〜????〜
「しかし、巨大な砂時計だな。あの砂は触ることが出来るのか?」
二人の男が向かい合い、一方がのっぺらぼうの男に話しかける。
「触れるのは辞めておいた方が良い。アレは、所謂時間の可視化モデルの1つだ。砂粒一つ一つの大きさは小さそうに見えるだろうが、無限に細分化し近付いた物を飲み込むかもしれない。
私にとって時間は物理的に制御可能なものだが、君にとっては自らを蝕むものにしかならないのと同じように。」
「それなら、俺をここへと呼んだ理由はなんだ?」
「君によって、君の意識がある世界は破滅から一歩遠い時限へと、進んでいく。代償は大きいが、それでも君の選択は間違ってはいない。」
話が通じないようなそんな言葉が帰って行く。しかし、互いに何かを感じているのだろうか?
「呼んだわけではないのか?……そうか、やはりか。」
「仕方のない事だ、君の肉体は人類としての一つの限界点に到達していた。反射神経は並のものではなかった、それこそ最初の肉体と同じ程度には、故に致し方ないことだろう?」
そう言うと、砂丘を見やり砂へと手を入れる。まるで何かを確認するかのように。時の砂へと触れる、それが二人の関係性だった。
〜sideアムロ〜
俺は今、苺プロの社長室のソファに座っていて、俺にテーブルを挟んで向かい合っているのは、金髪ゴロツキのような見た目の壱護だ。
額に青筋を立て、その気迫はドズルにも勝るとも劣らない。成る程、これが護るものがある者の怒りというものか?
「この騒ぎどうしてもっと気を付けなかった?いつものお前なら、体良く切り抜けていただろうが?」
「いや、正直面目ないと思っているよ。まさかここまで大きくなるなんて……なんて事は思っていない。
予想通りの動きだよ、掌の上で踊っていればいいさ、それとなく真実を出しながら情報を小出ししていくよ。」
それを聞いて怪訝そうな顔をするが、何か合点が行ったのか彼の顔は少しずつ呆れたものになっていく。
「そういうのは前もって言ってくれるか?こっちは一応社長だぞ?もう昔みたいな弱小ではなくなったとはいえそれ程大きくもない中堅事務所だ、それくらい出来るだろ?」
「俺のマネージャーは、貴方のようなものだからなそこは謝るよ。ただ、これはアイの方からやりたがったみたいなものだからね、アイの方には俺の方から既に言ってある。
頬を膨らませて、少し拗ねたが解ってくれたよ。」
それを聞くとソファから立ち上がり、回転チェアの方へと座り直し、
はぁ〜
という溜息を吐く、疲れているのと、呆れているのと、心配もしてくれるとは何とも変わっていないな。
「それで?記者会見は何時にするつもりだ?まさかと思うが、結婚記念日なんて言うんじゃないだろうな?」
「……凄いな、当てるとは。エスパーか、何かかい?」
「お前らなぁ……どれだけ俺が長くお前たち二人のやることなすことに付き合ってきたと思ってるんだよ。まぁいい、そうかじゃあ今年のクリスマスか?確か、そうだったな。」
「あぁ、そうしてくれると助かる。クリスマスプレゼントは良い話題になるんじゃないか?」
諦めの顔だ、彼からすればアイや俺のやっていることは理不尽な事だろうから、そうもなろう。
それでも、その我が儘に付き合ってくれるほどに彼は甘く、そしてお人好しで、自分の信じた奴にはとことん付き合う。そういうところが良いところだ。
「話は変わるが…こういうオファーが来ているんだが?どうだろう、お前ならスタント無しで出来るんじゃないか?」
「確かに出来るな、この歳だ。偶には悪役なんて良いじゃないか。」
そして、もう一つのパンフレットにはあるドラマ、これは…誰の脚本か?俺も見たことがないぞ、映画以外…、前の主人公役の人に聞くか?
「こっちはワンクールか、にしてもどういう風の吹き回しだ?俺とアイがそれをやるなんて…、互いの作品に出た事はあるが、初めてだぞ?」
「今回の件で色々と合点が、いったんだろうよ。」
さて…、俺とアイにコメディーの才能が有るか無いか。
うん?なんだろうか、違和感がある。これは……、なんだ?この感覚は…?まるで、大切な何かが抜け落ちるような?
「どうした?体調でも悪いのか?たまには、頭使わないでゆっくり休めよ。お前は考えすぎる質なんだからな。」
「あぁ、ありがとう…。」
妙に胸騒ぎがしてならない、一体なんだ?
〜sideかな〜
アイドルとしての収録が終わった、バラエティ番組に出たりスポーツ番組に出たりと、マルチタレントとして自分を叩いてくる役割というのは、幼少期を思い出す。
私にとってはなんてこともない、そんなことだけれどインフルエンサーとして、その経験を積んできた彼女MEMちょにとってそれは、ストレスになりやすいことみたいだった。
〘3人だけで〙
そんな言葉を彼女にかけられて、私とルビーは彼女の部屋へと行った。
自宅だからと、昼間から彼女はかなり羽目を外しアルコール類に手を出した。私達はこの時止めなければならなかったのだ、私達に足りない酒の席の経験値を思い知らされた。
「イタタタタ…、いや〜使わない筋肉なんて急に使うから筋肉痛になっちゃうよ〜。あ〜〜、ソコソコ。いや〜、キク〜。有馬ちゃん、ありがとね〜。そんなにマッサージ上手いなんて、マッサージ師にもなれそうだね〜、多才で羨ましいなぁ〜。」
「はぁ…、あのね。収録したの二日前よ?肉体の加齢が始まってるんじゃないの?……っあ!」
それを聞いた瞬間、彼女の顔は強張って次第にジワジワと瞳に涙が溢れてくる。
テーブルの上にはタブの空いたスト◯ングゼロ、そして複数の空き缶達、そう彼女はかなり酔っている。
「うわ"〜ん、有馬ちゃんが私を年齢で虐めるよ〜!」
何が彼女をそうさせたのか、全く持って検討が付かない。仕事で嫌なことがあった?アイドルとしての自覚を持って、いつも仕事を一生懸命にやっていた彼女が、こんなにもお酒に溺れるだろうか?
「ほら〜、先輩は口が悪いんだから、ちょっとは慎み持ってよ。
ねぇ、何があったのか教えてよ。」
酔いが回った彼女に問い質したところで、それを全て聞けるかと言えば難しいと思うけれど。
今の彼女は昔のアイさんのように嘘を嘘で塗り固めて、私達を始め限り有る人にしか自分の素性を明かすことができない。それがどれほどのストレスか、私はそれなりにネットを漁れば出てくるし、ルビーは殆ど嘘を付かない。だとすれば彼女のその気持ちを、共有できるかといえば難しい。
ともすれば、彼女の現状に一番近い人達は鋼の意志を持ったような人達であるわけで、一般的とは言えない。
それ故の孤独、私達はチームだがその中で最も歳上で私達を陰ながら支えているのは間違いなく彼女だ。
気が回るが故に、色々な物を押し付けてしまっている。特に動画の編集作業なんて、専門分野だからこそとはいえ、スタッフと彼女に丸投げだ。
暫く泣いていた彼女は、十分程経った頃次第に寝息を立て始める。
「やっと寝てくれたね、それにしても。前にママも言ってたけど凄いストレスなんだね、嘘をつき続けるって。
MEMちょはさ、○○○○さんは自分とMEMちょを使い分けてるけれど、境界線が曖昧になったりすることがあるって、お店ではこうやって寝れないから一人寂しく、いつも家で宅飲み。
ねぇ、先輩。私達で何か出来ないのかなぁ?」
「出来るっていうのは簡単よ、こうやって家に一緒に行って愚痴を聞いて、それで本人が満足すればそれで良いのよ。
彼女が選んだ人生、夢を諦める事だって出来た筈よ?それでも続けているのなら、覚悟は出来ているはずだもの。
私だってそう、目標の為にならどれだけ辛いことがあっても我慢する。それが、道を選んだ自分へのルール。それで駄目なら、諦めるしか無いのよ。
アンタも覚悟しときなさい、今から演技の仕方教えてやっても良いのよ?アイドル生命は短いから、その後の人生の身の振り方も考えておいたほうが……」
「大丈夫だよ、私には先生がいるからね。もし、先に行っちゃったら……その時はどうするか相談すると思うけれど。」
一途なものね…私もそうなのかしら?
そう思いながら、睡眠中の家主を置いて勝手に湯を沸かし身体を清める。今日は泊まる準備しといて良かった。
って…
「ゔ〜ん、頭が痛い。吐きそう。」
「アルコール摂取してないアンタがなんで頭痛くなってんのよ。まったく、何処か悪いんじゃないでしょうね?……どうしたの?」
ルビーは、頭を抑えながら急いでタブレットで何かの映像を見た
「アンタ急に……?どうしたの?」
目を大きく見開いて
「護るのは良いけれど…、死んじゃうのは駄目だよ。」
そう言って、白目を向いて倒れた。
慌てて私はルビーを見る、えっとこういう時は……あぁ!!ハロ呼ぼう!手乗りサイズのちっちゃなハロ、嶺さんが私達にプレゼントとして作ってくれた子機だけどあーちゃんの部屋にいる親機と繋がってるから脳波とか色々診断できたはず!
「ハロっ!この娘の様態大丈夫!?」
「ハロッ!脳波異常ナシ!体温異常ナシ!体外ノ汗モ異常ナシ!外傷ナシ!体内異常ナシ!健康、健康!」
良かったけれどじゃあなんで倒れたのよ、そう思って私は彼女が見た映像を見た。
〜sideアイ〜
華やかなドレス、真っ白な肌。爽やかな口紅の色に、花の香が漂って正にお姫様!って感じの服装。いいねぇ~、実に良いよ〜。私の娘としてお母さん鼻が高いなぁ!
「母様、ちょっとこれ派手すぎない?これじゃあ私だってバレバレに…。」
「大丈夫、大丈夫!人間、髪色と瞳の色で区別してるから、そうそうバレないよ?」
家族がいる日常、今ここに有るそれは決して楽に得られる物じゃない。きっと、昔の私やかなちゃんみたいに孤独な子供もいるだろう。彼のように、両親を失った子もいるだろう。
お母さんのように、子供を傷つけてしまうそんな親もいるだろう。
だから、私は今ここでこれを噛みしめるのだ。
フニャフニャと泣き声が聞こえる、目覚めちゃったんだ。
「翡翠が泣き始めちゃったみたいだからちょっと待っててね、昼間からのお忍びデート。たまの休み何だから、ちゃんとおめかししなくちゃ駄目だよ〜!母親の私でさえ見とれさせちゃうくらい奇麗なんだから、こういう時こそアピールしないと!!」
あれからただでさえギクシャクしているっていうのに仕事が無い時くらい、そうやって会わないと色んなところで破綻しちゃうからね〜。それに久しぶりにお風呂に翡翠を連れて一緒に入った際にアクアの裸をまともに見て思わず、ボーっとなって息を飲んじゃった程だもの……同じ女同士それも親子なのにも関わらず。こんな身も心も奇麗な娘の力になってあげられなくちゃ母親として名折れだもの。
「よしよし、どうしたのかな〜?何か怖い夢でも見たのかな〜?」
抱き上げながらトントンと、背中を叩いて眠気を誘ってみるけれど、どうしてか泣き止むことがない。オシメは湿ってないし、お腹空いたとかそんな感じでもないし、何処か悪いのかなぁ?
そうこうしていると、アクアが来て
「どうしたの?やけに泣き止まないね、ねぇお祖母ちゃんもテレビ見てないで手伝ってよ。」
チラッとそれを、片目で見た。何か重大な事件が起きたみたいだけれど、私達に関係あるような事じゃないから関係ないかな?それよりも今は翡翠だ。力を使って感じ取って見ると……何?怖がってるの?いったい何を?
因果は巡るよ何処までも、夜を超え朝超え時を超え
日常等というもの幻想のように儚く微睡む。
進んだ先は暗く昏く誰もそれを見ることは叶わない、ただ1人先を進むのは誰か、その歩みに淀みはなく先を見通す。
信じ進みその先に何があるのか、それを知るものは口を閉ざす
ただ、その後ろを振り向くとき過去の全てを見るだろう。
後悔の先に今があると。
その、胸から流れ出る赤く艶やかに滴るものはそれだけが、そんな彼を表すのだろう。