虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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第百五話

〜????〜

 

「嘗て人の死というもの対して、シッダルタという男がいた。

彼は全ての人に死後に対してこう説いた。

『死後のことを考えても仕方が無い、死とは即ち無へとなること。五感も思考もありとあらゆる感情も全て無くなり、無へとなる。

そこに輪廻といものも無く、あるのは無へとなるという真実のみ』と、

全く持ってそのとおりだ。死を超越した、神だとか我々のような者達は、そのことに対して何も思わないが、彼の意見には同調する。

君のような存在のもう一つ上の段階となれば、近くが可能となるだろうさ。」

 

「死人が相手だからそうやって話すのか?だとすれば、随分と……暇人なんだな。俄然興味が湧いてきたよ、君達がどういう仕事をしているのかってね。」

 

二人のソファの間には空間が出来、テーブルがいつの間にか置かれそこにはティーカップが並べられた。

中には何やら紅茶が入っていて、それはいったいどの様な銘柄なのか?

 

「ほぉ、コツを掴んだのか。ならば、じっくりと考えてくれ。君には無限に時間があるのだから。」

 

「その為に俺の前に現れたのか、死後の選択を自分でしろと。」

 

のっぺらぼうは、手をヒラヒラと動かすと何処かへと消えていった。ひとり残された男は考え始める、その思考は深く深く果てし無いそんな時間を繰り返すほどに。

 

 


 

〜sideアイ〜

 

あの事件があった日から、月日が流れた。大臣の暗殺未遂なんて、そんな大それた事件は陰謀論だとかオカルトマニア達の間に広がっては、それを貪り食われ徐々にそんな事もあった等という感覚に変えられていく。

 

こう言う時、こんな諺を使うんだっただろうかる〘人の噂七十五日〙と言う事は、きっとこう言う時に使うのだろう。昔のクイズ番組に出演した時に覚えたものだが、無意識の内に忘れていく、意識しなければそんなものなのだ。

 

だけれど忘れられない事だってあるわけで、それは一緒に住んでいれば、顔を合わせれば無意識に意識してしまう事だ。

そう、例えば私とアクアのようにこの出来事によって、互いの価値観の違いに気が付いてしまったように……。

 

ツーン

 

そんな音が流れてしまうように感じるリビング、果たしてそれは何処から流れているのか、張り詰めている空気は私と彼女の間に糸が貼られているみたいだ。

ルビーはその事に気がついているみたいだけれど、聞いてくること無く腫れ物に触るみたいに、避けていく。

 

頑固で偏屈で変わらない私とは対象的に、コロコロと色々なものに興味を移して様々な価値観を柔軟に取り入れて成長していく自分の娘との間の溝は、思った以上に深いのだろうか?

 

「アクア、珈琲にする?それとも紅茶にする?」

 

「紅茶、今日はハーブティーが良いかも。」

 

普通に会話をする分には良いのだけれど、少しぶっきらぼうだ。私が変わらなければなら無いと思う反面、嫌いな人を好きになることなど出来ないという、私の価値観が気に入らないらしい。

こういう時にアムロがいてくれたのならば、間を取り持ってくれるのだけれど……、長期の仕事で朝から直ぐに出かけてしまった。私が助けを求めても。

 

「良い機会だから、互いに互いの問題あるところを見つめてみたらどうだい?」

 

なんて言うのだ。他人事だと思ってはいないみたいだけれど、それ程重大な事だとは思っていない。

私は結構深刻に受け止めているんだけれど…。でも、実際にアムロとアクアは喧嘩が終わった後にこれまで以上に仲が良くなったのは事実だし、それも時折私も思わず嫉妬を抱いちゃうことがあるぐらいにね。

 

「はぁ、それで互いの問題点を見つめていて何か見つかった?一つ言うけれど、私は私が悪いとはこれっぽっちも思っていない。母様の人付き合いの悪さは昔から知っていたけれど、まさかここまで酷かったなんて思いもしなかったってだけ。」

 

少しムカッとする、事実だから怒らないけれど私からしたら、言われなくたってなんて思うしか無いじゃないか。

なら私から言える事は一つだろ。

 

「アクア、今月に入ってから何回エッチな事したの?自慰も含めて。

お母さん少し思うことがあってね?いくらなんでも、多すぎるんじゃないかって思うんだ。単なる恋人とのHなら私もお父さんと結ばれ始めの頃はもう途中で数えるのも止めるくらいの頻度でしてたから、別に気にしなかったけど。

絶対何かストレス感じてるよね。」

 

「それ今関係ないじゃん、私達がギクシャクしてることは!それにあんなことって何を訳の分からないことを――」

 

「それだよ、その真剣に考えすぎる性格。少しのことでストレス溜まっちゃうその、繊細な部分物凄い弱点だよねって。いいとこでもあるんだけれど、悪いところでもあるなって。」

 

それを聞いた瞬間私にムカついたのだろう、目尻がピクリと動いて露骨に嫌そうな雰囲気を纏う。

 

「別に良いでしょ、後先考えないよりも遥かに!」

 

「へぇ〜、でも後先考えてたら突発的に性交なんてしないだろうし、やっぱり単に考えすぎてるだけじゃない?ストレスのあまり家族…特に私に隠れて翡翠にその大きな大きな自分のおっぱいをおしゃぶりさせてるくらいだものね。まさか弟をまだ赤ちゃんなのを良いことにそんなことに使うなんて、これには流石のお母さんもびっくりしちゃったな」

 

図星だろう、現に今口を噤んで悔しそうにしている。言われたくなかったら、やらなければ良いのに。人の事言えないけれど。

 

「でも、入学当時はこんな面と向かってこういうこと言い合うなんて思いもしなかったから、楽しいよ?アクア。」

 

「母様が楽しんでいても、私は楽しくないんだけれど?」

 

アクアには悪いけどきっと私は心から変わることはないだろう、それは30歳という年齢の壁を超えてからそう言う思いが強い。

アイドルやってた十代の少女の頃だったら、また違ったかもしれない。しかし大人になってしまった今となってはどうしても、自分から譲りたくないものを頑なになってしまう。だから、私を理解することが出来ても、アクアには許容出来ないかもしれない。それでも、嫌悪しあっているわけじゃないのは救いだろう。思い返してみればアムロもアクアと喧嘩してた頃はこんな感じだったのかな?

 

本音を言い合う相手であるだけで、それだけで私達は家族だって証明出来るから。

 

 

 

 

〜sideかな〜

 

グリーンバックを背にカメラからの視線を私というに集めて、私のその薄紅色のドレスは輝きを持って注目を集める。

私の手にはブーケが携えられて、それが何を示しているのか言うまでもない。

 

「は〜い、お疲れ様です。」

 

ウェディングドレスのCMだ。

私のように背の低い女性を起用するのは以外で、実際身長は衣装という物を際立たせるにはあーちゃんみたいな胸大きくて長身の方が一般的には受けが良いらしい。特にスレンダーで脚が長く、胸もそこそこなファッションモデルというものには、私は向かない。そう思っていたんだけれど。

 

「いや〜、思った通りで良かったです。かなさん、貴女の体型が一番理想なんですよ、特に160に満たない女性に対するドレスアップは、私達の実力を良く示す指標になりまして。」

 

なんて、初老に入ったくらいのデザイナーに、そう直球に言われた頃には流石に少しムカついた。要するに私は身長が低いと言われているのだ。

あーちゃんみたいな170越えはそうそうないとはいえ、あかねや美鈴に代表されるように女性の平均身長が160を超えた昨今、私やアイさんのような身長の低い女性のファッション業界の仕事は少ない。

見栄えの問題っていうのはそれなりにあるのだ。

 

それでも、事務所の力っていうのは凄くてたぶん私一人ではここまでは出来ないだろう。私以外でも、私のような娘はいるのだから、それでも私を選んでくれるように便箋を図ってくれる。

 

「この後大学に行くんですか?」

 

数日に渡る調整の合間にそれなりに仲良くなったデザイナーに声をかけられた。

 

「はい、私の通ってる大学は単位さえ取れれば後は自由なので、少しでも楽をするために苦労しないと、こうやって撮影も出来ないので。」

 

大学生というのは、高校生よりも自由が効く。実質的な大人と子供の最後の境界線。それでも、法律という壁で護られるラインだ。それを実感しながら、今日も仕事をする。

 

「そう言えば、かなさんは苺プロでしたっけ?

昔、アイさんの撮影をやったことがありまして、これはその時の写真なんですけれど。」

 

――っといけないわね。物思い耽っていた意識と思考を急ぎ現実に引き戻して目にした先にあるのは綺麗な長髪を靡かせる、綺麗な花嫁姿。

 

「で、こっちは和装です。アイさんの方は、どちらかという着物の方が似合っていると個人的には思うんですが、実際に使われたのはウェディングドレス。どうです、お若いでしょ。」

 

10年も前、私よりも1歳程上なだけの頃の写真。良く見れば、確かにまだ幼さが見え隠れする。これから人生を歩んでいく、とかそういう姿だ。

 

「この頃の彼女、確かに完成されていました。腰回りとか、そういう部分が未発達、まるで子供を産んだことが有るみたいに…。」

 

それを聞いてギョッとする、確信を持っていないながらもずっと内心思っていたのだろうか?私が、同じ事務所の人間だから行ったのだろうか?

 

「アハハ、どうなんでしょうね?結婚はなさっているらしんですし、お子さんもいるらしいので。」

 

「勘違いでも良いですよ、芸能界の闇なんて浸かりたくも無いですから。

それでは、貴女のご結婚のときは是非家をお使いください。」

 

冷や汗を流しつつ、帰路につく。アイドルがこんな仕事をやっても良いのかと、始めに思った疑問など忘れて。

 

 

 

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