虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第百三話

〜????〜

 

砂の中に腕を突き入れた男?は、暫くそれを続けてそれを引き抜いた。その腕は、枯れ枝の如くか細くなりもはや人のそれではない。

それを見ていたもう一人の男が、瞬きをした後それを見るとそれは既に元へと還っていた。

 

「時の流れとはかくも残酷だ、私ならばこの程度で済むが君が一度これに触れれば、一瞬の内に灰へと還る。」

 

自らの力の誇示か、はたまた真実を告げるだけか?それは、答えとして存在するのか?

 

「一つ聞きたいことがある、あの後色々な事があった。その中でも…、何故奴は狙われたのか?何故やられなければならなかったのかを」

 

彼の言葉は、長い長い問答の末に答えの見つからない、そんな問いであった。

 

「アレは…、因果とかそう言うものの巡りと言えば良いのか?言うなれば偶然の産物とも言う。

あのとき、たまたまテロリスト?いや、反体制派?前大統領の密命を帯びたもの?が観衆の中にいた事、彼を狙わずに彼の妻が彼への警告として狙われたこと、そしてそれに彼が気づいてしまった事だ。

 

大事は意外なほどに、偶然が重なって起こる。それが正に、起こっただけのことだ。決して、我々の行いではない。全ては、日頃の積み重ねだ。」

 

そう言って、のっぺらぼうのような顔を男の方へと向けると、その顔は金髪オールバックにやや黄色がかったスーツを着た、額に傷のある男へと変った。

 

 


 

〜sideアムロ〜

 

眉間に違和感を覚えながら、スケジュール調整や事務処理の手伝いをしていると、ふと脳内に言葉が走った。

 

『父様!ネットかテレビがあるなら早くそれを点けて!』

 

何か、そう言われたようなそんな気がした。

徐ろに近くにあった、普段使用されていないテレビを付ける。何事か異常事態か、そもそも確か今日はたまの非番だった筈だから、自宅から声を届けているのか?だとすれば成る程、この力にこんな使い道もあったのか?一年戦争以来か?

 

「おいおい、そんな古い奴点けてどうした?」

 

地デジ化、なんてそんな言葉が流行った頃に買ってそれ以来あまり使われてこなかったテレビ。それが今、最も威力を発揮している。

 

「因果応報なんて言葉があるが、まさかお前の方が早くそれに巻き込まれるなんてな、次は俺の番かな?」

 

〘「今入った情報によりますと、本日ロシアのモスクワで開催される予定であった、G20(20ヵ国外相会合)に出席予定であった、大君 清一郎 外相が何者かによって狙撃される。

という事件が発生しました。

 

え〜、狙われたのは奥方様の方で咄嗟にそれを庇うように、射線へと飛び込んだとの事です。現地の病院へと救急搬送された様ですが、意識不明との事です。」〙

 

「壱護、済まないが直近3日分の仕事をキャンセル、若しくは移動させてくれないか?」

 

「おいおい、急だな……。そういや、友人だったか?社交界とかで知り合ったとかの、理由付けには良いと思うぜ?

向こうとしては、お前に仮が出来るから出演料を安く出来るからな。」

 

彼の顔を見ると、ヤレヤレといった感じだが同時に行って来いとでも言いたげである。

 

「どこの病院にいるとか、目星は付いてるんだろうな?報道規制もされるだろうからな、まさかと思うが…」

 

「勘で動くのかっ?とでも言うのか、問題は無いよ。世の中、貴方の知らない事もあるといったところだ。深入りしすぎると、首が跳ぶぞ?」

 

「物騒だな……、何だっけ?裏で色々、一物も二物も抱えてるって噂だが本当なんだな。くれぐれも俺等に飛び火はさせないでくれよ?勿論アイ達にもな。」

 

「解っているさ。そうと決まれば、帰るとするよ。直ぐに荷造りだ。」

 

 

 

〜sideアクア〜

 

「うん……うん大丈夫だよ。おじさん、強い人だからきっといつもみたいに、偉そうにして戻って来るから……。」

 

〘「でも……でも父上様……お父さん撃たれたって。解らないじゃない!断言なんて、はぁ…ズズ。こんなことなら、もっと目を見て色々話をすればよかった。仮にお父さんの身は無事だったとしても代わりに庇った母上様……お母さんは!!

私…、今更後悔なんてして……。あの時、頭がズキッとしてどうしたんだろって思って、そしたらあんな事聞いて……二人の心配しないなんて出来ないよ!」〙

 

ニュースが流れて直ぐに私のところへと、きみちゃんから電話が来た。

電話越しの彼女は両親の事を「父上様」「母上様」といういつもの畏まった呼び方ではなく「お父さん」「お母さん」と呼んでいることに普段の大人びつつも飄々とした余裕のある姿がどこにもなく無く完全に取り乱している様子でいて、それでいて何か自分に出来ることを探しているようだった。

 

君ちゃんのお姉さん達も事件のことを知って長女のお姉さんはすぐに大学を早退して、急いで君ちゃんのいる実家へ向かってるらしい。ただ次女のお姉さんの方は、以前の私のようにシャアさんとはもちろんおばさんとも君ちゃん以上にギクシャクしていたらしく、そして遂に半年ほど前に親子喧嘩に発展し、元々大君家の家風に馴染めず悩んでいたこともあって家出して最近できた年下の彼氏の家に居候する形で同棲していたらしいが、長女のお姉さんから事件のことを伝えられたことでその彼氏を伴って実家に向かっているとのことだ。

 

この前、家に泊まった際も次女のお姉さんと両親の仲が日を追うごとに冷え込んでいくことに悩んでいると私とかなちゃんにだけ打ち明けてくれた。

 

私の言葉が届いているかはさておき、焦っている彼女に労いの言葉ぐらいしか言えない自分に歯痒さを感じつつも、自分にはどうしようもない状況には、私ではどうすることもできない。

せめて、父様か光生君ならばとそう思っていた。

 

しかし、あの二人のことだからとっくの昔に行動を開始しているだろう。シャアさんの方は、父様が向かっているだろうから任せるとして、君ちゃんの方にも光生君は既に向かっているはずだ。ここに居た所で何もできない、寄り添うくらいの事しかできないかもしれないが、それでも電話越しで気休めを言っているよりはマシであろう……私も君ちゃんの所へ行こう。

 

それとは対象的に、母様はこのニュースに対して少し冷ややかな目をしながら、傍観者のように眺めていた。

言っては悪いが、母様は清一郎ことシャアさんのことが大嫌いだ。それは性格的にというよりかは、あの人の行動原理だとかそういうものが、腑に落ちないのだというか理解もしたくない、そんな相手だと。

 

しかし、母様は知らない……あの人も元々は母様と同じで周囲の人間から勝手な羨望と期待を押し付けられてスペースノイドの英雄「赤い彗星」という偶像に祀り上げられてしまい、誰も本当の自分も見てもらえないことに苦しんでいた……

 

 

あの人の本質は全知全能の神でも完全無欠の超人でもない親の愛情に飢え、人並の弱さを持つ自分たちと同じ一人の人間に過ぎなかったのだということを。 

母様はシャアさんのことを嫌っているが、シャアさんはそんな母様の最強無敵のアイドルとしての偶像を周囲から求められ、強いられていれるせいで本当の自分を曝け出せない境遇を前世の頃の自分と重ねていて不器用ながらも彼なりに気に掛け続け、陰ながら配慮し続けていてくれていたということを。

 

「……、ねぇそろそろ行ったほうが良いんじゃない?」

 

「……はぁ。あのさぁ、母様ちょっと露骨すぎるよ?いくらあの人の事を嫌いになる要素がいっぱいあると言っても、それはないんじゃないかな?

確かに、記録と彼女の話によるとそういう人だって事は解るけどさ…、それでも限度ってものが…ッッ?!」

 

ゾクッっとした、母様の瞳を見るとそこには黒々とした星を讃えていた。

 

「あの人がどうなろうが、私にとってはどうでも良いことになの、だってそうでしょ?彼を危ない道に誘い込んで、道具のように使ってさ。それでも、嫌うなっていうつもり?

あの男がどれだけ危険か、知りもしないのに?」

 

「だからって、その娘に対してもその態度を崩さないのは、流石に大人げないんじゃない?」

 

息が掛るくらい、そのくらいの距離まで互いに顔を突き合わせる。私が見下ろす形になっているのにも関わらず、母様はその瞳を隠そうともしない。

話しても無駄なのかもしれない、家族の……特に父様の安否に関わることには母様は普段の様子とは一転して頑なになる、君ちゃんが泊まりに来た時も追い返すようなことは流石にしなかったが決していい顔をしなかったくらいなのだから。きっと折れない、それだけ母様は父様に依存してるから。

 

 

私は睨み合いを辞めて、急いでドレスを脱いで動きやすい普段着の恰好へと身支度をし直す、同時に父様が作ってくれた棚の上においてある私のミニハロを通して、自室にいる親機のハロにSNSではなくメールの方でケンゴ君にデートの中止とその事情を彼のスマートフォンに送信するように指示をする。一部始終を見ていたハロに頼む方がスムーズにいくからだ。

 

行く先で何が起こるか分からないので、当初はデートに一緒に連れて行くつもりだったミニハロを家族への連絡用としてリビングのテーブルに置き、折り畳みスマートフォンの父様自作のアプリを通してハロと連結する。これで行く先で私の身に何かあったとしてもハロを通してすぐに家族の皆に伝わる。これで準備は完了した。

 

「私は友達が心配だからそっちに行くよ、彼は解ってくれると思うから。」

 

駄目だ……悲しいけど、私の言葉じゃ今の母様には届かない。ルビーの言葉でも結果は同じだろう。だから父様、お祖母ちゃん、母様をお願い。二人に後を託すとエントランスホールを通って玄関を抜け、家から一歩踏み出す。待ってて君ちゃん、今行くから!!

 

 

〜side母・あゆみ〜

 

バタンと、玄関のドアが閉じる音が響き渡る。翡翠のオシメを変えている最中、その音が私の耳へと届いた。

誰かが家に入ってきたか、出ていったのか?出ていくのだとすれば、アクアマリンだろうか?だけれど、それにしても時間はまだ早いのではないか?

 

この家の音の聞き取れる場所は良く解らない、それなりに広い間取りは音を吸収するのか、リビングの音が漏れることは少ない。だけれども、どういう理由か家主である嶺さんは、人が来ることを良く理解るし、孫達もそれを直ぐに知る。

まったくわからないのだ。

 

子供部屋の音は結構筒抜け、一般的には多分あれくらいが普通なのだろうけれど、比べてしまう。

 

「良し、オシメを変えましたよぉ〜。気持ちよかったですねぇ〜。さあ、お母さんのところに戻りましょうか。」

 

赤ん坊のための部屋なんかが一階にある、そこでこうやって変えた後、連れて行くのだ。設備もあって、正直過保護だと思うけれど、やはり私の事が影響してるのだろうか?

アイには苦労させたから、女手一つで育て虐待の果てに捨てるような親だ。

 

反面教師はこれ以上無いだろう。かつて自分以上に女性として美人に育ち、結果当時交際していたあの人はすぐに私に見切りをつけてアイに色目を使うようになり、遂にはあの人があの子を押し倒して一線を越えようとした所を見てしまったことで耐えきれなくなった私は彼と衝突の末に決裂することになった。

 

初恋相手だったあの子の父親に去られて以来、家族や親戚にも疎まれ見下されていたことから人間不信に陥っていた私はあの人に荒んだ心をは救われて、生き地獄にも等しい惨めな境遇を送る人生からようやく抜け出せるかと思った矢先に結果的にとはいえ娘の存在によってその機会を最悪の形で壊されたことから、それを機にあの頃の私はアイのことを自分が人並の幸せを得られるはずだった。

 

最後の希望を破壊した忌み子としか見れなくなり、前以上の人間不信に陥ったあげく一度は完全に娘との関係は破綻した。故にそんな自分が娘に負わせてしまった心の傷を癒し、一度は絶たれてしまった親子の絆を修復してくれた嶺さんには感謝してもし足りない。アクアマリンとルビーも自分の母親にあんな仕打ちをした私を許し、祖母として受け入れてくれた。

 

嶺さんとアイの娘なだけあって我が孫ながら、あの子達も身も心も美しく女の子で、ルビーに至ってはホントにアイの生き写しだし、アクアマリンに至ってはかつて幼くして大の男を魅了するその佇まいに恐ろしさを感じるくらい美しく育っていたアイすら今や完全に凌駕する勢いで美しく女性として育ち、母親アイや妹のルビーでも魅了するのは男性に留まっていたというのにあの子に至っては男性はおろか時としてもはや同じ女性…それも家族の私達ですら魅了されそうになることもある程だ。

 

 

数年前まで男の子と間違うくらいの風貌だったのが信じられないくらいに。もし昔の私のままだったら、娘のアイに対してでさえあの有様だったと思うと、アイそっくりのルビーはもちろんのことをそれ超えるアクアマリンに対して何をしていたか分からず、本当に変われていて良かったと思う。

 

「あれ?どうしたのアイ、そんなしょぼくれちゃって。」

 

覇気のないアイがそこにはいた。少し髪が乱れているような、そんな感じがする。これはもしかすると、親子喧嘩をしたのだろうか?にしても、さっきまであれ程着付けとかに茶々入れていたのに、それの後がこれとは。

 

「ねぇ、お母さん。私ってさ、そんなに可怪しいかな?」

 

何を言い出したかと思えば、バカバカしい自己嫌悪に陥っているようだ。

 

「可怪しい……う〜ん、そうだね。アイは可怪しいよ、ただ嶺さんに比べれば全然普通よ?貴女のそれは、私のせいでもあるから自己嫌悪になるなら、私に怒りをぶち撒けなさい?そうすれば、私は大丈夫だから。」

 

その言葉が通じたのか、アイは私の腕の中に眠っている翡翠に目を落とすと、徐ろに彼を抱き上げた。

 

「ねぇ、お母さんは自分が好きな人に危害を加える相手って許せる?」

 

どうやら、話はアイ個人の問題らしい。今回の親子喧嘩の原因がそれだとすると、少し難しいかもしれない。以前の嶺さんとの親子喧嘩の時はアクア個人の問題で、子供から大人になる過程で遅かれ早かれ通る道に属するものだったから。

 

親の方から辛抱強く諭していくことで解決できたけど、親の方に問題がある場合は、自分がそうだったように子供の方から諭そうとしても大人としてのプライドや人生経験からくるトラウマなどが邪魔して場合によっては、逆上して子供以上に意固地になることから、関係をこじらせないよう第三者を介することで間を取り持ち調停してもらう必要がある。

私とアイの時は嶺さんがそれをしてくれたから、今度は私が娘と孫娘を繋ぎ止める番だ。

 

「そうね…、私は女として貴女を羨んで貴女を虐待した女よ?だとすれば答えは解るんじゃない?許せないってことを。」

 

「じゃあ、私はれっきとしたとした親子なんだね。私もさ、子供達にこういう感情抱いた事あるんだ。

昔、あの子達がアムロに懐こうとしなかった時とかね。今でも…特にアクアとは普段は良いんだけど、最近私を差し置いてアムロと二人きりで仲良くやってる時やあの子が翡翠の世話をしてる時にもうお姉ちゃんの立場通り越して私よりも上手く母親やってるんじゃないかって思ちゃった。

 

そしてさっきみたいに私の嫌いな人を気に掛ける時の姿を見ると自分の中から湧き上がる暗くて真っ黒な感情がどうしても抑えきれなくなっちゃって。今回のそれはさ、それに輪を掛いて思うんだ。――子供の頃は分からなかったあの時のお母さんの気持ちがまさか今になってこんな思い知らされる形で分かることになるなんてね」

 

人の心なんて、早々劇的に変わるものじゃない。私だって、長い長い間苦悩してやっとこうやって一緒にいられるようになったのだから。

だから、翡翠を抱くアイの後ろに回ってアイを抱きしめる。

 

「焦る必要無いのよ?貴女は私の娘だもの、少しずつ変われる。私がこうやって、変われたように貴女も変わることは出来るわ?」

 

ポタポタと、翡翠に雨粒が滴り落ちる。親の異変を察知したのか、泣き始める。それと同時にアイも泣き始める。

親子揃って、泣き虫だ。完璧を演じる必要がない今だからこそ、泣けば良い。あの時とはもう違う……今は私が、こうして守って挙げられるのだから。

 

でもそんな今の私でもこの子の心を守ってあげられても癒すことまではできない。それができるのはこの娘の愛する嶺さんだけ。ならば、私をすべきことはこの娘が家族とこれ以上すれ違わないようにその心を繋ぎ止めることだろう。今度は昔のように己の境遇を憐れみ、人生を呪って逃げ出すことはもう繰り返さない、女として…母として…そして一人の人間として私は私の為すべきことを為すのだ。

 

 

 

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