〜sideアムロ〜
そろそろ髪が鬱陶しく感じた頃連絡が来た。
「これは…俺にこの番組に出ろと?嫌な役回りだな、生徒に扮した芸能人達に対して解りやすく解説する。というのは建前で踏み絵でもやらせるつもりか?
確かに素人よりかは、宇宙放射線に対して知っている事を自負しているが。だからといって、核パルスに対する宇宙の放射線被害なんて、高等教育を受けているものならそんなもの解るはずだろ?」
「いや、正直な話し経済学とかを齧っている俺とすればそういう分野は素人だからなんとも言えねぇが、受けてはくれるんだな?」
別に受け入れられないものでもない。この間までの映画の撮影ロケが海外各国の踏み絵なら、今度は国内に対する踏み絵の総仕上げといった所だろうか。となると国内ではアレでも足りなかったというのか?いや、長年に亘って沈黙していたシラトリが暗躍を再開し始めたことが分かった以上、念には念を入れるということか。
「あぁ、だが台本通りに事が進まないことは覚悟しておいてくれよ?」
「先方もそれは承知の上だろうよ。それとだな…その番組とは別の話だがアイの奴から、そろそろ公表したいって相談に乗られてな。お前ならどうする?」
相談、俺たち家族の関係の事だろう。俺としてはまだまだ早いのではないかと思うんだが…。
「急ぐことでもないと思うが、焦り過ぎて準備を怠るのはいけない。だから、子供達の仕事が落ち着いてからの方が俺は、良いと思う。
アクアとルビーもあと1年もすれば大人として、世間に出なければならないからな。カナに至ってはあと半年だ。そういう意味で、俺等の子供というものを存分に使えば良いし、実力で上に這い上がってみせたという自信にも繋がると思うが?」
「確かにそっちの方の心配をするだろうと思ったよ。何せ元より俺もお前とほとんど同意見だったしな。それでだな、早ければ二人が実力で大舞台に立った時、遅くなっても二人が高校を卒業した時にっつう、約束を取り付けてある。」
その言葉を聞いて俺は、手に持った冊子を閉じ掛けた腰を上げる。
主義主張をするならば自分の立場を明確にする物を持ち込むべきか、なら使えるものは使うとしよう。紫綬褒章
「これ持ち帰っても?」
壱護はニヤリとニヒルに笑う、その顔は気質の者とは思えない風貌だった。
……
家に帰ると誰もいない、いや義母さんと翡翠はいるから誰もとは違うか?
「あら、久しぶりのお仕事の割には早いのね?」
「嫌味ですか?いや、そうではなさそうですね。まあ、ちょっとした打ち合わせですよ、少し相談も含めたね。」
・・・・、暫しの間沈黙が続く。俺に何かを話そうとしているが考えが纏まらないのだろうか?
「嶺さん?あの娘の、アイと貴方についてなのだけれど。結婚式って挙げたのかしら?」
結婚式……そう言えばそういうものもあったな。確か二人で慎ましくやった覚えがある。大々的なものでもなし、神事的なものは一切無く同席者もいなかったな。
「いえ、大々的なものはやっていませんよ。二人で慎ましく、知られぬうちにやったくらいです。アクアとルビーが産まれる前くらいですかね?」
「そう……、孫たちに言われたんですよ。二人の結婚式を挙式させてあげたいって、正直な話し私は罪滅ぼしで言っているだけかもしれませんが、アイに普通の女の子としてそういう夢すら見せられなかったので。」
普通か…俺とっての普通は前世でも今世でも、一般人には稀なものだろう。忘れてはならないのに、忘れていたな。現世では壱護とミヤコさん、ニノを始め他のB小町メンバー以来だが、前世を含めれば見れば、ブライトとミライさんの結婚式とハヤトとフラウの結婚式の際に監視付きだったとはいえ出席して以来になるかな。
世間体もそうだけれど、環境がそうさせるのか?確かに、アイと普通の家庭を目指していたのに、そういう部分が普通では無かったな。
「参考にさせてもらいます、ですが今しばし待たせることになるかもしれません。」
結婚っていうのは、生活だけじゃない。儀式的なものですら俺達はままならない、歪なものか?いや、いずれ来ると解っていた筈だろうに、俺も耄碌したかな?アイが俺達のことを公表したいと言い出したのもこういうことだったのかもしれない。
最近空を見上げることが増えた……、やるのなら大々的に誰からも文句のつけられようものでないものにしよう。
非常識なら非常識なりに、やってみせようじゃないか。伝を使うのも悪いことじゃない。
〜sideルビー〜
「ありがとうございました!」
ペコっとお辞儀をする私、眼の前にいるのは収録が終わったばかりのママ。
でも、今は現場での先輩後輩の間柄で家族とは違う、上下関係がきちんと出来ている。
私の楽屋はそんなに広くはないし、何より便りとかそういうものも少ないけれど、ママの方はそうじゃないみたい。ひっきりなしに、色んな仕事だとかをマネージャーと話をしている。
私に構うことなんて殆ど無くて、絡みとかそういうのも収録中のほんの一瞬だけだったりする。
冷たいなぁ…そう思ってしまった。仕事では単なる先輩後輩、ここでは家族じゃなくて同じ事務所の同僚で、何よりママよりも若い新進気鋭の娘。
こういうところで、先輩が後輩に対してある意味やらなきゃならないことは、指導とかそういうものなんだろう。決して遊びじゃないって事を伝えるために。
ママの胸中では
『ルビーごめんね~』
とか言ってるから何となく察せられるけど、それでもこの切り替わりの早さは正直、脱帽する。そして同時に私のお尻はまだまだ青いというのだろう。
ステージではない本格的な撮影機材のあるスタジオは私にとって、新鮮なところだけれど居心地が良いものじゃない。
誰も私のことを見ようとしない、それはそうだアイドルなのにアイドルとしての歌番組じゃないのだから、こういうところでも自分を主張出来ないと淘汰される。現にあれほどの高いポテンシャルを持っていたあかねちゃんでさえ恋愛リアリティショーで最初は自己主張が上手くできなかったせいで、危うく淘汰されそうになった時のことは記憶に新しい。もしあかねちゃんがあの時お姉ちゃんに助けられてなかったらどうなっていた事やら……そういう世界だって事を、忘れちゃ駄目だ。
Dさんからのアドバイスとかそういうのを聞きそうしてその日の撮影は、終って私は帰路に付いた。
……
「ただいまぁ〜。」
家に帰ればもう辺りは暗い、あいも変わらず電気が付いている我が家の玄関からエントランスホールを抜け、リビングにバッグを置いて直ぐにお風呂へと向かう。
1人でのダンスレッスンで掻いた汗を流し、広い湯船に浸ると。
「ふぅ〜〜」
という声が自然と出てくる。疲れてるんだなぁって、そう言うのを実感しつつお姉ちゃんと先輩はこれを10年以上、パパとママに至っては20年近くも続けてるっていうみんなの体力に驚きつつ、ママがまだ帰ってきていないことを思い出して、これ以上に大変な事なのだと改めて感心する。
そして、湯船から出た私はバスルームを出てリビングに戻ると冷蔵庫を開ける。御風呂上がりにオレンジジュースを一杯飲むのだ、少し酸味を利かせてあるそれは、冷たくて凄く美味しい。
カチャカチャと食器の擦れる音が聞こえて、お祖母ちゃんがいるのを見て1つ気がついた。
「あれ?今日パパいないの?仕事?」
「髪を切って来るそうよ、長すぎて鬱陶しいらしいの。」
そう言えば、数ヶ月家に引き籠もっていたようなものだったから、髪は伸び放題だったのだろう。
事実、髪色もプリンのようになってたし。
「翡翠とお姉ちゃんは?」
「翡翠はベビーベッドで眠ってるわ。アクアは部屋でお勉強よ、なんでも殺陣を演るって言うから時代劇でも見てるんじゃないのかな?」
お姉ちゃん時代劇に出るってまさか、お色気担当?まだ学生だからそれはないのかな?
あの巨悪なおっぱいがあるから、逆にアレだと出辛いんじゃないかな?サラシや例のインナーをしてないと着物を始めゆったりとした和服越しでさえ胸元を大きく盛り上げて目立っちゃうくらいだもの。そのせいでこの間の〘アイドル〙のドラマでも主役のフリルとそのライバル役の先輩よりもおっぱいを始めとした爆裂スタイルが原因で悪目立ちしちゃったから、撮影中はインナーを手放せなかったんだし。
「どんな作品に出るの?」
「水戸◯門、今の子には解らないわよね?」
水戸黄門…、あっ昔TVでやってたやつ、病院の小さいTVの中で
「助さん格さん懲らしめてあげなさい」
のアレか、復活するんだ。せんせは主人公が直接チャンバラする暴れん坊将軍の方が好きだなって言ってたけど。
殺陣って確か、剣とか持ってやるチャンバラだよね?へぇ、じゃあ結構出番ありそうだね、しかも女でそれなんだからきっといい役じゃない?東京ブレイドの舞台経験経験も活かせるしね。
そう思いながらご飯を食べる、あんまり遅くに食べるとスタイルが崩れるそうだから、時間を気にしてさっさと食べちゃおう。
「ただいま」
先輩の声が聞こえる、向こうも収録が終わったみたいだ。
最近ユニットとしての仕事もそうだけど、単独での仕事もあるから帰る時間も変わってくるんだよねぇ。
「あっ、お先に食べてるよ〜。」
「今日は、よっこいしょ。早いのね、どう?アイドル以外の仕事は順調?まっ、私は両方やりながら受験だからもっと大変だけど、全盛期に比べればまだまだ行けるわよ?」
張り合ってる先輩可愛い。やっぱり、アイドルよりも役者活動に励んでる方が先輩は輝いてるな。
「黒川あかね、アイツの主演映画見てきたわ。やっぱり演技は上手いわね、主演映画を撮るって言うのは先越されたけど、キャリアは様々な物を見るから、慌てたら負けよね?」
先輩も自分との戦いが始まってるみたい、私も頑張らなくっちゃ。
暫くすると今度は家で、宿題が始まる。解らないところはお姉ちゃんか、先輩に聞きに行くのだ。泣きついても怒られないのが、妹の特権だね。それに二人とも教えるのも上手だから、わかりやすいし。
う〜ん!と、そろそろ寝なきゃね、トイレに行ってそして就寝ってところでパパとばったりであった。ママは今夜は遅くまで収録らしい、そしてパパの姿が変わっていた。
染めていた髪は、私達よりも薄い金色となっていた。
不思議そうに見ていた私にパパはこう言った。
「そろそろ蒔いて行こうと思ってね、暫く掛かるだろうけれど、良い結果を期待しているんだ。」
私はそれを見て、固唾を呑んだ。