虹の男と星の娘   作:丸亀導師

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百六話

〜????〜

 

〘考える人〙という物をご存知だろうか?ロダンという芸術家、いや1人の彫刻職人が作り上げた地獄の門の、ちょうど上部にて顎に手の甲を押し当て座りながら何かを苦悶しているものだ。

 

そしてちょうど、この天然パーマで蒼い服を着た男はその格好をしながら、考え耽っている。

その時間は無限とも思える程の時間であるように思えるし、ごく短時間であるとも思える。

 

時間という感覚の曖昧な、生と死の狭間において彼のその問答は、死をどう受け入れるかといものである。それ故に、彼はまだ死んでいないとも言える。

幽体というのがもっともあった言葉であろうか?そしてこの時、それに彼は気が付いた。

 

「1度、向こうで目覚めても良いのだろうか?」

 

1人そう呟きその言葉は、何も無い真っ白で真っ暗な世界へと反響した。

 

「戻るのは構わないが、その分君の問答の時間はより消費されるが?それでも構わないか?」

 

「あぁ、消える前に話しをしたい。それが俺の決断だ。」

 

もう一人の何も無いものは手を叩く、そしてパンッ!という音とともに、蒼い男は姿を消した。

 

 

 


 

〜sideアムロ〜

 

時の流れというものは早いもので、小さかった子供たちはもうすぐ成人となる。

この国特有の成人式というものは、俺やアイは参加しなかったが子供達には普通に過ごして欲しいという彼女の願いから、二人には俺達から和服を贈った。俺やアイの時は20歳が成人年齢だったけど、今は18歳に引き下げられたからな、時代も変わっていくものだ。

会場には連れては行けなかったけれど、もう二人は立派な大人だからそれも必要無いだろう。アクアはバイクに続き、車の免許も既に取ったし、ルビーはスケジュールの都合でアクアより遅れて車の教習を受けることになってしまったが、実技の方は俺とアクアの監修の元にもう普通に運転できるようになったし、後は筆記試験に合格すれば普通免許を取得できるだろう。

 

「こうやって二人でドライブをするのも久しぶりだな。」

 

「そうだね~、こういう機会は滅多に無いからね。」

 

都内から少し離れたところへと、愛車のハイパーカーを運転する俺と助手席に彼女を乗せて、市街地を抜けていく。

暫く走っていくと、少しずつ住宅は疎らになって小さな公園へと辿り着く。

寂れて、そこに嘗てはあったはずのブランコや鉄棒、滑り台なんてものも無くなって、面影は周囲の木陰だけがある。

 

「ここ…久しぶりだね。私達が最初に出会った場所でしょ、ちょうどお母さんが私を連れに帰ろうとしたあの日の。」

 

「そうだな、あの夜の日。君と出会ったのはホントに偶然だったよ、だけれどここにこうしているのは必然だと思う。」

 

俺は、彼女の正面に向き直ると彼女の両手を手で包む。

昨今、暖冬も治まりつつあるのか寒い日が多くなって来ているだけに、彼女のその手は冷えきっていてまるで水を掴むようだ。

 

「どうしたの?」

 

「いや、こうやって温もりを享受できる相手がいるなんて、と思ってね。

あの日、1人で日課になりつつあった自分探しの為に、この公園にやって来たんだ。

29年の歳月と、今の自分という存在との解離に悩み夢と幻の区別も曖昧だった。」

 

暗い夜道は、自らが何処にいるのか、誰であるのかを認識するに充分な冷たさがあったのだ。

 

「ふ〜ん、でもさ今はこうしていられるからさ、その選択は間違ってなかったって事だよね。色々なことがあるけれど、それが人生〜。なんちゃって?

 

私もさ、こうやって今を過ごしてるって思う事があるんだ。

私の人生って、一歩間違っていれば今は無かったんでしょ?感謝こそするけれど、アムロに恨みなんて有るわけないよ。」

 

「そうかい?だったら、良いんだけれど。おや?あれは…?」

 

目に映るのは、小さなベンチ。苔むしているが、これはそうだろう。

 

「ほんっとうに、遊具とかも無くなっちゃってこれじゃあ公園じゃなくて空き地だね。」

 

「ああ、俺達が出会った頃とまるっきり違う。今あるのは、このベンチだけだろうな。」

 

座ればきっと、尻が濡れるだろうことが解る。古い石材ベンチには、刻みつけられた寄贈年月日がある。前から変わらずだ。

俺はそれに腰を掛ける。

 

「お尻、汚れちゃうよ?」

 

「いや、今日くらい良いだろう。こういうジメッとした座り心地も、たまには悪くないさ。アイは、俺の上に座ると良いよ。」

 

風情もへったくれもない、そんな場所だけれど彼女は少し考えた後、俺に背を預けてフワリと座った。

 

「誰かに見られたら、物凄く恥ずかしいんじゃない?この恰好さ、体面で座っても良かったけど流石に火が付くと困るでしょ?」

 

「流石にね、でもたまには良いじゃないか。よそから見れば誰かなんて解らないものだろう。画面に映る人物を目で追えるのは、大概業界人くらいしかいないから、所詮は狭い世界さ。」

 

彼女の仄かな香り、が鼻に香る。昔と変わらないその香りは、対象的に女性として成熟した下肢をより現す。

体重は少し重くなった、だけれど健康的な増加だな。

 

「今エッチな事考えた?」

 

「いや、君は変わったなと思っただけだよ。

……

アイ、結婚式挙げたいか?」

 

「う〜ん、別に挙げたいとかそういうのは無いけど…、憧れるって言うのはあるかな?ほら、私達少し変わってるからさ〜。」

 

小首を傾げる彼女は、そう返答するがなんとなくだが解った気がするよ。

 

「三人が俺達の結婚式を挙げさせようと、色々と根回ししているそうだ。もっとも、この半年の間でどれほど準備しているか解らないけれど…。どうだい?やる気はあるかい?」

 

「私達のやる気の問題で話が進むの?

だけどそうだな〜、子供達がそうやってくれていることは嬉しいし、もしもそうなら。

私はやるよ、主演女優賞取れるくらいには頑張るよ?」

 

そう言うと彼女は少し腰を浮かして立ち上がり、こちらをにっこりとしながら見た。

 

「そこでなんだが、結婚式を挙げやすくするとっておきの方法があるだけれど、聞くかい?」

 

「勿論!」

 

それは冒険かもしれない、それでも使えるものはなんだって使う。現地調達だってすれば良い。

 

 

 

〜sideあかね〜

 

「黒川ちゃんおまたせ~、さってと。お仕事に行こうか!」

 

「はっは〜い^^;」

 

私は今、拉致されている。誰に?と聞かれればこう答えるだろう。星野アイさんだ。

にっこりニコニコ☺嬉々として私の腕を引っ張りながら、私を大学から連れ出すのだ。

 

「お仕事って何をするんですか?私、そんな契約とか聞いたことないんですけれど…?」

 

「うん?そうそう、今さっき決まってね。黒川ちゃんの仕事なんだけど、これをお願いしたいんだ!」

 

バッバッとその台本が手渡される。これって、ネットと地上波の同時配信してる番組の…?

 

「新人MC………黒川あかね?えっ?イヤイヤ、急すぎます。家のマネージャーからは何もっ!」

 

そう言って少し混乱する頭を見てか、唇に人差し指が押し当てられた。

 

「親しい間柄の人じゃないと、信頼出来ないって言うか。悪意を持って色々と質問されたくないから、だったらこの際こっちから推薦出しちゃおうって思ってね。

だ・か・ら、黒川ちゃんにって言ったらさ、快く受け入れてくれたんだ〜。」

 

くっ黒い笑顔が見える。これが、長年培ってきたという腹芸というものなんだろう。真面目に生きてきたから、そういうのあまり知らないけれど、アイさんみたいな人もやるんだ…。でも、確かに私もアイさんの立場なら最も信頼できるマリンちゃんに頼むだろうから、その気持ちは理解できる。

 

「それで、受けてくれるかな?」

 

「はっ…はい。」

 

「そこは良いとも〜!って言ってくれないと、なんか私がオバさんみたいじゃん。いや、オバさんだけどさ!」

 

テヘッと舌を出した姿はとても30代とは思えない、けれど私の眼前にいるのは酸いも甘いも知り抜いた歴戦の戦士。

かわいい顔をして、私を使おうとするその表情は悪魔のようだ。アイドル時代からの彼女のファンがこんな振る舞いを見たらショックどころじゃないんじゃ……

 

「でも、あの、大学との両立とかもあるので、スケジュールとかはこっちの方で調整って出来ますか?」

 

「そこは大丈夫!契約でそうしてあるらしいから!

それじゃあ今から収録始まるから行こうか!」

 

きっと待ってと言っても取り合ってもらえないんだろうなぁ、と死んだ目をした私がいる。この人を母親に持つマリンちゃんの苦労が今ならよく分かるよ

 

 

 

 

 

 

 

 

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