息抜きには丁度良いだろ。」
教育番組か…何教えるんだろ?
「役者としてじゃなくて物理学者としてだそうだけどな。」
また堅苦しい番組なんだろうなぁ。アクアとかなちゃんみたいに頭が良い子はともかく私やルビー、お母さんにはついていけない話をするんだろうな。